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第二十四話「死地を駆け抜けて」3
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「ふっ、決まったな。では、俺は舞台袖で先に待っている。
舞台の上では、その涙は見せないようにな、知枝」
表情を柔らかくさせた研二はいつも通りのキザな言葉を吐いて、舞台に立つ意思を示した知枝の姿に安心すると、一人先にマンションから出て、姿を消した。
「何よ……、勝手にまた呼び捨てにして……」
知枝はいつも通り振舞う研二の勝手な態度に悪態をついた。
「相変わらずですね、あの不愛想でキザな様子は」
目の前を風のように過ぎ去っていった研二を見て、プリミエールは呟いた。
「プリミエール、あのキザ男と知り合いだったの?」
知枝は涙を拭きながらプリミエールに聞いた。
「世界各地で色々と有名な方ですから、彼のことは凛翔学園転校前から多少は面識があります。
あの方がわてぃしのことなど憶えているかは、存じませんがね」
顔の広いプリミエールとはいえ知枝はプリミエールと研二が面識ある事に驚いた。
それならば黒沢研二の身辺調査報告書を素早い対応で正確に上げてきたことにも納得できるというものだ。
調べ上げた当の本人であるプリミエールは本質的に知枝が役立つ情報を調べ上げられなかったためか、あまりそのことには気にしていない様子だったが、知枝はそれでも感謝していた。
プリミエールは舞の傍に寄り、その場に座ると、どこかから取り出した救命道具で、慣れた手付きで応急手当を始めた。
毎度のことながら、どうしてプリミエールはその時々で都合のいいものを手元から取り出せるのか、知枝にとって一向にその手法が見えてこない謎だった。
「舞? 本当に大丈夫?」
知枝も心配そうに舞に駆け寄って声を掛ける。
それを見て浩二も舞の元に駆け寄った。
「無理すんなよ、本当に、さっきのは死んだかと思ったぞ……」
本物の拳銃を見るのもおそらく過去に記憶のない浩二は、内心は最もヒヤヒヤとした心境で騒動の中にいたのだった。
「そんな、大丈夫ですよ。まだ痛みを感じていられるから。
ちょっと声を出すのは辛いのでアレですが、って、先輩あんまり乙女の身体をまじまじと見ないでください」
「あぁ、すまん。舞が相手だとつい……」
浩二は止血をするために素肌を晒していた舞の身体に視線が入っていた。
「もう、失礼しちゃいますねっ、先輩は。
でも、ちょっと先輩の知枝を守ろうとする姿はカッコよかったですよ」
プリミエールは応急手当をするために舞の服を脱がして、銃弾を抜いて、信じられないくらい慣れた手つきで背中に包帯をグルグルと巻いていた。
その間、舞はあまりの手際の良さに何度も悲鳴のような声を上げていた。
「当たり所がよかったから治療すればなんとかなりますが……、舞様のおてんば娘なところは心配ですね」
初対面でありながら遠慮ないボディタッチで舞を丁寧に治療するプリミエール。研二がここを離れてしまった後では、プリミエールが最も冷静に現状を判断し必要な行動をしていた。
「あいたたたぁぁあああたたぁ……」
舞は治療の間、激痛のあまり顔を歪ませながら、なんとか痛みに堪えていた。
「舞、プリミエールは私の秘書であり、頼りになるお世話係だから。この場は痛みを我慢して信じてあげて」
知枝は舞の容体を心配しながら舞に言った。
「うん、この際、病院まで連れて行ってくれるなら、誰であろうとわがまま言わないわ」
痛みに堪えながら言う舞を見て、銃弾をまともに受けながらも重傷とはいかない様子に知枝は少し安堵した。
「それでは、舞様のことをわてぃしに任せてお二人は会場に向かってください。
病院にはわてぃしがお送りしますので、お嬢様はこの場は殿方と会場へお急ぎください」
プリミエールが浩二のことを”殿方”と呼んだことにキャラぶれし過ぎてザワっとしたものを感じながら、知枝は遠慮なく手を伸ばして身長差のある浩二の服の袖を掴んだ。
「樋坂君、さぁ行きましょう。舞のことはプリミエールに任せて、犯人たちも警察が来たら逮捕してくれるはずだから、倒れている間にね?」
知枝はプリミエールに浩二と話す様子を見られると、どうにも調子が狂いそうになり、浩二を急かした。
「そうか? 何か警察が来る前に立ち去って事情聴取も受けずに行くのは気が引けるけど……、仕方ないよな」
浩二は正義感から頭の中では”仕方ないことはないだろ!”と思いつつも、舞台が待っている知枝のためにも同行することにした。
(稗田さんを一人きりにさせるわけにもいかないから……、今はこうするしかないか)
いずれ、警察から事情聴取を受け、全員が長い説教をされることになることは目に見えていたが、浩二はそのことを今は考えないことにした。
