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陥落
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「さあ、自分の足で、自分の意志でこちらに来るといい。そうすれば楽にしてあげよう」
勝利を味わう天敵の声を聞きながら、吸血鬼の足はゆっくりと前へ踏み出していた。本来ならば人間を魅了し操る側であるはずの捕食者の足取りは、今や魔術師に完全に操られていた。目の前まで自ら歩み寄り無防備な肢体を差し出す魔物を、魔術師はそっと引き寄せた。導かれるまま吸血鬼は、長椅子に腰掛けた魔術師の上に乗り上げる。
「いい子だ。自分で出来るだろ?」
魔術師が甘い声で耳打ちすると、魔物は顔を伏せた。その耳の先まで染まっている。しかしその手が魔術師の熱へ手を添えると、先端が魔物の下肢の間へ触れた。吸血鬼は荒く上下する肩を隠そうともせず、それでも魔眼だけは挑むように細め、低く吐き捨てた。
「……魔物と交わった魔術師か……はっ、それで堕ちるのは……君の名だ」
「その程度で堕ちる名なら未練もない。君の噂を聞いてから、どんなに待ち望んだか。愚かにも私の蜘蛛の巣にコウモリが迷い込むのを。……どれだけでも待つつもりだったが、こんなに早いなんて嬉しい誤算だ」
魔術師の両手が吸血鬼の頬をふわりと包み込んだ。熱のこもった碧眼に間近で捕らえられ、吸血鬼の喉がひくりと震えた。
「……逃げられるなどともう思わないことだ」
低い囁きが頬を掠め、吐息の温もりが吸血鬼の耳朶を撫でる。声もなく身震いする魔物の唇を、魔術師の親指がそっと押し開くと、ゆっくりと鋭利な牙を撫でる。ぎょっとしたように動きを止める牙の主に構わず、魔術師の指は鋭い先端までなぞると、その切っ先へ指の腹を押し付けた。
「っ……」
血の匂いに、魔術師を見据えていた瞳孔が広がる。容易く裂けた皮膚から溢れる血が飢えた舌へ擦りつけられると、飢えた魔物の白い喉はすぐさま上下した。
「それでいい。いい子だ」
まるで魔術師が与えただけの血が巡っているかのように吸血鬼の舌には温度が宿っている。温い舌が従順に指に絡みついてくるのを感じながら、魔術師はもう片方の手を下へ滑らせた。促すように腰骨を撫でると、意図を察したように魔物の背筋が強張る。濁った魔眼は床へ視線を落とした。呼吸が浅くなり、膝に入っていた力がじわじわと抜けていく。一瞬の躊躇の後、吸血鬼は重心を落とし、自ら腰を沈めた。
「ッ……く……ぁ……」
掠れた吐息は言葉にならず、反らした喉の奥で震えた。魔術師の目が細められ、口角が緩む。
「いい響きだ。まるで誇りの断末魔のようじゃないか」
囁きとともに、腰を支える魔術師の手がゆっくりと押し下げる。熱が触れ合う。僅かな抵抗をなぞるように押し込むと、柔らかな奥が開かれ魔術師を迎え入れた。
「……っ……ぁ……」
吸血鬼の背筋が反り、指先が魔術師の衣を掴む。深く繋がった感覚を確かめるように、魔術師は吸血鬼の腰を片手でやんわりと押さえた。
「……震えてる。怖いのか、それとも……」
腰をなぞる親指がわずかに力を込め、ゆっくりと引き上げる。結合がきゅうっと締まり、甘く抵抗する。
「……っ、やめ……」
抜け切る前に再び押し下げられ、奥まで沈められる。そのたびに入り口が吸い付き、奥で熱が脈打つ。ゆるやかな上下が何度も繰り返されるうち、吸血鬼の肩が細かく震え、伏せた長い睫毛が濡れる。
