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ニ章
41話 約束
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《ニノちゃん、いい? 五分間だけだよ? 今の君の状態ではそれが限界だからね?》
「わかった。それだけあれば十分だよ!」
大地を蹴り上げ空を舞う。
僕はただ敷かれたレールに従って身体を動かすだけだ。
双方の腕から放たれる光剣が意思を持った蛇のように追尾し、逃げる相手を追い詰めていく。
「……ふ、振り切れぬ!? ……ニノニノ、お主は一体何者なのじゃ!?」
「ごく普通の人……と言いたいところですけど。最近は自分で自分の事がよくわからないですけどねっ!!」
光剣が相手の肌を掠り、反応に引き寄せられ反属性の闇槍が追随する。
白と黒の発光。煙の中前へ飛び出す姿を確認。あらかじめ回り込んで義足の雷属性を発動。
神速の蹴りを翼の推進力と合せて叩き込む。鈍い音と義足が軋む音が重なる。
「ガハッ……よ、容赦がない……のう。こんな幼気な……幼子を虐めて、酷い男じゃ……!」
「ここまで散々好き勝手暴れておいて、今更泣き言なんて!!」
「……意外と強かな性格をしておるのう。それとも勝負の場では切り替わる性質か?」
演技でも涙目で訴えられると手元が狂いそうになる。可憐な見た目に騙されてはいけない。
精霊様の器は人のそれとは別次元の強度を誇るのだから。属性耐性に至っては龍の鱗すら凌駕する。
火煙を放ちながら帯電による熱を振り払い、ウィズリィ様は鞭を振るい続ける。
「己で理解もできぬ力にその身を預け、お主は恐ろしくはないのか? 過ぎたる力には何事も代償というものが付きものなのじゃぞ?」
「脅しつけても無駄です! どの道負けたらそれ以上の屈辱を味わうんだ。だったら、全身全霊で挑む他ないでしょう!!」
「……悪い事は言わぬ。いい加減観念するのじゃ。未来を覗き込むなぞ人が持つべき力ではない。使い続ければ必ずやお主の魂にまで及ぶ深い傷が残る。誰も望まぬ悲劇を生み出すじゃろう!」
ウィズリィ様は何度も警告を促し揺さぶりをかけてくる。
それがこちらの動揺を誘おうとしてなのか、それとも本当に身を案じてのものなのかわからない。
隙を見せればたちまち付け込まれそうで途中で止まる事はできない。
ただ彼女の言葉は全て事実を示していた。
無限に存在する分岐路の中から望んだ未来を手繰り寄せる。
そんな神の御業にも等しい技能をリスクもなしに扱えるはずがない。
再生能力を酷使する事でなんとか成り立っている。
常人なら一度覗き込んだだけで、膨大な情報量に埋もれ脳の回路が焼き切れていたと思う。
頭の天辺から湯気が出ていてもおかしくないくらいに燃え滾る熱を感じている。
全ての感覚が恐ろしいほどに研ぎ澄まされている。
危険なのは初めから承知の上だ。
覚悟がなければこの場に立っていない。相手が格上だと理解しながら戦いを挑んだりしない。
フィリスを救いたいという想いと、自分の限界を知りたいという欲望が身体を突き動かしていく。
「……いずれにせよお主にその力は扱い切れぬじゃろう。未来を掴んだところでそれは僅か数瞬に過ぎず。絶え間なく攻め続けられれば、長期戦になれば不利なのは変わらずじゃ」
「……くっ!! これでもまだ互角なのか……!! どこまで強いんだよ……!!」
ウィズリィ様はたった数回の接触で、的確にこの力の弱点を見抜いてみせた。
制限時間に加えて数秒先の未来しか読めない事も。一瞬にして対策を組み立てている。
二秒後の未来を読まれるのであれば三秒後に避けられない攻撃を放てばいい。
いや、そもそも相手の機動力を上回る質と数で圧倒すれば読み合い以前の問題になってくる。
広範囲に散らばる鋭い水の刃が回避不能の壁となって押し寄せて来た。
層の薄い面を見つけ出し、無理矢理突破口を切り開くも、じわじわと体力を削られていく。
残された時間は少なく優位に立つどころか自ら窮地に陥っている。
「これは……想像以上に使い辛い能力だぞ……!!」
あくまで僕が見ている世界は、僕自身が最善の行動を取る事を前程として選び抜かれた未来だ。
一秒後にある地点に全力移動を求められても、その後の状況に対しては何一つ保証はされていない。
常に動き続けていればいずれ限界は訪れる。長期的な目線では逆に不利に陥る。
その場を凌ぐだけなら最適な力だろうけど。
一つ一つの行動に果たして最終的な勝利へと繋がっているかは定かではない。
五分後に僕が立っている状況に持ち込むには、常に全体を見通す判断が必要になってくる。
「……見えたっ、そこだ!! 伸びろ光剣!!」
「ふにゃ……!! ……くっ、先程より威力も精度も落ちておるというのに躱しきれぬ……! どれも見事に意表を突いたものばかり。攻めに回られると厄介な力じゃな……!」
それでも悪い話だけじゃない。
