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第二章 黒煙

第五十三話 お兄ちゃんの為に

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 僕らは馬車に乗り込んでワインプールへの街道を走ってゆく。折角なのでシャラと話をしたいと思って声をかけるんだけどムスッとするだけで返事してくれません。

「モナーナに負けて悔しいのは分かるけど黙ってても何も変わらないよ」
「・・・」
「兄さん、隷属の首輪をつけたけどこの後どうするつもりなの?」
「う~ん、ユアンに頼んで王都に移送かな」
「ええ、兄さんと離れることになっちゃうの?」

 シャラは厄災の龍として知られている。英雄候補であるユアンが捕獲に成功したという事で城に持っていかせるのだ。それによって僕は関係ありませんと決め込むのだ。すまないユアン、これも僕の楽生活の為なのだ。僕は涙を飲んでユアンにシャラを託す。

「はっはっは、ユアンは大変だね。兄さんがこんなんじゃ」
「笑いごとじゃないですよ。僕は英雄候補何て言われてるけどシャラに勝てなかったのに、モナーナと兄さんは簡単に勝っちゃって。立つ瀬がないよ。それに王都リナージュはここから僕でも一週間はかかるんだよ。シャラを届けてもたぶんすぐには帰ってこれないし。副団長には小言を言われるだろうし。僕、あの人苦手なんですよ」

 アレイストさんに笑われるとユアンがシャラに勝てなかった悔しさを語った。ユアンが愚痴をこぼすのも珍しい。あんまり人の悪口とか言わないタイプなんだけどな。

「ああ、そういえば、命令を破ってこっちにきたんだっけね。罰は免れないけど、私も手紙を書いておくし、シャラを確保したっていう手柄があるからね。すぐに帰ってこれるさ」
「仲間達にも何も言わずに来たから怒っていると思うんです。だから、それで時間がかかると思うんです」
「ああ、なるほどね」

 ユアンのチームメイトさん達か、話では3人の女の子って言ってたよね。ユアンのハーレムパーティーだね、ユアンなら納得のハーレムだ。

「それはユアンがいけないよ。クコを追う為でも仲間に相談もなしに来たんじゃ」
「・・そうだけど、それは兄さんに..ごにょごにょ」
 
 ユアンを叱るとユアンが言葉を濁した。僕が何とかって言っているけど僕のせいではないでしょ。全く、ユアンも子供じゃないんだからさ、こういう事はしっかりとね。

「もう!いいよその話は。それよりもシャラは王都に僕が送るんだよね。分かったけど僕だけの手柄にしても信じてもらえないかもしれないからアレイストさんも一緒に来てくださいよ」
「ええ、何で私が?ルークじゃないのかい?」
「兄さんが一緒じゃ兄さんの意向通りに行かないじゃないですか。兄さんの言う事は絶対だからダメです」

 ユアンがアレイストさんを巻き込み始めた。ユアンはいい子に育ったな~。僕に対して甘すぎる気もするけど、これでいいのだ。アレイストさんには悪いけど僕の盾になってもらう。

「・・まあ、ルークには色々世話になっているからここいらで借りを返すのもいいかもしれないね。でも、この埋め合わせで次合う時に一本くらい大剣を作ってくれてもいいんじゃないのかい?」
「大剣ですか?剣は自分のしか作ったことないからな~」

 武器を作るのは少し敬遠していた。武器って簡単に命を狩り取ってしまうもの、防具と違って何かを奪ってしまうもの、なのでそんなに作りたくないんだよね。まあ、弓と杖は作っちゃったけどさ。人を選んで作っているから大丈夫だと思うけど。そうなるとアレイストさんだから大丈夫だね。ちょっと頑張ってみようかな。

「いいですけど、驚かないでくださいよ」

 月下の剣は魔道具スキルを上げる前に作った物、なのでそれほど強力じゃない。主に僕のスキルで離れた物を切断していたけど、今作る剣はたぶん何かしらの現象を及ぼしてしまうほどの物になってしまうと思う。絶対にみんな驚いてしまうと思うんだよね。

「ルークが予め言うんだからそれ相応のものなんだろうね。楽しみにしているよ。シャラとユアンは私が責任をもって王都リナージュに送り届けるよ」

 これで僕の心配は一つ消えた。僕の英雄生活が無くなってくれる事を祈ろう。さあ、楽生活の為にも孤児院の人員を確保だ。・・・あれ?楽生活の為なのに孤児院ってわけわからなくなってきた。とりあえず心配事をすべて無くしてから楽生活の事を考えよう。

 この後、僕らは野営を一日してワインプールへと帰還する。野営では小屋を出したので何事もなく過ごせました。ワインプールへの街道途中で見張りを交代した冒険者パーティーも拾って帰還したんだけどそれで少し時間がかかってしまった。
    それでも何とか次の日の昼には帰れた。レンガさん達は馬車にも驚いていたけどリザードマン達を倒したことを教えると更に驚いていました。

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