99 / 106
八冊目 黄金色のクリスマスキャロル
……⑦
しおりを挟む
(…………あ……)
イルミネーションがキャラメル色の髪をさらに黄金の鮮やかな色彩に染めていく。その身体の境界線がぼやける視界に映る表情は、病院で一人寂しそうに座っていた時のものと同じだった。
それはまるで天空から金色のシャワーを浴びて祝福を受けた天使のような、まるでもう、生きた人間ではないような。ガラス細工のように脆く儚いその姿に勝行の心臓がどくん、と波打った。
光は掴めそうで掴めない黄金色のひかりを、持って帰りたそうに手のひらへと包み込んで目を閉じた。温度も何も感じないその灯に、何を求めているのだろうか。
「光……あのさ」
ひどく悲しそうな顔をして振り返った光は、勝行の「帰ろう」の言葉がもう一度くると予想していたようだ。
まだ帰りたくない。
そんな光の冷たく蒼白い唇に、勝行はそっと親指を重ねた。
「……冷える。よ」
「…………」
わずか十センチしかない距離の中で、その指に視線を落した光の唇が少しだけ動く。
「…………あっためて」
その言葉と仕草に、鈍感な勝行もやっと気づいた。
キスを欲しがる光の、本当の理由。それはただの我儘ではなく――。
(そうだ。お前は独りぼっちが苦手で。なのに家族みんなに置いて行かれて。誰もいない寂しい部屋で、泣きながら誰かを待ってた……)
暖かそうな灯をどんなにかき集めても、そこに彼を癒せるものはない。
勝行は冷え切った光の身体を抱き寄せ、その柔らかい膨らみを啄みゆっくり包み込んだ。お互いの息が頬にかかり、白い水蒸気の粒となってほわりとイルミネーションの中へ溶け込んでいく。
ふにゃ、と嬉しそうな笑みを零した光が、まだもうちょっとと言わんばかりに唇を押し付け、勝行のコートの裾を摘まんだ。
欲しかったものをもらえた彼のそれは、幸せに満ちた表情に見えた。
いつの間にか、日付変更線を跨いでいたらしい。ふいに暗くなったかと思いきや、優しい音楽が鳴り響き始め、再びイルミネーションが全灯する。
周囲でメリークリスマス、と誰かが叫んだ。
キラキラの冠飾りを頭上にまとったまま、光は離れたばかりの勝行の唇を名残惜しそうに見つめてきた。
「……欲しかったものは、これで我慢してくれる?」
もうこれ以上こんなところでキスしたくない。それより早くお持ち帰りして今すぐ抱きつぶしたい――そんな欲望に駆られた勝行は思わず頬を真っ赤に染め、ふいと視線を逸らした。
「じゃあ、家帰ったらもっかいしてくれんの?」
「うっ……か、片岡さんが帰ってきてなかったらね」
「追い出せば?」
「ひどいな、この寒空の下外にいろって言えと?」
「うん。約束な」
光は笑いながらそう言うと、コートを離して解放する。するりと抜けた腕の向こう側で、電球色のイルミネーションが街中に流れるメロディにあわせて不規則に点滅していた。きっと0時に合わせて始まる粋なパフォーマンスだろう。
「もういいか? 終電になる前に電車に乗らないと」
「ああ」
「……それ、持って帰れなくても?」
光が掌へと懸命にため込んでいた黄金色の淡く儚い輝光《ひかり》。
それが一体何を意味していたのか、勝行にも正確には分からない。ただ、もういいと言って首を振った光の視線は、さっきのように悲しげではなかった。
笑顔で振り返った光はすっかり吹っ切れたのか、「帰ろう」と手を伸ばす。
その手を取ったとき、勝行の心に少しだけ、光の想いが流れ込んできたような気がした。甘えん坊な義弟の手のひらを思いっきり握りしめ、勝行は毒づいた。
「男同士で手繋いで歩くなんて、不毛だよ」
「お前、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。いちいち文句うるせえな」
「文句じゃないよ、恥ずかしいんだよ」
「デートって言うからには恋人役ちゃんとやれよな」
「そうだったね」
苦笑しながら、勝行は光にぴたりと寄り添った。手を繋いでいるその姿を、そっとコートのポケットに隠しておこうと思って。
イルミネーションがキャラメル色の髪をさらに黄金の鮮やかな色彩に染めていく。その身体の境界線がぼやける視界に映る表情は、病院で一人寂しそうに座っていた時のものと同じだった。
それはまるで天空から金色のシャワーを浴びて祝福を受けた天使のような、まるでもう、生きた人間ではないような。ガラス細工のように脆く儚いその姿に勝行の心臓がどくん、と波打った。