僕の攻撃は確実に通用するようになっている。
圧倒的な力量差を埋める先読みの一手。その一つだけで戦況を五分に持ちこめている。
目の前に巨大な泡が迫っていた。
攻撃するたびに小さく数を増していき、その一部が身体に纏わりつき炸裂する。
肌を裂く衝撃に再生を繰り返すも視界が霞み息が苦しくなってくる。
修復がまるで追い付いていない、身体中の血が足りていない。
「がっ……あっ……まだ、だ、まだ……負けるものか……!!」
「ね、粘るのう…………じゃが、そろそろ限界じゃろうて。息が上がっておるぞ?」
「ウィズリィ様こそ……魔力の制御に、苦戦していますよね? ……威力が落ちてますよ?」
「むぅ……生意気な口を開くものじゃ」
互いが防御を切り捨て自傷覚悟で近接戦闘で殴り合う。
これまでに与えたダメージと再生能力の有無で若干、押し返す場面も増えてきた。
ウィズリィ様が焦りの表情を見せながら水龍を召喚する。意思を持った濁流が僕を呑み込まんと大口を開ける。
「これ以上の消耗は厳しい……ならっ……!!」
背中に龍を引き連れ高度を上げる。遠くの方で閃光が走った。
放置されていたグランゴーレムの対空機関が起動。射線上の敵を狙って魔砲を射出していた。
大きく旋回し背後の水龍を盾にしてやり過ごす。残骸が雨となって地上に降り注いだ。
「……グランゴーレムのおかげで助かった。けど……どうして召喚を解除しないんだ」
動かせない物を残しておいても無駄に魔力を消耗するだけだ。
ウィズリィ様ほどの実力者であればわざわざ解除するまでもないのか。
それともまだ利用価値があると踏んでいるのか。
数秒先しか見通せない未来視では判断がつかない。
自分の頭で考える。ここまで戦ってきてウィズリィ様の性格は大体把握した。
ふざけた言動に惑わされそうになるけど、少なくとも彼女は真剣にこの場に臨んでいる。
手を抜いている訳でも僕を舐めている訳でもない。
と、なれば何かしらの意味がある。相手に利用される事も厭わない大きな理由が。
「……! もしかして、誰かが空から近付いて来ている?」
対空機関が相変わらず狂ったように左右に動いていた。
損傷による故障かと思っていたけど、もしかしたら何かに反応しているのかもしれない。
それが内側ではなく外側に向けられた警戒だとするなら……。
「……いける。僕の予想が正しければ。ゴーレムの対空機関を壊せばこの戦いは終わる!!」
光明は見えた。
だけど大きな課題が残されたままだ。
果たして今の手札であの兵器を完全に破壊できるのか。
最大火力を誇る雷属性であっても、土属性の守りを貫くのは至難の業だ。
疲労によって全力も出せない状況で妨害をかい潜り接近するのも難しい。属性的な相性もある。
戦況を変える複合属性もノート様の助けがなければ使えず、僕一人では根本的に力が足りていない。
「未来が視えたところで……肝心な力が足りなければ何も変えられないじゃないか……!」
未来視は確かに強力な能力ではあると思う。
しかしこれは結局のところ自分の限界以上のものは引き出せない。
実力に沿った未来しか掴み取れないのであれば、どこまでいっても補助的な役割から越えられない。
……違う。
この程度の力で世界を変えるだなんて到底不可能だ。
これは母さんが言っていた、レムちゃんが封印しているものとはまるで別の類の力だ。
「もしかして、これもただの通過点に過ぎないのか……? この先に更に強大な何かが……?」
《もう残り一分もないよ……。これで満足してくれないかな? 本当にこれ以上は……》
「あと少しなんだ……。あと一歩で届くんだ……! 僕は負けたくない、自分にだってそうだ。何も知らないまま、何も得られないまま終わるだなんて……そんなの、死んでもお断りだ!!」
《……ニノちゃん》
「レムちゃん!! これが最後だ。全てを出し切ろう、悔いの残らないように。その代価がどれだけ大きなものだったとしても、それでここで諦めてしまうようなら最初から誰とも関わるべきじゃなかったんだ。村で平凡な余生を過ごす事も選べたんだ! だけど今の僕は冒険者だ。他の誰でもない自分で選んだ道なんだ。みんなと関わり抜くと決めた以上、いつだって覚悟はしているんだよ!!」
時には危険を顧みず前に進む事も必要だ。
死を恐れていて冒険者が務まるものか。戦えるものか。
命を大事にするとは言った。でもその結果生き方を曲げるのであれば死んでいるのと変わらない。
彼女たちの心配も想いも、踏みにじる最悪な行動だとわかっている。
どうやら人は簡単には変われないみたいだ。身体は成長しても精神はまだまだ未熟そのもの。
それでも、自分の為に命を賭けられるようになっただけでも、マシになっていると思いたい。
《……そうだった。君は昔から素直で賢い子だったけど、だけど譲れないところは譲らない強情な子でもあったんだ。だから見つからないように封印していたというのに――でも、そうだよね。これは君の選んだ道なんだから、他人がどうこう言って抑えつけるものじゃなかったよね。……よし、こうなったら一蓮托生だ。ボクも責任を取って腹を括るよ。どうせ消滅する時は一緒なんだから!》
