できそこないの幸せ

さくら怜音/黒桜

文字の大きさ
47 / 165
第三章 たまにはお前も休めばいい

11

しおりを挟む
**
(おかしい。やっぱりあいつ、なんか無理してる)

花火を観ながら何度もキスをしようと甘えても、応えてくれるそれはいつもと違う。啄むような優しいものばかりで物足りない。
いつもなら腰が砕けそうになるほどあちこちねちっこく吸い付いてくるし、スイッチが入れば強引に押し倒してくるほど、歯止めの効かない濃厚なキスをしてくる男だったのに。
どこか遠慮がちで、どこか他人行儀で——。

(せっかく旅行に来たのに……あいつ、楽しくないんだろうか)

『二人で旅行』という遊びを楽しみにきたはずが、まるで至れり尽くせりの接待を受けているだけのような気がして、光は一人悶々と考え込んでいた。考えすぎかもしれないが、和気あいあいと病院探検していた時の方がよっぽど楽しそうだった気がする。

(俺、なんか怒らせるようなこと……したのかな……)

それとも本当に、ただ喜ばせようと接待してくれているだけだろうか。だとしたら、そんなサービスはいらないから、もっと一緒に楽しもうと言いたい。
花火を鑑賞し終え、エアコンの効きが悪い部屋に戻ってきた二人は、むし暑さに耐えきれず「あっつー」と声をあげた。光は浴衣をだらしなくはだけさせ、いつでも上半身裸になれる状態で冷蔵庫内の冷水を飲み干す。それから「一緒に風呂入ろうぜ」と誘ってみたものの、露骨に目を逸らされた。汗だくになったし、暑いから早く浴衣を脱いでさっぱりしたいのに。勝行の様子はどこかおかしい。

「……だめなのか?」

本気で寂しくなって思わずしょげてしまう。すると勝行は「だ、だめじゃないけど……その……」と歯切れの悪い言葉を零しながら目を泳がせている。

「ここ来る時、病院のセンセーと片岡のおっさんに言われたンだよ。風呂入る時は一人で行くなって」
「そ、そうだね……」
「俺、温泉なんて入ったことねえし」

心臓に爆弾を抱える以上、湯治療養にも気を遣わねばならない。もし万が一発作でも起きたら大変だ。狭心症患者は入湯禁止の場所も沢山あってリスクが高い。そのことをまさか勝行が忘れているとは思わなかったのだが——。
勝行は何やら頬を赤らめ、そわそわ落ち着かない様子だ。

「……勝行? なんか変なんだけど、お前」
「い、いやっ……そんなことないよ」

もしかして熱でもあるのだろうか。ふと不安に思い、ぐいっと近づき顔を覗き込むも、勝行は逃げるようにすり抜け部屋をうろつき出した。

「えーっと……お風呂な。部屋専用のがあったはずなんだけど……あ、あった。確か露天風呂だったな」

露天風呂という言葉がピンとこなくて、光は首を傾げた。
勝行は見つけた脱衣所に入り込み、その奥の扉を開く。後ろからぺたぺたとくっついていくと、目の前には植え込みや木々に囲まれた中、たぽんと湯の溜まった浴槽が用意されていた。

「外!?」

光は驚いて窓越しに風呂場を覗き込んだ。そこはまるで、夏虫のオーケストラが聴けるプライベート用の森とプールとでも言えようか。小さいシャワールームぐらいしか知らなかった光にとって、野外の露天風呂はとんでもなくゴージャスな水遊び場にしか見えなかった。

「なにこれすげえ、やっぱ入ろう、今すぐ!」
「え、ちょっ」

これまでに一緒に風呂に入ったことなら何度もある。これだけ広ければ汗も流しつつ水遊びをしても怒られないし、ついでに勝行の背中ぐらいは流してあげられると思った光は、意気揚々と勝行の手を引き、脱衣所でがばっと浴衣と下着を脱ぎ捨てた。秒で全裸になった光の横でまだまごついている勝行の腰紐にも手をかける。

「なにやってんだ、はやくしろって」
「ちょ、脱がすな、こら!」
「他に誰もいねえのに、なに恥ずかしがってんだよ」

いい加減、いい子のふりして大人しく言うことを聞くことに疲れてきたところだった。まるで女の子のようにキャアキャアと嫌がる勝行の浴衣を強引に剥ぎ取り、最後のボクサーパンツに手をかける。おりゃっ、と一気にそれを引き下げようとしたものの……。

「う、わあああああっ」
「……あ?」

勝行の声は半分泣いていたかもしれない。けれど光の目の前には、大きくそそり立つ東京タワーのような……まるで選ばれし者を待っていた地に刺さりし伝説の剣のような……とんでもなく野太い男性器がひとつ。
ボクサーパンツに納まりきらないほど、パンパンに膨れ上がっていた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

処理中です...