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第三節 友だちのエチュード
#24 友だちになろうよ -光side-
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――ドクン。ドクン。
今西光の心臓はうっかり発作を起こしそうなぐらい爆音を鳴らしていた。
「あのさあ、そんなに睨まなくてもよくない?」
「う……うっせえ、ついてくんな!」
「さっきも言ったけど、俺と君が同じ班で、隣の席で、修学旅行も一緒に行くことは決定事項。異議申し立て期間はもう過ぎてる。俺はあくまでも班長として、且つ友人として君に付き添ってるんだ。文句言われる筋合いはない」
「イギモウシ……なんだそれ」
「ググったらどう」
「はあ? さっきから何言ってんだテメエ」
「バカなのはよく分かった。それ、先生に渡す病院の書類? 貸して、班長として俺が預かっとく」
目の前の男は人の話もろくに聞かず、強引に話を進めていく。
病院帰りの帰路。いつもは一人で歩く道なのに、なぜか今日は隣に口うるさいクラスメイトがいる。
音楽室でこの顔を初めて見た時は女子と見間違えた。
自分より明らか背の低い、華奢な身体。
そのへんの女よりずいぶん可愛らしい、幼さの残る甘いマスク。
少なくともちょっと前に会話した時は、もう少し優し気な印象があった気がするのだが、今目の前にいる相羽勝行は随分ふてぶてしい態度で自分を虐げている。気がする。
「可愛くねえな、てめえ」
「当たり前だろ、男なんだし。可愛くいようなんて思ったことない」
「俺のこと、怖くねえのかよ」
「きゃんきゃん吠えてるだけで本当は弱いの、知ってるから」
「んだとテメエ……ッ」
カチンときて、思わず目の前にある彼の足をガンッと蹴り飛ばした。だが彼は終始不敵な冷笑を浮かべたままだ。返って不気味で、背中がゾクッとする。こんな奴をボコ殴りしたら一生かけて呪われそうだ。
一体なんなんだ、この男は。
どうして何度も自分に話しかけてきたり、しつこく自分に付きまとうのだろうか。病院にまでついて来た同級生なんて初めてだ。
(なんて……なんて返したらいいかわかんねえ……っ)
隣で颯爽と歩く相羽勝行をちらちらと見ては、目が合い、思わず首を真逆に捻る。そのたび、声を殺した失笑が聴こえてきて、恥ずかしさに余計心臓が高鳴る。さっきの診察では『なんの問題もない、修学旅行楽しんできなさい』とあっさり追い出されたものの、今病院に引き返したら間違いなく心電図の数値が異常を示すに違いない。それぐらい、光には余裕がなかった。
(源次とリン以外の奴が……俺の隣にいる……)
有り得ない。
「修学旅行のためにも、今から友だちになろう」
いきなりそう言われても、そもそも他人とどう接したらいいかわからない。友だちという言葉は完全なる別世界の話で、自分には縁のない物だと思っていた。
「ところで、光ってどこに住んでるの?」
「家にまで付いてくる気かよ!」
「なんとなく、修学旅行出発日に登校してこない気がするから。場所を把握しておけば迎えに来れるだろ」
「迎えって」
「ヘリポートがあれば楽なんだけどね。光んち、マンション? 一軒家?」
「はあ?」
思わず裏返った変声をあげてしまった。光は恥ずかしくて思わず手の甲で口を覆う。勝行は肩を震わせてくつくつと笑っていた。
「ほら、やっぱり怖くなんかないよ。ただ単に人付き合いに慣れてないだけだろ?」
「……っ」
「図星か。君みたいな人には無理やり連れ回すくらいがいいかと思ったんだけど、正解だったみたいだな」
「なっ……」
勝行の笑顔の裏には色んな思惑が見える。あれは嘘つきの顔だ。その可愛い顔で他人を誘惑する小悪魔のような。
「友だちになろうよ、光」
「だから! 俺は……」
「何か嫌なら理由教えてくれないと。修学旅行で楽しく過ごすためには、やっぱりお互い腹割って話さないと、気遣ってばかりは疲れるだろ。まあ、君の場合は文句言ってもペアチェンジなんてできないけどね」
どんな文句を並べても全部意味不明な言葉で弾き返すくせに……!