「声を聞かせてくれ。……さっきまで牙を向けていた口から、どんな声が出る?」
「っ……は……ぁ……」
声にもならぬ弱々しい吐息を、魔術師は満足げに受け止め、さらに腰を押し下げる。狭く柔らかな肉を押し広く感触を、奥を押し上げられ悶える美しい肢体を魔術師は堪能した。深く繋がったまま、魔術師はその首裏を捕らえて引き寄せる。
「っ、んっ……んん」
荒く呼吸をする魔物の口を、魔術師は口で塞いだ。口蓋を愛撫し、奥で縮こまった舌に絡ませる。深い口付けを繰り返せば、熱を帯びた舌が、とうとう応じるように動いた。腰を掴んでいた魔術師の掌が、その背を慰撫すると魔物の抵抗心の崩壊を示すように、その身体から力が抜ける。涙の滲んだ魔眼に、魔術師は微笑みかけた。
「ほら、自分で動いてごらん」
甘く囁かれ、吸血鬼は自ら腰を浮かした。ずるずると体内から這い出す魔術師の熱を感じながら、再び腰を下ろす。晒された白い喉から漏れるのは、苦痛の呻きではなく蕩けた吐息だった。
「ぁ、っん……ぅ、くっ……」
「上手だ。心地良いよ」
魔術師の声に陶然とした響きが混じる。伏せていた吸血鬼の目がちらりと魔術師を盗み見た。
「は、……魔物と交わった感想がそれとは……」
「魔物も人も変わらないだろう? こうしてしまえば」
「っ……ん、ぅ……」
「冷血と知られる吸血鬼でさえこんなに温かくなる」
魔物は何かを言いたげに魔術師を見たが、それが言葉になることなかった。代わりにその口から漏れたのは嬌声だった。魔術師の手が魔物の腰を揺らすと、再びゆるゆると上下に動き始める。繰り返し飲み込まれ、柔らかな内壁にきつく締め付ける感触に魔術師は微かに息を乱した。
「もっと奥まで、出来るだろう?」
「……ぁ、なに、を……」
魔術師は獲物の腰を掴むと、下へ押し下げて揺らした。すでに深々と貫かれていた吸血鬼は、奥を執拗に嬲られ、その目に涙を浮かべる。逃れようとした腰は魔術師の手に押さえつけられる。魔術師はなおも閉じた奥をノックでもするように突いた。
「……や、やめ……」
「ほら、大丈夫だから力を抜いて、息を吐いて」
首を振る吸血鬼に口付けて、魔術師は宣告のように命じた。魔術師の手が何度もその背を慰撫すると、憐れな捕虜の身体が弛緩する。その腹の奥、僅かに緩んだそこを魔術師は容赦なく抉じ開けた。
「っ…、ぁ、あぁっ!」
濡れた悲鳴が部屋に響いた。入られてはいけない場所をも蹂躙され、吸血鬼の爪が魔術師の服を縋るように掴む。魔術師は何度も戦慄くように震え引き絞られる腸壁の感触を味わいながら、小刻みに掴んだ腰を揺らした。魔物の美しい肢体はされるがままに揺さぶられ、征服者に柔らかく潤んだ肉で奉仕を返す。
「ああ、本当に吸血鬼の身体は頑丈だ」
魔術師は突き上げる動きを止めずに魔眼を覗き込んだ。涙に濡れ、血の酔いに濁りながらもその目は魔術師を見詰め返す。
「ここまでされても正気を保っているなんて。なんて、強靭で、憐れな生き物だ。いっそ狂えたらどんなに楽だろうと、君も本心では思っているのだろう?」
「っ……どちらにせよ……、君の手の内だ……」
「ああ、よく分かっているね。ならどう振る舞うべきかもわかるだろう」
魔術師が声音だけは甘く囁く。奥深くまで貫かれたままの吸血鬼の両腕が持ち上がり、魔術師の首に伸びた。情人にするかのように首の後ろに回し引き寄せ、吸血鬼は身を擦り寄せた。
