140 / 182
序章 きみが灰になったとしても
第21話 月下、遥かの情景きみ想う
しおりを挟む『うへぇ。凄いおいしいねぇ、これ』
「だろ~? 俺のおすすめなんだ、これ」
ノウトはミカエルを連れて帝都を歩き回っていた。仕事や戦争もひと段落ついて、ある程度余裕が生まれてきた今日この頃。
今日はノウトの休日。休みの日はこうして帝都を練り歩くのがノウトの趣味だ。
ミカエルはノウトの肩に乗りながらノウトおすすめの屋台の肉串にしゃぶりついている。凶魔は肉がお好きらしい。
日中の帝都は活気と喧騒に包まれている。
道行く人々は多種多様だ。
魔人族、猫耳族、小足族、犬尾族、蜥人族、そして森人族。帝国は百族協定を目指していて、全種族と交易関係を結ぶことが最終的な目的としている。流石に昼間に見かけることはほとんどないが血夜族も帝都ではよく見る種族のひとつだ。
『ねぇねぇ。あそこの屋台はなに、ノウト』
ミカエルはノウトの頭の上に身を乗り出した。
「あれは……そう、フィーユが好きなやつだな。とりあえず、行ってみるか」
「いらっしゃい」蜥人族の店主が手元から顔を上げた。「ってノウト様じゃないですか。今日はあの嬢ちゃん達は一緒じゃないんですかい?」
「今日はこいつと一緒なんだ」
ノウトがミカエルの頭を撫でた。
「ノウト様は動物にも好かれるんですね~」
『僕は動物じゃなモゴモゴ』
ノウトがミカエルの口を閉ざした。ここで騒ぎになるのはノウトの望むところではない。
「へ? 今なにかおっしゃりました?」
「いや、何でもないよ。それじゃいつもの二つ」
ノウトは硬貨を店主に手渡した。
「はいよー」
店主はぐるぐると回る道具に二本の小さい棒をこれまたぐるぐると回させた。徐々にその棒が白い綿をまとっていく。ミカエルはその巧みの技にすっかり見入っていた。
「はい、ワタアメ二つ」
「いつもありがとう、コーシンさん」
「それはこっちのセリフですよノウト様」
コーシンは笑って、ノウト達は人混みに流されるようにその場を離れた。
『うわぁ……』
ワタアメを手にしたミカエルは目をきらきらと輝かせた。
『これ、食べられるのかい?』
「もちろん」
ノウトはワタアメをかじってみせた。口の中で砂糖が溶けて、甘さが広がっていく。これを食べるとフィーユの顔が頭に浮かぶ。土産に持って帰ろうとも思ったけど、城に戻るまでに溶けてしまいそうだからやめておいた。
ミカエルはノウトの真似をするように恐る恐るその白いもふもふに顔を近づけて、
『ふぐっ』
口いっぱいに頬張った。そして、もぐもぐと小さな口を動かす。
『う、うへぇ……』
「どう?」
『……不思議だ。不可塑性の微細な繊維がその食感と共に口の中で溶けていく。にも関わらず、きちんとした甘さが舌下腺を刺激する………』
「お前、無知なのに難しい言葉はたくさん知ってんのな……」
『なんたって僕はアキユの子だからね』
なんでも、ミカエルを育てた(?)灰森族の少女はアキユと言う名前らしい。
ノウト、それにダーシュは鉄塊兵状態のミカエルに殺されかけたところを魔皇に助けられているからなんだか複雑な心持ちだが、今ノウトは生きているから、それでいいのだ。ノウトはミカエルを信じている。だから、今はこれでいい。そう。それでいいはずだ。
……と、気付かぬうちにミカエルはワタアメを全て平らげてしまった。
『うん。控えめに言って最高の食べ物だったよ』
「そりゃよかった」
『キミといると知らないことをたくさん経験できて一挙両得だね』
ノウトは肩に乗るミカエルを道沿いのベンチの上に乗せた。
「さて、そんなミカエル君に俺からひとつ頼みたいことがある」
『おお、なんだい。ノウトにはお世話になってるからね。大体のことは頼まれるよ?』
ノウトはミカエルに耳打ちした。誰に盗み聞きされても問題は無いのだが、雰囲気は大事だ。
ノウトから要件を頼まれたミカエルは一瞬考え込んで、
『面白そうだ。僕に任せてよ』
そう言って小さく頷いた。
◇◇◇
二つの月が魔皇城を照らしている。
