魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~

shiori

文字の大きさ
129 / 157

第二十四話「死地を駆け抜けて」3

しおりを挟む
「ふっ、決まったな。では、俺は舞台袖で先に待っている。
 舞台の上では、その涙は見せないようにな、知枝」


 表情を柔らかくさせた研二はいつも通りのキザな言葉を吐いて、舞台に立つ意思を示した知枝の姿に安心すると、一人先にマンションから出て、姿を消した。

「何よ……、勝手にまた呼び捨てにして……」

 知枝はいつも通り振舞う研二の勝手な態度に悪態をついた。

「相変わらずですね、あの不愛想でキザな様子は」

 目の前を風のように過ぎ去っていった研二を見て、プリミエールは呟いた。

「プリミエール、あのキザ男と知り合いだったの?」

 知枝は涙を拭きながらプリミエールに聞いた。

「世界各地で色々と有名な方ですから、彼のことは凛翔学園転校前から多少は面識があります。
 あの方がわてぃしのことなど憶えているかは、存じませんがね」

 顔の広いプリミエールとはいえ知枝はプリミエールと研二が面識ある事に驚いた。
 それならば黒沢研二の身辺調査報告書を素早い対応で正確に上げてきたことにも納得できるというものだ。

 調べ上げた当の本人であるプリミエールは本質的に知枝が役立つ情報を調べ上げられなかったためか、あまりそのことには気にしていない様子だったが、知枝はそれでも感謝していた。

 プリミエールは舞の傍に寄り、その場に座ると、どこかから取り出した救命道具で、慣れた手付きで応急手当を始めた。
 毎度のことながら、どうしてプリミエールはその時々で都合のいいものを手元から取り出せるのか、知枝にとって一向にその手法が見えてこない謎だった。

「舞? 本当に大丈夫?」

 知枝も心配そうに舞に駆け寄って声を掛ける。
 それを見て浩二も舞の元に駆け寄った。

「無理すんなよ、本当に、さっきのは死んだかと思ったぞ……」

 本物の拳銃を見るのもおそらく過去に記憶のない浩二は、内心は最もヒヤヒヤとした心境で騒動の中にいたのだった。

「そんな、大丈夫ですよ。まだ痛みを感じていられるから。
 ちょっと声を出すのは辛いのでアレですが、って、先輩あんまり乙女の身体をまじまじと見ないでください」

「あぁ、すまん。舞が相手だとつい……」

 浩二は止血をするために素肌を晒していた舞の身体に視線が入っていた。

「もう、失礼しちゃいますねっ、先輩は。
 でも、ちょっと先輩の知枝を守ろうとする姿はカッコよかったですよ」

 プリミエールは応急手当をするために舞の服を脱がして、銃弾を抜いて、信じられないくらい慣れた手つきで背中に包帯をグルグルと巻いていた。
 その間、舞はあまりの手際の良さに何度も悲鳴のような声を上げていた。

「当たり所がよかったから治療すればなんとかなりますが……、舞様のおてんば娘なところは心配ですね」

 初対面でありながら遠慮ないボディタッチで舞を丁寧に治療するプリミエール。研二がここを離れてしまった後では、プリミエールが最も冷静に現状を判断し必要な行動をしていた。

「あいたたたぁぁあああたたぁ……」

 舞は治療の間、激痛のあまり顔を歪ませながら、なんとか痛みに堪えていた。

「舞、プリミエールは私の秘書であり、頼りになるお世話係だから。この場は痛みを我慢して信じてあげて」

 知枝は舞の容体を心配しながら舞に言った。

「うん、この際、病院まで連れて行ってくれるなら、誰であろうとわがまま言わないわ」

 痛みに堪えながら言う舞を見て、銃弾をまともに受けながらも重傷とはいかない様子に知枝は少し安堵した。

「それでは、舞様のことをわてぃしに任せてお二人は会場に向かってください。
 病院にはわてぃしがお送りしますので、お嬢様はこの場は殿方と会場へお急ぎください」

 プリミエールが浩二のことを”殿方”と呼んだことにキャラぶれし過ぎてザワっとしたものを感じながら、知枝は遠慮なく手を伸ばして身長差のある浩二の服の袖を掴んだ。

「樋坂君、さぁ行きましょう。舞のことはプリミエールに任せて、犯人たちも警察が来たら逮捕してくれるはずだから、倒れている間にね?」

 知枝はプリミエールに浩二と話す様子を見られると、どうにも調子が狂いそうになり、浩二を急かした。

「そうか? 何か警察が来る前に立ち去って事情聴取も受けずに行くのは気が引けるけど……、仕方ないよな」

 浩二は正義感から頭の中では”仕方ないことはないだろ!”と思いつつも、舞台が待っている知枝のためにも同行することにした。

(稗田さんを一人きりにさせるわけにもいかないから……、今はこうするしかないか)

 いずれ、警察から事情聴取を受け、全員が長い説教をされることになることは目に見えていたが、浩二はそのことを今は考えないことにした。

 こうして浩二と知枝は、この場に残るプリミエールと舞に断りを入れて、マンションを降りてタクシーに急いで乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...