「もっと……くれ……」
「いいね。もっと甘く、嘘くさく」
「悪趣味な。……君が欲しい、どうか僕の中に……」
「続けて」
魔術師は唇に抑えきれぬ笑みを浮かべて、動きを止めていた吸血鬼の腰を促すように撫でた。蔦に纏わりつかれた魔物の身体がゆっくりと揺れる。魔術師の熱がその身から引き出されては、再び腰を下ろす魔物の中へ飲み込まれていく。
「っ、ぁ……な、……中に、君を注いで……」
「私の目を見て」
震える声で紡がれた懇願を味わいながら、魔術師はその頬を手の平で包んだ。同時に奥を突き上げられ、魔術師を見詰める魔眼からほろりと一粒涙がこぼれ落ちる。
「お願いだ……君で満たしてくれ」
「上出来だ」
魔術師は口づけを落とした。迎えるように動く熱い舌を吸いながら、同時に力を失った魔物の身体を深く貫く。
「っ、ん、……ぁ、んんっ……!」
一際強く引き寄せられ吸血鬼は魔術師の背に爪を立てた。奥でとろりとした熱が広がり魔物は人間に縋り付いていた。その耳元に魔術師は低く溜息をついた。魔術師の細い指先が労わるように吸血鬼の濡れた頬を拭った。
「よくできた。君の中は本当に心地いい。……吸血鬼にこんなに温かくて柔らかい箇所があったなんてね」
「……これで、満足か……」
「そうだ……と言いたいところだが」
魔術師は言葉を切り、貫いたままの魔物の背を掌で撫でてから、ゆっくりと引き抜いた。その手が魔物の肩をそっと押す。抵抗らしい抵抗はなかった。長椅子の上、乱れた敷布《リネン》を背に吸血鬼は転がった。最早自らの運命を受け入れたような目で魔物は覆いかぶさる無言の魔術師を目で追うだけだった。その肌を飾る蔦や葉は、まるで魔術師のために捧げられる供物の装束のようだ。
「……そうか……好きにするといい」
再び与えられる口付けに吸血鬼は目を閉じた。次の瞬間、再び足を割いて熱が突き立てられる。先程まで魔術師を咥えていたそこは、呆気なく綻び、押し入る質量を従順に抱き込んだ。最早悲鳴とは呼べない甘い嬌声が反らした白い喉を震わせる。
「ッ……、ぁっ、んぅ……」
「ああ、本当に堪らない……」
溢れる微かな呟きからは、観察者の仮面が剥がれかけ、貪欲な男の顔が覗いていた。揺さぶられながら吸血鬼は魔術師の目をちらりと見た。冷涼さを残した碧眼の奥に燻る多幸感を見て取り、吸血鬼は口にしようとしていた揶揄の言葉を見失った。そんな魔物の白い喉を魔術師の指先がなぞった。
「1度で手放すには惜しいな。……ねえ、狩られる側になった気分はどうだい?」
魔物の返答を待たずに、魔術師はその首筋に顔を寄せた。人間の温い吐息が喉元にかかると、吸血鬼の身体がぴくりと反応する。それを読み取りながらも、魔術師は浅いところで抽挿を繰り返した。
「は、ッ……ぁん、くっ……」
「ここに私が歯を立てたらどうなる?」
「ッ……ぅ、やめ、ぁっ……」
「君の同族が知ったらなんと言うだろう? 羊に噛まれた狼なんて。合わせる顔がなくなってしまうんじゃないかね」
逃れるように身じろいだ魔物を、咎めるように魔術師は上から貫いた。そのまま水音を立てて柔い腸壁を捏ねれば、吸血鬼は動きを止め、投げ出した爪先を震わせた。その首筋に口付け、魔術師は優しい声音で続けた。
「可哀想に。私の使い魔にして、可愛がってあげよう。想像してごらん。牙も理性も棄て、私の血を乞い、私の望みで動き、私の呪文で眠る。……二度と飢えることも、追われることもない」
