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第三章 恢復の旅路
第3話 腑抜け
しおりを挟む確定事項でもないのに、生き返らせることを目標にするのはいかがなものだろう。自分でも流石におかしいと思う。
でも、何か目標がなくちゃやっていけない。自分たち勇者は特にそうだ。今まで失ってばっかりで。何一つ、手に入れたものなんかない。これからは得るべきだ。報われるべきだ、なんて少し傲慢かもしれないけど。今だけはこの驕りも許してほしい。
「アイナが起きたら生き返ることが出来る~みたいなの言った方がいいんすかね?」
スクードがそばだてるように小声で言った。
希望が必要だとは思う。でも、その希望が失われるなんてことがあったら今よりも、暗い絶望の底に叩き込まれるんじゃないか。ナナセを失ったアイナなら尚更だ。
「……いや、やめとこう。もう少しダーシュのことを知ってるやつを見つけてから、……言うならそれからだ。もしかしたらラウラの勘違いって可能性もあるし」
「たしかに、なくはないっすもんねー……」
ノウトとスクードはラウラを見やった。今は前をリアとそれにジルと話しながら一緒に歩いている。というかジルがラウラにめちゃくちゃ触れながら歩いてる。猫耳族特有の頭の上の耳とかすげぇ触ってる。……まぁ気になるのは分かるけど……そこまでかな? そこまでやるかな。リアはそれを微笑ましそうに見ていた。
ラウラは少しだけ抵抗しつつも受け入れてる感じだ。
「……ラウラなんかアホそうだしなぁ」
ノウトが呟くとラウラの耳がぴくりと動くのが分かった。ラウラがこちらを振り向く。やべっ……、聞こえた……? なんて思う間もなくラウラがこっちに飛んできた。いや飛んできたってのはおかしいか。飛び込んできやがった。しかも手をグーにして。
「誰がアホだってぇ?」
ノウトは《殺陣》で向かってくるラウラの拳をガードした。
「ちょっ……! 《殺陣》がなかったら命に関わるぞそれ!」
「ふんっ……!」
ラウラはノウトの腕を掴んだ。その後、宙を回ったかと思ったら、視界が横倒しになっていた。
「てっ……!?」
ノウトの腕を背中で抑えるようにしてラウラが組み伏せた。ノウトの頬に地面がついている。ラウラの全体重がノウトに乗っかる。案の定、そんなに重くはないが、抑えられてる右腕は悲鳴を上げまくっている。
「そうか。ノウト忘れてんだったね。アンタの《殺陣》には致命的な弱点がある」
「がっ……!」
ラウラはノウトの背中をシメている力を強めた。いってぇ! こいつ、容赦とか知らないのかよ!
「アンタの《殺陣》って神技は勢いを利用しない技、例えば組み技には弱いんだよ」
「……《弑逆》を使われるとは思わないのかよ」
「ぷっ」
ラウラは何を思ったか吹き出して笑いだした。
「ノウトみたいな腰抜け腑抜けのへたれのマヌケが使えるわけないでしょ」
………くっそ。舐めやがって。
「そりゃどーもっ」
ノウトは力いっぱいに足に力を込めて立ち上がろうとしたが、無理だった。いやいやなんだよ、石かよ。ラウラはビクともしない。
「このっ……筋肉ダルマが……っ」
「あ゛ぁっ!?」
「いっっ……!!」
てぇ……!! 折れる! マジで折れる! 腕が本来有り得ない方向に曲がりつつある! っていうか既に曲がってる!
