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第五章 VS相羽勝行
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しおりを挟む「なんで光がここに……」
部屋の奥から呻くような声が聴こえてくる。もう夜だというのに灯りひとつ点けずに佇んでいる男が一人。光と殆ど変わらない背丈、ほどよく筋肉のついた身体。いつもならきっちりしている襟は無造作に開き、髪もぼさぼさだ。目覚めたばかりで、自分の置かれた状況がいまいち読み込めていなさそうに見える。その瞳は――。
(血の色みたいだ)
「……ああそうか。片岡か……」
「……」
俯き、はあはあと肩で息をしながらゆっくりこちらを睨みつけている。桐吾を殴り続け、銃を向けていた時の姿がはっきりした記憶の中から蘇る。今ここにいるのは、確かにあの《彼》に違いない。
「あいつに助けてもらったくせに、なぜオレのところに戻ってきたんだ」
「お前に会いに来た」
「……は? オレは勝行じゃ、ないぞ……!」
「知ってる」
一歩ずつ。慎重に、落ちた本を避けながら光は部屋の奥へと進んで行く。明らかに警戒心剥き出しの《彼》は身構える。その腕があともう少しで届く――というところで、ヒュンと拳が飛んでくる音がした。
咄嗟に首をずらした瞬間、風圧が左の頬を切った。鋭利な刃物のような切っ先が、拳の隙間から反射しているのがわかる。光は冷や汗を隠すように口角を上げた。
「あっぶねえな。人殺しするくらいなら、俺とセックスしようぜって前に病院で言っただろ。忘れたのかよ」
「……っ五月蠅い……うるさい近寄るな! どうせオレのこと、消しに来たくせに!」
言い終わる前に飛んできた反対側の拳は避けきれず、頬をガツンと殴られる。ピッと血生臭い液体が飛び散った。一瞬自分の口が切れたかと思ったが、そこまでの威力を感じなくて光は違和感を覚える。
(血、どこから……)
部屋全体に残る錆臭と湿った空気。身に覚えがある、埃が焼き焦げたような匂い。生臭い腐敗臭のような――背中にぞくりと冷や汗が走った。
《彼》の右手の中に、何か武器がある。それが勝行の身体を刺そうと振り被った瞬間、光は反射で飛び込んだ。
「やめろ!」
かつて夢で視た最悪なシーンが光の脳裏に蘇る。「離せ」と叫ぶ《彼》の右腕を決死の力で抑え込んだ。逆上した《彼》は光の腹を膝で蹴り、左手で光の首を鷲掴み、引き剥がそうとする。腕力では到底勝行に叶わないが、今この身体を操っている男は違う人間だ。負けるものかと必死にしがみつく。
「勝行を殺すな……やめろ離せ!」
「うるせえ、殺す、殺せ、勝行はもうこの世に必要ねえ!」
「……っんなの誰が決めたってんだよっ」
「お前ら全員、どうせオレなんていらねえんだよー!」
悲痛な叫び声が耳元で響き渡る。そんな言葉、勝行の声で聞きたくなかった。光はぶんぶんと首を振って顎に頭突きを食らわした。
「俺には! お前が必要なんだ!」
「クソったれ、そんな適当な慰めはいらねえ!」
「いいから聞けよこの早とちり野郎!」
全身取っ組み合いの喧嘩をしながら、光は勝行の右手首を掴んで中を確認した。手の中にあるものはガラスの破片だ。足元にも無数のガラス片が散らばっている。きっとこれを手に入れるためにわざと何かを割ったのだろう。握り締めすぎてその手は血まみれになっていた。暗がりの中でそれを無理やり振り落とすと、近くにあったベッドに二人絡まったままなだれ込む。白いシーツに鮮やかな血の色が染みついていく。
「なんだよお前、本物の勝行より弱えのなっ」
「……くっ」
「あとお前、利き手が逆になってっし。勝行は左利きだ、右は弱いって知らねえのか、身体借りといてそのザマかよ!」
「うるさい!」
勝行の身体に馬乗りになって挑発すると、憤慨した《彼》が襟元を掴んで首を絞め上げてくる。だが怪我をしているせいか、普段のパワーを感じない。
首を持ち上げられたまま光は空いた手で勝行のベルトとスラックスを強引に剥ぎ取った。驚き攻撃が緩んだ隙をついて、半ば無理やり唇も奪う。上から激しく吸いつき、舌で強引に抉じ開ける。予想が正しければ《彼》は自分と同様、快楽には弱いはずだ。光は喘ぎながら眉間に皺寄せ抵抗する《彼》の反応を確認しながら、無我夢中になって下着に隠された巨大な雄芯に己の分身を擦りつける。
「はあっ……はあ……んっ……ふ……」
「んっ……くっ、や、め……っ」
言葉を交わす暇など与えない。また変なことを口走って泣き喚くぐらいなら、丸ごと塞いで封印してやる。死にたくなるぐらいなら――。
「人殺しなんかやめて、俺に付き合え」
「……な、にに……」
「決まってんだろ。セックスだよ」
そう告げると光は、迷わず《彼》の股間に顔を埋めた。
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