時々だけど、月ってひとつだったような気がする瞬間がある。夢の中では月はひとつだ。どういうことか全く分からないけど、それでも月が綺麗なことは変わりない。不変の事実だ。
「やあ、ノウト」
「よっ、レン。来たな」
レンは空から翼をはためかせて下りてきた。
「ミカエルも元気?」
『うん、すっごい元気だよ』
「ははっ、それは良かった」
レンは口元を隠すように笑ってみせた。そして、空を見上げるように仰いだ。
「今日はいい夜だ」
「レンが言うなら間違いないな」
『月って見入っちゃうよね』
ミカエルがレンの肩にぴょんと乗っかった。
「ああ、ほんとに」
「なんだ、お前ら」
「ダーシュ」
ぼさぼさ髪の男がいつも通り軽そうな鎧を着込んで歩いてきた。
「俺は姫がここにいると聞いて来たんだが」
「そのうち来ると思うぞ」
「チッ。それならそうと言え。姫を迎えに行く」
『ちょっとちょっと』ミカエルがダーシュの頭の上に飛び乗った。『キミは生き急ぎ過ぎでしょ』
「止めるなミカエル。現世に生きているならその一分一秒とも無駄には出来ん。なるべく姫の近くにいなくては」
「こいつ重症過ぎるだろ……」ノウトが頭を片手で抑えた。
「そこがダーシュのいいところだよ」
『そうかなぁ』
「ノウトきゅん、遅くなりました」
「いや、まだ早い方だよ。姫が来てないからね」
「ふん、来てやったわよ」
フィーユはいつものメイド服を揺らしながらノウトに近付いた。
瞬間、視界が真っ暗になった。瞼がほんのり温かい。
「にゃーん、だーれだ」
「チナチナ」
「秒速で正解にゃー」
いつも楽しそうでお馴染みのチナチナがはしゃいで跳ねた。
「わ、わわダ、ダーシュ様っ……」
ミャーナがフィーユの後ろに隠れた。ミャーナはダーシュに命を助けられて、彼に恋心を彼に抱いているらしい。二年間も一緒に仕事を共にしていたらさすがに気付くものだ。
「元気でやってるか?」
「は、はい。お陰様で……」
「そうか」
ダーシュはラウラ以外眼中にないので、ミャーナには頑張って欲しいところだ。
「ミャーナはお子様ね」
「……フィーユだってまだ言い出せてないお子様なくせに」
「はぁ? あたしのどこがお子様なわけぇ? ねぇ、あなた。わたしは立派なレディよね?」
「もちろん。フィーユ嬢は俺が初めて目にした時から立派なレディーだ」
「初めて会った時って部屋覗いて下着姿見た時ですよね?」シファナが真顔で言った。
「よし、この話はやめよう」
「なにしれっと逃げようとしてんのよ。まだ許してないわよ、わたし」
「ごめんって。もう許してくれよ」
「そりゃ責任取ってわたしを幸せに──って何言わせようとしてんのよ変態!」
「理不尽!」
フィーユのビンタが命中した頬をすりすりと撫でる。
「変態にゃ!」
なぜか飛んでくるチナチナのビンタをノウトは殺陣で受け止めた。フィーユのそれはわざと受けたが、チナチナの攻撃をくらうわけにはいかない。
「その手には乗らんぜ。チナの助」
「ほほう。それならばこれはどうにゃ~?」
チナチナは屈んで、それからミカエルを両手に抱いた。
「くらえ! 突撃のミカ!」
『チナチナは僕の扱いが雑だよっ!』
「ふぐっ……」
チナチナの手によってミカエルのお腹がノウトの顔面に押し付けられた。その結果、ノウトはミカエルのもふもふ且つふわふわ且つさらさらな毛並みを堪能することが叶った。ありがとう、チナチナ。
「そう言えば、フィーユってノウトきゅんのこと名前で呼んだことありましたっけ?」
唐突なシファナの『そう言えば』に場の空気が固まりかけた。
「二年も一緒にいるんだから呼んだことあるに決まってるじゃない」
「じゃあちょっと呼んでみてよ」なぜかレンがフィーユに催促した。
「え、ええ……?」
フィーユは明らかに困惑した。実際のところ、ノウトがフィーユに名前を呼ばれたことはない……と思う。いつも『あなた』か『ねぇ』のどちらかだ。
「ノ………」
フィーユがノウトと目を合わせた。彼女は頬を染めて、目を逸らした。
「……ウト……」
「うと?」
「ああ、もうやってらんないわ! 帰る!」
「ごめんごめん、フィーユ。もうちょっといて、頼む」
「……分かった」