「ラウラさん!」
ようやくリアがラウラに声をかける。その声を聞いてラウラが力を弱めた。
「命拾いしたね、ノウト」
「……そんなに怒んなくてもいいだろ」
「なんか自信に満ち溢れてるアンタに自分の非力さを教えてやろうと思ってさ」
「否定は……出来ないけどさ」
「体術も剣術もぜーんぶ忘れちゃってるみたいだからねー。そんなんじゃノウト、死ぬよ?」
「………」
何も、反論はできなかった。魔皇の配下にいたノウトは当然、今よりも何倍も強かったのだろう。今腰にぶら下がってる佩刀だって飾りなんかじゃなくて、軽々と使いこなせてたはずだ。その頃のノウトを知ってるラウラからしたら、今のノウトが弱いと感じるのは無理もない。
「大丈夫?」
リアが手を引っ張って起こしてくれた。
「……大丈夫だ」
ノウトは右腕を左手で抑えながらそう言った。リアがノウトの頬についた泥を拭う。
「次、あたしの悪口言ったらこんなんじゃ済まないから」
ラウラがノウトの鼻にぴんと指をさす。そして「あと」と言葉を繋げた。
「あたしの勘違いじゃないよ。ダーシュは──……。ダーシュは、生き返ったんだから」
ラウラはふん、と鼻を鳴らしてずんずんと先へ進んだ。すると、スクードがノウトの耳に顔を近づけた。
「……これからは気をつけた方がいいっすね」
「……ああ」
ノウトは小声で答えるほかなかった。ラウラが───というか猫耳族という種族が、地獄耳であることは覚えておいた方が良さそうだ。あと、ラウラが筋肉ダルマだってことも覚えておかなければ。
ラウラの進む道を皆がついていく。どれくらい歩いただろう。20分とかそこら辺だろうか。森が開け始めてきた。ここだけ少し傾斜があって、盆地のようになっているようだ。
「あいつらがダーシュのこと見たらめちゃくちゃびっくりするだろーなー」
「あいつらって?」
「あたしの仲間。一人だけでこんなとこも来られないし間諜も斥候も哨戒も一人じゃやってられない」
「その人たちもダーシュを知ってるんですか?」
「そうだよ。なんたってあいつら……」
ラウラは口を濁した。そして目を細めてから口を開く。
「ま、会ってみたら分かるよ」
「なんだよ、それ」
「いろいろ事情があるんだよーだ」
ラウラは歩く速度を速めた。
「……なんか、すっごい気になるんですが」
「俺もっす」
「ダーシュはなにか思うところないんですか? ダーシュの前世を知ってる人がいる訳ですし」
「ない」
ダーシュは間髪入れずに否定する。
「今は進むだけだ」
なんだか分かるような、分からないような、不思議なセリフを吐いた。ノウトたちはそのセリフを飲み込もうとしたが、それよりも先に、ラウラに声をかけられた。
「おーい」
ラウラの方を見ると、そこにはいつぞやの砦が見えた。魔人領では一番お世話になってる場所と言っても過言ではない。
「転移魔法陣壊れたとか言ってなかったか?」
「砦自体に用があるわけじゃない。あたしの部下がいるんだよ。待ち合わせしてるんだ」
「そういう事か。もっと早く言ってくれたらいいのに」
「はいはい、黙ってついてくるー」
ノウトたちはそれぞれ顔を見合わせた。今のノウトたちはラウラに逆らうことができなかった。力量差的な意味でも、情報量的な意味でも。
ラウラの背中を追って砦の入口を通る。見ると、一階は前見た時よりもかなり片付いていた。元の状態に戻ったと思ってもおかしくはない。
「だいぶ綺麗になってるね」
「誰か、掃除したんだろうな」
それがフョードルたちの誰かか、ラウラの配下か、もしくはそれ以外の第三者かは分からないが、前にノウトが来た時とは明らかに内装が変わっていた。
「あいつら上かなー」
ラウラが頭の後ろを掻きながら言った。皆で一緒に階段を上っていく。ふと、ヴェロアとメフィのことを思い出した。また会えるのはいつになるのだろうか。分からない。シファナやスピネにも、また会いたい。
そんなことを思っていると既に上の階にたどり着いていて、ラウラがその先の扉を開けていた。
「「ラウラ様」」
一斉に二つの声が聞こえた。見ると、二人の猫耳族が敬礼をしながらそこに立っていた。一人は黒い髪をした目つきの悪い男だ。そしてもう一人が真っ白な髪をした猫目の女の子。どちらも当然、猫耳族だから猫耳が生えているし、尻尾も生えている。こっちじゃ当たり前なんだから早く慣れないと。
「大事ありませんでしたか──……って」
