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Lv.2 濃厚接触ゲーム
2 友達の距離感とは
駅の改札口に向かう途中、桜の花びらが風に吹かれて青の空に散っていく様が綺麗だと思った。それをスマホで撮って待ち受け画面にしてみるだけで気分が華やぐ。去年はこうして桜を見ながら通学することすらなかったなと思い馳せる。
「おはようケイタ」
「おっす」
桜並木に見送られながら電車に乗り込み、いつも通り太一に取り置きしてもらった席に座る。今日もFCOのゲーム画面にログインすべく、スマホのロックを解除した。
「あれ、スマホ画面変わってる。桜の写真だった」
「さっき駅前で撮ったから変えてみた」
「へーえ。そういえばケイタって写真部だっけ。景色とか撮んの?」
「う、うーん……まあ、そうだな。景色撮ることが多いかも。携帯ゲームとかスマホの使い過ぎで視力ヤバイから、外見て目を休ませろって言われて」
「わかる、現代っ子あるあるだ」
なんて偉そうにかっこつけて言っているが、本当は楽ちんそうだったから選んだ部活である。
だがこんなふうに太一とゲーム以外の他愛ない話も多少はできるようになった。それだけで圭太の頬はでろんと弛む。
「……つか、顔が近いって」
「そう? こんぐらいだと濃厚接触かな」
「いや、わからねえよ。けどなあ、マスクだって万能じゃないって言うし」
互いのゲーム画面を見ている時、相変わらず太一の距離感はバグっている。耳元にはふわふわの髪が当たるし、ちらっと横を見ればマスクと肌の隙間が見え隠れしていて、なんだか妙にエッチくさい。圭太はすぐに視線をそらした。ゲーム画面に集中している体を決め込む。
「んー。俺はケイタが感染したってわかったら、自主的に濃厚接触者ですって言って隔離生活送るよ」
「それ、授業サボってゲームしたいだけじゃん」
「あ、バレてる?」
「最近《肉食べいこ》のイベントランキング、爆上がりしてるからだいたい想像つく」
「いやあ、このゲームは沼だね! ヤバいわ」
けらけらと笑う太一は、ここ最近やたらと濃厚接触ネタに食いついてくる。このバグった距離感は前から変わらないけれど、圭太が戸惑っている事に気づいているのか、最近はわざとらしく上目遣いでこちらを見てきたり、マスクを外して耳元で囁いてきたりする。とんでもない小悪魔だ。
(滝沢の下ネタ聞いても笑ってるぐらいだから、太一ももしかしたら……そう、なのかな)
だったらもしかして、自分をそういう対象として好いてくれている?
などと淡い期待を抱くけれども、そんなマンガのように都合のいい展開があるはずない。だいたい、自分は男を恋愛対象として見たことなど一度もない。漫画やアニメのおかげでボーイズラブの予備知識は持っていれど、それとこれとは別問題だ!
――心の中で葛藤しつつも、圭太は至近距離の太一からシャンプーの香りをスンスンと嗅いでしまう。電車内に蔓延る人の体臭よりも、うんと香しくて甘い匂いだ。
「何。俺もしかして汗臭い?」
太一が困惑した目でこちらを見ていることに気づいた。圭太は慌てて「いや違うそうじゃなくて甘そうな匂いが」と顔を背けたが、これでは嗅いでいたことも誤魔化せてないし、まるで変態のようだ。だが太一は「あ、飴食ってるから」と軽く流してくれた。
「ようようお二人さん。朝からイチャついてますなあ」
「滝沢おはよー」
次の駅に止まれば滝沢が同じ車両に乗り合わせてくる。気分屋の彼はたまにしか来ないが、二人の間に割って入ってくる時は決まって圭太の前に立ち、吊り革に凭れながら二人の画面を覗いて観戦している。あまりプレイは得意ではないらしく、実況を観る方が楽しいと言っていた。
「そういえばFCOのアニメ、今ならネットで全話一挙見できるぜ。おススメする」
「へえ、観たい。何チャンネル?」
「えっとなー……」
あの日を境に、太一と滝沢はすっかり仲良くなった。元々人見知りなんて言葉が全く似合わない性格の二人だ。コミュ障の圭太と違ってきっかけさえあれば、ゲームを介さなくてもこうなっていたであろう。
「太一ってさあ、小型犬っぽくて可愛いよな」
「小さい言うなよ。気にしてるのにっ」
「褒めてんだよポジティブに受け取れって。そういえばお前二組だから電気科だろ。進路は就職組?」
「うんそうだよー」
「おっしゃ、俺も就職組だから。進路ガイダンスは一緒に受けれるな。俺の連れ、進学組が多いからさあ。太一がいると心強いわ」
「そうなん? ケイタは?」
「……え、えっ?」
「サエは進学組だろ」
「へえ。確かに、頭良さそうだもんなあ」
二人でどんどんと会話を進めていく中、圭太は何も答えられなかった。自分の代わりに滝沢が返し、太一と時折見つめ合って仲良く笑っている。
いつの間にか「太一」呼ばわりだし、美男同士でまるで本物の兄弟のよう。
(くそ……勝ち組同士がくっつくとすぐこうなるからムカつくんだよな。やっぱ誘うんじゃなかった)
太一のプライベートをずけずけと聞き出す滝沢のコミュニケーション能力には舌を巻くばかりだ。自分が太一に気があることを知っているくせに。この男は味方なのか、敵なのかさっぱりわからない。
モヤモヤしながら二人の話を聞いているうちに、電車は学校の最寄り駅に到着してしまった。結局ゲームはちっとも進まなかった。仕方なくスマホをポケットに入れた圭太は、いつまでも話に花が咲く太一と滝沢の後ろからのろのろと電車を降りた。
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