「まだまだ消えるつもりはないけどね。やり残した事が多すぎるんだよ」
《ボクの力がなかったらとっくの昔に死んでいるのによく言うよ!》
一度大きく息を吸ってから姿勢を正す。
これから起こりうる全ての事象に対応する為に気合を入れ直した。
《君の中に眠る無限の可能性を今ここに……!》
瞬間、左手の義手に変化が訪れた。
魔力を通しやすい特殊金属で作られた人工の塊が、その形状を変えていく。
何の装飾も施されていない、一見すれば安価で取引される練習用のありふれた武器。
それは一振りの剣だった。
「ば、馬鹿な……人が精霊神器を生み出すじゃと!? いや、しかし少しばかりレムの扱う神器とは形状が違う。それにこの世界中から集めたかのようなふざけた魔力量は……もはや精霊が扱える域を優に超えておるではないか、これではまるで……母上の……創生の剣……!?」
精霊神器に創生の剣。
どちらも聞き覚えのないもので、驚きと戸惑いと高揚感でごちゃ混ぜになる。
剣から溢れ出る現実離れした量の魔力が、僕の周囲を渦巻き空を切り裂いて雲を割る。
「これは……この剣には属性が存在しない……?」
無属性。
それは純粋な魔力そのもの。
全ての属性の生みの親にして頂点に位置する唯一無二の存在。
手を加えられていない純粋な魔力は、誰からの制御も受けない。
無属性のままで扱えるのは、この世界を創生した始まりの女神だけだとされている。
精霊様ですら自らの属性に変換、加工する事で初めて己のものとしている。
稀に戦士の技に使われる事もあるけど、それもただ単純に塊を無作為にぶつけているだけ。
他の属性のように確かな技術として確立されたものではなく。無属性魔法なんてものは今のところ存在しない。
精霊の祖にあたる女神の力――創生の剣。
剣を中心に複数のひし形をした宝石が円運動を繰り返している。
それぞれに属性を伴った核が組み込まれ、四色の宝石が一際輝きを増していた。
光、土、闇、雷。
僕と関わり深い精霊様の色を表した宝石たち。
その中でも特に土属性の発光が強く、早く自分を使えと主張しているようにも見えた。
その隣にもう一つ。
土属性に負けず劣らず輝き放つ色があった。
認識外に存在した五つ目の属性。深藍色の宝石に目が奪われる。
「……これ……は」
身に覚えのないそれは泣きたいくらい懐かしくて。同時に怒りと憎しみまで込み上げてくる。
見つめているだけで平常心を保てなくなる。耐え切れず視線を外した。
「…………駄目だ、これは……触れてはいけない物だ」
それに関わってはいけない。本能で理解した。
襲い来る欲求を振り払い。この場に適した土属性の宝石を選択する。
触れた途端に黄土色の宝石が左腕の剣に吸収され肥大化する。
誰に教えられずとも扱い方は熟知している。疑問は覚えない。
きっとこれこそが、僕の中に眠っていた本来の力なのだから。
「母なる大地よ。僕に道を切り拓く力を! そしてこの地に大地の祝福を!!」
僕の望みを叶えるべく、創生の剣に魔力が集っていた。
天上にまで伸びきった黄土色の光柱をただ真っ直ぐに振り下ろす。
山をも超越する巨大な機械人形が何の抵抗もなく左右半分に分かち、粒子となって消滅した。
その後に溢れんばかりの生命の息吹が吹き込まれていく。
余剰分の土属性が周囲の土地に影響を与え急激な成長を促した。
荒れ果てた大地に色とりどりの木々が立ち並び、新たな楽園を誕生させる。
風に乗って無数の花弁が空を舞っていた。
頬を霞める甘い匂いと山々の隙間から覗かせる夕焼けがとても綺麗だった。
「ぐうううううう……! 凄まじい威力じゃ……まさかあの機械人形を一撃の元粉砕するとは」
ウィズリィ様は両腕を前に出し衝撃から身を庇っていた。
あの水の精霊様ですら防御に徹するしかなかった。それだけの破壊力を有した一振り。
僕はその一回で、全てを出し尽くしてしまった。
創生の剣は破壊を目的として作られた武器ではないらしい。とにかく燃費が悪かった。
翼を維持するだけの魔力も残されていない。ゆっくりと地上に向けて僕の身体が下降していく。
「何故……ワシを直接狙わなかった? 今の技でなら確実にトドメを刺せたであろうに……!」
「僕は、貴方を納得させる為に戦っていたんですよ? それで命を奪ってどうするんですか……」
「む、そういえば最初にそんな事を言っておったかのう」
「……もしかして忘れていたんですか?」
「同族以外でここまで手強い相手と戦う機会などなかったからのう。夢中になって忘れておった」
その答えに思わず苦笑してしまった。
「しかしニノニノも甘い。ワシがこの状況で躊躇いなく撃てる悪人であればお主は今頃死んでおるぞ? 勝利を目前として自らその機会を手放すようでは、この先が思いやられるのう」