呪文のような囁きに、ひくりと晒された白い喉が動く。固く閉じた吸血鬼の口の代わりに答えるように、内壁はきつく締まり魔術師を抱擁した。その感触を堪能し、魔術師は目を細める。
「これを呪いと呼ぶか、救済と呼ぶかは君が決めることだが……どうやら君の答えはもう出ているらしい」
「違、……身体が勝手に……!」
「では身体に答えてやるとしよう」
魔術師はなおも言葉を紡ごうとする吸血鬼の後頭部を掌で支えると、その首へ歯を立てた。
「……ぁ、ッ、──ッ!」
人の歯では魔物の肌を食い破ることはない。魔術師は戯れのように甘く歯を押し立てただけだった。しかし、それは十分に捕食者の矜持を踏み躙り、立場と認識を塗り替えるに足るものだった。切歯の下で首筋の筋が張り詰めると同時に、咥え込んだ熱を引き絞り、吸い付き、奥へと引き込む。
「……ぁあ……」
自身で招き入れた奥へ惜しみなく注がれる迸りを、魔物はただ飲み込んだ。その様はまるで自身の身でもって、契約に署名するようだった。腹の底で時折脈打ち、征服の証を上塗りされるのを感じながら、なおも魔術師を離すまいと吸血鬼の内壁は締め付ける。涙を湛えて呆然と無防備に見上げる魔眼を、魔術師は口付けで閉ざした。
「……大丈夫、いい子だ。もう何も考えなくていい。君はもう私の可愛い使い魔なのだから、私の温室で、私の声だけを信じ、私の言葉だけに殉じればいい」
圧しかかる人間の身体の下で、吸血鬼の身体は何度か跳ねた後に柔らかく弛緩した。その肌の上を無数の植物が覆っていく。細い蔦が青白い血管に沿って這い、瑞々しい葉がぐったりした肢体を彩る。まるで巨大な存在が一匹の降伏した魔物を飲み込むようだった。見守る魔術師は微笑みながら、今度はその額に口付けた。その唇には白旗を撫でるような微かな震えがあった。
勝利を味わう天敵の声を聞きながら、吸血鬼の足はゆっくりと前へ踏み出していた。本来ならば人間を魅了し操る側であるはずの捕食者の足取りは、今や魔術師に完全に操られていた。目の前まで自ら歩み寄り無防備な肢体を差し出す魔物を、魔術師はそっと引き寄せた。導かれるまま吸血鬼は、長椅子に腰掛けた魔術師の上に乗り上げる。
「いい子だ。自分で出来るだろ?」
魔術師が甘い声で耳打ちすると、魔物は顔を伏せた。その耳の先まで染まっている。しかしその手が魔術師の熱へ手を添えると、先端が魔物の下肢の間へ触れた。吸血鬼は荒く上下する肩を隠そうともせず、それでも魔眼だけは挑むように細め、低く吐き捨てた。
「……魔物と交わった魔術師か……はっ、それで堕ちるのは……君の名だ」
「その程度で堕ちる名なら未練もない。君の噂を聞いてから、どんなに待ち望んだか。愚かにも私の蜘蛛の巣にコウモリが迷い込むのを。……どれだけでも待つつもりだったが、こんなに早いなんて嬉しい誤算だ」
魔術師の両手が吸血鬼の頬をふわりと包み込んだ。熱のこもった碧眼に間近で捕らえられ、吸血鬼の喉がひくりと震えた。
「……逃げられるなどともう思わないことだ」
低い囁きが頬を掠め、吐息の温もりが吸血鬼の耳朶を撫でる。声もなく身震いする魔物の唇を、魔術師の親指がそっと押し開くと、ゆっくりと鋭利な牙を撫でる。ぎょっとしたように動きを止める牙の主に構わず、魔術師の指は鋭い先端までなぞると、その切っ先へ指の腹を押し付けた。
「っ……」