二人の猫耳族はノウト達が続々とラウラの背中側から現れるのを見て目を丸くした。
「勇者……っ! 本当にいたのかっ……」
黒い方が尖った犬歯を覗かせながら言った。
「すっげ……」
白い方は口をぽかーんと開けたままこちらを見ていた。そして、二人ともノウトの方を見て、さらに目を見開いた。
「「ノウト様!?」」
そして大きな声で口を揃えて、確かにそう言った。
「よ、よぉ」
こいつらも俺の事を知っているのか。当然ながらノウトはこの二人のことを知らない。知らない、というよりは覚えていない、の方が正しいだろう。
それにしても、よぉ、って……他になんかなかったのかよ。というか自分で言うのもなんだけど知人多すぎじゃないか、俺。
すると、ラウラが突然首根っこを掴んでノウトを部屋の外へと連れ出して、耳に口をつけた。ラウラの息が耳にゼロ距離で当たり、ノウトはこそばゆくてびくっと身体を震わせてしまう。
「……黒いのがリューリで、白いのがミャーナ。二人ともアンタが記憶失くしたの知らないから。あと記憶失くしたことバレないようにして」
そういうのは先に言えよ! ……と思わなくもなかったが、大きな声で言うと猫耳族の彼らに聞こえてしまうかもしれないのでやめた。
なんでバレないようにするかとかは後で聞くからな、という顔をしながらノウトはラウラに向かって頷いてみせた。
ノウトとラウラは先程の部屋にもう一度入る。
「リューリとミャーナ。ひさしぶり」
ノウトは全力で親しみ深い顔をしながら、言ってみた。何が正解なのかは分からない。彼らの顔を見ると、めちゃくちゃに驚いたような顔をしていた。や、やばい。ばれたか? いきなりばれたのか、これ。ノウトが冷や汗をかきそうになる直前に、白い方の猫耳族の女の子がノウトに近付いて、ノウトの両手を包み込むように両手で握った。
「うわあ!! ノウト様お久しぶりです!! やー、どこ行ってたんすか~もー!!」
「ちょっと色々あってな」
ミャーナはにへらとした顔をしながら泣きそうな、それとも嬉しそうなよく分からない顔をした。
それにしても……なんだ? 『どこ行ってた』だって?
この子、俺が勇者全員を殺す計画を知らないのか? だから記憶が無くなったこと知られちゃいけないのか?
くそ。何もかもが不確かだ。……ラウラに後で問いただすしかないな。
もう一人の黒い方、リューリは先程と同じ場所で立っていた。生まれつき目付きが悪いのか、それとも本気でノウトを睨んでいるのか。そんな感じでノウトを見ている。
「久方ぶりです。ノウト様」
「ああ、ひさしぶり」
リューリはラウラに行ったのと同じように頭に片手をつけて敬礼してみせた。
なんか、正反対な二人だな。一方はかなり友好的で今もノウトの手を掴んでぶんぶんと手を振ってるミャーナという女の子。もう一方は敵対心剥き出しだが、根は真面目っぽさそうな男。これがラウラの部下たちか。
「んで、二人に会って欲しい人がいるんだけど」
「ノウト様のことじゃないんですか?」
「違う違う。こいつのことじゃないよ」
……なんかラウラの俺に対する態度がすごい酷い気がするんだが。
「……ってあれ?」
ラウラが勇者達を見回した。ノウトもそれと同じように後ろを見返す。
「ダーシュ来てなくない?」
ラウラの言う通りだった。その場でダーシュだけが欠けていた。
「ほんとに協調性の欠片もないっすね~」スクードが失笑した。
「なにしてんですかあの人は……」カミルは呆れたように片手で顔を抑えた。
「ダーシュ~っ!」
ラウラが階段の下の方へと大声で呼ぶ。
「………ダー………シュ……?」
その様子を見ていたリューリが今までになく狼狽えた顔で呟いた。
「いや、さすがに別人っしょ……あのダーシュ様は………もういないんだから……」
ミャーナがリューリの肩に手を置いて苦笑いした。すると、人影がぬるっとある場所から現れた。
「なんだ。喧しい」
ダーシュだ。ダーシュは窓からこの部屋へと入ってきた。恐らく、崖から飛び降りた時と同じように刃の上に乗ってこちらに上がってきたのだろう。
だが、そんなノウトの思惑を無視してリューリとミャーナは同時に尻もちを着いた。二人して目をまん丸にして、そして今までで一番大きな声出して、こう言った。
「「ダ、ダーシュさまぁぁぁあああ!?」」
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