こうして浩二と知枝は、この場に残るプリミエールと舞に断りを入れて、マンションを降りてタクシーに急いで乗り込んだ。
舞台の上では、その涙は見せないようにな、知枝」
表情を柔らかくさせた研二はいつも通りのキザな言葉を吐いて、舞台に立つ意思を示した知枝の姿に安心すると、一人先にマンションから出て、姿を消した。
「何よ……、勝手にまた呼び捨てにして……」
知枝はいつも通り振舞う研二の勝手な態度に悪態をついた。
「相変わらずですね、あの不愛想でキザな様子は」
目の前を風のように過ぎ去っていった研二を見て、プリミエールは呟いた。
「プリミエール、あのキザ男と知り合いだったの?」
知枝は涙を拭きながらプリミエールに聞いた。
「世界各地で色々と有名な方ですから、彼のことは凛翔学園転校前から多少は面識があります。
あの方がわてぃしのことなど憶えているかは、存じませんがね」
顔の広いプリミエールとはいえ知枝はプリミエールと研二が面識ある事に驚いた。
それならば黒沢研二の身辺調査報告書を素早い対応で正確に上げてきたことにも納得できるというものだ。
調べ上げた当の本人であるプリミエールは本質的に知枝が役立つ情報を調べ上げられなかったためか、あまりそのことには気にしていない様子だったが、知枝はそれでも感謝していた。
プリミエールは舞の傍に寄り、その場に座ると、どこかから取り出した救命道具で、慣れた手付きで応急手当を始めた。
毎度のことながら、どうしてプリミエールはその時々で都合のいいものを手元から取り出せるのか、知枝にとって一向にその手法が見えてこない謎だった。
「舞? 本当に大丈夫?」
知枝も心配そうに舞に駆け寄って声を掛ける。
それを見て浩二も舞の元に駆け寄った。
「無理すんなよ、本当に、さっきのは死んだかと思ったぞ……」
本物の拳銃を見るのもおそらく過去に記憶のない浩二は、内心は最もヒヤヒヤとした心境で騒動の中にいたのだった。
「そんな、大丈夫ですよ。まだ痛みを感じていられるから。
ちょっと声を出すのは辛いのでアレですが、って、先輩あんまり乙女の身体をまじまじと見ないでください」
「あぁ、すまん。舞が相手だとつい……」
浩二は止血をするために素肌を晒していた舞の身体に視線が入っていた。
「もう、失礼しちゃいますねっ、先輩は。
でも、ちょっと先輩の知枝を守ろうとする姿はカッコよかったですよ」
プリミエールは応急手当をするために舞の服を脱がして、銃弾を抜いて、信じられないくらい慣れた手つきで背中に包帯をグルグルと巻いていた。
その間、舞はあまりの手際の良さに何度も悲鳴のような声を上げていた。
「当たり所がよかったから治療すればなんとかなりますが……、舞様のおてんば娘なところは心配ですね」
初対面でありながら遠慮ないボディタッチで舞を丁寧に治療するプリミエール。研二がここを離れてしまった後では、プリミエールが最も冷静に現状を判断し必要な行動をしていた。
「あいたたたぁぁあああたたぁ……」
舞は治療の間、激痛のあまり顔を歪ませながら、なんとか痛みに堪えていた。
「舞、プリミエールは私の秘書であり、頼りになるお世話係だから。この場は痛みを我慢して信じてあげて」
知枝は舞の容体を心配しながら舞に言った。
「うん、この際、病院まで連れて行ってくれるなら、誰であろうとわがまま言わないわ」
痛みに堪えながら言う舞を見て、銃弾をまともに受けながらも重傷とはいかない様子に知枝は少し安堵した。
「それでは、舞様のことをわてぃしに任せてお二人は会場に向かってください。
病院にはわてぃしがお送りしますので、お嬢様はこの場は殿方と会場へお急ぎください」
プリミエールが浩二のことを”殿方”と呼んだことにキャラぶれし過ぎてザワっとしたものを感じながら、知枝は遠慮なく手を伸ばして身長差のある浩二の服の袖を掴んだ。
「樋坂君、さぁ行きましょう。舞のことはプリミエールに任せて、犯人たちも警察が来たら逮捕してくれるはずだから、倒れている間にね?」
知枝はプリミエールに浩二と話す様子を見られると、どうにも調子が狂いそうになり、浩二を急かした。
「そうか? 何か警察が来る前に立ち去って事情聴取も受けずに行くのは気が引けるけど……、仕方ないよな」
浩二は正義感から頭の中では”仕方ないことはないだろ!”と思いつつも、舞台が待っている知枝のためにも同行することにした。
(稗田さんを一人きりにさせるわけにもいかないから……、今はこうするしかないか)
いずれ、警察から事情聴取を受け、全員が長い説教をされることになることは目に見えていたが、浩二はそのことを今は考えないことにした。
こうして浩二と知枝は、この場に残るプリミエールと舞に断りを入れて、マンションを降りてタクシーに急いで乗り込んだ。
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