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八冊目 黄金色のクリスマスキャロル
アフターストーリー 1
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日付変更線までまたいでしまったし、帰ったら眠気ですぐにひっくり返るだろうと読んでいたのに、光は珍しく自宅についてもまだ起きていた。帰りをタクシーに変えて居眠りできたおかげだろうか。
はみがきを済ませて寝巻に着替えることも、全部自分でちゃんとしている。
「へえ、めずらしい」
いつもなら「ちゃんとしろ!」と勝行が小言を何度叫ぼうが無駄で、着の身着のままベッドでぐったり寝ている時間だ。
摂氏零度近くまで冷え切った深夜のマンション。自室で部屋着に着替えた勝行は、まだ起きている光を見て純粋にびっくりした。
「眠くないの?」
「ねむいけど寒いから」
意識もはっきりしていて、普通に受け答えする光は、何の遠慮もなく勝行の頬にチュッとリップ音を立てて吸い付く。
「ただいまとおかえり」
「ああ……おやす」
不意打ちのキスに戸惑う勝行を無理やり引っ張ると、光はすぐそばにあった勝行の部屋に転がりこんだ。
「ちょっ、ちょっとなに、光」
ガチャ、と内鍵までかけて部屋に立て籠る。
「これで絶対二人きりだろ」
「ま、まあ……そうだけど」
「じゃあしてくれるよな!」
「え?」
今一つ状況が読み込めないままの勝行は、光がどうして部屋の鍵を閉めたのかも、何をしてくれと言っているのかもすぐには理解できなかった。素肌に薄いネル生地パジャマ一枚しか着ていない光が、目の前で寒そうにしながら期待のまなざしで自分を見つめてくる。
――添い寝しろってことだろうか。
ぼふんっ、といきおいよくダブルベッドのマットレスに飛び込んだ光は、やっぱふわふわしてて落ち着かねえなこれ、とぼやく。遠慮なく他人のシーツをくしゃくしゃにしておきながら、この偉そうな物言いは光ならではだ。
シルバーカラーの羽毛布団上でゆらゆら身体を揺らしながら、呆然と突っ立ったままの勝行をみて「まだ?」と不思議そうに尋ねてくる。
上目遣いのその目と冷え切った頬の赤らみが、窓から映る周辺の夜景ライトでオレンジと白に煌めきゆらいだ。
(ちょっと俺の精神的にそんな煽りキツイんだけど、わかってんのかな)
でも……。
キスはしてほしそうだ。
さっきイルミネーションを観ながら「キスして」と駄々をこねた光が、家に帰ってからもしてくれるかと尋ねていたのを思い出す。とんだ煽りだなと苦笑しながら、勝行は光の傍に寄ってその柔らかい髪を上からくしゃりと撫でた。犬か猫のように目を細めながら、気持ちよさそうにそれを受け入れる光がたまらなく可愛い。そんな姿を今ここで独り占めできる幸せは、彼のピアノをずっと一人で鑑賞している時間と同じくらい、尊い。
マンションの最上階とはいえ、カーテンをひいていなかった窓の隙間から、いつまでも消えない有楽町の街灯がベッドに差し込んでくる。
暗闇が大の苦手な勝行は、普段カーテンを引かない。ひとりで寝室にいる時、このライティングのおかげで快適に過ごすことができるからだ。けれどそのネオンライトがベッド上の光を照らし出した途端、どこからかどす黒い独占欲が湧き上がってくる。
カーテンをひいて、外のビルからも空からでさえも、見られないように閉じ込めてしまいたい。
たとえばそう、自分の布団の中に。
「……ひかる」
艶やかに輝《ひか》る唇を眺めながら、その細い顔を横から包み込むように両手で抱え込んだ。
落とすはうんと優しい、甘ったるいキス。
重ねてはほどき、見つめあいながら何度となくそれを繰り返す。
惚けた顔で受け入れながら、光は腕をふらりと泳がせ、勝行の腕や服の裾を探りつかんだ。その手が触れると、冷えた感覚が布越しに皮膚を走り抜ける。けれどもう勝行の思考は、目の前のきれいな少年を独り占めすることしか考えられなくなっていた。