フィーユは案外すぐに立ち止まった。なんだか意外だ。
「あー、ノウトがフィーユいじめてるー」「わー、ノウトがフィーユいじめてるのじゃー」
「姫!」
「お前反応が早すぎんだよ」
「ご無事でしたか?」ラウラの元に駆け寄ったダーシュが彼女の足元で跪いた。
「ご無事もご無事よ。ってかなんの集まりなの、これ」
「全員集まってからのお楽しみだ」
「そ」
ラウラは余裕そうに頬を弛めた。
「ノウト、小型影室はきちんと持ってるのじゃろうな」
「もちろん」
ノウトは自らのポケットに手をやって、そこにあるのを確かめた。
「にしてもこんな提案をするなんて、さすがのわしも驚いたのじゃ」
「ダメだった?」
「いや……─」
メフィは俯いて、そしてノウトの顔を見た。
「ずっと成し得たかった、わしのひとつの夢が叶いそうで……なんというか……」
「そっか」
ノウトは微笑んでメフィの頭を撫でた。
「子供扱いするでない」
「とか言って~~ほんとは嬉しいくせに~」ラウラがノウトに混じってメフィの頭を撫でる。
「う、嬉しくなど」
「ツンデレだ」チナチナが言った。
「メフィデレだよ」
「もうっ」メフィは頬を膨らませて、ノウトとラウラの手を払った。そしてレンの後ろに行った。
「レンってやけに小足族に好かれるのよね」
「これは、どうなんだろ」レンは小さく笑った。
「よーよー。こんな重役が集まって何すんだよ、ノウトー」
「こんばんは」
ルーツァとシャーファがラウラの後を追うようにテラスにやってきた。
「みんな集まってからのお楽しみだぜ?」
「サプライズってやつな」
ルーツァは辺りを見回した。そこで、彼女に目を止めた。
「フィーユ」
ルーツァが彼女のもとに歩いていった。そして、片膝を着いてポケットから何かを取り出した。
「これ、お兄ちゃんからプレゼントだ」
その手にあったのは小さな黒い箱だった。
「なに、これ」
「帰ったら開けてみてくれ」
「ふ、ふん。変なものだったらたたじゃおかないから」
「フィーユの好きなものに決まってるだろ?」
ルーツァはニッ、と笑った。
「どんなものかは分からないけど、ルーツァがフィーユに渡すならいいモノに決まってるね」レンがノウトの横に立って言った。
「あの兄妹なんだかんだ仲良いよな」
『ね』
ミカエルがノウトの肩に乗っかった。
『やっぱりここが一番落ち着くな』
「いっそ肩に住むか?」
『何言ってんの』
ミカエルに失笑で返されながら、ノウトは見渡した。みんなの顔を見て、胸に手を当てた。
「よォ、ノウト」
「ロス先輩」
ロストガンはレンと同じように空から現れた。血夜族は日中不自由なぶん、夜の自由度は高い。
「ずいぶん賑やかになってきたじゃねェか」
「まだ真打がいませんけどね」
「ハッハァ。言えてるぜ」
ロストガンはぐるりと周りを見渡した。
「よっ、ロー。調子はどうだァ?」
ロストガンがレンを見た。レンの名前はローレンスなのでロストガンはレンのことを『ロー』と呼んでいる。
「そこそこかな」レンは目を合わせずに答えた。
「ハッハァ。そりゃ良かったぜ」
ロストガンは口許を歪ませた。
「オマエ、俺のこと嫌いなのにここによく来たなァ」
「ノウトに頼まれたら断れないしね。あんたと同じ場にいるなんて吐き気がするほど嫌だけど」
「んっんー。オマエが元気そうでなによりだァ」
ロストガンは楽しそうに笑う。
血夜族の王族事情は複雑だ。ロストガンとレンは兄弟だが、ロストガンは正統な血夜族の血筋、ユウグルア家の血を引いているが、対してレンは妾腹で、レーヴェレンツ家の血を引いている。
要するに父は同じだが、母は違うのだ。それにも関わらず、二人の容姿は似ている。性格はまるっきり似てないけど。
「やあ、みんな」
血夜族のメイド長エスカが最初からそこに立っていたかのように自然にそこに現れる。エスカは空からではなく、きちんと扉を開けてきた。
シファナ達メイドらは揃ってエスカに頭を下げた。
「エスカさん。わざわざすみません」
「いやいや、いいんだよ、ノウトきゅん」
「すみません、恥ずかしいのでやめて下さいそれ」
