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二度目の恋に、さようなら 1
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* * *
移された個室で色んな機械を取り付けられ、いよいよ現実逃避もしていられなくなった。
あと何日ここで彼と話すことができるのだろう。長くても一週間は持たないだろうと言われた。突然の死も受け入れがたいが、カウントダウンされる方も毎日恐怖で手が震える。
生命維持管理モニターの音が一瞬でも不規則になるたび、飛び起きて手を握ってしまう。トイレに用足しに行くことさえ怖い。
(いっそここで一緒に死にたい――)
幸一はロビーに出たついでに学校へ電話をかけ、事情と退学希望を簡易に伝えた。苦労して入った高校だったが、受験の努力も享幸と一緒に生きるためだけにがんばったこと。どうせ母親に連れ戻されたら転校も余儀なくされるだろう。
友人にまでわざわざ連絡するほどでもないが、土産を買うと言ってくれた歩夢にだけは一言詫びをいれておいた方がいいかもしれない。遊園地も断っておいて正解だった。
この先の未来にはなんの夢も希望も持てないし、打開策も見つからない。
とぼとぼと歩いていると、ナースステーションで声をかけられた。
母親は仕事が忙しく、数日後の週末にここに来る予定で、その時に各種書類や手続きの説明をするらしい。享幸の両親とはまだ連絡が取れないと言われて思わず毒づいた。
「あの人たち、こないよ。父さんのこと、散々いじめて捨てたから」
「まあ……」
「父さんがガンになったのも絶対、あの人たちが意地悪ばっか言って好きに生きさせてあげなかったからだよ。だからこなくていいんだ、あんなの呼ばないで。父さんが本当に死んじゃうんなら、俺以外誰もいれないでよ」
幸一は怒りにまかせ、たまりにたまった文句をぶち撒いた。看護師らは困ったように顔を見合わせ、先生に伝えておくねと言って去っていく。たとえ子どもの戯言と思われても、涙ながらに本気で訴えた分少しは気遣ってくれるだろう。
小走りに個室部屋へと戻り、大層な機械に取り囲まれた享幸のいるベッドへ向かう。
「父さ……」
その足元を見た時、明らかに異質な鳥の羽根が布団の上に一本落ちていることに気づいた。それを拾い上げ、ふいに頭上へ視線を上げる。
「……あ……ああっおまえ!?」
大ぶりの両翼を背に広げつつも、ネクタイをきっちり締めたスーツ姿の男が宙に浮いていた。眼鏡をくいと鼻頭に押し付けながら、彼はおやと一人呟く。
「見えてるんですか、私のこと」
「み、見えるに決まってんじゃん、何やって……ってもしかして享幸を迎えに来たとか言わねえだろうな!?」
「今日は違いますが、遅かれ早かれそうなりますね。それにしても副作用はほんとにあるんだな、まさか人間として生きている最中に我々天使と会話ができるとは」
十六年前から何一つ変わらない謎の人外生物にまじまじと見つめられ、幸一は思わず後ずさりながら享幸の傍に駆け寄った。急いでまだ息があることを確認する。
そんな姿を目で追うだけの天使は、嘲笑とも失笑ともつかぬ複雑な表情を見せた。
「無事に二度目の人生でもご一緒できたようで、何よりです」
「……」
「本当のことを申し上げますと、私は転生担当の天使ではありません。そう警戒なさらなくても大丈夫ですよ」
「ま、またあれか。部署移動でもしたのか」
「いえ。――まあ、貴方にお会いした時だけ特別だったと言いますか。私の本当の担当は、滝沢幸一の守護天使(ガーディアン)――つまり貴方を護る役目です。なのであの日からずっと、あなたの近くにいましたよ」
「え……お、俺の……守護天使?」
「ええ。そしてこの私に貴方を助けろと願ったのは、今そこで命尽きようとしている、滝沢享幸。私はその男の最後の願いを容れに参りました」
「……ちょっと待て、全然飲み込めない。俺と享幸の、守護がなんだって……?」