日付変更線までまたいでしまったし、帰ったら眠気ですぐにひっくり返るだろうと読んでいたのに、光は珍しく自宅についてもまだ起きていた。帰りをタクシーに変えて居眠りできたおかげだろうか。
はみがきを済ませて寝巻に着替えることも、全部自分でちゃんとしている。
「へえ、めずらしい」
いつもなら「ちゃんとしろ!」と勝行が小言を何度叫ぼうが無駄で、着の身着のままベッドでぐったり寝ている時間だ。
摂氏零度近くまで冷え切った深夜のマンション。自室で部屋着に着替えた勝行は、まだ起きている光を見て純粋にびっくりした。
「眠くないの?」
「ねむいけど寒いから」
意識もはっきりしていて、普通に受け答えする光は、何の遠慮もなく勝行の頬にチュッとリップ音を立てて吸い付く。
「ただいまとおかえり」
「ああ……おやす」
不意打ちのキスに戸惑う勝行を無理やり引っ張ると、光はすぐそばにあった勝行の部屋に転がりこんだ。
「ちょっ、ちょっとなに、光」
ガチャ、と内鍵までかけて部屋に立て籠る。
「これで絶対二人きりだろ」
「ま、まあ……そうだけど」
「じゃあしてくれるよな!」
「え?」
今一つ状況が読み込めないままの勝行は、光がどうして部屋の鍵を閉めたのかも、何をしてくれと言っているのかもすぐには理解できなかった。素肌に薄いネル生地パジャマ一枚しか着ていない光が、目の前で寒そうにしながら期待のまなざしで自分を見つめてくる。
――添い寝しろってことだろうか。
ぼふんっ、といきおいよくダブルベッドのマットレスに飛び込んだ光は、やっぱふわふわしてて落ち着かねえなこれ、とぼやく。遠慮なく他人のシーツをくしゃくしゃにしておきながら、この偉そうな物言いは光ならではだ。
シルバーカラーの羽毛布団上でゆらゆら身体を揺らしながら、呆然と突っ立ったままの勝行をみて「まだ?」と不思議そうに尋ねてくる。
上目遣いのその目と冷え切った頬の赤らみが、窓から映る周辺の夜景ライトでオレンジと白に煌めきゆらいだ。
(ちょっと俺の精神的にそんな煽りキツイんだけど、わかってんのかな)
でも……。
キスはしてほしそうだ。
さっきイルミネーションを観ながら「キスして」と駄々をこねた光が、家に帰ってからもしてくれるかと尋ねていたのを思い出す。とんだ煽りだなと苦笑しながら、勝行は光の傍に寄ってその柔らかい髪を上からくしゃりと撫でた。犬か猫のように目を細めながら、気持ちよさそうにそれを受け入れる光がたまらなく可愛い。そんな姿を今ここで独り占めできる幸せは、彼のピアノをずっと一人で鑑賞している時間と同じくらい、尊い。
マンションの最上階とはいえ、カーテンをひいていなかった窓の隙間から、いつまでも消えない有楽町の街灯がベッドに差し込んでくる。
暗闇が大の苦手な勝行は、普段カーテンを引かない。ひとりで寝室にいる時、このライティングのおかげで快適に過ごすことができるからだ。けれどそのネオンライトがベッド上の光を照らし出した途端、どこからかどす黒い独占欲が湧き上がってくる。
カーテンをひいて、外のビルからも空からでさえも、見られないように閉じ込めてしまいたい。
たとえばそう、自分の布団の中に。
「……ひかる」
艶やかに輝《ひか》る唇を眺めながら、その細い顔を横から包み込むように両手で抱え込んだ。
落とすはうんと優しい、甘ったるいキス。
重ねてはほどき、見つめあいながら何度となくそれを繰り返す。
惚けた顔で受け入れながら、光は腕をふらりと泳がせ、勝行の腕や服の裾を探りつかんだ。その手が触れると、冷えた感覚が布越しに皮膚を走り抜ける。けれどもう勝行の思考は、目の前のきれいな少年を独り占めすることしか考えられなくなっていた。
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