「それは……甘いのは自分でも自覚していますよ。だけどそれはお互い様でもありますよね?」
「ふんっ」
誤魔化すようにそっぽを向かれた。
負けず嫌いの子供を相手にしているようで緊張感の欠片もなくなっている。
僕もその子供と似たようなものなんだけど。
だからこそ、この期に及んで不敵に笑って見せる。
「どちらにしろ僕の勝ちは揺らぎませんよ。だって……邪魔な壁は取り払いましたから」
「…………!」
そう、邪魔者はいなくなった。
あとは全てを任せてしまおう。少しずつ落下速度が早まり固い地面が迫っていた。
天を仰ぐと茜色の空に黒い点が見える。それが徐々に近付いて来て。そして、腕を掴まれた。
「――まったく、連れ戻すだけって話だったのにどうして貴方は傷だらけなのよ!!」
どうやら勝利の女神は僕に微笑んでくれたようだ。
◇
「よく気付いたわね? 私があの忌まわしい機械人形のせいで近付けなかった事を」
フィアーは汗を流しながら僕を抱えて羽を懸命に動かしている。
飛ぶのが苦手だと語っていた彼女にとって、あの対空機関は目の上の瘤だったんだろう。
「フィアーが黙って待っているはずがないから。用が済んだら必ず駆けつけてくれるって信じていたよ」
今日までずっと一緒に暮らしてきたんだ。
彼女が何を考えて、どういった行動を取るかなんて簡単に想像つく。未来視の力を借りる必要もない。
「それは気が合うわね。私も貴方の帰りがあまりにも遅いものだから、また危ない事をやっているんだと簡単に想像できたわよ?」
「あはは、悪い方での信頼ばかりさせてしまってごめんね」
「笑い事じゃないでしょ。もうっ、また強くなったみたいだけど。少しは反省しなさいよ?」
「……善処するよ。僕だって何度も繰り返してみんなから見限られたくないからね」
「その心配の必要はないけど。だけど……あまり怪我をしている姿は見たくないから」
フィアーは一旦僕を地上に降ろしてから頭上を睨みつける。
怒りでどす黒い魔力を解き放ちながらも、僕との約束を守ろうと冷静さは何とか保っている。
「ウィズリィ、よくも私のニノをやってくれたわね……! この落とし前はつけさせてもらうわよ?」
「この喧しい声はフィアーか。随分と久しいのう。こうして面と向かって話をするのはお主が失踪して以来じゃったか」
「……? 貴方、転生したんじゃなかったの? どうして昔の細かな記憶が残っているのよ」
フィアーは眉をひそめて追及する。
そういえば誰も気にしていなかったけど、ウィズリィ様は明らかに以前の記憶を引き継いでいた。
水の属性力を自在に操り、時には過去の思い出話まで引き出している。
トルもそうだったけど、精霊様は最低限生き抜く為の知識は最初から持ち合わせているものだ。
だけど、転生直後はどうしても赤ん坊のそれに近い状態に戻ってしまうのだという。
そもそもの目的が精神の死を回避する為のものなので、それは避けようがない事なんだろうけど。
故に魔力を暴走させて厄災を起こしてしまった事例が、過去の文献にいくつも記述されている。
「自然と受け入れられてしまったのでワシ自身も困惑しておったところじゃよ。まさか最初に気付くのがフィアーになるとは夢にも思わなかったが……」
「ノートもあれで抜けているところがあるから……。それで、一体どういう事なのか説明しなさいよ!」
「訳あって前世の記憶をある程度継承しておる。が、しかし……その理由はまだ話せぬがのう」
「どうしてそこでもったいぶるのよ馬鹿! そこまで言われたら気になるでしょうが!!」
ウィズリィ様は片目を閉じ、人差し指を口元に置いて可愛らしい仕草をしていた。
それが昔馴染みのフィアーには不快だったらしい。苦虫を噛み潰したような顔で怒鳴っていた。
「相変わらず、その相手を小馬鹿にしたような態度。ムカつくわね……!」
「お主だけには言われとうないわ。過去、どれだけワシがお主とレムに手を焼かされた事か。あれから数百年経った今でもひと時も忘れてはおらぬぞ!! 何だったら今ここでニノニノに暴露してやってもよいのじゃぞ!?」
《うーん。忘れてくれても良かったのに……うぅ。ニノちゃんは聞いちゃ駄目だよ?》
お互いムキになって言葉をぶつけ合っている。案外、精神年齢は近いのかもしれない。
レムちゃんも昔を思い出して恥ずかしくなったのか一人で唸っていた。
「きいいいい!! 一発ぶちかまさないと気が済まないわ。そこでじっとしていなさいよ!!」
「ふんっ、いくら手負いの身であろうと未熟なお主にしてやられるほど腕は衰えておらぬわ!!」
「見た目からして子供の貴方に言われたくないわよ!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
羽を広げて走り出そうとするフィアーを慌てて止める。
どう考えてもあれは苦し紛れの挑発だ。わざわざ付き合う必要もない。
「え、えーと。フィアー? 助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、なるべく穏便にね?」