血の匂いに、魔術師を見据えていた瞳孔が広がる。容易く裂けた皮膚から溢れる血が飢えた舌へ擦りつけられると、飢えた魔物の白い喉はすぐさま上下した。
「それでいい。いい子だ」
まるで魔術師が与えただけの血が巡っているかのように吸血鬼の舌には温度が宿っている。温い舌が従順に指に絡みついてくるのを感じながら、魔術師はもう片方の手を下へ滑らせた。促すように腰骨を撫でると、意図を察したように魔物の背筋が強張る。濁った魔眼は床へ視線を落とした。呼吸が浅くなり、膝に入っていた力がじわじわと抜けていく。一瞬の躊躇の後、吸血鬼は重心を落とし、自ら腰を沈めた。
「ッ……く……ぁ……」
掠れた吐息は言葉にならず、反らした喉の奥で震えた。魔術師の目が細められ、口角が緩む。
「いい響きだ。まるで誇りの断末魔のようじゃないか」
囁きとともに、腰を支える魔術師の手がゆっくりと押し下げる。熱が触れ合う。僅かな抵抗をなぞるように押し込むと、柔らかな奥が開かれ魔術師を迎え入れた。
「……っ……ぁ……」
吸血鬼の背筋が反り、指先が魔術師の衣を掴む。深く繋がった感覚を確かめるように、魔術師は吸血鬼の腰を片手でやんわりと押さえた。
「……震えてる。怖いのか、それとも……」
腰をなぞる親指がわずかに力を込め、ゆっくりと引き上げる。結合がきゅうっと締まり、甘く抵抗する。
「……っ、やめ……」
抜け切る前に再び押し下げられ、奥まで沈められる。そのたびに入り口が吸い付き、奥で熱が脈打つ。ゆるやかな上下が何度も繰り返されるうち、吸血鬼の肩が細かく震え、伏せた長い睫毛が濡れる。
「声を聞かせてくれ。……さっきまで牙を向けていた口から、どんな声が出る?」
「っ……は……ぁ……」
声にもならぬ弱々しい吐息を、魔術師は満足げに受け止め、さらに腰を押し下げる。狭く柔らかな肉を押し広く感触を、奥を押し上げられ悶える美しい肢体を魔術師は堪能した。深く繋がったまま、魔術師はその首裏を捕らえて引き寄せる。
「っ、んっ……んん」
荒く呼吸をする魔物の口を、魔術師は口で塞いだ。口蓋を愛撫し、奥で縮こまった舌に絡ませる。深い口付けを繰り返せば、熱を帯びた舌が、とうとう応じるように動いた。腰を掴んでいた魔術師の掌が、その背を慰撫すると魔物の抵抗心の崩壊を示すように、その身体から力が抜ける。涙の滲んだ魔眼に、魔術師は微笑みかけた。
「ほら、自分で動いてごらん」
甘く囁かれ、吸血鬼は自ら腰を浮かした。ずるずると体内から這い出す魔術師の熱を感じながら、再び腰を下ろす。晒された白い喉から漏れるのは、苦痛の呻きではなく蕩けた吐息だった。
「ぁ、っん……ぅ、くっ……」
「上手だ。心地良いよ」
魔術師の声に陶然とした響きが混じる。伏せていた吸血鬼の目がちらりと魔術師を盗み見た。
「は、……魔物と交わった感想がそれとは……」
「魔物も人も変わらないだろう? こうしてしまえば」
「っ……ん、ぅ……」
「冷血と知られる吸血鬼でさえこんなに温かくなる」
魔物は何かを言いたげに魔術師を見たが、それが言葉になることなかった。代わりにその口から漏れたのは嬌声だった。魔術師の手が魔物の腰を揺らすと、再びゆるゆると上下に動き始める。繰り返し飲み込まれ、柔らかな内壁にきつく締め付ける感触に魔術師は微かに息を乱した。
「もっと奥まで、出来るだろう?」
「……ぁ、なに、を……」
魔術師は獲物の腰を掴むと、下へ押し下げて揺らした。すでに深々と貫かれていた吸血鬼は、奥を執拗に嬲られ、その目に涙を浮かべる。逃れようとした腰は魔術師の手に押さえつけられる。魔術師はなおも閉じた奥をノックでもするように突いた。