「シファナに呼ばれるのは恥ずかしくないのワタシに呼ばれるのは羞恥を感じるのかい? それは……なんだか寂しいな」
「え、ご、ごめんなさい。存分にそう呼んで頂いて結構です」
「ありがとう、ノウトきゅん」
「いえいえ」
「ちょろすぎない……?」小さくラウラが呟いた。
「さすがにノウトも分かってやってるじゃろう……」
「どうだか」ラウラがふっ、と鼻で笑った。「超絶美人のエスカに話しかけられてビビってるだけじゃない?」
「ノウトは美人に弱いですからねー」フィーユがラウラに向かって頷いた。
「いやそれはさすがに誤解があるぞ、フィーユ」
「じゃあ美人は嫌いなのかい?」
「いえ、俺は全人類大好きなので、老若男女愛してます」
「なんだこいつ」チナチナが真顔で言った。
「ははっ。そう言えばキミはそういう人だったね」エスカは楽しそうに笑う。
「オレも全人類大好きだぜ」
「アンタが言うと例えそうでも怖いからやめて」ラウラがロストガンに裏拳でツッコんだ。
「姫は超絶美人通り越してますよ」
『なんのフォローなの、それ』
「だーれだ」
またしてもノウトの視界が暗くなった。今度はチナチナとは違って目の周りに触れている手は少しだけひんやりしている。
「スピネかな……」
「わー、正解ですー」
スピネが手を引っ込めて、その手を後ろで組み合わせた。
「さっきも違う人にやられたんだけどな」
「反応悪いですよ、センパイ」
森人族の少女スピネがそこに立っていた。彼女は国から出ることのままならないユークレイスの使いとして帝都にやって来ている。
「シファナやっほー」
「こんばんはです、スピネ」
「チナチナも元気ー?」
「うん、めちゃくちゃ元気にゃー」
スピネがメイド達と戯れる。微笑ましい限りだ。
『さて、頼まれた通りみんな僕が呼んだわけだけど』
「助かったよ、ミカエル」
『礼には及ばないよ』ミカエルが尻尾をぶんぶんと左右に振った。『それで、呼んだはいいけど、ここから何をするの?』
ミカエルがそう言った時だった。
「みんな、集まったみたいだな」
振り返ると、そこには魔皇がいた。彼女は腕を組んで、愉しげな笑みを携えている。その背後から出てきたのは──
「ミファナ!?」
「ど、どうも~」
魔皇がお得意の魔法で連れてきたのだ。ミファナが来ることは正直予想していなかった。
「こんばんは、ノウト様」
「おう、久しぶりだよな、ミファナ」
「なかなか帝都に行く機会がありませんでしたからね」
ミファナはノウトが真の勇者になることを決意したきっかけをくれた大切な人だ。初めてノウトがこの世界で救い上げた子でもある。
「ミファ姉っ!」フィーユが走って、ミファナの元によって飛び込むように抱きついた。
「久しぶり~、フィーユ。元気してた?」
「うん、うん。会えて嬉しいわ、ミファ姉」
「私もだよ、フィーユ」ミファナはフィーユの頭を撫でて、シファナの方を見た。
「シファナ、あんまり会いに行けなくてごめんね」
「いえ、……謝るのは私の方です。ずっと実家に帰っていなかったので」
「もう、シファナはあいかわらず真面目だな~」
ミファナがシファナに近付いて、その手を取った。
「今度、一緒にお買い物しよ? ね?」
「姉さんがそういうなら……」
「やった。約束だよ?」
「う、うん……」
こんなシファナは初めてみたかもしれない。いつもは真面目ぶってるだけでシファナも年相応の女の子なのだ。
「良かったらノウト様も一緒にどうですか?」
「いや、俺はいいかな。女の子だけで行っておいでよ」
「う~ん。そ、それじゃそうしようかな」ミファナが曖昧に頷いた。
「ふふふ。みんな嬉しそうで何よりだ」
魔皇がしたり顔で呟いた。魔皇は本当に凄い。いつも皆が求めているものが、誰が口に出さなくとも分かっている。
ラウラが魔皇に駆け寄った。
「魔皇様っ」
「ラウラ、いい子だ」
魔皇がラウラの頭を撫でた。ラウラは魔皇の前だと子供みたいだ。それを一切隠す気がないのもまた、なんとも言えない。
「ってあれ? この集まりノウト主催じゃなかったんですか」
「言いだしたのは私だ」
魔皇がノウトに目をやった。
