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第七話「決意の先へ」4

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 私と叔父で話をしていると、光と叔母さんから階段を降りてリビングまでやってきた。

「お姉ちゃん、来れたんだね」
「うん、お邪魔してます」

 光の元気そうな声に私は優しく言葉を返した。

「そっか、本当に夢みたいだ……」
「ふふふっ、光って相変わらず可愛いんだから、ずっと立っていないで早く座って? 私の隣、空いてるから」

 そう私が言うと光は遠慮がちなまま、身体を固くして緊張気味に私の隣に座り、叔母さんは叔父さんの隣に座った。こうして五人が三つのソファーに座り、挨拶を交わすこととなった。

「もうすっかり光と仲が良くなったそうで、よかったわ」
「おかげ様で、4年前に初めて話してから、早く会えたらなと思っていました」

 人前で話すことに慣れている私は礼儀正しく祖母に返事を返した。
 私が優しく光の手に触れると、光はどうしていいか分からない様子で、さらに緊張しているのか、顔を赤くしてこちらを見れないようだった。

「そうですね、せっかくですから、昔話をしましょうか。こうして顔を合わすことが出来たら話そうと思っていたのです」

 叔父さんがそう言うとアルバムを取り出して、テーブルに置いた。
 私も知らない小さい頃の舞と光の写真がたくさんあった。

「アルバムですか、わざわざ残していたんですね」
「私たちにとっては念願の子どもと過ごす日々でしたから」

 今ではほとんどの人が写真はデータに残しているだけで、こうしてアルバムという形で飾ったり、保管する人はめっきり減ってしまった。写真は長時間保存すると劣化してしまうなど、理由は様々だが、そういう時代の変化の中でこうして印刷して保管しているということは、家族の愛情の形を残したいという意思の表れだろう。

 運動会や演劇、入学式や卒業式、二人の成長していく姿をアルバムを通して見ていると時間旅行をしているような気持ちになった。

 私の知らない、水原家の愛情を感じて心が洗われるようだった。
 
 でも、ふと止めよう止めようと思っているのに四人で並んで撮っている写真を見るとつい考えてしまう……。


 “どうして、この中に自分はいないのだろうと”


 前提として私たちの家系を思い返すと、少し複雑かもしれない。

 私の祖母、稗田黒江ひえだくろえの娘である稗田凛音ひえだりんねと水原家の長男、水原隆二郎みずはらりゅうじろうが結婚して、私たち三つ子が産まれた。

 私の実母である凛音お母さんには魔法使いの素質があったと祖母から聞いたことがある。そういう事情もあり、水原家との婚約は後継者を残したい祖母の望みを叶えられることになり、水原家も望み通り豪族である稗田の傘下さんかに入ることとなった。

 そんな双方の利益から振り返っていると叔父である水原和志みずはらかずしさんから、昔話が始まるようで、耳を澄ませて聞くことにした。



「そう、あの日、私たち夫婦も凛音さんの出産の日を稗田家で見守っていたのです。

 凛音さんは自宅出産を選び、出産は稗田家本邸で行われました。

 産まれてくる子どもが三つ子であると判明した後から、母体は出産に耐えられるのか、子どもは元気に、健康に産まれてきてくれるのか、私たちはずっと気がかりでなりませんでした。

 兄は凛音さんの夫という立場でしたから出産に立ち会っていましたが、私たちは無事に出産を終えてから立ち会うこととなりました。

 凛音さんの身体の心配と子ども達の心配、そのどちらも予断を許さないものでしたので、待っている時間、平穏無事に終わることを妻と一緒に祈り続けていました。
 やがて赤ん坊の大きな泣き声が聞こえ始めました。産まれた赤ん坊の無事と、凛音さんの汗を搔き疲れながらも優しい笑顔をしている姿を見て、私たちは本当に安堵したものです。

 しかし、問題がありました。

 稗田家は後継者となる子ども以外は求めていなかったのです。

 私たちは信じられない気持ちでしたが、三つ子の誕生は稗田家にとって想定外であったようです。一度に産まれる子の人数が多ければ魔女の力が分散されてしまう、そんな言い伝えを本気で信じていたそうです。

 凛音さんの母親である黒江叔母さんは私たちが部屋に入った時には、すでに一人の赤ん坊を抱えていました。
 そう、それが最初に産まれ落ちた知枝さんだったのです。
 黒江叔母さんは大きな声で産声を上げる赤ん坊に満足げで、残された二人には興味がないようでした。

 すみません、こんな話をしてしまって」

 叔父さんは申し訳なさそうに言った。
 当時の事は私も知らないことが多いだけに、想像するだけで胸が苦しくなった。

「いえ、気になさらないでください。お二人の気持ちだって大切なことです。子の将来を案じて考えるのは、大人たちの役目であるのですから」

 私はそう言って叔父さんの心情をフォローした。内心言えば、私は祖母から様々なことを教わってきたことから複雑な心境であった。
 
 誰も口を挟むことなく、叔父さんは静かに話しを再開した。
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