皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

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第六章 暴かれる

第8話 見せしめ

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 だが、それは世継ぎを産んでこその歓待だ。
 これだ期待を寄せられたサリオンは、期待が重い石のように肩に背中にずしりと感じた。
 皇帝が妃を得た喜びを民人は心からの祝福で歓迎している。
 彼らをも自分は裏切るしかない。
 
「さあ、始まるぞ。席に着け」

 幾分興奮したように、目を輝かせたアルベルトには罪はない。
 アルベルトは競技場での残虐な死刑は娯楽として楽しんできた民衆と同じ視線を広場に向けた。
 言われたままに席についたサリオンは伏し目になって黙り込む。

 程なく東西の扉が開かれて、東には剣を一本持たされた筋骨隆々のキリシタン。
 東からは既に牙を剥いて喉を鳴らすライオンが現れた。

 サリオンはふと思う。
 彼のように屈強な男は競技場での見世物に、軟弱そうな男や女子供は生きた街灯として使われるのだ。
 どちらにしてもみせしめには違いない。
 下帯とサンダルだけしか身に着けていないキリシタンは勇敢にもライオンに剣を向け、肩で荒く息をする。

「そうだ、突っ込め!」

 アルベルトが身を乗り出して声を張る。
 サリオンは血の気が引くのを感じたが、退席するなど皇妃にあるまじき振る舞いだ。
 皇帝と皇妃は一心同体。
 そうでなければ皇妃の代わりはいくらでもいる。後宮で待つレナのように。

「何をしている。脇腹だ! 脇を狙え!」

 と、怒声を浴びせたアルベルトは、ふと我に返ったように隣を見る。

「……すまない、サリオン。お前は楽しんだりなどできない心を持っていた」
「帝国ではこれが娯楽と言うのなら、あんたも観客達と一緒に楽しめばいい」

 声音に怒気がにじんだが、他に何も言うことはない。
 サリオンは荒馬に引きずり回され、最後はただの肉片にまでなりはてたユーリスが脳裏に浮かんで離れない。
 こめかみが脈打つほどに鼓動が粗ぶり、震えることしかできずにいた。

「やはりお前は退場させよう」
「そんな気遣いは必要ない」
「だが……」
「俺は皇妃だ。皇帝より先に席を立つなど、皇帝への不貞行為だ」

 思い切って面てをあげると、キリシタンがライオンの喉を衝いて絶命させたところだった。
 観客からは盛大な拍手と歓声が与えられたが、彼はこの先も死ぬまで戦わされる運命だ。
 アルベルトは無言で立ち上がり、勇者をたたえる拍手をした。
 それがアルベルトの本心だろうと真似だけだろうと、彼はキリシタンを称えている。
 サリオンも立ち上がり、皇妃としての義務として拍手をする。

 サリオンは胸の中で呟いた。
 おお、神よ。
 私はこの先どれほどの罪を犯せばいいのだろう。

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