上 下
4 / 10

4

しおりを挟む
   その痕はずっと奥の膝くらいある草や木の辺りまで続いていた。まるで小さな草木の洞窟みたいで、その中に何かがいるようだったがよく見えない。仕方なく、何かに噛まれないようにそっと草をかき分けて中を見た瞬間、俺は驚き自分の目を疑った。

 「こいつ…まさか…龍ッ!?」

 目の前に倒れているのは、トカゲの様な、でも立派な翼がある…龍を見た。俺が思っていた龍にしてはかなり小さく、鱗にも光沢がないがそれでも綺麗だと思うほどだ。起こさないように、さらにそっと草をかき分けたが、それでも動かない、いや、動けないようだった。翼は片方折れているのが目に見えて分かる。そして何より、後ろ足から血が流れ出していた跡。動けないのを確認して、ガッと草を掻き分ける。そして、はっきりと全体の姿が見えた。翼と後ろ足の他に、擦り傷のような怪我はあらゆるところにあった。更には鉄の首輪のようなものが嵌められている。そこから続くチェーンのような物は多分くいちぎったのか…。

   という事は、伝説と言われている龍を誰かが飼っていた…?古代のこの世界には多くいたと言われているが、万が一、この国では見つけても飼えるのは王族くらいだ、とみんな鼻で笑うだろう。少し考えている間でも、この龍は目を覚まそうともしなかった。

 「生きてる…よな…?」

 あまりに動かないかったから、恐る恐る木の棒で怪我のない右足を軽く突っついた。爪でも鋭く、引っかかれたらかなり痛そう。何度か突っつくが、ビクともしない。目もずっと閉じたままだった。

 「…寝てるだけだよな?それにしても酷い怪我…治せ…いや、治さないと」

 俺は自分の持っていたマントで覆い、取り敢えず魔法をかけやすい湖のほとりに両手でゆっくり抱いて連れていった。まだ片手で持てるほどに軽く、息をするのがやっとの様でしっぽ一つ動かさない。ここまで怪我を負わせる飼い主にイライラする。だから、逃げてきたのか、こいつ。
 
 「よし、今助けてやるからな…ここまでの怪我を治すのは初めてだけど、動くなよ」
 
 俺は大きく息を吸ってから、回復魔法を唱え放った。この怪我の部分がぱぁーっと光り、怪我が癒えると思った時だった。その光りの灯った回復魔法の魔力が龍に付けられている首輪に吸収されるようにして消えていった。その光景に驚いて怪我の後を見ると、俺の使った回復魔法より大幅に回復出来ていなかった。この首輪が俺の回復魔法を邪魔しているんだ。

 「これは厄介だな」

 俺にとっては怪我よりも首輪が一番の問題だった。怪我は治せる。けど、魔力を吸収する首輪が付けられて、それを壊す魔法が俺には出来ないことだった。それが一番大きな壁となってしまった。壊せるくらいの魔法が使えれば、こいつの傷はすぐ癒えるのに…。このままじゃ、俺が処置する以前に死んでいまう。今でこれ程までに衰弱しているのに。
しおりを挟む

処理中です...