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第13話 ヴェルディアでの日々
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ヴェルディアの町に入って三日目。 私たちは、町の中心にある古びた酒場「灰色の樽」に通っていた。
「ここが、情報の集まる場所らしいです」
カイが、剣を腰に下げながら言った。
「でも、空気が…まだ重いですね」
ルカが、薬草の袋を抱えながら呟いた。
私は、扉を開けて中に入った。 酒場の中は、静かだった。 客たちは黙って酒を飲み、誰も名前を呼ばない。
「こんにちは。果実酒、ありますか?」
私は、カウンターの店主に声をかけた。
「あるが…甘くはないぞ」
店主は、無愛想に答えた。
「渋みも、味のうちです。 でも、果実の芯が甘ければ、私は満足です」
その言葉に、店主は少しだけ眉を動かした。
「…名前は?」
「アイリスです。 毒を食べたこともある、食いしん坊です」
店主は、ふっと笑った。
「俺は、バルド。 果実酒は、芯に少し甘みがある。 君なら、わかるかもしれんな」
私は、果実酒を一口飲んで、目を細めた。
「…渋い。でも、後味が優しい。 バルドさん、美味しいです」
その言葉に、酒場の空気が少しだけ揺れた。
翌日、私たちはまた酒場に通った。 今度は、果実のパイを持参していた。
「バルドさん、昨日のお酒に合うパイを焼いてきました。 路地のルースさん直伝です」
バルドは、驚いた顔でパイを受け取った。
「ルース? それは誰だ?」
「ふふ、今は秘密です。でも、とても美味しいパイを作ってくれる人で、バルドさんみたいに優しい目をしてる人ですよ」
私の声に彼は頬を赤く染める。照れくさそうに頬を掻いていつも通りお酒の瓶を拭く。
彼のそんな姿を見ていると酒場の隅で誰かが言った。
「バルド、今日の酒、少し甘いな」
「そうか? …まあ、アイリスが来てから、空気が変わったかもな」
バルドさんは照れながらも答える。今度は私が照れちゃう。彼なりの意趣返し、流石は酒場の店主ね。
三日目の夜、酒場の中で名前が飛び交い始めた。
「マルク、もう一杯頼む」
「リーナ、この席空いてる?」
私は、果実のパイをかじりながら言った。
「名前を呼ぶと、空気が柔らかくなりますね。 それに、パイが美味しく感じます」
ルカは笑った。
「それ、完全に食いしん坊の理論ですね」
「そんなこと言っても仕方ないじゃない。美味しく感じるんだから。 渋みも甘みも、名前で呼び合うことで整うんです」
酒場の空気が変わり始めてる。私達の空気になってる。みんなの笑顔を見ていると口に入れるものが美味しくなる。この国の名物ってなんだろうな~。セレナ達にお土産を買っていかないと。
ヴェルディアに来て、一週間が経った。 最初は重たかった空気も、今では少しずつ揺れている。本当はもっと早く帰る予定だったんだけど、予定変更。戦うことが出来ない私の出来ることをするんだ。
「アイリスさん、今日も果実パイ焼いてきたの?」
「アイリス、昨日の酒場で話してた“路地の話”もう一回聞かせてよ」
町のあちこちで、名前が飛び交うようになった。 酒場だけでなく、果物屋、薬草店、路地の小さな広場―― どこに行っても、誰かが私の名前を呼んでくれる。
「…気づいたら、私のこと知らない人がいないみたいですね」
私は、果実の皮を剥きながらぽつりと呟いた。
ルカが笑った。
「それ、すごいことですよ。 王族でもないのに、町全体に名前が届くなんて」
エマは、地図を広げながら言った。
「風は、道を選ばない。 でも、誰かが“通してくれる”と、根を張るのよ」
カイは、剣を磨きながら言った。なんだか詩人みたいね。
「君の風は、剣よりも強い。 誰も傷つけずに、空気を変えるなんて…俺にはできない」
私は、果実パイを焼きながら答えた。
「でも、私の風は“お腹”から吹いてますから。 美味しいものがあると、空気も柔らかくなるんです」
その言葉に、三人は笑った。
町の人々も、少しずつ変わっていた。
「マルク、今日の果実、甘いね」
「リーナ、昨日の話、まだ続きが聞きたいな」
「バルド、アイリスのパイ、また出してくれよ」
名前を呼び合うことで、町の空気が整っていく。 それは、王宮で起きたことと同じだった。
でも、ここではもっと素朴で、もっと静かで、 そして、もっと深く根を張っていた。
ある日、路地の奥で、年配の女性が私に声をかけた。
「あなたが…アイリスさんね。 孫が、あなたの話ばかりするのよ。 “名前を呼ぶと、風が通る”って」
私は、少し照れながら答えた。
「それ、私の母が教えてくれたんです。 “美味しいものは、誰かの名前と一緒に食べると、もっと美味しくなる”って」
女性は、目を細めて笑った。