全然頭の整理が追い付かない幸一に呆れているのだろうか。スーツ天使は大きな溜息をひとつ落とした。
移された個室で色んな機械を取り付けられ、いよいよ現実逃避もしていられなくなった。
あと何日ここで彼と話すことができるのだろう。長くても一週間は持たないだろうと言われた。突然の死も受け入れがたいが、カウントダウンされる方も毎日恐怖で手が震える。
生命維持管理モニターの音が一瞬でも不規則になるたび、飛び起きて手を握ってしまう。トイレに用足しに行くことさえ怖い。
(いっそここで一緒に死にたい――)
幸一はロビーに出たついでに学校へ電話をかけ、事情と退学希望を簡易に伝えた。苦労して入った高校だったが、受験の努力も享幸と一緒に生きるためだけにがんばったこと。どうせ母親に連れ戻されたら転校も余儀なくされるだろう。
友人にまでわざわざ連絡するほどでもないが、土産を買うと言ってくれた歩夢にだけは一言詫びをいれておいた方がいいかもしれない。遊園地も断っておいて正解だった。
この先の未来にはなんの夢も希望も持てないし、打開策も見つからない。
とぼとぼと歩いていると、ナースステーションで声をかけられた。
母親は仕事が忙しく、数日後の週末にここに来る予定で、その時に各種書類や手続きの説明をするらしい。享幸の両親とはまだ連絡が取れないと言われて思わず毒づいた。
「あの人たち、こないよ。父さんのこと、散々いじめて捨てたから」
「まあ……」
「父さんがガンになったのも絶対、あの人たちが意地悪ばっか言って好きに生きさせてあげなかったからだよ。だからこなくていいんだ、あんなの呼ばないで。父さんが本当に死んじゃうんなら、俺以外誰もいれないでよ」
幸一は怒りにまかせ、たまりにたまった文句をぶち撒いた。看護師らは困ったように顔を見合わせ、先生に伝えておくねと言って去っていく。たとえ子どもの戯言と思われても、涙ながらに本気で訴えた分少しは気遣ってくれるだろう。
小走りに個室部屋へと戻り、大層な機械に取り囲まれた享幸のいるベッドへ向かう。
「父さ……」
その足元を見た時、明らかに異質な鳥の羽根が布団の上に一本落ちていることに気づいた。それを拾い上げ、ふいに頭上へ視線を上げる。
「……あ……ああっおまえ!?」
大ぶりの両翼を背に広げつつも、ネクタイをきっちり締めたスーツ姿の男が宙に浮いていた。眼鏡をくいと鼻頭に押し付けながら、彼はおやと一人呟く。
「見えてるんですか、私のこと」
「み、見えるに決まってんじゃん、何やって……ってもしかして享幸を迎えに来たとか言わねえだろうな!?」
「今日は違いますが、遅かれ早かれそうなりますね。それにしても副作用はほんとにあるんだな、まさか人間として生きている最中に我々天使と会話ができるとは」
十六年前から何一つ変わらない謎の人外生物にまじまじと見つめられ、幸一は思わず後ずさりながら享幸の傍に駆け寄った。急いでまだ息があることを確認する。
そんな姿を目で追うだけの天使は、嘲笑とも失笑ともつかぬ複雑な表情を見せた。
「無事に二度目の人生でもご一緒できたようで、何よりです」
「……」
「本当のことを申し上げますと、私は転生担当の天使ではありません。そう警戒なさらなくても大丈夫ですよ」
「ま、またあれか。部署移動でもしたのか」
「いえ。――まあ、貴方にお会いした時だけ特別だったと言いますか。私の本当の担当は、滝沢幸一の守護天使(ガーディアン)――つまり貴方を護る役目です。なのであの日からずっと、あなたの近くにいましたよ」
「え……お、俺の……守護天使?」
「ええ。そしてこの私に貴方を助けろと願ったのは、今そこで命尽きようとしている、滝沢享幸。私はその男の最後の願いを容れに参りました」
「……ちょっと待て、全然飲み込めない。俺と享幸の、守護がなんだって……?」
全然頭の整理が追い付かない幸一に呆れているのだろうか。スーツ天使は大きな溜息をひとつ落とした。
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