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3. 出会い

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    森にはいつだって木々を揺らす心地よい風に、小川の流れる美しい音色、さらに歌っているような小鳥のさえずりが聞こえていた。

 よくよく考えれば、前の世界でも少し家から歩けば木は立っていたけれど、何も見ちゃいなかった。季節が変わるにつれて、少しずつ葉の色が変わっていること。多くの種類が互いに支え合って生きている。それなのに、日本にいた時は草も邪魔者扱いで、嫌な顔を浮かべて除草剤をまくだけ。辺りのこの雰囲気だけで、感じ方がコロッと変わってしまうのが面白い。そして、懐かしくも、悲しくもあるけど、後悔しても仕方ない。
 
 「さぁ!今日はあの湖の辺りに生えてあったトリカブトもどきを食べよう。極めたはずだけど、ここら辺の中じゃ一番緊張するんだよな~」
 
 そうは言いつつも、俺の足は軽く、どんどん森の奥にある湖のほとりに向かっていた。前に咲いていたトリカブトを発見済みだし、あんな家より一人は気楽で楽しい。トリカブトも季節にしては早いかもしれないが、昔に毒で危険だって言う情報だけを聞いたことがある。もちろん、日本で。あの国で危険とされていたのだから、毒は強いはず。

    ラグリマ王国の毒草ももちろん色々あるが、詳しい本が無いんだよな。でも、この国の毒草を食べたその間は少し熱が出たり、ボーッとしたが大丈夫だった。トリカブトも形と名前だけで詳しくは知らないけれど、大丈夫だと思う。こうやって何度も練習すれば、なんでも直せるような魔法を使えるようになると信じる。

 しばらくして、綺麗な湖が見えた。唯一、一人で食べれる今日の昼ごはんはサンドイッチだった。マントで顔も隠しながらカバンの中に入れてきた。そして、手を洗おうと湖の水に近寄った時だった。

 「なんだ…あれ…」

 近くにあった少し大きな石にぶつかった痕のように赤黒い液体のような何かが付いているのを見つけた。更にそこから何かの動物が去っていったような痕。ずっと赤黒い液体が続いている。

    こんな綺麗な湖に、妙な痕があるのに疑問と少しの不安を感じた。絶対、奥の草陰に何かがいる…。この世界にも怪我をした動物は見たことあるけど、こんな光景は初めてだった。

「行って、みるか…」

      俺はオドオドしながらも静かに、その痕を追った。
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