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58 京平の暴走、スセリビメの大暴走

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スセリビメは、瞳に浮かぶ涙をそっと指先で拭うと、両手で佐久夜の手を握りしめた。

「アー!!」

京平が、佐久夜ばかり狡いと喚く。浅葱と朱丸が、京平の両肩をポンポンと叩き慰めている。

「スセリビメ様?」

何か付き物が取れたように、スセリビメは柔らかく微笑んだ。

「佐久夜、其方と逢魔…いや今はもう朧じゃな、二人を見て、兄さまは、幸せに暮らせている事が判る。これからも、兄さまをよろしくお願いします」

神としてではなく、妹として、スセリビメは、佐久夜に神さまの今後を託した。

「佐久夜が、知っている通り、妾は、兄さまに歪んだ愛を向けてしまった。父に一度肉塊まで潰され、再生された後も、後悔と懺悔の念に駆られ続けていた」

「だから、ひいは、昔から思い詰めるとこがありすぎるにゃ!」

スセリビメは、朧を見てふふっと笑う

「そうじゃな。これからは、妾ももっと外に目を向けようぞ。それと、天狗を連れて帰ることも、認めよう」

「あ、ありがとう」

すくっとスセリビメは、立ち上がると、階段を登り、改めて神座に座った。

「じい、客人を『オモテ』に送る。準備を頼むぞ」

「ひい様。わかり申した」

鴉天狗は、一礼をすると佐久夜たちの前に立った。

「佐久夜殿、案内します故、ついて来てくだされ」

「ありがとう」

佐久夜たちは、その場を立ち上がる。朧は、階段を駆け上がり、スセリビメの膝元に座った。

「ひい、オイラ達は、これからもひいのこと大好きだからにゃ」

「そ、それは、兄さまも?」

「もちろんにゃ」

コツンとおでこをスセリビメの膝にくっつける。

「ダメだ!やっぱり俺も告白してくる!」

佐久夜が、びっくりして振り返ったが、京平は走り出し、階段を駆け上がった。

「きょ、京平!!」

「お客人!」

佐久夜と鴉天狗が、呼び止めるが、京平は止まらない。スセリビメの前で、膝をついた。

「俺、魚住京平!スセリビメちゃん!俺と友だちから始めませんか!」

ポケットを弄り、京平は持っていた物をスセリビメに突き出した。

「あ、アレは、京平兄ちゃんのお姉さんの彼氏から貰ったイルカの鏡だ!」

京平の掌に乗せられたイルカの鏡、スセリビメはそっとそれを手に取った。

「最悪のプレゼントだ」

佐久夜は、顔面を引き攣らせた。

「妾に、コレをくれるのか?」

スセリビメの言葉を聞き、我に返った鴉天狗が慌てる。

「ひい様、お気を確かに!」

イルカの鏡を受け取り、頬を染めるスセリビメ。そして、京平の手を握り自分の方へ引き寄せた。

「え?」

「あ!」

「何!?僕見えない!」

浅葱は、朱丸の目を塞ぐ。佐久夜は、呆然と立っていた。鴉天狗の悲しい叫びがこだまする。

「ひいは、惚れっぽいからにゃ。烏よ諦めるにゃ」

京平は、顔を真っ赤にして成すがままになっていた。縦横無尽に自分の口の中をスセリビメの舌が這い回っている。ちゅぽんと唇が離されると、京平は、膝から崩れ落ちた。







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