あのエピローグのつづきから 〜勇者殺しの勇者は如何に勇者を殺すのか〜

shirose

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序章 きみが灰になったとしても

第21話 月下、遥かの情景きみ想う

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『うへぇ。凄いおいしいねぇ、これ』

「だろ~? 俺のおすすめなんだ、これ」

 ノウトはミカエルを連れて帝都を歩き回っていた。仕事や戦争もひと段落ついて、ある程度余裕が生まれてきた今日この頃。
 今日はノウトの休日。休みの日はこうして帝都を練り歩くのがノウトの趣味だ。
 ミカエルはノウトの肩に乗りながらノウトおすすめの屋台の肉串にしゃぶりついている。凶魔は肉がお好きらしい。
 日中の帝都は活気と喧騒に包まれている。
 道行く人々は多種多様だ。
 魔人族マギナ猫耳族マナフル小足族フリング犬尾族ヴォルフ蜥人族サラマン、そして森人族エルフ。帝国は百族協定を目指していて、全種族と交易関係を結ぶことが最終的な目的としている。流石に昼間に見かけることはほとんどないが血夜族ヴァンパイアも帝都ではよく見る種族のひとつだ。

『ねぇねぇ。あそこの屋台はなに、ノウト』

 ミカエルはノウトの頭の上に身を乗り出した。

「あれは……そう、フィーユが好きなやつだな。とりあえず、行ってみるか」 

「いらっしゃい」蜥人族サラマンの店主が手元から顔を上げた。「ってノウト様じゃないですか。今日はあの嬢ちゃん達は一緒じゃないんですかい?」

「今日はこいつと一緒なんだ」

 ノウトがミカエルの頭を撫でた。

「ノウト様は動物にも好かれるんですね~」

『僕は動物じゃなモゴモゴ』

 ノウトがミカエルの口を閉ざした。ここで騒ぎになるのはノウトの望むところではない。

「へ? 今なにかおっしゃりました?」

「いや、何でもないよ。それじゃいつもの二つ」

 ノウトは硬貨を店主に手渡した。

「はいよー」

 店主はぐるぐると回る道具に二本の小さい棒をこれまたぐるぐると回させた。徐々にその棒が白い綿をまとっていく。ミカエルはその巧みの技にすっかり見入っていた。

「はい、ワタアメ二つ」

「いつもありがとう、コーシンさん」

「それはこっちのセリフですよノウト様」

 コーシンは笑って、ノウト達は人混みに流されるようにその場を離れた。

『うわぁ……』

 ワタアメを手にしたミカエルは目をきらきらと輝かせた。

『これ、食べられるのかい?』

「もちろん」

 ノウトはワタアメをかじってみせた。口の中で砂糖が溶けて、甘さが広がっていく。これを食べるとフィーユの顔が頭に浮かぶ。土産に持って帰ろうとも思ったけど、城に戻るまでに溶けてしまいそうだからやめておいた。
 ミカエルはノウトの真似をするように恐る恐るその白いもふもふに顔を近づけて、

『ふぐっ』

 口いっぱいに頬張った。そして、もぐもぐと小さな口を動かす。

『う、うへぇ……』

「どう?」

『……不思議だ。不可塑性の微細な繊維がその食感と共に口の中で溶けていく。にも関わらず、きちんとした甘さが舌下腺を刺激する………』

「お前、無知なのに難しい言葉はたくさん知ってんのな……」

『なんたって僕はアキユの子だからね』

 なんでも、ミカエルを育てた(?)灰森族シンダールの少女はアキユと言う名前らしい。
 ノウト、それにダーシュは鉄塊兵ゴーレム状態のミカエルに殺されかけたところを魔皇に助けられているからなんだか複雑な心持ちだが、今ノウトは生きているから、それでいいのだ。ノウトはミカエルを信じている。だから、今はこれでいい。そう。それでいいはずだ。
 ……と、気付かぬうちにミカエルはワタアメを全て平らげてしまった。

『うん。控えめに言って最高の食べ物だったよ』

「そりゃよかった」

『キミといると知らないことをたくさん経験できて一挙両得だね』

 ノウトは肩に乗るミカエルを道沿いのベンチの上に乗せた。

「さて、そんなミカエル君に俺からひとつ頼みたいことがある」

『おお、なんだい。ノウトにはお世話になってるからね。大体のことは頼まれるよ?』

 ノウトはミカエルに耳打ちした。誰に盗み聞きされても問題は無いのだが、雰囲気は大事だ。
 ノウトから要件を頼まれたミカエルは一瞬考え込んで、

『面白そうだ。僕に任せてよ』

 そう言って小さく頷いた。



           ◇◇◇



 二つの月が魔皇城を照らしている。
 時々だけど、月ってひとつだったような気がする瞬間がある。夢の中では月はひとつだ。どういうことか全く分からないけど、それでも月が綺麗なことは変わりない。不変の事実だ。

