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37 朱丸の執事

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「朧センセ!安心しな。今度は俺たちが守ってやるってば」
「な!生意気にゃー!京平のくせに!!」

京平に飛びついて、猫パンチを繰り出す朧だが、その攻撃は優しかった。

「本当に、無理だけはしないでよ。俺たちを少しは信じてくれよな」

佐久夜は、そっと朧の頭を撫で、優しく微笑んだ。まだ、尻尾は少し膨らんではいるけど、朧も佐久夜の顔を見て、コクリと頷いた。

「それで、どうやって『オモテ』に戻るの?」
「スセリビメに会って、『ウラ』からの門を開けてもらうにゃ」
「それって、僕がこっちに来た方法と同じ?」
「そうにゃ。神には、『オモテ』と『ウラ』を通じる門を開けることができるにゃ。あのちんちくりんだって朱丸を送ってきたにゃ」

朱丸は、神社脇の黄泉比良坂 よもつひらさかの門を潜って『ウラ』にやってきた。

「何かね、バァっと霞で周りが見えなくなってね、真っ直ぐ絶対振り返っちゃダメって言われてたから、ひたすら前に進んだんだよ。そしたら気がついたら、知らない町の中にいたよ」

とってもわかり辛い説明をする朱丸。佐久夜は、うんうんと頷いて聞いていた。

「じゃあ、取り敢えず朱丸の言う、町に言ってみようよ」
「待つにゃ。その前に、朱丸、その八つ手を渡すにゃ」
「えぇ!僕、良いもの貰ったと思ったのに…」

両手に持っている八つ手の葉、仰ぐ回数で、様々な風を巻き起こす事ができ、朱丸はとても気に入ってしまっていた。

少し頬を膨らます朱丸に、有無を言わさず朧は、八つ手を奪い取った。

「朧のオッチャン!おーぼーだ!それ、おーぼーって言うんだぞ」
「朱丸さま、俺が朱丸さまのために、八つ手の葉を用意しますから」
「本当か?天狗どん、約束だぞ」

すっかり、朱丸の執事状態の天狗に、佐久夜と京平は吹き出してしまった。

「天狗さん、どうも、ありがとう。それで、この八つ手どうするの?」

朧は、八つ手を地面に置くと、その葉の前に立った。右前足をゆっくり顔の前に持ってきて、瞳を閉じた。

「何だろうアレ」
「シッ。朧、集中してるみたいだから」

後ろから佐久夜と京平は、黙って見守っている。暫くすると、朧は、カッと瞳を大きく開いた。

「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」

中指の爪をジャキンと伸ばして、ザッザッザッザッと八つ手に加工を施していく。丸く二つ丸い穴を開け、真ん中には文字らしき跡。

「す、素晴らしい!」

天狗は、両掌を合わせ指を絡ませ、乙女のように朧の後ろ姿を見つめていた。

「佐久夜、俺には、猫が葉っぱで戯れついているようにしか見えないんだけど…」
「後で、また朧に噛みつかれるよ」

無心に爪で、八つ手に何かをしている朧を、佐久夜たちは見守っていた。










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