「ニノは少し休んでいなさい! コイツは私が代わりにぶっ飛ばしてあげるから!!」
「あー駄目だ。完全に頭に血が上っちゃってる……」
フィアーは闇の力を増幅させていく。
有利な状況を捨てて不慣れな空中戦を挑んでしまった。
「相も変わらず単純な奴よのう、簡単な演技に騙されおって。怒りで我を忘れてワシに敵うとでも思うたか?」
「嘘をつくな! 本当は自分だって冷静さを保てない癖に!! 腕が震えているわよ!?」
「これは先程の傷が疼くだけじゃ! 決してお主を恐れている訳ではないわ!!」
「なーんだ。結局意地張って強がってるだけじゃない。ニノに負けそうになったのが相当悔しかったのでしょう? 素直に頭を下げて降参しておけばよかったものを。……見苦しいわね」
「むむむ……!!」
「何がむむむよ!!」
頬を抓ったり頭をぶつけたり泥臭い殴り合いの喧嘩が始まった。
精霊様同士本気を出し合えば周囲に多大な被害を与える。巻き添えを喰らえば一溜まりもない。
多分、下で見守っている僕を巻き込まない為に、極力魔法を使わないようにしているんだろうけど。
「強がっておるのはお主だってそうであろう? どうやらニノニノに特別な感情を抱いておるようじゃが、闇精霊である以上お主はどこまでいっても人類の敵じゃ。現に今も意識して力を抑えなければ傍にいるニノニノを闇に取り込みかねない状況ではないか」
「それは……今は関係ない話でしょ? それとも何? それを聞いて私が隙を晒すとでも思ったの?」
「ワシはただ事実を指しておるまでじゃ。どれだけお主が考え方を改め人に肩入れしようと、決して報われる事はない。ノートのように契約を結ぶ事も叶わない。必死に手を伸ばし望んだところでそれはただ……虚しいだけじゃよ」
「相変わらず口うるさい老害ね……! 見た目は若返っても中身は当時のまま成長していないじゃない!」
「やかましいわ! 年齢相応に戻ったらそれは成長ではなく退化じゃろうが!!」
闇精霊は人族の敵だった。
偶然が重なって今は僕たちの傍にいてくれているけど。
それでも過去は変えられない。そしてこれからも永遠とその事実は重く圧しかって来る。
「あれから随分と弱くなったものじゃな? 昔のお主のままであれば、誰彼構わず力を解き放っておればワシとて防ぎ切れる保証はなかった。人に情を移してしまったばかりに、闇精霊としての本分を失わなければな」
「ちっ!! 小賢しい真似を……!!」
あのフィアーが押されていた。
ひしめき合う魔力の波が、闇の波動が打ち消されていく。
それは決して力が劣っているからじゃない。
闇属性がどれだけ周囲に害をもたらすかを彼女自身が一番理解しているからだ。
口では人に対する嫌悪感を出しつつも、それでもいつだって周りを気遣っている。
偶に暴走してしまう事もあるけど、素直じゃないだけで本当はとても優しい子だから。
今も少しずつ変わって来ている。
獣人たちの信頼を得られたのだってそうだ。
報われない事なんてない。彼女にだって誰かに愛される資格は十分にある。
「……貴方ともあろう者が存外にツマラナイ事を言うものね。それとも頭が固いと言うべきなのかしら?」
フィアーはゆっくりと頭を上げた。
出会った当初から変わらない、勝気で自信に満ち溢れる姿。
余計な心配はいらなかった。彼女はいつだって真っ直ぐで眩しい。
「誰かと付き合っていく上で契約の有無なんて、種族の違いなんて些細な問題でしょう? 寄り添うだけなら難しく考える必要もない。こうするだけで簡単に叶うのよ?」
「わわっ。く、くすぐったいよ!」
「……離れたら怒るわよ?」
「……強引だ」
フィアーは僕の隣に降り立つと、腕に強くしがみつき何度も見せつけるように頬擦りをする。
ゴロゴロと甘えるような声を出して、存分に堪能してから離れていった。
「この人の傍にいたい。力を貸してあげたい。そう思わせた時点で彼はノートだけじゃない――私の精霊使いでもあるの。……残念だったわね? 昔の私ならともかく今の私にそういうのは通じない。この想いは壊せやしないわ!」
「……一体、お主に何があった? まるであの頃とは別人じゃぞ?」
ウィズリィ様は口を大きく開けて驚きを隠せずにいた。
その気持ちは十分わかる。短い付き合いの僕ですら彼女の変化には驚かされるのだから。
「私だって変わる時は変わるわよ。永劫の時を生きているのよ? いつまでも同じままでは面白くないでしょう? ウィズリィこそ、転生の儀を経て随分と我儘に生まれ変わったものじゃない」
「……少し事情が違うのじゃが。ふっ、まぁそうじゃな。認めよう。ワシも好き勝手生きるお主たちを指導しながらも、どこか憧れを抱いておったのも事実じゃ」
「ふーん。だからその未成熟な身体って訳? ただの趣味ではなかったのね」
「……当時のワシは年長者であったからのう。お主たちの模範になるべく自分を律して生きておった。そもそもの始まりは――――」