「やあ、ノウト」

「よっ、レン。来たな」

 レンは空から翼をはためかせて下りてきた。

「ミカエルも元気?」

『うん、すっごい元気だよ』

「ははっ、それは良かった」

 レンは口元を隠すように笑ってみせた。そして、空を見上げるように仰いだ。

「今日はいい夜だ」

「レンが言うなら間違いないな」

『月って見入っちゃうよね』

 ミカエルがレンの肩にぴょんと乗っかった。

「ああ、ほんとに」

「なんだ、お前ら」

「ダーシュ」

 ぼさぼさ髪の男がいつも通り軽そうな鎧を着込んで歩いてきた。

「俺は姫がここにいると聞いて来たんだが」

「そのうち来ると思うぞ」

「チッ。それならそうと言え。姫を迎えに行く」

『ちょっとちょっと』ミカエルがダーシュの頭の上に飛び乗った。『キミは生き急ぎ過ぎでしょ』

「止めるなミカエル。現世に生きているならその一分一秒とも無駄には出来ん。なるべく姫の近くにいなくては」

「こいつ重症過ぎるだろ……」ノウトが頭を片手で抑えた。

「そこがダーシュのいいところだよ」

『そうかなぁ』

「ノウトきゅん、遅くなりました」

「いや、まだ早い方だよ。が来てないからね」

「ふん、来てやったわよ」

 フィーユはいつものメイド服を揺らしながらノウトに近付いた。
 瞬間、視界が真っ暗になった。瞼がほんのり温かい。

「にゃーん、だーれだ」

「チナチナ」

「秒速で正解にゃー」

 いつも楽しそうでお馴染みのチナチナがはしゃいで跳ねた。

「わ、わわダ、ダーシュ様っ……」

 ミャーナがフィーユの後ろに隠れた。ミャーナはダーシュに命を助けられて、彼に恋心を彼に抱いているらしい。二年間も一緒に仕事を共にしていたらさすがに気付くものだ。

「元気でやってるか?」

「は、はい。お陰様で……」

「そうか」

 ダーシュはラウラ以外眼中にないので、ミャーナには頑張って欲しいところだ。

「ミャーナはお子様ね」

「……フィーユだってまだ言い出せてないお子様なくせに」

「はぁ? あたしのどこがお子様なわけぇ? ねぇ、あなた。わたしは立派なレディよね?」

「もちろん。フィーユ嬢は俺が初めて目にした時から立派なレディーだ」

「初めて会った時って部屋覗いて下着姿見た時ですよね?」シファナが真顔で言った。

「よし、この話はやめよう」

「なにしれっと逃げようとしてんのよ。まだ許してないわよ、わたし」

「ごめんって。もう許してくれよ」

「そりゃ責任取ってわたしを幸せに──って何言わせようとしてんのよ変態!」

「理不尽!」

 フィーユのビンタが命中した頬をすりすりと撫でる。

「変態にゃ!」

 なぜか飛んでくるチナチナのビンタをノウトは殺陣シールドで受け止めた。フィーユのそれはわざと受けたが、チナチナの攻撃をくらうわけにはいかない。

「その手には乗らんぜ。チナの助」

「ほほう。それならばこれはどうにゃ~?」

 チナチナは屈んで、それからミカエルを両手に抱いた。

「くらえ! 突撃のミカ!」

『チナチナは僕の扱いが雑だよっ!』

「ふぐっ……」

 チナチナの手によってミカエルのお腹がノウトの顔面に押し付けられた。その結果、ノウトはミカエルのもふもふ且つふわふわ且つさらさらな毛並みを堪能することが叶った。ありがとう、チナチナ。

