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序章 きみが灰になったとしても
第52話 言葉、思い出、群青
しおりを挟む「……あのさ、ロメリー」
「どうしたの?」
彼女ははにかみながら俺の方を見た。儀式のことを聞かなくては。このままでいいのかと。運命を享受するだけでいいのかと。
でも、それを聞けばロメリーは傷つかざるを得ない。どうする。どうすればいい。
一瞬の逡巡ののち、思いついた言葉は、
「最近、無理してないか?」
……といった、これと言って当たり障りのないものだった。
「んーん。無理はしてないよ」
ロメリーはいつも通り笑って回答する。ロメリーは滅多なことでは弱音を吐かない。
「なに、心配してくれてるの?」
「そりゃ……」
最近のロメリーの顔を見れば分かる。以前にも増して疲れているように見えるし、よく言えば痛そうにしているようにも見える。
「……心配に決まってるだろ」
呟くように言うと、ロメリーは少しだけ目を丸くした。
「めずらしいね。きみが本音を言うなんて」
「……え?」
「だって、きみって嘘つきじゃん?」
「いや、ひでぇな。でも、……まぁ、否定はしないけどさ」
「大丈夫。わたしも、嘘つきだから」
ロメリーは小さく微笑んだ。
「それに、わたしはね、きみが嘘をつくのはいつも誰かのためなの…知ってるから」
ロメリーの声はいつも芯が通っていて、何を口にしてもそれが正しいように聞こえる。放つ言葉の重みが違うのだ。人によっては、ロメリーが特別で、非情なようにも見えるかもしれない。
でも、俺は知っている。ロメリーが本当は我慢強くなんかない、ただのひとりの普通の女の子であることを。
「おおぉぉぉぉい!! アルバートぉお!!」
突然、遠くの方から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。この声は同業のドゥールのものだ。
「ああ、良かったぁ。ここに居たのかよ」
「何かあったのか?」
「正門の方、ちょっと様子が変なんだ。見て来てくんねぇか」
「正門か。そっちは今ジークが見張りしてるはずなんだけどな……」
「とにかく行ってやってくれ。お前しか鍵持ってないんだからよ」
それは、確かにそうだが──
ちらりと横目でロメリーを見ると、彼女はうなずいてみせた。大丈夫、と言うことなんだろう。
「……分かったよ。それじゃ、巫女様を頼む」
「了解」
俺はロメリーに手を振って、その場を離れた。走りながらも頭にあるのはロメリーのことだけだった。
◇◇◇
「有栖!!」
俺は手を伸ばした。でも、掴めない。黒い膜に覆われた人型の何かに抱き抱えられて、彼女は扉の奥へと消えていく。あの黒いやつが、──あれが魔王なのか。
どうして有栖を連れていくのか。俺が、俺たちが何をしたって言うのか。分からない。何もかもが、分からないんだ。でも、だからこそ、この運命を受け入れるわけにはいかない。
もう一度、手を伸ばして──
そして俺は、彼女の名前を叫んだ。
◇◇◇
「まぁ、ここまで来れば大丈夫だろ」
追っ手を撒きながらなんとか俺たちは流木街シンドジアの自宅まで、たどり着いた。
「はぁ……はぁ………」
目の前で息を切らして、膝に手をついて呼吸を整えているのは怪しい奴らに追われていた女の子だ。フードを目深に被っていて、顔はよく見えないけど、困ってるみたいだったので思わず救けてしまった。
「で、さっききみを追いかけてたのは誰?」
「え……、えっと……」
女の子はフードをくいっ、と引っ張ってさらに顔を隠すようにした。
「何も隠す必要はないと思うぜ? なんたって俺は天涯孤独のド底辺灰色エルフ。口を割る相手さえいないからな」
「そ、そう?」
フードの女の子は首を少し傾けて、それからゆっくりとフードを脱いでみせた。
俺は、意図せず目を瞠ってしまった。くらっとして、倒れてしまうかとも思った。
なんたって、目の前に立つエルフの少女は、美しすぎたのだ。腰まで伸びた流麗な銀髪に、見れば分かる。この娘は大樹の上に暮らすハイエルフだ。こんなところにいるのは場違いなほど可愛くて美しい。
「えっ、どうしたの?」
「い、いや、………」
俺は咳払いをしてかぶりを振った。
「……あんた、まさか王族の人なんじゃ……?」
俺が言うと、目の前の少女は一瞬、口を丸くしてから、俺から目を逸らした。
