つまみ食いしたら死にそうになりました なぜか王族と親密に…毒を食べただけですけど

カムイイムカ(神威異夢華)

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第12話 緊張にはアイリスを

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 王宮の作戦室には、重たい空気が漂っていた。 アデルは、地図を広げながら言った。

「敵の本拠地が判明した。 次の一手は、討伐だ。 この国の空を守るため、風を断ち切る者を排除せねばならん」

 セレナは、静かに頷き、レオは真剣な表情で地図を見つめていた。

 そのとき――私は、ふと手元の籠を開けた。

「…あの、皆さん。 焼きたてのパン、いかがですか?」

 三人が一斉にこちらを見た。

「アイリス…今、作戦会議中だぞ」 アデルが、眉をひそめながら言った。

「だからこそ、パンです。 渋い話には、甘いパンが必要なんです」

 私は、ふわふわの果実パンを差し出した。

「このパン、路地のルースさんが焼いてくれたんです。 “王子様が戻ってきた祝い”だそうです」

 レオは、思わず笑った。

「君って…本当に空気係だね。 重たい空気を、パンで軽くするなんて」

 セレナも、パンを手に取りながら言った。

「この香り…作戦よりも先に心が動くわね」

 アデルは、しばらく黙っていた。 そして、ふっと笑った。

「君は、風を通すだけでなく、空気を焼き直す者だな」

 私は、パンをかじりながら答えた。

「焼き直し、大事です。 焦げた空気は、ちょっと苦いですから」

 その言葉に、三人は思わず吹き出した。

「アイリス、君がいると王宮が柔らかくなる」 レオが、果実の甘みを味わいながら言った。

「でも、敵討伐は甘くないぞ」 アデルが、パンをかじりながら言った。

「だからこそ、甘いパンで始めましょう。 空気が整えば、風も強くなります」

 その日、作戦室の空気は少しだけ軽くなった。 パンの香りが地図の上に漂い、重たい話に柔らかさが加わった。


 作戦は、見事に成功した。 アデルが率いた王宮の部隊と、ギルドの冒険者たちが協力し、賊の本拠地を制圧した。私は見ていることしかできない自分に少しいらだった。

「敵の指揮官は捕らえた。 だが…問題は、その背後にいた者だ」 

 アデルは、王宮の作戦室で地図を見つめながら言った。

「黒幕は、隣国“ヴェルディア”。 かつて、王妃セレナに毒を盛った者たちの出身地だ」

 その言葉に、空気が一瞬、凍った。グレイヴの故郷ヴェルディア。

 セレナは、静かに紅茶を口にしながら言った。

「そう…やっぱり、あの国だったのね」

 アデルは、拳を握りしめた。

「私が見逃した過去が、今になって国を揺るがせた。 セレナ、お前にあんな思いをさせたのに…私は何もできなかった」

 その言葉に、セレナはふっと笑った。

「アデル、あなたは“風を通す”ことを選んだ。 それが、私にとって何よりの救いだったわ」

 そして、アイリスがそっと言った。

「私も…毒を食べたから、王族の皆さんと話すことができました。 あの出来事がなかったら、私はただの“厨房のメイド”で終わっていたかもしれません」

 レオは、驚いた顔でアイリスを見た。

「君…それを笑って言えるの?」

「はい。だって、毒の渋みがあったからこそ、今の甘みがあるんです。 人生って、ちょっと焦げたくらいが美味しいんですよ」

 セレナは、目を細めて笑った。

「アイリス、あなたの言葉は、とても柔らかいわね」

 アデルは、しばらく黙っていた。 そして、静かに言った。

「君たちが笑ってくれるなら、私はその過去を受け止めよう。 過去は消すものではない乗り越えるもの。 どんな悲惨な過去も財産となる」

 その言葉に、王宮の空気が少しだけ揺れた。

 毒を盛られた過去。 それによって生まれた絆。 そして、今の風。

 それは、渋みと甘みが混ざり合った、王宮の空気そのものだった。


 王宮の作戦室で、アデルは地図を広げながら言った。

「ヴェルディアとの外交は、正式にはまだ始まっていない。 だが、君の“風”なら、先に空気を見てくることができるかもしれない」

 私は、深く頷いた。

「わかりました。 お忍びで行きます。 でも、一人では心細いので…ギルドの仲間に声をかけても?」

「それが、君らしいな」 

 アデルは、微笑んだ。

 その日、私はギルドへ向かい、ミラに相談した。

「ヴェルディアへ行きたいんです。 空気を感じて、風が通る道を探したい」

 ミラは、少し驚いた顔で言った。

「ヴェルディアは、風が止まった国よ。 でも…あなたが行くなら、風が揺れるかもしれない」

 集まったのは、薬草師の少年ルカ、地図職人の老女エマ、剣士のカイ―― 王宮の兵ではない、でも“空気を感じる”仲間たち。

 ヴェルディアの国境を越えた瞬間、空気が変わった。

 風がない。 音がない。 人々の足音すら、どこか沈んでいた。

「…ここ、本当に風が止まってますね」 

 私は、マントを握りながら言った。

 町に入ると、建物は整っていた。 でも、窓は閉じられ、店の看板は色褪せ、笑い声はなかった。

「誰も、名前を呼び合っていない」 

 ルカが、ぽつりと呟いた。

「空気が、重いです」 

 エマが、地図を見ながら言った。

「風が通らない場所は、心も閉じてしまうんですね」 

 私は、果実の屋台の前で立ち止まった。

 店主は、無言で果実を並べていた。 私は、そっと声をかけた。

「こんにちは。とても綺麗な果実ですね」

 店主は、驚いた顔で私を見た。

「…そんなふうに言われたの、久しぶりです」

「名前、教えていただけますか?」

「…マルクです」

「マルクさん。この果実、甘そうですね。 渋みはありますか?」

 マルクは、少しだけ笑ってくれる。

「…少しだけ。 でも、芯は甘いです」

 その笑顔に、私は風を少し感じた。

「じゃあ、私が味見してもいいですか?」

 マルクは、果実を手渡してくれた。

「どうぞ。 あなたは優しい人のようだしね」

 その言葉に、私は胸が熱くなった。

 ヴェルディアの町は、確かに風が止まっていた。 でも、名前を呼び、声をかけることで―― 風は、少しずつ揺れ始めていた。
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