「そう言えば、フィーユってノウトきゅんのこと名前で呼んだことありましたっけ?」

 唐突なシファナの『そう言えば』に場の空気が固まりかけた。

「二年も一緒にいるんだから呼んだことあるに決まってるじゃない」

「じゃあちょっと呼んでみてよ」なぜかレンがフィーユに催促した。

「え、ええ……?」

 フィーユは明らかに困惑した。実際のところ、ノウトがフィーユに名前を呼ばれたことはない……と思う。いつも『あなた』か『ねぇ』のどちらかだ。

「ノ………」

 フィーユがノウトと目を合わせた。彼女は頬を染めて、目を逸らした。

「……ウト……」

「うと?」

「ああ、もうやってらんないわ! 帰る!」

「ごめんごめん、フィーユ。もうちょっといて、頼む」

「……分かった」

 フィーユは案外すぐに立ち止まった。なんだか意外だ。

「あー、ノウトがフィーユいじめてるー」「わー、ノウトがフィーユいじめてるのじゃー」

「姫!」

「お前反応が早すぎんだよ」

「ご無事でしたか?」ラウラの元に駆け寄ったダーシュが彼女の足元でひざまずいた。

「ご無事もご無事よ。ってかなんの集まりなの、これ」

「全員集まってからのお楽しみだ」

「そ」

 ラウラは余裕そうに頬を弛めた。

「ノウト、小型影室ヘリオグラフィはきちんと持ってるのじゃろうな」

「もちろん」

 ノウトは自らのポケットに手をやって、そこにあるのを確かめた。

「にしてもこんな提案をするなんて、さすがのわしも驚いたのじゃ」

「ダメだった?」

「いや……─」

 メフィは俯いて、そしてノウトの顔を見た。

「ずっと成し得たかった、わしのひとつの夢が叶いそうで……なんというか……」

「そっか」

 ノウトは微笑んでメフィの頭を撫でた。

「子供扱いするでない」

「とか言って~~ほんとは嬉しいくせに~」ラウラがノウトに混じってメフィの頭を撫でる。

「う、嬉しくなど」

「ツンデレだ」チナチナが言った。

「メフィデレだよ」

「もうっ」メフィは頬を膨らませて、ノウトとラウラの手を払った。そしてレンの後ろに行った。

「レンってやけに小足族フリングに好かれるのよね」

「これは、どうなんだろ」レンは小さく笑った。

「よーよー。こんな重役が集まって何すんだよ、ノウトー」

「こんばんは」

 ルーツァとシャーファがラウラの後を追うようにテラスにやってきた。

「みんな集まってからのお楽しみだぜ?」

「サプライズってやつな」

 ルーツァは辺りを見回した。そこで、彼女に目を止めた。

「フィーユ」

 ルーツァが彼女のもとに歩いていった。そして、片膝を着いてポケットから何かを取り出した。

「これ、お兄ちゃんからプレゼントだ」

 その手にあったのは小さな黒い箱だった。

「なに、これ」

「帰ったら開けてみてくれ」

「ふ、ふん。変なものだったらたたじゃおかないから」

「フィーユの好きなものに決まってるだろ?」

 ルーツァはニッ、と笑った。

「どんなものかは分からないけど、ルーツァがフィーユに渡すならいいモノに決まってるね」レンがノウトの横に立って言った。

「あの兄妹なんだかんだ仲良いよな」

『ね』

 ミカエルがノウトの肩に乗っかった。

『やっぱりここが一番落ち着くな』

「いっそ肩に住むか?」

『何言ってんの』

 ミカエルに失笑で返されながら、ノウトは見渡した。みんなの顔を見て、胸に手を当てた。

「よォ、ノウト」

「ロス先輩」

 ロストガンはレンと同じように空から現れた。血夜族ヴァンパイアは日中不自由なぶん、夜の自由度は高い。

「ずいぶん賑やかになってきたじゃねェか」

「まだ真打がいませんけどね」

「ハッハァ。言えてるぜ」

 ロストガンはぐるりと周りを見渡した。

「よっ、ロー。調子はどうだァ?」

 ロストガンがレンを見た。レンの名前はローレンスなのでロストガンはレンのことを『ロー』と呼んでいる。

「そこそこかな」レンは目を合わせずに答えた。

「ハッハァ。そりゃ良かったぜ」

 ロストガンは口許を歪ませた。

「オマエ、俺のこと嫌いなのにここによく来たなァ」

「ノウトに頼まれたら断れないしね。あんたと同じ場にいるなんて吐き気がするほど嫌だけど」

「んっんー。オマエが元気そうでなによりだァ」

 ロストガンは楽しそうに笑う。
 血夜族ヴァンパイアの王族事情は複雑だ。ロストガンとレンは兄弟だが、ロストガンは正統な血夜族ヴァンパイアの血筋、ユウグルア家の血を引いているが、対してレンは妾腹で、レーヴェレンツ家の血を引いている。
 要するに父は同じだが、母は違うのだ。それにも関わらず、二人の容姿は似ている。性格はまるっきり似てないけど。

「やあ、みんな」

 血夜族ヴァンパイアのメイド長エスカが最初からそこに立っていたかのように自然にそこに現れる。エスカは空からではなく、きちんと扉を開けてきた。
 シファナ達メイドらは揃ってエスカに頭を下げた。

