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38 八つ手

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「ささ、町はこの先になりますぞ。みなさま、足元が抜かるんでおりますので、気をつけてくだされ」

ナビゲーターに天狗に続いて、朱丸、佐久夜、京平、朧の順番で連なって歩いている。佐久夜と京平の顔面には、朧が即席で作った八つ手のお面が付けられている。

「人間だと解らないようになる面にゃ。絶対に、『ウラ』では、外したらダメにゃ」

朧から渡されて、佐久夜と京平は、そのお面を顔に貼り付けた。

「確かに、これなら人間とはわかりませんね。朧さまの高度な妖術には、感銘致しまする」

佐久夜と京平には、ただの八つ手で作られた面を被っているようにしか、見えないのだが、天狗には違う何かに見えているようだった。

「朱丸、俺たちどう見えるんだ?」
「んとね、佐久夜兄ちゃんは、僕と同じ鬼火で、京平兄ちゃんは……バッタ?」
「はい、立派なトノサマバッタでございます」
「朧センセ、やり直しを要求します。俺も妖が良いです」

バッタと言われた京平は、即座にやり直しを要求した。

「却下にゃ。バッタで十分にゃ!」
「佐久夜ばっかり、ズルい」

京平は、口を尖らせ不満を言うが、朧は、京平の要望を叶える気はなかった。

そして、佐久夜一向は、窟を出て町に向かって歩き出した。天狗が、茂みを掻き分け、道を作っていく。

「まるで道なき道だね」

佐久夜が、ポソリと呟くと、天狗がその疑問に答え始めた。

「窟は本来魂が集まるところ。魂は、霊体ですので、茂みなんぞは、障害物になりませんからねぇ」
「でも、俺たち人間の姿のままだよ?」
「そうですね。よくもそのお姿のままでいらっしゃると思いますよ、京平さま」

天狗が、京平の姿が人間のままである事が、朧が弱っていた原因だと気がついていた。

「俺?」

京平は、自分が名指しされたため、自分の顔に指を挿して尋ね返す。

「そうです。佐久夜さまは、『オモテ』の神使と伺いましたので、『ウラ』でも姿が保てたのでしょう。問題は、京平さまです。朧さまが、瞬時に術をかけなければ、瞬時に黄泉へと誘われていたでしょうに」

佐久夜と京平は、『ウラ』に来た瞬間の事を思い出す。

「そのお陰で、朧さまは、瀕死となり、俺が見つけ、そして、朱丸さまと朧さまに俺は助けられた」

恍惚とした表情で、天狗は語る。

「瀕死?瀕死って、どういうこと!!」
「天狗!お前、にゃにペラペラと喋ってるにゃ!」

慌てて朧が、口を挟んだが、佐久夜と京平は、聞き逃さなかった。窟に戻ってきた時、天狗は、朧を食べようとしたと言っていた。朧が、黙って食べられるタマではないことは、十分に承知している。

「朧、そんな危険を冒してまで、俺たちを助けてくれたの?」
「さようでございます。朧さまは、先ほども高度な妖術を使われました。きっと、京平さまにも何かなされたんだと、俺は考えたんですけどね。違いましたか?」

天狗は、ニヤリと口の端を上げた。天狗の微笑みを見て、朧は警戒心を強めた。

「お前、何を企んでるにゃ」



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