ウィズリィ様は腕を組んでしみじみと過去話を続けていく。
フィアーは面倒臭そうに聞き流していた。レムちゃんも長くなりそうだと苦笑している。
こうしていると三人の関係性が見えてくる。ウィズリィ様も相当苦労を背負わされていたんだろう。
「あーそうそう、忘れるところだった。そういえば貴方、ついさっき私が弱くなったとか言っていたけど……その全ては否定しないけど。けど、今の私には以前と大きく変わった事があるのよ?」
話の途中にも関わらず、フィアーはそんな事を言い出した。
特に気にする様子もなくウィズリィ様は興味深そうに注目する。
「ほう? お主も成長したという事じゃな。どれ、一つ見せてもらおうか」
「例えば――――こういうの」
フィアーは指を動かし瞬間的に詠唱を解き放った。
「だああああああああああーーーー!!」
「――――んなっああああああああああああ!?」
ウィズリィ様の後方、闇の靄から超速度で小さな身体が射出された。
稲妻をその身に纏い、耳を貫く激しい爆音を引っ提げて、突如として現れた若き血潮の奔流。
見事に巻き込まれたウィズリィ様が彼方へと飛んでいく。
「にやああああああああああああああああ!?」
受け身も取れずにウィズリィ様は頭を固い地面に打ち付けていた。
この一連の流れはフィアーの作戦の一つだったんだろうけど、今のは流石に可哀想に思う。
そして雷の翼を広げて獣が吠える。瞳は怖いくらいに据わっていた。
「ふぅーふぅー。うがああああああああ!! ニノから離れろ!! 離れろおおおおお!!」
トルは最初から覚醒状態に入っていた。
以前よりも狂暴性が増していて更に野生児に近付いている気がする。
多分、ここに来るまでにも二人で口喧嘩でもしていたんだろう。
「トルよくやったわ、作戦成功よ。活躍の場ができて良かったわね?」
「うる……さい!! 余計な……お世話!!」
そうは言いつつもちょっとだけ嬉しそう。
トルの頭を強く撫でながら、フィアーは得意げに腰に手を当てた。
「どう? これが私の新しい力よ!! 驚いたでしょう?」
「ぬがあああああああ! お主らは無茶苦茶じゃ!! 不意打ちとは卑怯者じゃ!!」
「何だ、まだ立てるんだ。トル、もう一度痛めつけてあげなさい!」
「……フィアが、命令するな!」
「こうなればまとめて教育してやるのじゃ! 特に新人のお主には念入りに叩き込む!!」
「この中で一番の新人は貴方でしょ……。まぁいいわ。私たち二人を相手にどこまでやれるか見ものね」
「やって……みろー!!」
好き勝手暴れる二人にウィズリィ様は翻弄されていた。
爆発音と叫び声が絶え間なく続いている。思いのほか三人は楽しそうだった。
僕はというと完全に蚊帳の外に置き去りにされている。
……これでよかったんだろうか?
自分の力だけで勝ち取ったものではない。
それでもフィアーの言葉を借りると、他者の信頼を得るのも一つの実力だ。
あれだけ意固地になっていたウィズリィ様はこちらを見向きもしない。
その余裕がないだけなのかもしれないけど。ここは都合よく認められたと思う事にしよう。
フィアーとトルの二人に心からの感謝を告げながら僕は走り出した。
◇
「……ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいでニノくんが……!」
私は泣いていた。
赤く腫れ上がった瞼を何度も擦りながら。
目の前で静かに佇む二人に謝罪の言葉を繰り返す。
鬼の力の制御もほぼ完璧に近い状態になった頃の話だ。
いつもの訓練場所にニノくんが約束の時間になっても来てくれなかった。
私はそれからも何日も通い待ち続けた。
それでも一向に顔を見せてくれないので、直接彼の家に迎えに行った。
あくまで秘密の訓練。ニノくんのお願いもあってご両親には会わないようにしていたんだけど。
玄関口で迎えてくれたレイさんが、困ったような表情をしていたのを覚えている。
通された部屋のベッドの上で眠っている彼の姿を見た時、全てを理解してしまった。
弱々しい胸の鼓動。何度声を掛けても返事をしてくれない。私の大好きな笑顔を返してくれない。
「ど、どうして……!」
あまりの突然の出来事に血の気が引くのを感じた。
それから私は全てを洗いざらいに話した。
何度も嗚咽が混じって声が掠れてしまってちゃんと届いていたのかもわからない。
それでも時間をかけて最後まで話し終えると、レイさんは怒らないで慰めてくれた。
「辛かっただろうに、よく話してくれた。……頑張ったな」
そう言って私を落ち着かせるように何度も頭を撫でてくれる。
視線を感じて隣を見ると、同じベッドに腰掛けているソールさんがずっと難しい顔をしていた。
「ソーちゃん。彼女は逃げずにちゃんと話してくれたんだ。言い辛い事だってたくさんあっただろうに。それにそもそもニノが自分から始めた事なんだ、フィリスちゃんを責めるのは間違っているだろう?」