「ノウト、例のものは持ってるか?」
「もちろんです」
ノウトがポケットから小型影室を取り出した。
「それなに?」ラウラがノウトに近寄って、その道具をマジマジと見た。
「これは〈小型影室〉と呼ばれる神機じゃ。古代の遺物であるカメラオブスクラを参考にそれを〈光〉の神機と〈闇〉の神機を掛け合わせて作り上げた所謂魔道具に近い一品じゃな。わしの莫大な魔力を込めてあり、貴重なものである為市場では出回っていないたいっへん希少価値の高い自慢の子じゃぞ」
メフィが自慢げに語った。ノウトは理解出来たけど、他の人はさっぱりだろう。
「遺物とかは、うん、まぁ分かったけどこれで結局何が出来るわけ?」
ノウトは小型影室を持ち上げて、その透明なレンズ部分をラウラに向けた。そして───
「にゃっ!?」
突然のフラッシュとともにパシャリと音が鳴る。すると、小型影室の下部、スリット部分から一枚の紙が出てくる。ノウトはそれを手に取った。
そこにはラウラが全力で慌ててる情景が写し出されていた。
「これは、……絵?」レンが呟いた。
「端的に言えばそうとも言えるな」
ノウトが反射的に答える。
「簡単に言うと、これで写したものを瞬時に絵に出来るんだ」
「な、なるほど」ラウラが理解したのか理解していないのかは分からないがくこりと頷いた。
「これを使ってみんなで集合写真を撮ろうという訳だ」
「集合シャシン……」レンが小さく繰り返した。
「それ! めちゃくちゃいいっすね!」ルーツァが大声で盛り上がる。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいルーツァ」シャーファが宥める。
「よし、それじゃあ善は急げだ。魔皇様、真ん中に立ってください。その左右に他の人は並んで、そうそう……」
ノウトが小型影室を構えたまま、レンズ越しに向こう側の世界を見た。
「じゃあ魔皇様とメフィの隣あたし~」ラウラがぴょんと魔皇の隣を陣取った。
「せっかくだしシファナ、手繋いで撮ろ?」ミファナが提案する。
「べ、別にいいですよ」
「猫耳族メイド組は前に行った方がいいと思うな」エスカが言う。
「わたしもそう思います」
「……俺は絶対に姫の隣を死守する……ってオイ離せルーツァ! なぜお前らに囲まれないといけない!」
「俺ら三人でひとりみたいなとこあるじゃん? なぁシャーファ」ルーツァがダーシュとシャーファの肩を組む。
「それもそうですね」シャーファは控えめに、でも楽しそうに笑った。
『うーん、みんな何してるのかよく分からないけど、僕はここかな』ミカエルがロストガンの肩の上に乗った。
「それじゃ撮るぞー」ノウトが言った。
「ってノウト様はどうするにゃー?」
「俺は撮る側だから、いいよ」
「何言ってんだよ、こっち来なよ」レンが手招きする。
「でも、そしたら誰も撮れないだろ?」
「ふっふっふ」
メフィが不敵な笑みをこぼした。
「ノウト、小型影室には新機能を搭載しておる。こうなることも予期して起動端末を長押しすれば時間差の効果発動も可能じゃぞ」
「メフィ、さすがすぎる……」
心の中で最大の畏敬を払いながら、ノウトは小型影室の起動ボタンを長押しした。
ノウトは彼らの並ぶに駆け寄る。魔皇と目が合って、お互いに最高の笑顔を交換し合う。
「ノウトきゅん早く!」「ノウトこっちだ」『ノウトの肩は僕がもらった!』「ノ、ノウト! わたしの隣に来なさい!」
ノウトは手を引かれて揉みくちゃになりながら、最終的にレンとメフィの間に落ち着いた。ノウトの肩には定位置と言うようにミカエルが座っている。目の前にメイド仲間達がしゃがんでいて、後ろにロストガンが立っていた。ノウトは中腰になって、小型影室の方を見た。その刹那、
───パシャリ、と。
発光ととともに音が響く。
この幸せな時がずっと続けばいいのにと心で願った。ただ、強く希った。
ノウトはこの日のことを、一生忘れることは無いだろう。そう確信した。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる