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序章 きみが灰になったとしても
第37話 倒すじゃない
しおりを挟む遂には、ノウトは仲間たちにスクードやミカエルのことを話した。スクードにはラウラたちには内密にと釘を刺されたが、やはりノウトは話すべきだと判断した。ノウトだけで背負い込んでも何も進展しない。仕方がないことなんて、なにもないのだ。
何を信じて、何を信じないのか。
信頼の取捨選択に正解はない。
ならばノウトが信じると思った者を信じればいい。
ただ、それだけだ。
「そのノウトが会ったやつが信頼できるかどうかは別だけど」
ラウラが手元に目線を下ろす。
「大事なのは、あたしたちの情報が連邦側──不死王側に漏れてるかどうかってこと」
「少なくともそいつにはバレてる訳だから、俺たちが来ることも不死王にはバレている可能性は高いな」ダーシュが言った。
「もともとそれは百も承知だよ」レンが不死王城に目をやる。「大地掌握匣を向こうが奪った時点で俺たちが大地掌握匣を奪いに来ることは連邦は予想はしている。ただ───」
「それがいつになるかは、向こうは知らない」フウカが答えを口にする。
「そう。俺たちが強いところはそこだ。相手側はいつ帝国が襲ってくるのか分からない」
「でも、なぁ……」
ラウラがいたずらっぽい顔でノウトをちらりと見た。
「ノウトがしくじったからねぇ」
しくじった、というのは当然、あのことだ。
ノウトは連邦の魔人に姿を見られて、その魔人の息の根を止めなかった。だから、街中でノウトたちは探されてる状態に陥っている。
城内にまでこのことが伝わってしまったら、ノウトたちの強みは完全になくなってしまう。
「……ほんとにごめん」
「うそうそ。まぁこうなったらしょうがないよ。ノウトは最善を尽くしたから」
「こっちには瞬間転移陣がありますから」フウカが微笑む。「何があっても、そう、大丈夫です」
「で、そのノウトのファン? だっていうやつがくれた不死王城の地図が本物なら、大地掌握匣までは簡単に行けるわけだけど」
ノウトはスクードの名前を出さなかった。これがノウトなりの誠意なのだろう。スクードがくれた城の地図はどう見ても手書きだった。念入りに、もしかしたら何年もかけてこの地図を完成させたのかもしれない。
彼が不死王を殺したいと思っているのは本当だろう。あの目は、本気だった。そう、スクードは本気だったのだ。本気でノウトに不死王を殺すことを頼んだ。
「俺は信じられません」ダーシュがラウラに言う。
「……と言いたいところですが、そいつが不死王の内通者だったらもっと早く対処されていたはずですし、信じられないことはないですね」
「まぁ、そのノウトの支持者が敵だったらここに辿り着くまでに何か攻撃されててもおかしくないし」
「とりあえずは信じてみよう。何かあっても、あたしたちなら大丈夫」
ラウラはにっ、と笑った。ノウトは仲間たちを信じることにした。それが今ノウトが為せる最善の選択だと思う。
ノウトたちはスクードの地図に従って、地下の水路から城の内部へと侵入した。地図には不死王のいる場所やそれぞれの階の構造が記されたおり、大地掌握匣がどこにあるかは書かれていなかったが、フウカの持つ情報と合わせることでその場所を特定することが出来た。
地下の水路を進む。さすがにここに見張りはいないようだ。なるたけ足音を殺すように進んでいく。もちろん、緊張はしている。そりゃするさ。ここに来るまでは本当に長い道のりだった。ついに目的地である不死王城までたどり着けたのだ。失敗は許されない。呼吸を整えて、歩き続ける。
アヤメを呼んでも、まだ返事はない。
エヴァと戦った時に出来た神技を生み出す技術は、何やらアヤメ側で行う消費する力が大きいらしく、そう連発できるものではないと言われた。さらに言えば、例えば『チナチナはエヴァに殺されない』ことを定めたように、もう一度他のパターンを作り出すには両者の名前が必要となってくる。
出来るならば仲間たちに『殺されない』神技を付与したかったが、あの夜に力を使いすぎたおかげでこの先しばらくは使えない。それは何日後か、何ヶ月後か、はたまた何年後か、それも分からないらしい。アヤメがノウトに伝えられる事実は検閲のせいで極端に少ない。
「……声が──」レンが呟いた。
ラウラやダーシュはレンが言う前から気付いていたようだ。声を沈めて、気配を潜めている。ノウトも自然と暗殺を使っていた。
