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第二章 黒煙

第三十三話 闇属性

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 ワティスさんと今後の事を話し合って僕はその足で教会に向かった。
 食べ物は渡したけどその後、何事もなければいいんだけど。

 コンコン

 僕は教会の扉を叩いた。人の歩く音が聞こえて扉の前に着く、それでも全然開かないから扉を少し開けるとそこに少女が立っていた。

「ルークお兄ちゃんだ!」

 昨日来た僕に気付いた少女は僕に飛びついた。昨日見た時よりも元気になっていてよかった。だけど、シスターはいないのかな?

「ラザラさんはいないの?」
「お母さんは外へ行ったの。あっ、そうだ。お兄ちゃん、来て!」

 少女は僕の手を取って二階の司祭の部屋の扉の前へ。扉はとても豪華な見た目で教会に似つかわしくない物である。

「ちぃ、最近寄付の額が少なくなってきたな。そろそろ、子供達を売り飛ばすか」

 中からそんな声が聞こえてきた。少女は指で静かにするように促しながら聞き耳を立てている。僕は司祭がこれ以上の蛮行をするつもりなのかと呆れてため息をついた。

「奴隷商の奴らが来るのは一週間後のようだが、粒を揃えておくか」
「やばっ」

 司祭の扉が開いた。扉が引き戸だったのでその一瞬で僕は少女を抱えて物陰へと隠れる。司祭は僕らに気付かずに孤児院の方へ歩いて行った。

「行っちゃった~」
「粒を揃えるとか言っていたけど、どういう意味なのかな?」

 司祭の言葉といった先を鑑みて考える。粒を揃えておくと言うのは選定なのかな。奴隷商って言っていたし、まさか。

「小僧共集まれ!」

 教会内に司祭の叫びが響いた。その声からは怒りのような感情が伺えて僕が抱えている少女は涙目になってしまった。

「お兄ちゃん怖い」
「大丈夫、君はここで待っていてね。絶対に出てきちゃダメだよ」

 少女に言い聞かせると涙目で頷いた。他の子供達も同じように怯えているかもしれない。

「ははは、嫌われたもんだな~。じゃあ、順番に見つけていって俺の目にかなわなかったら・・・くっくっく」

 不吉な事を言いだす司祭、僕は憤りを感じて握りこぶしを作った。自分勝手な主張で子供達を物としか考えていないその言動、全く碌な人間じゃないね。

「一人飯代でいくらかかるんだ~、奴隷商が来るまでいくらかかる。俺の酒代がなくなっちゃうじゃねえか!」

 司祭はどうしようもない事を叫びながら何か物を蹴った音を響かせた。様子を見ていたけど流石に見過ごせない。

「おっと、こんな所に」
「ワァ~、母さん助けて」
「あ~、母さん?どこにお前のママがいるってんだ?それにラザラなら今頃、男の所だよ。あいつ体だけは最高だからな」

 恐怖に隠れていた少年が見つかってしまった。司祭はそんな少年に心ない事を言い放っている。ラザラさんは今、別の所にいるようだけど、口ぶりからろくでもない所のようだ。

「お前は中々可愛い顔しているな。お前は売れそうだ。やめてやるか。そっちの奴出て来い」

 押入れの奥に隠れていた少し垂れ目の少女が引っ張りだされた。少女は恐怖に顔を歪めて俯いている。

「男受けしない顔、貧相な体。ダメだな・・・」
「うう」

 司祭は少女の首を掴んで持ち上げる。少女は司祭の手を掴んで悶えている。これはもう我慢できない。

「やめろ!」
「なっ誰だお前。ここは教会だぞ。お前のような奴がいていい場所じゃない」
「そんなことどうでもいい、その子を離せ」

 僕の言葉に怪訝そうな顔をする司祭アザラーノフ。その顔はにやりと笑みを浮かべることになった。

「このガキは私の所有物だ。何をしてもいい物なんだぞ」

 アザラーノフは少女の首元を見せる。そこには焼印がされていた。

「奴隷紋・・」

 常識がない僕でも知っているそれは奴隷を拘束するものだった。前回来るときに確認しておくべきだった。なんでラザラさんがアザラーノフの言う事に素直に従っていたのかを、ラザラさんも奴隷紋を刻まれているのかもしれない事を。

