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第一章 新しき世界

第20話 海へ

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「レッドドラゴンをこれだけ簡単に倒せるとおかしな感じですね」

 皆さんのレベル上げをして三日程が経った。最初は魔物の名前を知らなかった私。マジックバッグに入れて驚きましたよ。

「ドラゴンのお肉も沢山入りましたね~」

「もう、ソマツさんだけでも狩れるくらいになりました。これで心配しなくてすみます」

 ダンジョンで休憩をしながらヴィスさんとお肉をつつく。彼も80レベルまでレベルが上がってもう立派な戦士です。教会に行って職業をもらえばさらに強くなるでしょうね。

「マモルさん。ありがとうございます」

「どうしたんですか急に?」

 深くお辞儀をしてくるヴィスさん。

「シーサーペントを手懐けてすぐにでも行ってしまうと思っていたんです。皆のことが心配で僕は迷ってしまって」

「あ~、寂しそうな表情をしていたのはそう言うことだったんですね」

「そ、そんな顔してました?」

「はい」

 私の指摘に顔を赤くさせるヴィスさん。仲間のことを思って悩むなんて本当に優しい子ですね。

「しかし、本当に私と一緒に来るんですか?」

「はい! 一族を代表して僕はマモルさんに恩を返すって決めたんです」

「そうですか」

 そう言う目的もあったんですね。気にしなくていいのですが。

「ソマツさん達を守るという仕事も一族として大事ではないんですか?」

「もうかなり強くなっていますから守らなくても大丈夫です。それよりもマモルさんと一緒に……じゃなかった。マモルさんに恩を返したいんです」

 なぜか口ごもる場面もありましたがヴィスさんの決意は固いようですね。

「キャン!」

「ベヘモス? どうしたんですか?」

 ヴィスさんと話しているとベヘモスが声をあげた。ベヘモスは私の前に座るとうずくまる。

「お腹が痛いんですか? お肉のおかわりとか?」

 心配になって声をあげる。ベヘモスはそれでもうずくまったまま。

「キャン」

 少しすると声をあげるベヘモス。それと同時に体が小さくなっていくベヘモス。

「キャンキャン!」

「ち、小さくなれるんですか!?」

 黒いコリー犬のような体になったベヘモス。やはり犬だったんですね。ベロベロベロベロと私の顔を舐めてくる。小さくなったと言ってもコリー犬は大きいですね。

「まさか、僕らの話を聞いていて小さくなった?」

「キャン!」

「どうやら、そのようですね」

 ヴィスさんの指摘を聞いて声をあげるベヘモス。ある程度言葉を理解しているようですね。伊達にSランクの魔物ではないということでしょうか。

「では一緒に海を渡りたいということでいいんですか?」

「キャンキャン!」

 私の言葉を肯定するように声をあげるベヘモス。彼も私と会ってからかなり成長していますね。

「では出立の準備を致しましょうか」

「はい!」

「キャン!」

 ソマツさん達のレベルもある程度上がった。ソマツさんが一番高いレベルになっているので彼が私の代わりをすればこれから先も平和に過ごすことが出来るでしょう。

「海水を熱して塩を作ります。それを肉や魚に塗って干す。それだけでだいぶ日持ちするようになります。あとは火であぶる方法がありますが、これだけ気温の高い土地では日持ちしにくいですから気をつけてください」

 ソマツさん達にお肉を手渡して話す。泣きそうになっている皆さん。私も涙が、

「マモル様。ありがとうございました。また死の大陸に来ることがありましたら寄ってくださいね」

「はい。その時はぜひ。まあ、まずは帰れるかどうかですが」

 ソマツさんが握手を求めてくる。答えながら話すと彼の涙が限界を超えて零れ落ちる。

「ふぐっ。ふぐうっ」

「ソマツさん」

 彼の涙で私も涙がこぼれてくる。偶然の出会いからの別れ。とても悲しい。

「ご武運を!」

『マモルおじちゃんいってらっしゃい!』

 シーサーペントの背に乗って海へと旅立つ。ソマツさんと子供達の声を背中に浮けて、振り返って手を振りかえす。ヴィスさんは泣かないようにしていたようですが、小さくなっていく皆さんを見ていると顔を隠してしまいました。

「ヴィスさん。泣いてもいいんですよ」

「いえ、僕は泣きません」

 顔を隠したままの彼は揺れる瞳を海の先へと向ける。

「僕は泣けません。まだまだ弱い僕が泣いてしまったら強いあなたに甘えてしまう。マモルさんに甘えていいのは隣にいられる人だけだと思うんです。だから泣けません」

 ヴィスさんは輝き揺れる瞳を私に向けてくる。高揚する頬はまだまだ若さを示しているように感じた。

「涙はいいですよ。真っすぐで自分の弱さを見せてくれる。まだまだ自分が弱いって示してくれる」

「マモルさんは強いです」

「はは、それはステータスだけですよ。冷静でいなくちゃいけない。そんな強がりを必死に身に着けているだけです」

 これも社畜の特殊能力。上司に叱られても冷静に、お客様に叱られても冷淡に。そうやってどんどん弱くなっていくものです。

「ヴィスさんもいつか分かりますよ。弱いということが本当に弱いということなのか? ということをね」

 私の呟きを聞くとヴィスさんは分からずに首を傾げるばかり。弱さこそ強さであり、弱さでもある。弱さと強さをバランスよく持つことが大事だということを彼は学ぶことが出来るでしょうかね。
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