「ぅ……あぁ……………」「あぁ……ウぅ……ぁァ………」「……ぉあァ………アァ……」「……あォ……ぅう………」「……ぅあ………ぁぅ…」
これは、声なのか。無論、言葉ではない。でも人の声だ。確実に。ノウトたちはこれらを何日か前に聴いた。嫌というほど聴いた。
「……ゾンビ──不死者だ」
水路が途切れると、その先に仄暗い空間が広がっていた。ノウトたちの左右を鉄格子が挟んでいる。牢屋、牢獄だ。その中に、密やかに、だが怪しげに蠢く者たちがいた。
「……これ、全部ゾンビ?」
「みたいだな……」
檻の中に、無数のゾンビが蠢いていた。
「ゾンビは……極位魔人の成り損ない……」無意識にノウトが呟く。すると、みんながノウトの方を見た。
「……なにそれ」ラウラが眉をひそめる。「ほんとの話?」
「……ああ。聞いたんだ。この地図を貰ったやつに」
「……そんな……これ全員が…?」
「みんな、……犠牲になったんだ。半不死身である極位魔人の実験台に」
皆がゾンビへと視線を向けて、拳を一様に握った。
「そして、そのひと握りがミェルキアのような強者になれるのか」ダーシュは歯を食いしばった。
「……許せない」レンがまばたきせずに言った。「人の命をなんだと思ってるんだ」
「──ずっと考えてました。ゾンビになってる人の意識はどこにあるのかと」フウカは洟をこすった。「まだ意識はあって、それでも無理やり生かされているのだとしたら……こんなに残酷なことはないです」
フウカの言葉が胸の奥に重く響く。
「……私たち、あの夜ゾンビを傷付けましたよね」フウカが続けて呟く。「何だか……何が正しいのか、分からなくなってきました」
ゾンビを横目に、ノウトたちは歩く。何十どころじゃない。ゾンビは何百、何千といる。声が、声が、声が。
彼らの声が耳の中に、頭の中に入り込んでくる。苦しい。助けて。たすけて。そんなことを彼らは言っていない。でも、そう聞こえる。彼らの悲哀なる表情が、瞼に焼き付く。
「…うぅ……あぁ………すくぅ…ど……ぉ…………」
はっ、と何か声が聞こえた気がして、ノウトはその声のした方を見た。その方向には、ゾンビの群れが牢屋の中にいる光景だけが広がっている。
その中で一人、鉄格子から手を伸ばして、虚ろな目でこちらを見ているゾンビがいた。髪はごわごわで伸び放題になっている。服も清潔感は一切ない。辛うじて、人の原型を保っている顔の造形から、女性だということが分かる。
──スクードの姉は、不死王にゾンビにされたと言っていた。
実質殺されたも同然だ。いや、殺されたよりも惨いかもしれない。意思疎通の出来ない身体にされたのだ。酷いなんてものじゃない。
さっきの声が、本当のものかは分からない。でも、確かにスクードの名を呼ぶ声が聴こえた。あれは、もしかしてゾンビとなったスクードの姉の声なのではないだろうか。
ふつふつと、ノウトの中にある感情が生まれかけていた。
「──この潜入での目的は大地掌握匣を取り返すこと」
ノウトはそこまで言って、でも、と続けた。
「もし、この潜入で不死王を倒せたら、それはいいことなのかな」
「出来たらいいに決まってる」ラウラは左右の鉄格子を見やった。「戦争は終わるし、モファナやほかの国での被害も今よりはぜったいに少なくなる」
「──みんなは、どうしたい?」
「どうしたいって……」
レンがノウトを見た。
「それは、不死王を倒すってこと?」
「違う」
ノウトは首を振った。
「殺すんだ」
その言葉が刹那、ノウトの周りを纏って黒い瘴気となり、すぐに霧散した。
ノウトは勇者となって、この世界に目覚めてから誰一人として自分の手では命を殺めていない。その真意は、相手が殺すには値しないと思っていたからだ。誰も彼もが上に立つ権力者に踊らされて殺し合いを仕掛けられている。殺し合いを仕組んでいるのは運命でも必然でもない。その上に立つ彼の不死王のせいだ。でも、相手が不死王ならば話は別なのかもしれない。
皆は口をつぐんだ。それぞれに思いを馳せているのかもしれない。何秒か経ってから、皆の中で止まった時間は動き出した。
「どうするにしても、先に大地掌握匣を帝国に送り戻そうよ」
レンの言葉でノウトは少しだけ我に返れた。
「そう、だな。ごめん、変なこと言って」
ノウトは片手で頭をかいた。どこか、何か変だ。自分の何かがおかしい、なんて。自らの変化に気付いてはいたけれど、それが正確には何なのかは分からなかった。
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