「エスカさん。わざわざすみません」

「いやいや、いいんだよ、ノウトきゅん」

「すみません、恥ずかしいのでやめて下さいそれ」

「シファナに呼ばれるのは恥ずかしくないのワタシに呼ばれるのは羞恥を感じるのかい? それは……なんだか寂しいな」

「え、ご、ごめんなさい。存分にそう呼んで頂いて結構です」

「ありがとう、ノウトきゅん」

「いえいえ」

「ちょろすぎない……?」小さくラウラが呟いた。

「さすがにノウトも分かってやってるじゃろう……」

「どうだか」ラウラがふっ、と鼻で笑った。「超絶美人のエスカに話しかけられてビビってるだけじゃない?」

「ノウトは美人に弱いですからねー」フィーユがラウラに向かって頷いた。

「いやそれはさすがに誤解があるぞ、フィーユ」

「じゃあ美人は嫌いなのかい?」

「いえ、俺は全人類大好きなので、老若男女愛してます」

「なんだこいつ」チナチナが真顔で言った。

「ははっ。そう言えばキミはそういう人だったね」エスカは楽しそうに笑う。

「オレも全人類大好きだぜ」

「アンタが言うと例えそうでも怖いからやめて」ラウラがロストガンに裏拳でツッコんだ。

「姫は超絶美人通り越してますよ」

『なんのフォローなの、それ』

「だーれだ」

 またしてもノウトの視界が暗くなった。今度はチナチナとは違って目の周りに触れている手は少しだけひんやりしている。

「スピネかな……」

「わー、正解ですー」

 スピネが手を引っ込めて、その手を後ろで組み合わせた。

「さっきも違う人にやられたんだけどな」

「反応悪いですよ、センパイ」

 森人族エルフの少女スピネがそこに立っていた。彼女は国から出ることのままならないユークレイスの使いとして帝都にやって来ている。

「シファナやっほー」

「こんばんはです、スピネ」

「チナチナも元気ー?」

「うん、めちゃくちゃ元気にゃー」

 スピネがメイド達と戯れる。微笑ましい限りだ。

『さて、頼まれた通りみんな僕が呼んだわけだけど』

「助かったよ、ミカエル」

『礼には及ばないよ』ミカエルが尻尾をぶんぶんと左右に振った。『それで、呼んだはいいけど、ここから何をするの?』

 ミカエルがそう言った時だった。

「みんな、集まったみたいだな」

 振り返ると、そこには魔皇がいた。彼女は腕を組んで、愉しげな笑みを携えている。その背後から出てきたのは──

「ミファナ!?」

「ど、どうも~」

 魔皇がお得意の魔法で連れてきたのだ。ミファナが来ることは正直予想していなかった。

「こんばんは、ノウト様」

「おう、久しぶりだよな、ミファナ」

「なかなか帝都に行く機会がありませんでしたからね」

 ミファナはノウトが真の勇者になることを決意したきっかけをくれた大切な人だ。初めてノウトがこの世界で救い上げた子でもある。

「ミファ姉っ!」フィーユが走って、ミファナの元によって飛び込むように抱きついた。

「久しぶり~、フィーユ。元気してた?」

「うん、うん。会えて嬉しいわ、ミファ姉」

「私もだよ、フィーユ」ミファナはフィーユの頭を撫でて、シファナの方を見た。

「シファナ、あんまり会いに行けなくてごめんね」

「いえ、……謝るのは私の方です。ずっと実家に帰っていなかったので」

「もう、シファナはあいかわらず真面目だな~」

 ミファナがシファナに近付いて、その手を取った。

「今度、一緒にお買い物しよ? ね?」

「姉さんがそういうなら……」

「やった。約束だよ?」

「う、うん……」

 こんなシファナは初めてみたかもしれない。いつもは真面目ぶってるだけでシファナも年相応の女の子なのだ。

「良かったらノウト様も一緒にどうですか?」

「いや、俺はいいかな。女の子だけで行っておいでよ」

「う~ん。そ、それじゃそうしようかな」ミファナが曖昧に頷いた。

「ふふふ。みんな嬉しそうで何よりだ」

 魔皇がしたり顔で呟いた。魔皇は本当に凄い。いつも皆が求めているものが、誰が口に出さなくとも分かっている。
 ラウラが魔皇に駆け寄った。

「魔皇様っ」

「ラウラ、いい子だ」

 魔皇がラウラの頭を撫でた。ラウラは魔皇の前だと子供みたいだ。それを一切隠す気がないのもまた、なんとも言えない。

「ってあれ? この集まりノウト主催じゃなかったんですか」