光は掴めそうで掴めない黄金色のひかりを、持って帰りたそうに手のひらへと包み込んで目を閉じた。温度も何も感じないその灯に、何を求めているのだろうか。
「光……あのさ」
ひどく悲しそうな顔をして振り返った光は、勝行の「帰ろう」の言葉がもう一度くると予想していたようだ。
まだ帰りたくない。
そんな光の冷たく蒼白い唇に、勝行はそっと親指を重ねた。
「……冷える。よ」
「…………」
わずか十センチしかない距離の中で、その指に視線を落した光の唇が少しだけ動く。
「…………あっためて」
その言葉と仕草に、鈍感な勝行もやっと気づいた。
キスを欲しがる光の、本当の理由。それはただの我儘ではなく――。
(そうだ。お前は独りぼっちが苦手で。なのに家族みんなに置いて行かれて。誰もいない寂しい部屋で、泣きながら誰かを待ってた……)
暖かそうな灯をどんなにかき集めても、そこに彼を癒せるものはない。
勝行は冷え切った光の身体を抱き寄せ、その柔らかい膨らみを啄みゆっくり包み込んだ。お互いの息が頬にかかり、白い水蒸気の粒となってほわりとイルミネーションの中へ溶け込んでいく。
ふにゃ、と嬉しそうな笑みを零した光が、まだもうちょっとと言わんばかりに唇を押し付け、勝行のコートの裾を摘まんだ。
欲しかったものをもらえた彼のそれは、幸せに満ちた表情に見えた。
いつの間にか、日付変更線を跨いでいたらしい。ふいに暗くなったかと思いきや、優しい音楽が鳴り響き始め、再びイルミネーションが全灯する。
周囲でメリークリスマス、と誰かが叫んだ。
キラキラの冠飾りを頭上にまとったまま、光は離れたばかりの勝行の唇を名残惜しそうに見つめてきた。
「……欲しかったものは、これで我慢してくれる?」
もうこれ以上こんなところでキスしたくない。それより早くお持ち帰りして今すぐ抱きつぶしたい――そんな欲望に駆られた勝行は思わず頬を真っ赤に染め、ふいと視線を逸らした。
「じゃあ、家帰ったらもっかいしてくれんの?」
「うっ……か、片岡さんが帰ってきてなかったらね」
「追い出せば?」
「ひどいな、この寒空の下外にいろって言えと?」
「うん。約束な」
光は笑いながらそう言うと、コートを離して解放する。するりと抜けた腕の向こう側で、電球色のイルミネーションが街中に流れるメロディにあわせて不規則に点滅していた。きっと0時に合わせて始まる粋なパフォーマンスだろう。
「もういいか? 終電になる前に電車に乗らないと」
「ああ」
「……それ、持って帰れなくても?」
光が掌へと懸命にため込んでいた黄金色の淡く儚い輝光《ひかり》。
それが一体何を意味していたのか、勝行にも正確には分からない。ただ、もういいと言って首を振った光の視線は、さっきのように悲しげではなかった。
笑顔で振り返った光はすっかり吹っ切れたのか、「帰ろう」と手を伸ばす。
その手を取ったとき、勝行の心に少しだけ、光の想いが流れ込んできたような気がした。甘えん坊な義弟の手のひらを思いっきり握りしめ、勝行は毒づいた。
「男同士で手繋いで歩くなんて、不毛だよ」
「お前、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。いちいち文句うるせえな」
「文句じゃないよ、恥ずかしいんだよ」
「デートって言うからには恋人役ちゃんとやれよな」
「そうだったね」
苦笑しながら、勝行は光にぴたりと寄り添った。手を繋いでいるその姿を、そっとコートのポケットに隠しておこうと思って。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
マネージャー~お前を甲子園に連れて行ったら……野球部のエース♥マネージャー
夏目碧央
BL
強豪校の野球部に入った相沢瀬那は、ベンチ入りを目指し、とにかくガッツを認めてもらおうと、グランド整備やボール磨きを頑張った。しかし、その結果は「マネージャーにならないか?」という監督からの言葉。瀬那は葛藤の末、マネージャーに転身する。
一方、才能溢れるピッチャーの戸田遼悠。瀬那は遼悠の才能を羨ましく思っていたが、マネージャーとして関わる内に、遼悠が文字通り血のにじむような努力をしている事を知る。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる