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白うさぎと黒うさぎの物語
黒うさぎはお料理上手
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ヒカルは何も知らない代わりに、生きていくために必要なことはなんでも知っていた。
料理、洗濯、お掃除。
「料理とか、やったことあるの?」
「あったりめーだろ。自分で作らなきゃ、どうやって生きていくんだよ」
呆れた顔でぼくの質問に答えたヒカルの家事の腕は、自慢でも謙遜でもなく本物だった。
着ていた服だってボロボロだったからぼくが捨てちゃったけど、自分で針を借りたら直せたんだって。それってすごくない?
お城の使用人たちもびっくりするぐらい、ヒカルは器用にどんな仕事もこなすんだ。
炊事場でフライパンを振り回しながら、洗濯し終わった服を全部庭に干して、廊下も毎日掃き掃除してくれる。おかげで仕事が減っちゃった使用人たちが暇を持て余すぐらいだ。
きっと働き者のうさぎ獣人だったから、町の人間にたくさんの仕事を言いつけられて、奴隷みたいに働かされていたんだろうな。そんなに沢山仕事しなくていいよって言ったのに、「なんで?」と首をかしげてくる。
「あったかいベッドで寝れて、美味しいご飯がタダで食べれるのに、働かないなんて悪い奴だろ?」
なるほど。正論だ。
こんなイイコが、やっぱり奴隷みたいな扱いを受けてたのかって思うだけで、心がちくんと痛くなる。ぼくが王様になった時は、ヒカルみたいな子が一人でも減るように政治の勉強もがんばらなくちゃ。
この言葉を聞いた父王は、ヒカルをたいそう気に入ってくれて、時々ぼくたち王族の晩餐会やお茶会にヒカルを誘ってくれるようになった。ヒカルの作ったごはんにも興味を示されて、時々王様も召しあがっているらしい。
うさぎ獣人であるぼくたち王族の大好物は、ニンジンとかキャベツを煮込んだ、コンソメ味の野菜煮込み。フルーツも大好き。
そんなことを軽く伝えてみたら、その日の晩ごはんに全部出てきたことがあった。
ほかほかの湯気に包まれた暖かいスープなんて、いつも使用人が時間をかけて運んでくるから、ちょっと冷めてるんだけど、ヒカルは完成後すぐに持ってきてくれた。こんなに熱々のスープ、食べたことがない。
食べる前にヒカルが横からフーフーって息をかけて、
「熱いから、こうやって冷ましながら食べるんだぞ。それも知らないのか」
と懸命に説明してくれた。
その時の自慢気な顔が可愛くて、頼もしくて……。
「ヒカルってなんでもできるの、すごいね」
「王子って何にもしねえし知らねえのな。おまえって、もしかしてバカ?」
「……バカって言われたのは初めてだよ」
「お前の周りの大人が、甘やかしすぎなんじゃねーの?」
「ふふっ、そうかもしれないね」
バカなんて言われたけれど、でも新鮮なその響きが楽しくて、ぼくは一人で笑った。ヒカルはちょっと呆れていたかもしれない。
ふうふうしながら食べるスープは、心も身体もほっこり暖かかった。
料理、洗濯、お掃除。
「料理とか、やったことあるの?」
「あったりめーだろ。自分で作らなきゃ、どうやって生きていくんだよ」
呆れた顔でぼくの質問に答えたヒカルの家事の腕は、自慢でも謙遜でもなく本物だった。
着ていた服だってボロボロだったからぼくが捨てちゃったけど、自分で針を借りたら直せたんだって。それってすごくない?
お城の使用人たちもびっくりするぐらい、ヒカルは器用にどんな仕事もこなすんだ。
炊事場でフライパンを振り回しながら、洗濯し終わった服を全部庭に干して、廊下も毎日掃き掃除してくれる。おかげで仕事が減っちゃった使用人たちが暇を持て余すぐらいだ。
きっと働き者のうさぎ獣人だったから、町の人間にたくさんの仕事を言いつけられて、奴隷みたいに働かされていたんだろうな。そんなに沢山仕事しなくていいよって言ったのに、「なんで?」と首をかしげてくる。
「あったかいベッドで寝れて、美味しいご飯がタダで食べれるのに、働かないなんて悪い奴だろ?」
なるほど。正論だ。
こんなイイコが、やっぱり奴隷みたいな扱いを受けてたのかって思うだけで、心がちくんと痛くなる。ぼくが王様になった時は、ヒカルみたいな子が一人でも減るように政治の勉強もがんばらなくちゃ。
この言葉を聞いた父王は、ヒカルをたいそう気に入ってくれて、時々ぼくたち王族の晩餐会やお茶会にヒカルを誘ってくれるようになった。ヒカルの作ったごはんにも興味を示されて、時々王様も召しあがっているらしい。
うさぎ獣人であるぼくたち王族の大好物は、ニンジンとかキャベツを煮込んだ、コンソメ味の野菜煮込み。フルーツも大好き。
そんなことを軽く伝えてみたら、その日の晩ごはんに全部出てきたことがあった。
ほかほかの湯気に包まれた暖かいスープなんて、いつも使用人が時間をかけて運んでくるから、ちょっと冷めてるんだけど、ヒカルは完成後すぐに持ってきてくれた。こんなに熱々のスープ、食べたことがない。
食べる前にヒカルが横からフーフーって息をかけて、
「熱いから、こうやって冷ましながら食べるんだぞ。それも知らないのか」
と懸命に説明してくれた。
その時の自慢気な顔が可愛くて、頼もしくて……。
「ヒカルってなんでもできるの、すごいね」
「王子って何にもしねえし知らねえのな。おまえって、もしかしてバカ?」
「……バカって言われたのは初めてだよ」
「お前の周りの大人が、甘やかしすぎなんじゃねーの?」
「ふふっ、そうかもしれないね」
バカなんて言われたけれど、でも新鮮なその響きが楽しくて、ぼくは一人で笑った。ヒカルはちょっと呆れていたかもしれない。
ふうふうしながら食べるスープは、心も身体もほっこり暖かかった。
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―――
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