「……や、やめ……」
「ほら、大丈夫だから力を抜いて、息を吐いて」
首を振る吸血鬼に口付けて、魔術師は宣告のように命じた。魔術師の手が何度もその背を慰撫すると、憐れな捕虜の身体が弛緩する。その腹の奥、僅かに緩んだそこを魔術師は容赦なく抉じ開けた。
「っ…、ぁ、あぁっ!」
濡れた悲鳴が部屋に響いた。入られてはいけない場所をも蹂躙され、吸血鬼の爪が魔術師の服を縋るように掴む。魔術師は何度も戦慄くように震え引き絞られる腸壁の感触を味わいながら、小刻みに掴んだ腰を揺らした。魔物の美しい肢体はされるがままに揺さぶられ、征服者に柔らかく潤んだ肉で奉仕を返す。
「ああ、本当に吸血鬼の身体は頑丈だ」
魔術師は突き上げる動きを止めずに魔眼を覗き込んだ。涙に濡れ、血の酔いに濁りながらもその目は魔術師を見詰め返す。
「ここまでされても正気を保っているなんて。なんて、強靭で、憐れな生き物だ。いっそ狂えたらどんなに楽だろうと、君も本心では思っているのだろう?」
「っ……どちらにせよ……、君の手の内だ……」
「ああ、よく分かっているね。ならどう振る舞うべきかもわかるだろう」
魔術師が声音だけは甘く囁く。奥深くまで貫かれたままの吸血鬼の両腕が持ち上がり、魔術師の首に伸びた。情人にするかのように首の後ろに回し引き寄せ、吸血鬼は身を擦り寄せた。
「もっと……くれ……」
「いいね。もっと甘く、嘘くさく」
「悪趣味な。……君が欲しい、どうか僕の中に……」
「続けて」
魔術師は唇に抑えきれぬ笑みを浮かべて、動きを止めていた吸血鬼の腰を促すように撫でた。蔦に纏わりつかれた魔物の身体がゆっくりと揺れる。魔術師の熱がその身から引き出されては、再び腰を下ろす魔物の中へ飲み込まれていく。
「っ、ぁ……な、……中に、君を注いで……」
「私の目を見て」
震える声で紡がれた懇願を味わいながら、魔術師はその頬を手の平で包んだ。同時に奥を突き上げられ、魔術師を見詰める魔眼からほろりと一粒涙がこぼれ落ちる。
「お願いだ……君で満たしてくれ」
「上出来だ」
魔術師は口づけを落とした。迎えるように動く熱い舌を吸いながら、同時に力を失った魔物の身体を深く貫く。
「っ、ん、……ぁ、んんっ……!」
一際強く引き寄せられ吸血鬼は魔術師の背に爪を立てた。奥でとろりとした熱が広がり魔物は人間に縋り付いていた。その耳元に魔術師は低く溜息をついた。魔術師の細い指先が労わるように吸血鬼の濡れた頬を拭った。
「よくできた。君の中は本当に心地いい。……吸血鬼にこんなに温かくて柔らかい箇所があったなんてね」
「……これで、満足か……」
「そうだ……と言いたいところだが」
魔術師は言葉を切り、貫いたままの魔物の背を掌で撫でてから、ゆっくりと引き抜いた。その手が魔物の肩をそっと押す。抵抗らしい抵抗はなかった。長椅子の上、乱れた敷布《リネン》を背に吸血鬼は転がった。最早自らの運命を受け入れたような目で魔物は覆いかぶさる無言の魔術師を目で追うだけだった。その肌を飾る蔦や葉は、まるで魔術師のために捧げられる供物の装束のようだ。
「……そうか……好きにするといい」
再び与えられる口付けに吸血鬼は目を閉じた。次の瞬間、再び足を割いて熱が突き立てられる。先程まで魔術師を咥えていたそこは、呆気なく綻び、押し入る質量を従順に抱き込んだ。最早悲鳴とは呼べない甘い嬌声が反らした白い喉を震わせる。