「どうして分かったの?」
「いや、見りゃわかるよ。だって、あんた──」
そこまで言って、根拠が『見た目が可愛すぎる』ことしかないことに気がついた。それを口に出すのに躊躇した俺は少女から目を逸らしてしまった。
「あんた?」
「……ハイエルフっぽいし」
「っぽい……って」
銀髪の少女はそこまで言って、それから「ふふっ」と小さく吹き出した。
「根拠が薄すぎるよ」
「でも、合ってるだろ?」
「まぁ、うん。合ってるけど」
「じゃあ、さっき追ってきてたやつら、あれ大樹の役人共か」
「わっ。よく分かったね」
「……そりゃここまで来れば嫌でも分かるよ」
俺は片手で額を抑えた。
「……やべー。俺、顔割れたら公務執行妨害で死刑確実だな……」
「大丈夫でしょ。きみ、すっごい速かったし」
「そういう問題かよ……」
一般エルフが大樹に暮らすハイエルフにたてつけばその時点で死刑は決まったようなものだ。
俺の暮らすこの流木街は大樹からそこそこ離れてるし迷宮のように入り組んでるから探しようもないとは思うが、万が一があったら困る。
「……でも、ま、いっか」
「ごめんね。いろいろ迷惑かけちゃって」
「いや、いいよ。この際気にしない方向で」
俺が言うと、少女は少し落ち込んだみたいに眉根を下げてうなずいた。
「一人だと危険だろ? 大樹の下まで送ってってやるよ」
「えっ……」
少女は何か予想外なことが起こったように声を漏らした。
「もしかして、戻りたくないとかか?」
俺がそう口にすると、少女はこくりとうなずく。
「……困ったな」
片手で髪をかきながらちらりと少女の方を見ると、目をぎゅっとつむって何かを懇願するように両手を組み合わせていた。
「分かったよ。半日くらいはここにいていい。でも、遅くなる前には家に帰すからな」
俺がそう言うと、少女はぱぁ、と顔を明るくした。
「ありがとう。ずっと街の中を歩いてみたかったの」
あまりにも嬉しそうに言うもんだから、俺も頬が軽く緩んでしまった。
「名前、聞いていいか?」
「うん。いいよ」
銀髪の少女は小さく微笑んで、それから口を開いた。
「わたしの名前は───」
◇◇◇
テラスで待っていると見知った顔が見えたので軽く手を振った。
「久しぶり、南々瀬」
「よっ、ノウト」
南々瀬はカフェモカの入ったカップを片手に俺の反対側の席に座った。
「久しぶりっつっても嫌になるほど通話してるから何も気概はないけどなー」
「それ言ったら終わりだろ」
雑談と駄弁をいくつか交わしていると、南々瀬が両腕を組んで、ノウトを見た。それから周りに聞こえないような小さな声で話し始めた。
「で、最近どうなんだよ」
「どうって?」
「あれだよ。例の研究に決まってんじゃん」
「あー……」
例の、というだけで何を指しているのかが分かるのだから困る。困るしかない。
そんな俺の心情もスルーして南々瀬は前のめりに口を開いた。
「お前、あれの研究メンバーに選ばれたんだろ?」
「すっげぇたまたまだけどな」
「いやいやもっと嬉しそうにしろよー。人類の進化に直接携われるんだぜ?」
「そうは言ってもな。ここだけの話、内部でも倫理委員会やら防衛省の人間やらでいざこざがあって研究どころじゃないんだよ」
「倫理委員会?」
「ほら、宇宙人とかUMAとか少し前に流行ったSCPとかそんな感じの新種の生命体が現れて戦争でも始まったらどうするんだ、みたいな」
「宇宙人か」南々瀬はハッ、と鼻で笑った。「あいつらほんとにロマンチストだな。『ゲート』はそういうものじゃないのに」
「専門家じゃないとあれの価値は分からないよ。まぁ、それを度外視しても俺はあんまり乗り気じゃないけどさ」
「もったいねー。せっかく選抜されたんだからもっと志高く持てよ」
「ごめん俺、南々瀬ほど研究に恋してないから」
「おいおい、マジでノウトさ。いろいろともったいないよ、ほんと」
「じゃあ、南々瀬推薦してやろうか?」
「えっ、マジ?」
「まじまじ」
「いやいや、そんな簡単に通るわけないだろ」
「それがさ。人選しすぎて逆に人手が足りなくなってんだよね」
「へぇ。…いや、それでも突然訪問はきつくない?」
「いやいや、どの口が言ってんだよ。世界のどこ探してもお前ほどの変態プログラマーいないだろ。いけるいける」
「いやそれ褒めてんの? ま、いいか。ほんとに申請通ったら後で連絡頼むわ」