光は握りしめすぎて汗だくになった拳をさらにぎゅっと締めた。
震える腕と肩は、人に言葉を伝えるのが怖いからじゃない。己にそう言い聞かせ、午後からひと時も離れず傍にいる勝行に向かって重い口を開いた。
「俺は……俺は」
「うん」
「――ともだちなんか、いらねえ! 俺が欲しいのは、『金』だ!」
「……お金?」
「そう。だからもう俺についてくんなっ」
勝行の眉毛が怪訝そうに動いた。我ながら酷いことを言った自覚はある。だがこれでいいのだ。嘘はついていない。
光はこれ以上の会話を拒否するつもりで、一人黙々と歩き続けた。
これでもう二度と彼も付いて来ないだろう。修学旅行とやらもボイコットすればいい。今まで通りの、何もない日常が続くだけだ。
だがあろう事かこの男は、懐から革張りの財布を取り出して笑顔を向けた。
「なんだ、なら買うよ【友だち】として。たしかにそっちの方が手っ取り早い。それとも君と一緒にいる時間を買えばいい?」
「は……はああ?」
「いくらで売ってる?」
突拍子もない返しに、光の思考回路は激しく混乱した。
――ドクン。ドクン。
今西光の心臓はうっかり発作を起こしそうなぐらい爆音を鳴らしていた。
「あのさあ、そんなに睨まなくてもよくない?」
「う……うっせえ、ついてくんな!」
「さっきも言ったけど、俺と君が同じ班で、隣の席で、修学旅行も一緒に行くことは決定事項。異議申し立て期間はもう過ぎてる。俺はあくまでも班長として、且つ友人として君に付き添ってるんだ。文句言われる筋合いはない」
「イギモウシ……なんだそれ」
「ググったらどう」
「はあ? さっきから何言ってんだテメエ」
「バカなのはよく分かった。それ、先生に渡す病院の書類? 貸して、班長として俺が預かっとく」
目の前の男は人の話もろくに聞かず、強引に話を進めていく。
病院帰りの帰路。いつもは一人で歩く道なのに、なぜか今日は隣に口うるさいクラスメイトがいる。
音楽室でこの顔を初めて見た時は女子と見間違えた。
自分より明らか背の低い、華奢な身体。
そのへんの女よりずいぶん可愛らしい、幼さの残る甘いマスク。
少なくともちょっと前に会話した時は、もう少し優し気な印象があった気がするのだが、今目の前にいる相羽勝行は随分ふてぶてしい態度で自分を虐げている。気がする。
「可愛くねえな、てめえ」
「当たり前だろ、男なんだし。可愛くいようなんて思ったことない」
「俺のこと、怖くねえのかよ」
「きゃんきゃん吠えてるだけで本当は弱いの、知ってるから」
「んだとテメエ……ッ」
カチンときて、思わず目の前にある彼の足をガンッと蹴り飛ばした。だが彼は終始不敵な冷笑を浮かべたままだ。返って不気味で、背中がゾクッとする。こんな奴をボコ殴りしたら一生かけて呪われそうだ。
一体なんなんだ、この男は。
どうして何度も自分に話しかけてきたり、しつこく自分に付きまとうのだろうか。病院にまでついて来た同級生なんて初めてだ。
(なんて……なんて返したらいいかわかんねえ……っ)
隣で颯爽と歩く相羽勝行をちらちらと見ては、目が合い、思わず首を真逆に捻る。そのたび、声を殺した失笑が聴こえてきて、恥ずかしさに余計心臓が高鳴る。さっきの診察では『なんの問題もない、修学旅行楽しんできなさい』とあっさり追い出されたものの、今病院に引き返したら間違いなく心電図の数値が異常を示すに違いない。それぐらい、光には余裕がなかった。
(源次とリン以外の奴が……俺の隣にいる……)
有り得ない。
「修学旅行のためにも、今から友だちになろう」
いきなりそう言われても、そもそも他人とどう接したらいいかわからない。友だちという言葉は完全なる別世界の話で、自分には縁のない物だと思っていた。
「ところで、光ってどこに住んでるの?」
「家にまで付いてくる気かよ!」
「なんとなく、修学旅行出発日に登校してこない気がするから。場所を把握しておけば迎えに来れるだろ」
「迎えって」
「ヘリポートがあれば楽なんだけどね。光んち、マンション? 一軒家?」
「はあ?」
思わず裏返った変声をあげてしまった。光は恥ずかしくて思わず手の甲で口を覆う。勝行は肩を震わせてくつくつと笑っていた。
「ほら、やっぱり怖くなんかないよ。ただ単に人付き合いに慣れてないだけだろ?」
「……っ」
「図星か。君みたいな人には無理やり連れ回すくらいがいいかと思ったんだけど、正解だったみたいだな」
「なっ……」
勝行の笑顔の裏には色んな思惑が見える。あれは嘘つきの顔だ。その可愛い顔で他人を誘惑する小悪魔のような。
「友だちになろうよ、光」
「だから! 俺は……」
「何か嫌なら理由教えてくれないと。修学旅行で楽しく過ごすためには、やっぱりお互い腹割って話さないと、気遣ってばかりは疲れるだろ。まあ、君の場合は文句言ってもペアチェンジなんてできないけどね」
どんな文句を並べても全部意味不明な言葉で弾き返すくせに……!
光は握りしめすぎて汗だくになった拳をさらにぎゅっと締めた。
震える腕と肩は、人に言葉を伝えるのが怖いからじゃない。己にそう言い聞かせ、午後からひと時も離れず傍にいる勝行に向かって重い口を開いた。
「俺は……俺は」
「うん」
「――ともだちなんか、いらねえ! 俺が欲しいのは、『金』だ!」
「……お金?」
「そう。だからもう俺についてくんなっ」
勝行の眉毛が怪訝そうに動いた。我ながら酷いことを言った自覚はある。だがこれでいいのだ。嘘はついていない。
光はこれ以上の会話を拒否するつもりで、一人黙々と歩き続けた。
これでもう二度と彼も付いて来ないだろう。修学旅行とやらもボイコットすればいい。今まで通りの、何もない日常が続くだけだ。
だがあろう事かこの男は、懐から革張りの財布を取り出して笑顔を向けた。
「なんだ、なら買うよ【友だち】として。たしかにそっちの方が手っ取り早い。それとも君と一緒にいる時間を買えばいい?」
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「いくらで売ってる?」
突拍子もない返しに、光の思考回路は激しく混乱した。
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