魔王を討伐して無職になった勇者だけど、チートな幼女に運良くお世話されているから勝ち組かもしれない

八神鏡

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第三十五話 みんなを守るために

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 ごはんを食べ終えた後、俺たちは木陰でゆっくりと休んでいた。

「風が気持ち良いわね……」

 エレオノーラの言葉通り、吹き抜ける風がとても心地良い。
 木陰なので暑さを感じることもなく、最高のひとときを過ごせていた。

「下僕。ちょっと、肩借りるわね」

 木陰にもたれて座っていた俺の肩に、エレオノーラがもたれかかる。
 それを皮切りに、他の子たちも次々と俺に近づいてきた。

「あー! サキも、パパにくっつく!」

 サキちゃんが俺の膝に飛びついてきた。右ひざに頭をのせて緩みきった笑顔を浮かべている。
 その反対側には、マニュが頭をのせてきた。

「にひひっ。わたしはこっち側を借りるねっ」

 悪戯っぽい笑顔で、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。こら、膝の付け根部分であんまり動かないで……

 この邪神は行動が挑発的だから困る。

「わたくしも……よろしくお願いします」

 エレオノーラの反対側の肩には、ルーラが身を寄せてきた。エレオノーラほどもたれかかってはいないが、やけに体を密着させてきている。

「……熱くない?」

 五人がぴったりと身を寄せ合っているのだ。
 いくら木陰で涼しいからと言っても、限度がある。

 しかし四人とも離れようとしなかった。

「どうか、このままで……」

「無粋ね。暑さを我慢してでも下僕にくっつきたいっていう乙女心を察しなさいよ」

「おにーちゃん、もしかして照れてるの~? まさか子供と密着して興奮するわけないだろうし、別にこれくらいいいよね!」

「んにゃ……サキね、そろそろおねむなの」

 各々の言い分に、俺は苦笑することしかできなかった。

「うん……分かった。このまま、少しだけ休もうか」

 五人で、ただ静かに時間を過ごす。
 いつもは騒がしいほどに賑やかだけど、この瞬間はみんな大人しかった。

 こういうのも、悪くない。

 とても穏やかで、幸せな時間に身を任せる。

「…………」

 次第に、みんな微睡んでいく。

 そして、少しもしないうちにサキちゃんが寝息を立て始めたかと思えば、マニュもエレオノーラもすっかり眠ってしまい、ルーラも眠気に負けたのか俺に体重を預けていた。

 こんなにも気持ちが良いのだ。
 眠くなるのもしょうがない。

「……あふぅ」

 俺もなんだか眠くなってきた。
 周囲には何もない。だから、俺も少しくらいなら眠っても良いだろう。

 そう思いはしたが、一応何かあったらすぐに目を覚ませるように、警戒だけはしておくことにした。

 なんとなくそうしないといけない気分になったのである。
 眠りながらも、周囲の気配は探っていた。



 だから、俺が真っ先に気付くことが出来たのだ。



「……っ!?」

 不意に嫌な予感がして、俺は目を開けた。
 なんだか空気がおかしい。眠る前までに感じていた穏やかな雰囲気も、どこかに消えていたような気がしたのだ。

 一応、四人の子供たちはまだ眠っている。
 あまりにも幸せそうに眠っているので、起こすかどうかためらったが……次の瞬間には、その迷いも消えていた。

 唐突なできごとだった。

「あれは――魔物!」

 いきなり、崖の向こうから大型の獣が姿を現したのだ。

『グルァ……!!』

 唸り声を上げるのは、四足歩行の魔物だ。
 俺の倍以上に大きい、狼のような形状をしている。

 生物を殺すことに特化した爪と牙が危険な生物だ。

「起きて、みんな」

 目をそらさないように注意しながら、四人に呼びかける。

 俺が身体を揺らすと、四人はすぐに目を覚ましてくれた。

「これは……」

「魔物、ね」

「ありゃりゃ? 奥からやって来たのかな~……邪魔されて、むかつくかもっ」

 魔物を目にした途端、ルーラ、エレオノーラ、マニュが立ち上がった。
 魔物の出現に驚いてはいるようだが、別段動揺はないように見えた。

「パパっ……」

 一方、サキちゃんは明らかに怯えていた。普段の元気いっぱいな様子が消えて、俺にギュッとしがみついている。

 怖いのだろう。彼女をあやすように抱きしめながら、俺もゆっくりと立ち上がった。

「みんな……下がってて」

 そして俺は前に出る。

「俺が、やる」

 戦うのは俺だと、みんなに伝えたのだ。
 すると、サキちゃん以外の三人はポカンとしたように俺を見る。

「え? でも、おにーちゃん……体、動かないよねっ? だいじょーぶだよ、わたしが軽く蹴散らすから」

 邪神のマニュが戦うと、そう言ってくれた。
 だが、それはおかしいと俺は反論した。

「マニュはもう『邪神』じゃなくて『女の子』として生きてるでしょ? だったら、戦うな」

「……え」

 戦闘なんて、この子には相応しくない。
 邪神ではなく、今は『女の子』として俺たちの家にいるのだ。

 邪神の力なんて、使ってほしくなかった。

「エレオノーラも、戦わなくていい。確かに魔王の娘だし、力はあるんだろうけど……それは関係ないよ。俺に任せてほしい」

「……そう」

 そして、魔王の娘にも同じような理由で、戦ってほしくない。
 力を振るうことがそもそも、エレオノーラには似合わないのだから。

「ルーラ……信じられないかもしれない。だけど、信じてくれ」

「……っ」

 最後に、俺を最も心配してくれているであろう彼女に、言葉を告げる。
 大丈夫だから、と。はっきりそう言っておいた。

「色々、言いたいことはあるかもしれないけど……たまには、年上らしいことさせてほしい」

 あえて、彼女たちの反応は見なかった。
 否――見れなかった。

 どういう顔をしているのかは気になる。

 だが、どんな顔をしていたって、俺の覚悟は変わらない。

 彼女たちに、戦いなんてしてほしくない――ただ、それだけだった。

「サキちゃん、ごめんね……ちょっと行ってくる」

 俺に抱き着くサキちゃんを優しくほどいてから、俺は魔物と対峙する。

「これでも、元勇者だから……みんなのこと、守るよ」

 みんなを守るために――
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