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八冊目 黄金色のクリスマスキャロル
……⑦
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(…………あ……)
イルミネーションがキャラメル色の髪をさらに黄金の鮮やかな色彩に染めていく。その身体の境界線がぼやける視界に映る表情は、病院で一人寂しそうに座っていた時のものと同じだった。
それはまるで天空から金色のシャワーを浴びて祝福を受けた天使のような、まるでもう、生きた人間ではないような。ガラス細工のように脆く儚いその姿に勝行の心臓がどくん、と波打った。
光は掴めそうで掴めない黄金色のひかりを、持って帰りたそうに手のひらへと包み込んで目を閉じた。温度も何も感じないその灯に、何を求めているのだろうか。
「光……あのさ」
ひどく悲しそうな顔をして振り返った光は、勝行の「帰ろう」の言葉がもう一度くると予想していたようだ。
まだ帰りたくない。
そんな光の冷たく蒼白い唇に、勝行はそっと親指を重ねた。
「……冷える。よ」
「…………」
わずか十センチしかない距離の中で、その指に視線を落した光の唇が少しだけ動く。
「…………あっためて」
その言葉と仕草に、鈍感な勝行もやっと気づいた。
キスを欲しがる光の、本当の理由。それはただの我儘ではなく――。
(そうだ。お前は独りぼっちが苦手で。なのに家族みんなに置いて行かれて。誰もいない寂しい部屋で、泣きながら誰かを待ってた……)
暖かそうな灯をどんなにかき集めても、そこに彼を癒せるものはない。
勝行は冷え切った光の身体を抱き寄せ、その柔らかい膨らみを啄みゆっくり包み込んだ。お互いの息が頬にかかり、白い水蒸気の粒となってほわりとイルミネーションの中へ溶け込んでいく。
ふにゃ、と嬉しそうな笑みを零した光が、まだもうちょっとと言わんばかりに唇を押し付け、勝行のコートの裾を摘まんだ。
欲しかったものをもらえた彼のそれは、幸せに満ちた表情に見えた。
いつの間にか、日付変更線を跨いでいたらしい。ふいに暗くなったかと思いきや、優しい音楽が鳴り響き始め、再びイルミネーションが全灯する。
周囲でメリークリスマス、と誰かが叫んだ。
キラキラの冠飾りを頭上にまとったまま、光は離れたばかりの勝行の唇を名残惜しそうに見つめてきた。
「……欲しかったものは、これで我慢してくれる?」
もうこれ以上こんなところでキスしたくない。それより早くお持ち帰りして今すぐ抱きつぶしたい――そんな欲望に駆られた勝行は思わず頬を真っ赤に染め、ふいと視線を逸らした。
「じゃあ、家帰ったらもっかいしてくれんの?」
「うっ……か、片岡さんが帰ってきてなかったらね」
「追い出せば?」
「ひどいな、この寒空の下外にいろって言えと?」
「うん。約束な」
光は笑いながらそう言うと、コートを離して解放する。するりと抜けた腕の向こう側で、電球色のイルミネーションが街中に流れるメロディにあわせて不規則に点滅していた。きっと0時に合わせて始まる粋なパフォーマンスだろう。
「もういいか? 終電になる前に電車に乗らないと」
「ああ」
「……それ、持って帰れなくても?」
光が掌へと懸命にため込んでいた黄金色の淡く儚い輝光《ひかり》。
それが一体何を意味していたのか、勝行にも正確には分からない。ただ、もういいと言って首を振った光の視線は、さっきのように悲しげではなかった。
笑顔で振り返った光はすっかり吹っ切れたのか、「帰ろう」と手を伸ばす。
その手を取ったとき、勝行の心に少しだけ、光の想いが流れ込んできたような気がした。甘えん坊な義弟の手のひらを思いっきり握りしめ、勝行は毒づいた。
「男同士で手繋いで歩くなんて、不毛だよ」
「お前、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。いちいち文句うるせえな」
「文句じゃないよ、恥ずかしいんだよ」
「デートって言うからには恋人役ちゃんとやれよな」
「そうだったね」