「了解」
スマホを覗くと、チャット欄にレンの名前があった。そこには『悪い。あと五分くらいでつく。あとこの子、今取り掛かってる〈NICORA2071a〉ちゃん』という文字と共に動画の添付ファイルがあった。
「レン、もう少しで着くって」
「おーマジか。いや久しぶりだな、三人で集まんの」
「ほんとだな」
頷いてから、俺はレンから送られてきた動画を開いた。キッチンに人が立っている。少女のように見える。その子はただ淡々と料理を作っている。
俺は黙ってその動画を南々瀬に見せた。
「あいつのロボット愛は一周回って怖いよな」
「いや、南々瀬には言われたくないと思う」
「そういうお前だってある種変態だろ」
「うん。否定はしない」
「そこは否定しろよ……」
南々瀬のツッコミが少しだけツボに入って、俺は口許を抑えて笑った。
改めて考えてみれば、『ゲート』の研究に携われるのは、人類の進化への貢献に直接関係するため、非常に栄誉なことだと思う。
この研究が良い方向に進めば必ずや人々は幸福の一途を辿ることができるはずだ。
スマホに映る彼女の笑顔を眺めながら、俺は深く、そして確かに決意した。
◇◇◇
早く目を覚まさなくては。
そんな思いで目を開けた。
その瞬間、脳髄に何かが流れ込んできた。奔流だ。脳内に流れ込む記憶の奔流。
何だ。今のは。何か。さっきまで長い夢を見ていたような気がする。
いや、違う。夢はいつだって忘れて消え失せてしまうものだ。でも、さっきのは違った。さっきまで見ていたそれは、今までと違って、かなりはっきりしている。
目をつむったまま、頭を抑えて先程まで見ていた情景をなんとか思い出す。
四つの場面が順番に切り替わっていたのを覚えている。
最初にいたのはロメリーという名前の女の子。
二番目には、黒い人影と『有栖』という名前を叫ぶ俺の声。
三番目に見たのは美しい森人族の少女。
最後に見たのは『ナナセ』という男だ。
……あれ、駄目だ。何か書き記さないと忘れてしまう。消えてしまう。全部、無駄になってしまう。書かないと。書いて記憶しないと。
「………何か書くもの───」
ノウトは辺りを見渡した。
「……って、あれ?」
…ここは、……どこだ?
暗くて、狭い。
とりあえず、とにかく狭い。両手を広げられないくらいだ。奥行きも幅も狭すぎる。
さらに言えば、ここは真っ暗ではなくて、白くてほのかな光が格子の向こうから漏れているのが見える。
そう、ノウトは今、格子の中に閉じ込められているのだ。木でできた格子扉には棘だらけの植物がびっしりと巻きついていて、触れたら確実に怪我をする。
この中は、かろうじて身動きは取れるレベルの大きさではあるが、それでも一畳くらいの広さしかない。
天井が低い。低いにもほどがある。
どうやっても立ち上がることは不可能だ。ギリギリ座れるくらいの高さしかない。
背後や左右を囲っている壁は岩のように硬いが、どうやら木みたいだ。
格子扉の向こうは通路みたいだ。目を凝らせばまばらに明かりがあるのが見える。
「……ここ、牢屋か」
ノウトはミドラスノヴァの森の中で森人族たちに捕まり、その結果今こうして閉じ込められている。
折れたアヤメの剣もここにはない。没収されてしまったのだろう。文字通り身ぐるみ剥がされてしまった。
悲観的になるのはまだ早い。早計だ。
何かチャンスはあるはず。それに、今は自分のことよりも、ニコだ。ニコはあれからどうなったのだろう。
考えごとをしていると、通路の向こうの方からコツコツと誰かが歩いてきている音が聞こえた。
「目が覚めたようだな」
そこにいたのは一人の中年の森人族だった。光るキノコが入ったかごを片手に持っている。
その顔は荘厳かつ、美麗だ。
森人族なだけあって美しい相貌は持ち合わせているが、その顔は憤怒と憎しみの情動により崩れている。
「気分はどうだ」
「…良くはないかな」
「そうか」
森人族の男はノウトの双眸を真っ直ぐに見下ろした。
「明日の正午、貴様の処刑が始まる。それまで妙な真似はしてくれるなよ」
処刑。
つまり、ノウトはミドラスノヴァという国の司法によって殺される。
正直、そんな気はしていた。ここで過剰な反応をするノウトではない。
ノウトが勇者であり、徒人族である限りこの運命は避けられない。
勝手に森人族の国ミドラスノヴァに立ち入ったのならば、こうなるのも分かっていたはずだ。迂回すれば良かった。そう後悔しても過去に戻ることなど不可能だ。