「……レイさん。誤解させるような事を言わないでください。私は誰かに責任を押し付けるつもりはありません。いえ、責められるべきは私たちの方です。この子の性格を考えれば、いずれはこうなると予測できたはず。危うく……取り返しの付かない状態になるところでした」
「おかげで彼女の心が救われたと考えるべきだろう。ニノも男として立派になったものだ」
「そういう楽観的な考え方は私は嫌いです」
「まぁまぁ」
二人の話を聞いていると、自分が思い違いをしていた事に気付いた。
「今の、本当……? ニノくんは助かるの……?」
「ええ、何とか一命は取りとめました。今しばらくは安静にしておく必要はありますが……」
ソールさんは付きっ切りで看病をしていたみたいで、少し苦しそうにしていた。
険しい表情だったのも体調を崩していたから。安堵から足の力が抜けてへたり込んでしまった。
「フィリスさんに一つお願いがあるの。聞いてもらえませんか?」
「お願い……? だ、大丈夫です、何でも……何でもいう事を聞きますから」
償いは何だってするつもりだった。
誰が何と言おうと、自分のせいでニノくんは命を失いかけたのだ。
嫌われたくない。彼と疎遠になったりすれば私はきっと立ち直れなくなる。
「この先、この子の身に何が起こったとしても傍で支えてあげて欲しいの……今回の件もそうですが、常に私たちが見守り続けることはできません。心から信頼できる方に頼りたいのです」
「えっ、それだけ……ですか?」
「……もしかしたら、それがいつの日かフィリスさんにとって重荷になる時が来るのかもしれません。それでも……私たちの代わりにどうか……ニノの事を守ってくれませんか?」
「へ、平気です。寧ろ、私の方から望んで傍にいますから……!」
「そう、ですか。貴方はニノの事が好きなのですね?」
「う、うん。……はい!」
「貴方のような良き友人に巡り会えてあの子も幸せ者です……」
ソールさんは不思議な人だった。
優しさの中にどこか人離れした雰囲気があって、無性に恐ろしく感じる時もある。
単純に想い人の母親というだけで、勝手な苦手意識を生み出していたのかもしれない。
それから滞在の許可を貰って、彼が目を醒ますのを隣でずっと待ち続けた。
「フィリスちゃん……? どうしたの突然……えっと、三年ぶりくらいだよね?」
目を覚ましたニノくんは記憶を失っていた。
正確に言えば私と倉庫で再会する前の状態に戻っていた。
治療と力の封印による副作用なのらしい。全ての想い出が白紙に戻る。
告白の返事を貰う事はこの先叶わないかもしれない。
だけど私はめげなかった。片方が覚えている限り約束は残り続けると考えていたから。
「外で遊ぶの……? ごめんね……今はそういう気分じゃないんだ……」
「駄目だよ。家に閉じ籠っていたら、お日様に当たらないと心が落ち込んだままになるんだよ?」
「で、でも……」
「ほらっ、一緒に行こ?」
三年もの長い空白によって、ニノくんは落ち込む事が多くなった。
時々誰かを探しているような素振りを見せたりして、拠り所を探していた。
かつての自分の影が重なって見えた。だから多少なりとも強引に外に連れ出し毎日一緒に遊んだ。
不安に思う時間も与えないように、臆病だった自分に仮面を付けて勇気を出して。
以前の彼のように、今度は私が引っ張って行こう。
私が願う未来は、どちらか一方が依存するものじゃなく互いに支え合うものだから。
――それからは色々あったけど。
一番衝撃的だったのはレイさんとの別れだった。
精霊術師としての終焉、消滅の一部始終を偶然目の当たりにした。
私は辛くて悲しくて泣く事しかできなかった。昔から仲良くしてもらっていたから。
ニノくんはずっと堪えていた。もしかしたら以前から覚悟はしていたのかもしれない。
「母さんが倒れたんだ、だからこれからは一緒に遊べないんだ。ごめんね」
「……私にできる事ってあるのかな」
「その気持ちだけで十分だよ」
レイさんがいなくなって、心労で倒れたソールさんの看病と生活費を稼ぐ為に彼は四六時中働いていた。
だけど子供にできる事なんて限られている。日銭を稼いでも薬代だけでなくなってしまう。
「フィリスさん。……毎日、苦労を掛けさせてしまってごめんなさい」
「ううん、私が好きでやっている事だから。私の両親も村のみんなも心配しているんですよ?」
「どうやらそのようですね……本当に申し訳なく思っています」
ニノくんが外に出ている間に、こっそり夕食を届けに行ったりもした。
きっと素直に受け取ってもらえないだろうから。私が代表して村の人から預かった物を置いていく。
ソールさんの日に日にやせ細っていく姿を見るのは辛かったけど。
私と話をしている間はどこか楽しそうで、大切な息子が傍を離れたから寂しかったんだと思う。
「フィリスさん、あの時の約束を覚えていますか?」
「約束? ニノくんを支えるってやつですか?」
「ええ、私の大切なかけがえのない宝物を……どうかお願いしますね」