「言いだしたのは私だ」

 魔皇がノウトに目をやった。

「ノウト、例のものは持ってるか?」

「もちろんです」

 ノウトがポケットから小型影室ヘリオグラフィを取り出した。

「それなに?」ラウラがノウトに近寄って、その道具をマジマジと見た。

「これは〈小型影室ヘリオグラフィ〉と呼ばれる神機じゃ。古代の遺物であるカメラオブスクラを参考にそれを〈光〉の神機と〈闇〉の神機を掛け合わせて作り上げた所謂いわゆる魔道具に近い一品じゃな。わしの莫大な魔力を込めてあり、貴重なものである為市場では出回っていないたいっへん希少価値の高い自慢の子じゃぞ」

 メフィが自慢げに語った。ノウトは理解出来たけど、他の人はさっぱりだろう。

「遺物とかは、うん、まぁ分かったけどこれで結局何が出来るわけ?」

 ノウトは小型影室ヘリオグラフィを持ち上げて、その透明なレンズ部分をラウラに向けた。そして───

「にゃっ!?」

 突然のフラッシュとともにパシャリと音が鳴る。すると、小型影室ヘリオグラフィの下部、スリット部分から一枚の紙が出てくる。ノウトはそれを手に取った。
 そこにはラウラが全力で慌ててる情景が写し出されていた。

「これは、……絵?」レンが呟いた。

「端的に言えばそうとも言えるな」

 ノウトが反射的に答える。

「簡単に言うと、これで写したものを瞬時に絵に出来るんだ」

「な、なるほど」ラウラが理解したのか理解していないのかは分からないがくこりと頷いた。

「これを使ってみんなで集合写真を撮ろうという訳だ」

「集合シャシン……」レンが小さく繰り返した。

「それ! めちゃくちゃいいっすね!」ルーツァが大声で盛り上がる。

「ちょ、ちょっと落ち着きなさいルーツァ」シャーファがなだめる。

「よし、それじゃあ善は急げだ。魔皇様、真ん中に立ってください。その左右に他の人は並んで、そうそう……」

 ノウトが小型影室ヘリオグラフィを構えたまま、レンズ越しに向こう側の世界を見た。

「じゃあ魔皇様とメフィの隣あたし~」ラウラがぴょんと魔皇の隣を陣取った。

「せっかくだしシファナ、手繋いで撮ろ?」ミファナが提案する。

「べ、別にいいですよ」

猫耳族マナフルメイド組は前に行った方がいいと思うな」エスカが言う。

「わたしもそう思います」

「……俺は絶対に姫の隣を死守する……ってオイ離せルーツァ! なぜお前らに囲まれないといけない!」

「俺ら三人でひとりみたいなとこあるじゃん? なぁシャーファ」ルーツァがダーシュとシャーファの肩を組む。

「それもそうですね」シャーファは控えめに、でも楽しそうに笑った。

『うーん、みんな何してるのかよく分からないけど、僕はここかな』ミカエルがロストガンの肩の上に乗った。

「それじゃ撮るぞー」ノウトが言った。

「ってノウト様はどうするにゃー?」

「俺は撮る側だから、いいよ」

「何言ってんだよ、こっち来なよ」レンが手招きする。

「でも、そしたら誰も撮れないだろ?」

「ふっふっふ」

 メフィが不敵な笑みをこぼした。

「ノウト、小型影室ヘリオグラフィには新機能を搭載しておる。こうなることも予期して起動端末を長押しすれば時間差の効果発動も可能じゃぞ」

「メフィ、さすがすぎる……」

 心の中で最大の畏敬を払いながら、ノウトは小型影室ヘリオグラフィの起動ボタンを長押しした。
 ノウトは彼らの並ぶに駆け寄る。魔皇と目が合って、お互いに最高の笑顔を交換し合う。

「ノウトきゅん早く!」「ノウトこっちだ」『ノウトの肩は僕がもらった!』「ノ、ノウト! わたしの隣に来なさい!」

 ノウトは手を引かれて揉みくちゃになりながら、最終的にレンとメフィの間に落ち着いた。ノウトの肩には定位置と言うようにミカエルが座っている。目の前にメイド仲間達がしゃがんでいて、後ろにロストガンが立っていた。ノウトは中腰になって、小型影室ヘリオグラフィの方を見た。その刹那、

 ───パシャリ、と。
 発光ととともに音が響く。

 この幸せな時がずっと続けばいいのにと心で願った。ただ、強くこいねがった。
 ノウトはこの日のことを、一生忘れることは無いだろう。そう確信した。
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