ならば、ここで何を言っても無駄だろう。
「ニコ──俺と一緒にいた仲間はどこにいったんだ?」
「あのがらくたか」
男は不敵に口角を上げた。
「貴様の隣の牢にいるが、もう先は長くないだろうな」
そこまで言って、彼はノウトに背を向ける。
「貴様と同じ空気はなるべく吸いたくはないのでな。せいぜい残り少ない余生を楽しむことだ」
男はそのまま通路の奥の方へと消えて行った。ノウトに処刑を伝えるためだけにやってきたのだろう。
「……ニコ、起きてるか?」
小さな声で、尋ねた。しばらくすると、声が返ってきた。
「……起きてるよ」
声はノウトから見て右側の壁の方から聞こえる。隣の牢だから、当然姿は見えない。
「良かった。無事みたいだな」
「この状況が無事? 冗談だとしたらかなり面白いね。面白すぎて笑い死にそ」
そう言うニコは一切笑っていない。
「生きてるなら無事の範疇に入るさ。死んだらもう、どうにもならない」
「あっそ」
ニコが鼻を鳴らした。
「あのとき、ボクのことを庇わなかったら逃げられたのにもったいないことしたね、ほんと」
「ニコのこと、絶対に放っておけないからそれは出来ないよ」
ノウトは壁に背を預けた。
「それに、仮にニコのことを無視して走り出したとしてもあの手数と実力じゃ逃げるにも逃げられなかったし」
「まぁ、そりゃそうだ」
ノウトは暗くて、影の溢れる通路を見て、目を細めた。
「ニコは仲間だから、そもそも逃げる選択肢はなかったな」
ノウトがそう言うと、ニコは数秒黙ってから、そして口を開いた。
「もう一回聞くけどさ。ボク、ノウトのこと殺そうとしたのにどうしてあの時庇ったりしたの?」
「誰かを庇うのに、理由なんていらないだろ?」
「言ってること、完全に同じじゃん」
「それしか言えないんだから仕方ない」
「じゃあ、ただの自己満足ってこと?」
「端的に言えば、そうなるね」
「ふふ」
ニコは小さく笑った。
「どうして、俺を殺そうとしたのか聞いていいか?」
ノウトが訊くと、ニコがすぐに「うん」と返事をした。
「ボクは、キミの勇者の紋章を奪おうとしてたんだ」
「……まぁ、そんなことだろうと思ったよ」
「案外驚かないんだね」
「いろいろと俺も苦労してるからな」
ノウトの左手甲で微かに煌めく勇者の紋章は不死王テオドールにも狙われていた。
そもそもの話、この紋章が奪えるものなのかはノウトは分からないが、こんなにも狙われているならば着脱可能というか、少なくとも奪うことはできるのだろう。
「それは、いつから計画してたんだ?」
「キミがあのフォビエル森林地帯で倒れてるのを見かけてからだよ」
ノウトは一瞬、呼吸をした。あくまで一瞬だけだ。
「会った時からずっとってことか」
「そゆこと」
「それじゃあ、センドキアから出たいってのも嘘だったのか?」
「九割は嘘だね」
ニコは即答した。つまり、今までのニコの行動のほとんどは、ノウトの持つ勇者の紋章を奪うことだけに注がれたものだったのだ。
「……いろいろと疑問点があるんだが、」ノウトは膝を抱えた。「どうして、もっと早く殺そうとしなかったんだ? 殺って奪うのが目的ならセンドキアにいたときにできたんじゃないか?」
「そこが、今回一番めんどくさかったんだよね」
ニコはひとつ息をついた。
「わざわざキミを連れてあそこまで歩いたのはちゃんとした理由がある」
そこまで言って、隣の牢からがさりと音がした。どうやら、ニコが横になったらしい。
「センドキアに近いところだと『フェイ』に気づかれちゃうらしいんだ」
「フェイ?」
「もう一人の人類の支配者だよ」
「えっと、……ごめん。話が見えないんだけど」
「あー、そっか。ノウトは人間なのに人間のこと知らないんだもんねーって人間でも人間のこと知らないのがほとんどだけど」
ニコは早口でまくし立てるように言った。
「ボクは一人の女神様のもとに仕えているんだ。彼女の命令でボクはノウトの紋章を奪おうとした」
「女神様……」
「聞いたことくらいはあるだろう? 聖なる女神アド様」
「アド様って………」
ノウトは自らの顎を触った。
「人間領で信仰されていたアド教の女神か。でも、驚いた。レーグ半島だけじゃなくてセンドキアでも信仰されてるんだな。地図上ではあんなにも距離が離れているのに」
「そそ。そのアド様」
