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第一章 神様からの贈り物

第四十一話 グゼーノ

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「うう」

「あ、やっと起きたね」

 グゼーノとの戦闘を繰り広げて、気絶させた人達を拘束しておいた。今、グゼーノが目を覚ましました。

「何だこりゃ! 全員倒したってのか! ケビンもやられてやがる!」

「いくらか逃げていったよ」

「なんて奴らだ・・」

 軽く百人はいたグゼーノとケビンのクランメンバー。今、ここに拘束出来たのは五十人といった感じ。一番最初に気絶から治ったって事はこのグゼーノが一番レベルが高いのかな?

「チキショウ、何だこの縄は、ちぎれねえ」

「皮を細長くしたものをねじって作った物だから絶対にちぎれないよ」

 ロープとかって冒険につきものだと思うから作っておいたんだよね。これだけの人達を拘束するだけの量があるかわからなかったけど足りました。

「俺はAランクの冒険者だぞ。こんな縄なんて簡単に~・・・ハァハァ。ちぎれねえ・・・」

 グゼーノはちぎれないって言っているのに頑張っています。顔も真っ赤、何だか面白い。

「ぐ~・・ハァハァ。ダメだ全然切れる気がしねえ」

「アレクの服は丈夫で凄いんだから~」

「そうかよ! それで俺に何か用か?」

 シーナの言葉に怪訝な顔になったグゼーノ、僕に視線を向けて聞いてきました。

「用はありませんけど、僕らに興味を持たないでほしいんですよ」

「俺達はお前に仲間になってほしいって思ってるだけだぜ」

「思ってるだけだったら、こんな暴力に訴えてこないでよ」

 僕の問いに答えたグゼーノにニーナが呆れて声をあげる。全く持って同意見だよ。力が欲しくて力づくで仲間にしようなんておかしいでしょ。

「綺麗ごとなんて言ってられるかよ。ザクロがクランを立ち上げるなんて聞いたら戦力増強が急務だったんだ。それなのにザクロのクランにお前達が入るらしいじゃねえか。そんなの許容できるかよ。だから、暴力で従わせようとしたんだ。全く、赤き月夜のリーダーを卒業したってのに、これじゃまたケビンを下っ端に戻さねえといけねえじゃねえか」

「ケビンは子分だったの?」

「あ? ああ、そうだよ」

「でも、親分って言ってたでしょ?」

「俺は今は路地裏の人間だからな。そうした方が示しがつくだろ。だから、呼ばせていたんだよ」

 なるほどなるほど、ザクロがクランを作るってだけで同じAランクのグゼーノは焦ってしまったわけね。それで赤き月夜から出ていたグゼーノはケビンと一緒に僕をスカウトする為に力を使ってきたと、更にグゼーノはザクロが牛耳ってしまうかもしれないと思って表に出てきたってわけか~。
 何だか凄い呆れる。

「ザクロにAランクのクランの座を取られると思ったわけ?」

「そうだよ、わり~かよ。これでもこの町の一位だからな」

「一位だと何かいいことあるの?」

「そりゃおめえ、いいクエストは最初に紹介されるし、場合に寄っちゃ指名でクエストが回ってくるんだ。そうなると、指名料を取れてギルドもウハウハ。更にギルドでも声が通るしな。だから、弟分のケビンに継がせたってのに、全く」

「ふ~ん」

 シーナは疑問をぶつけるとグゼーノは丁寧に説明してくれた。でも、座を取られるとか、そんな心配いらないんだよな~。別にザクロのクランに入ったからって、一緒に行動するわけでもないしね。
 僕らは二人でクエストをしていくだけ、しばらくしたら、村に戻って隠居生活だしね。

「心配しなくて大丈夫だよ。ザクロはクラン経営をしようと思ってないから」

「ん? それはどういうことだ?」

「実は、僕らがクランに誘われないためのカモフラージュだったんだよ」

「・・・はぁ!? じゃあ、俺達がやった事って・・・」

「うん! 無駄~」

 僕が説明するとグゼーノはガクッと聞こえる程、肩を落とした。追い打ちのシーナの言葉で更に肩を落としてます。

「グゼーノの親分~! って何だこりゃ!」

「おお、セッコか、親分はケビンだぞ、まあ、これからはまた親分だけどな。見てわかる通り、見事に負けた。これからはアレク達には手を出す事は禁止だ。それと、この事は俺達だけの秘密にしろよ」

「ええ!? これを全部・・・すげえ。・・・ってそんな事言ってる場合じゃないんですよ。大商人のクードが完全に切れた様子で傭兵ギルドの連中を率いて冒険者ギルドに乗り込んできたんです!」

「なに~、傭兵ギルドだぁ~!?」

 クードってトレドさんと同じ大商人のクードだよね。完全に切れてるって、僕らの事かな?

「クードって言えば王都グランルージュで一旗あげてる商人だな。それをキレさせるなんて、何処のどいつだ。・・・まさか」

 グゼーノはそう言って恐る恐る僕を見てきた。僕は顔を背けると彼は頭を抑えて天を仰いだ。

「そんな大物を・・・ますます気に入ったぜ。カモフラージュでもいい、俺のクランに」

「親分とにかく、ギルドにきてくだせえ、ドランは帰ってきてますが分が悪そうなんです」

「ちぃ、分かったよ。ぐわっ、そうだった、拘束されてるんだった」

 グゼーノはしつこく僕を誘ってきたけど、セッコに急かされて舌打ちをする。縄で縛られているのを忘れて歩こうとしたグゼーノは顔から倒れちゃったよ。

「ぐぬぬ、セッコ切ってくれ」

「グゼーノの親分が切れない縄・・・もらっていいかな?」

「セッコてめえ、何に使う気だ。アレク絶対に渡すなよ。こんなアーティファクトみてえな縄!」

 グゼーノは地面に顔をくっつけたまま話す。セッコは唾をごくりとのんで縄を切ってます。そんなに欲しいならあげてもいいんだけど、グゼーノは許容しないみたいなので残念だけど、僕は首を横に振って答えました。

「いくぞ、セッコ」

「お~う」

 二人はそう言ってギルドの方へと走っていった。僕らは・・・

「折角拘束したのに・・」

「仕方ないから全部回収しよう」

 そこら辺に横たわるグゼーノの部下達につけた縄を回収していきます。刃物があれば切れるので簡単なんだけど、めんどくさいな~。

「起きる前に済ませちゃおう」

「まだ説明してないから、また襲われるもんね」

 グゼーノは言うだけあって強いから早く起きたんだよね。だから、眠ってる人には説明できてないんだ。

「う、うう~ん・・」

「やばい、逃げよう」

 半分くらいの人達の拘束を解いていると声が聞こえてきた。僕はシーナとカクルに声をあげて袋小路の部屋から走り去った。二人もちゃんと僕の後についてきてます。カクルは僕らが話している間、ソファーで丸くなって眠っていました。完全に猫です。
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