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第二話「演劇クラス再始動!」5
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知枝は心の中で呟いた。いつだって想像を超えてくる彼の芸術、光の手を握る手に少しばかり力が入る、膨れ上がってくる焦燥感の中でそれは知枝の決意の表れだった。
(きっと、もう、私たちは避けられない運命の輪の中に巻き込まれている。
そしていずれ、知ることになるのだろう、災厄の真相と、一人の魔法使いの物語を)
どこから与えられたか分からないような予感の芽生え、これが黒沢研二の決意であるならば、きっとこの先に待ち受けるものは……。知枝の心に芽生える不安と共に、そんなことを考えてしまうほどだった。
*
羽月は学校の屋上で同じく空中絵画を眺めていた。
長い髪が夕陽に焼けた空に靡いた。
一人きりの時や、浩二と二人の時しか付けないようにしている眼鏡を掛けて、その美しさに酔いしれる。
「まるで、あの日のキャンプファイヤーのような輝きね」
羽月もまた、美しく幻想的な光景を目の前に感傷に浸っていた。
一度は忘れようとしたこと、でも、自分の気持ちに正直でありたかった。そんな気持ちが、浩二との約束を果たそうという気持ちにつながっていた。
また、あの頃のように、そこまでは過ぎた願いだと思いながら、浩二とクラスメイトになれたことを、素直に歓迎し、受け入れた羽月だった。
*
“魔法使いと繋がる世界”
SNSやメタバース内で予告された、次世代美術の画家と称されるエルガー・フランケンの新たな傑作。
その光景は30分後には跡形もなく消えて、そのあとには、陽が落ちて代り映えのしない、いつもの静かで穏やかな夜空が広がっていた。
「また、一緒に演劇ができるね」
嬉しそうに、瞳を輝かせた唯花が言った。
「あぁ、また、一緒だな」
あと一年、その先のことなんて今は分からない、だからこそ一緒に演劇が再びできる喜びを共に分かち合うのだった。
「すごかったの!! もういっかいみたい!!! またみれるかなーーー?」
名残惜しそうに言葉を紡ぐ真奈の姿
また空に綺麗な絵画が埋め尽くされるのはいつのことになるのか
変わらないこと、変わっていくこと
その一つ一つを、彼らは受け止めながら、今日を生きていく
「真奈はまだ小学生に上がったばかりなんだから、これから、何回でも見れるさ」
浩二は真奈の頭を優しく撫でる。
その愛情が本物であればあるほど、親密な関係が育まれていく。
浩二はこのままずっと、穏やかに、健やかに、真奈が成長していくことを願ってやまなかった。
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