「その女神が、実際いるってことか?」
「うん。いるよ」
「それで、その人───その女神様が俺の勇者の紋章を奪おうとするためにニコに命令したってことか?」
「要約するとそんな感じ? かな?」
ノウトは目をつむって、眉間を片手で抑えた。
「意味が、よく分からないんだが……。女神アドが勇者を召喚して、その後に女神アドがその勇者である俺を殺そうとした……? 全部の目的が意味不明で、曖昧模糊だ」
「信じられない?」
「いや、信じるよ。ニコの言うことだ」
「即答はスゴいね。今までボク嘘つきまくってたのに」
「だって、今は嘘ついてないだろ?」
「ま、まぁ、そりゃそうだけど」
ニコが軽くうわずりながら頷いた。
「それじゃ、その女神様はどうして俺の紋章を狙ったんだ?」
「さぁ」
「さぁ……ってもしかして目的も知らないで俺のこと殺そうしたのか?」
「まぁね。ボク、アド様のこと大好きだし」
ニコは少し楽しそうにそう言った。今話しているどれもこれも、本当のことだろう。
「……微笑ましい主従関係だな」
ノウトは小さく呟いた。ノウトも魔皇のことが大好きだし、敬ってもいる。
もし、魔皇ヴェロアに誰かを殺せと命令されたら俺はどうするのだろう。
だめだ。そんなこと、考えるべきじゃない。予想することでは無いのは確かだ。思いを消し飛ばすように、かぶりを振った。
「じゃあ、さっきの話に戻るけど、さっき言ってたフェイってのは誰なんだ?」
「ボクも詳しいことは分からないんだけどさ。アド様曰く、『邪魔ばかりする私と同列の存在』らしいよ」
「アドと同列ってことは、フェイってやつも女神なのか?」
「それは、分からないけど、フェイがアド様の敵であることは確かだね」
「女神と敵対関係にあるのか」
「いっつもアド様が『またフェイの仕業ね……』って呟いてため息ついてるから」
「女神様もため息とかつくんだな……」
思ったより人間味があるというかなんというか。
人間味があると言えば、そういえばノウトの剣に宿っていたアヤメも自らのことを〈殺戮〉の女神と言っていた。
つまり、アヤメとニコの言うアドは同系列の何か、ということか。
「それで、とにかくセンドキアの近くで、ノウトを殺しちゃうと、そのフェイってやつににノウトが死んだことがバレちゃうらしくってさ。バレたらアド様からしたらかなーり面倒なことになるっぽいの。それで、ボクはわざわざキミを連れて歩きまくってたってわけ」
「……なるほど」
情報量が多すぎてどうにかなりそうだけど、なんとか理解できた。
「ノウトを殺して紋章を奪ったそのあとはそのままセンドキアに頑張って戻ってミッション完了って感じだね」
「本来は、あそこで俺を倒して帰るつもりだったんだな」
「そーゆうこと。でも、今はこのざま。見事にミッション失敗ってこと」
ニコの姿は見えないが、おそらく今は肩を竦めていることだろう。
「で、このあとはどうするの?」
「正直言えば、八方塞がりだな。今の俺は神技が使えないし、それに使えたとしても俺の神技じゃこの茨の牢屋から抜け出せない」
「お手上げかー」
ニコは棒読みで呟いた。
「そうだ。センドキアから出る時にニコが使ってたやつ、使えないのか?」
「駄目っぽい。矢でやられた時に回路がイカれちゃってる。こりゃアド様に見てもらわないと駄目かなー。でも戻れないしなぁ。ノウトの紋章も奪えなかったし」
そう言って、はぁ~、と大きくため息をついた。
「そう言えば、大事なことを聞き忘れてたけど、ニコ自身は何者なんだ?」
「ボク?」
「女神に仕えてるとかは分かったけど、ニコ本人のことは何も知らないからさ」
言うと、数秒くらい経ってからニコが話を始めた。
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はっきりと、ニコはそう言う。
「見た目は、どう見ても徒人族──人間みたいだけど、違うのか?」
「嬉しいこと言ってくれるね」
「もしかして、大きめの小足族とか?」
「んなわけないじゃん」
ニコは小さく笑う。そして、続きの言葉をその口から紡いだ。
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「熱の、神機って……。それじゃあニコは──」
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