「ッ……、ぁっ、んぅ……」
「ああ、本当に堪らない……」
溢れる微かな呟きからは、観察者の仮面が剥がれかけ、貪欲な男の顔が覗いていた。揺さぶられながら吸血鬼は魔術師の目をちらりと見た。冷涼さを残した碧眼の奥に燻る多幸感を見て取り、吸血鬼は口にしようとしていた揶揄の言葉を見失った。そんな魔物の白い喉を魔術師の指先がなぞった。
「1度で手放すには惜しいな。……ねえ、狩られる側になった気分はどうだい?」
魔物の返答を待たずに、魔術師はその首筋に顔を寄せた。人間の温い吐息が喉元にかかると、吸血鬼の身体がぴくりと反応する。それを読み取りながらも、魔術師は浅いところで抽挿を繰り返した。
「は、ッ……ぁん、くっ……」
「ここに私が歯を立てたらどうなる?」
「ッ……ぅ、やめ、ぁっ……」
「君の同族が知ったらなんと言うだろう? 羊に噛まれた狼なんて。合わせる顔がなくなってしまうんじゃないかね」
逃れるように身じろいだ魔物を、咎めるように魔術師は上から貫いた。そのまま水音を立てて柔い腸壁を捏ねれば、吸血鬼は動きを止め、投げ出した爪先を震わせた。その首筋に口付け、魔術師は優しい声音で続けた。
「可哀想に。私の使い魔にして、可愛がってあげよう。想像してごらん。牙も理性も棄て、私の血を乞い、私の望みで動き、私の呪文で眠る。……二度と飢えることも、追われることもない」
呪文のような囁きに、ひくりと晒された白い喉が動く。固く閉じた吸血鬼の口の代わりに答えるように、内壁はきつく締まり魔術師を抱擁した。その感触を堪能し、魔術師は目を細める。
「これを呪いと呼ぶか、救済と呼ぶかは君が決めることだが……どうやら君の答えはもう出ているらしい」
「違、……身体が勝手に……!」
「では身体に答えてやるとしよう」
魔術師はなおも言葉を紡ごうとする吸血鬼の後頭部を掌で支えると、その首へ歯を立てた。
「……ぁ、ッ、──ッ!」
人の歯では魔物の肌を食い破ることはない。魔術師は戯れのように甘く歯を押し立てただけだった。しかし、それは十分に捕食者の矜持を踏み躙り、立場と認識を塗り替えるに足るものだった。切歯の下で首筋の筋が張り詰めると同時に、咥え込んだ熱を引き絞り、吸い付き、奥へと引き込む。
「……ぁあ……」
自身で招き入れた奥へ惜しみなく注がれる迸りを、魔物はただ飲み込んだ。その様はまるで自身の身でもって、契約に署名するようだった。腹の底で時折脈打ち、征服の証を上塗りされるのを感じながら、なおも魔術師を離すまいと吸血鬼の内壁は締め付ける。涙を湛えて呆然と無防備に見上げる魔眼を、魔術師は口付けで閉ざした。
「……大丈夫、いい子だ。もう何も考えなくていい。君はもう私の可愛い使い魔なのだから、私の温室で、私の声だけを信じ、私の言葉だけに殉じればいい」
圧しかかる人間の身体の下で、吸血鬼の身体は何度か跳ねた後に柔らかく弛緩した。その肌の上を無数の植物が覆っていく。細い蔦が青白い血管に沿って這い、瑞々しい葉がぐったりした肢体を彩る。まるで巨大な存在が一匹の降伏した魔物を飲み込むようだった。見守る魔術師は微笑みながら、今度はその額に口付けた。その唇には白旗を撫でるような微かな震えがあった。
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