「あなたの風、優しいわね。 この町に、ずっと吹いてほしい」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなった。
ヴェルディアの人達も優しい風を持ってた。でも、外に出すことが出来ていなかっただけ、そのきっかけになれた。とても嬉しい。
「ここが、情報の集まる場所らしいです」
カイが、剣を腰に下げながら言った。
「でも、空気が…まだ重いですね」
ルカが、薬草の袋を抱えながら呟いた。
私は、扉を開けて中に入った。 酒場の中は、静かだった。 客たちは黙って酒を飲み、誰も名前を呼ばない。
「こんにちは。果実酒、ありますか?」
私は、カウンターの店主に声をかけた。
「あるが…甘くはないぞ」
店主は、無愛想に答えた。
「渋みも、味のうちです。 でも、果実の芯が甘ければ、私は満足です」
その言葉に、店主は少しだけ眉を動かした。
「…名前は?」
「アイリスです。 毒を食べたこともある、食いしん坊です」
店主は、ふっと笑った。
「俺は、バルド。 果実酒は、芯に少し甘みがある。 君なら、わかるかもしれんな」
私は、果実酒を一口飲んで、目を細めた。
「…渋い。でも、後味が優しい。 バルドさん、美味しいです」
その言葉に、酒場の空気が少しだけ揺れた。
翌日、私たちはまた酒場に通った。 今度は、果実のパイを持参していた。
「バルドさん、昨日のお酒に合うパイを焼いてきました。 路地のルースさん直伝です」
バルドは、驚いた顔でパイを受け取った。
「ルース? それは誰だ?」
「ふふ、今は秘密です。でも、とても美味しいパイを作ってくれる人で、バルドさんみたいに優しい目をしてる人ですよ」
私の声に彼は頬を赤く染める。照れくさそうに頬を掻いていつも通りお酒の瓶を拭く。
彼のそんな姿を見ていると酒場の隅で誰かが言った。
「バルド、今日の酒、少し甘いな」
「そうか? …まあ、アイリスが来てから、空気が変わったかもな」
バルドさんは照れながらも答える。今度は私が照れちゃう。彼なりの意趣返し、流石は酒場の店主ね。
三日目の夜、酒場の中で名前が飛び交い始めた。
「マルク、もう一杯頼む」
「リーナ、この席空いてる?」
私は、果実のパイをかじりながら言った。
「名前を呼ぶと、空気が柔らかくなりますね。 それに、パイが美味しく感じます」
ルカは笑った。
「それ、完全に食いしん坊の理論ですね」
「そんなこと言っても仕方ないじゃない。美味しく感じるんだから。 渋みも甘みも、名前で呼び合うことで整うんです」
酒場の空気が変わり始めてる。私達の空気になってる。みんなの笑顔を見ていると口に入れるものが美味しくなる。この国の名物ってなんだろうな~。セレナ達にお土産を買っていかないと。
ヴェルディアに来て、一週間が経った。 最初は重たかった空気も、今では少しずつ揺れている。本当はもっと早く帰る予定だったんだけど、予定変更。戦うことが出来ない私の出来ることをするんだ。
「アイリスさん、今日も果実パイ焼いてきたの?」
「アイリス、昨日の酒場で話してた“路地の話”もう一回聞かせてよ」
町のあちこちで、名前が飛び交うようになった。 酒場だけでなく、果物屋、薬草店、路地の小さな広場―― どこに行っても、誰かが私の名前を呼んでくれる。
「…気づいたら、私のこと知らない人がいないみたいですね」
私は、果実の皮を剥きながらぽつりと呟いた。
ルカが笑った。
「それ、すごいことですよ。 王族でもないのに、町全体に名前が届くなんて」
エマは、地図を広げながら言った。
「風は、道を選ばない。 でも、誰かが“通してくれる”と、根を張るのよ」
カイは、剣を磨きながら言った。なんだか詩人みたいね。
「君の風は、剣よりも強い。 誰も傷つけずに、空気を変えるなんて…俺にはできない」
私は、果実パイを焼きながら答えた。
「でも、私の風は“お腹”から吹いてますから。 美味しいものがあると、空気も柔らかくなるんです」
その言葉に、三人は笑った。
町の人々も、少しずつ変わっていた。
「マルク、今日の果実、甘いね」
「リーナ、昨日の話、まだ続きが聞きたいな」
「バルド、アイリスのパイ、また出してくれよ」
名前を呼び合うことで、町の空気が整っていく。 それは、王宮で起きたことと同じだった。
でも、ここではもっと素朴で、もっと静かで、 そして、もっと深く根を張っていた。
ある日、路地の奥で、年配の女性が私に声をかけた。
「あなたが…アイリスさんね。 孫が、あなたの話ばかりするのよ。 “名前を呼ぶと、風が通る”って」
私は、少し照れながら答えた。
「それ、私の母が教えてくれたんです。 “美味しいものは、誰かの名前と一緒に食べると、もっと美味しくなる”って」
女性は、目を細めて笑った。
「あなたの風、優しいわね。 この町に、ずっと吹いてほしい」
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