「こいつらは俺の物なんだよ。孤児を奴隷にして金にするんだ。これ以上に儲かる事があると思うか?それも教会という後ろ盾もあるなんて最高だよな」
「うう」

 少女を掴んだまま高笑いを続けるアザラーノフ、僕は怒りがこみあげてくる。これが上に立つ者のする事なの?これがアレイストさんが言っていた上に立つ者なの?僕は体温が上がるのを感じて握りこぶしを作った。

「教会の司祭である俺は最強だ。お前みたいなガキが何を知り得ようと無駄だ。さっさとどっかい来やがれ」
「うう、お兄ちゃん助けて」

 高笑いするアザラーノフの言葉は僕には届かなかった。少女の言葉が僕の心を燃やした。

「何だ!どうなってる」

 孤児院の部屋にあったロウソクなどの火が燃え盛り火花を散らした。部屋に入って来ていた光が男を照らす。雑巾がけの為に置いてあった桶から水が舞い上がり男の前に立ちふさがった。三属性のマナが荒ぶる。
 アザラーノフは少女を降ろすと狼狽えて震える口から言葉を絞り出した。

「お、おい。俺を殺したらこいつらも死ぬぞ。いや、俺に手を出したらこいつらは死ぬ。俺はそう命令しているんだ」

 僕はアザラーノフから見えないように水の壁を作った。その中で僕はギルドカードを取り出す。
 奴隷紋は闇属性、解除するのも闇属性の魔法が必要。ギルドカードの魔法スキルの闇を7へと上げていく。闇属性を極めた人は今まで存在していないって言われている。闇を知るには魔を知らなくてはいけないと言われているから、魔に身を置く事を意味している為に断念されていた。僕はそんな存在になっていくんだね。

 パチン
 
 僕が指を鳴らすと少女の首元にあった奴隷紋が綺麗になくなった。回復魔法も同時に使用したので綺麗になくなってくれたみたい。辺りに隠れていた全員の奴隷紋を消したのでもう彼らはこいつの奴隷ではない。

「これはどういう事だ。何で奴隷紋が」
「なんでだろうね。それで君を傷つけたらどうなるの?」
「ああああ~~」
「逃がさないよ」

 アザラーノフを、水を操るように浮かせる。人間はほぼ水、こんなこと朝飯前なんだよね。

「俺に手を出すのか!俺は教会の」
「黙れ!」

 僕は手に光のマナを集めてアザラーノフを殴りつけた。言葉の途中で殴った事でアザラーノフの舌が無残な事になってる。流石に見ていられないのでつなげておこう、気絶してくれたおかげで叫び声がうるさくなくてよかった。

「隠れてる子達みんな出てきてくれる?」

 僕の言葉を聞いてみんなが孤児院に集まってくる。全員いる事をみんなに聞くと確認しあって頷いた。全員で20人程になってしまった。それも3歳位の小さな子もいるようです。どうしよう。

「全員奴隷から解放したけど、みんなはどうしたい?」
「お母さんと一緒に暮らしたい」
「母さんも奴隷から解放してよ」

 子供達はみんなラザラさんと暮らしたいって言ってきた。やっぱりラザラさんも奴隷になってしまっていたみたい、酷い事するね。

「とにかくみんな僕の泊っている宿屋に行こうか」

 僕は子供達をこの場に留めるのはよくないと思って嗜む子牛亭に行かせることにした。僕はラザラさんを見つける為に別行動する。嗜む子牛亭にはミスリーに案内させるんだけどミスリーが来ると子供達が可愛い可愛いって騒ぎ出してしまいました。まあいいんだけど急ごうね。

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