苦笑しながら、勝行は光にぴたりと寄り添った。手を繋いでいるその姿を、そっとコートのポケットに隠しておこうと思って。
イルミネーションがキャラメル色の髪をさらに黄金の鮮やかな色彩に染めていく。その身体の境界線がぼやける視界に映る表情は、病院で一人寂しそうに座っていた時のものと同じだった。
それはまるで天空から金色のシャワーを浴びて祝福を受けた天使のような、まるでもう、生きた人間ではないような。ガラス細工のように脆く儚いその姿に勝行の心臓がどくん、と波打った。
光は掴めそうで掴めない黄金色のひかりを、持って帰りたそうに手のひらへと包み込んで目を閉じた。温度も何も感じないその灯に、何を求めているのだろうか。
「光……あのさ」
ひどく悲しそうな顔をして振り返った光は、勝行の「帰ろう」の言葉がもう一度くると予想していたようだ。
まだ帰りたくない。
そんな光の冷たく蒼白い唇に、勝行はそっと親指を重ねた。
「……冷える。よ」
「…………」
わずか十センチしかない距離の中で、その指に視線を落した光の唇が少しだけ動く。
「…………あっためて」
その言葉と仕草に、鈍感な勝行もやっと気づいた。
キスを欲しがる光の、本当の理由。それはただの我儘ではなく――。
(そうだ。お前は独りぼっちが苦手で。なのに家族みんなに置いて行かれて。誰もいない寂しい部屋で、泣きながら誰かを待ってた……)
暖かそうな灯をどんなにかき集めても、そこに彼を癒せるものはない。
勝行は冷え切った光の身体を抱き寄せ、その柔らかい膨らみを啄みゆっくり包み込んだ。お互いの息が頬にかかり、白い水蒸気の粒となってほわりとイルミネーションの中へ溶け込んでいく。
ふにゃ、と嬉しそうな笑みを零した光が、まだもうちょっとと言わんばかりに唇を押し付け、勝行のコートの裾を摘まんだ。
欲しかったものをもらえた彼のそれは、幸せに満ちた表情に見えた。
いつの間にか、日付変更線を跨いでいたらしい。ふいに暗くなったかと思いきや、優しい音楽が鳴り響き始め、再びイルミネーションが全灯する。
周囲でメリークリスマス、と誰かが叫んだ。
キラキラの冠飾りを頭上にまとったまま、光は離れたばかりの勝行の唇を名残惜しそうに見つめてきた。
「……欲しかったものは、これで我慢してくれる?」
もうこれ以上こんなところでキスしたくない。それより早くお持ち帰りして今すぐ抱きつぶしたい――そんな欲望に駆られた勝行は思わず頬を真っ赤に染め、ふいと視線を逸らした。
「じゃあ、家帰ったらもっかいしてくれんの?」
「うっ……か、片岡さんが帰ってきてなかったらね」
「追い出せば?」
「ひどいな、この寒空の下外にいろって言えと?」
「うん。約束な」
光は笑いながらそう言うと、コートを離して解放する。するりと抜けた腕の向こう側で、電球色のイルミネーションが街中に流れるメロディにあわせて不規則に点滅していた。きっと0時に合わせて始まる粋なパフォーマンスだろう。
「もういいか? 終電になる前に電車に乗らないと」
「ああ」
「……それ、持って帰れなくても?」
光が掌へと懸命にため込んでいた黄金色の淡く儚い輝光《ひかり》。
それが一体何を意味していたのか、勝行にも正確には分からない。ただ、もういいと言って首を振った光の視線は、さっきのように悲しげではなかった。
笑顔で振り返った光はすっかり吹っ切れたのか、「帰ろう」と手を伸ばす。
その手を取ったとき、勝行の心に少しだけ、光の想いが流れ込んできたような気がした。甘えん坊な義弟の手のひらを思いっきり握りしめ、勝行は毒づいた。
「男同士で手繋いで歩くなんて、不毛だよ」
「お前、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。いちいち文句うるせえな」
「文句じゃないよ、恥ずかしいんだよ」
「デートって言うからには恋人役ちゃんとやれよな」
「そうだったね」
苦笑しながら、勝行は光にぴたりと寄り添った。手を繋いでいるその姿を、そっとコートのポケットに隠しておこうと思って。
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