「任せてください! もしもの時は力尽くでも引っ張りますから。腕力だけなら自身があるんで」
「……ありがとう」
その会話を最期に、ソールさんは行方を眩ましてしまった。
村中どこを捜索しても痕跡一つ残されていなくて。死期を悟って身を投げたのではとも噂された。
元々、村でも謎多き女性の扱いを受けていたみたいで、噂話にいくらでも尾びれがついてしまう。
どちらにしろ、残されたニノくんにとっては最悪な結末だ。
追い打ちをかけるかのように、お母さんの失踪と同じ日に彼は精霊術師として目覚めてしまう。
私の前で大切な人たちに立て続けに不幸が襲う。その裏にはいつも一人の精霊様の存在があった。
「許せない! 許せない許せない!! 何で苦しめるの? 一体、ニノくんが何をしたって言うの!?」
怒りを吐き散らしながら、私はずっと精霊様を倒す方法を探し求めていた。
ノート様がどれだけあの一家から大切にされていたのかは、傍で見ていたから知っている。
それでも私からすればただの他人であり、憎き仇でしかなかった。
「絶対に死なせない……ニノくんは私が守るんだから……」
どの文献を辿っても精霊様の偉大さや歴史を称えるものばかり。
当たり前だ。上位存在である精霊様に挑もうとする愚者なんて世界を探してもそうはいない。
いたとしても既に亡き者にされているか、誰からも相手にされず笑われるかだ。
だから、私は最後の手段として精霊様に助けを求めた。
《……まさか精霊を殺す為に精霊の力を借りようとするとは。面白い馬鹿がいたものだな》
「…………えっ、この声は……誰?」
《お前の憎んでいる精霊の友人に当たる者だが。それで構わないのであれば力を貸してやってもいい。理由か? 理由は単純にお前が気に入ったからだ。暇潰しくらいにはなるだろうとな》
ウィズリィ様との出会いはそこからだった。
まさか本当に成功するとは思わなかったけど、殆ど奇跡に近い確率で同調する事ができた。
そう言えば、この時はまだ今みたいな変な喋り方ではなかった気がする。
当然だけどあとで両親には何度も泣かれてしまった。
精霊術師は、自分の寿命を対価に絶大な力を手にする職業だったから。
だけど私は鬼の血を引いている。元々人並み以上の魔力耐性があって寿命だってそこそこ長い。
対価分を差し引いても、人の本来の寿命とさほど変わらないはずだった。
「えっ、精霊術師になったって……な、何でだよ!!」
「別にいいでしょ? これでお揃いだね。ちなみに私は水の精霊術師になったんだよ?」
「良くない! 自分の命を削ってまで僕の後を追う必要なんてないのに……。フィリスは馬鹿だよ……」
「……馬鹿なのは知ってるよ」
後日、精霊術師になった事を彼にも伝えた。
やっぱり怒られてしまったけど。共通点が生まれたからか以前よりも距離が近くなった気がする。
「もう後戻りはできないんだから。一緒に頑張ろうよ? この際世界最強の精霊術師を目指すのもいいかもね!」
「フィリスは……昔から何事にも前向きで凄いよね、ずっと悩んでいた僕とは大違いだ」
「……そうでもないんだけど」
精霊術師として何もかもが手探りの状況から始まった。
二人で色々研究したりして楽しかった。もちろん私の最終目的はノート様の命を奪う事だけど。
両親の協力の元、中央の小さな町で精霊術師の集会に参加したりもした。
そうやって少しずつ実力を付けていくうちに、自分がどれだけ浅はかだったのかに気付かされた。
皮肉にも精霊術師になって人である事の限界を知ってしまった。それは鬼であっても変わらない。
精霊様に対抗できるのは同じ力を持った精霊様だけ。
借り物の力だけではどう足掻いても上位存在に届きようがない。
協力すると言ってくれたウィズリィ様も転生の最中で身動きが取れないままだ。
そう、最初から無謀な挑戦だったんだ。
それに私自身ノート様に対する印象も変わりつつあった。
ニノくんはいつも楽しそうに彼女の話をしてくれた。
一度も恨み言を聞いた事がなかった。家族を失った彼にとってそれが最後の繋がりだったから。
私もウィズリィ様と同調してから、精霊様に対する偏見も薄まったように思える。
だから――この黒い感情は心の奥底に封印する事にした。
考えを改めてからは、なるべく彼とは距離を取って自分にできる事を探した。
気持ちの整理をつける時間が欲しかったのもあるし、傍にいるだけが支える事じゃないと思ったから。
精霊様についてより良く知る為に研究機関に入る事も考えた。
私があれこれ模索している間に彼は彼で自分の道を歩もうとしていた。
「きっと、これ以上私が止めても無駄なんだよね……?」
「うん、不器用な僕にはこれくらいしかできないと思うから」
――冒険者。
ニノくんの性格的に一番向いてなさそうな職業だ。
でも同じくらい似合っていなかったレイさんだって、かつては優秀な冒険者だったと噂で聞く。
案外、そういう人ほど隠された才能があるのかもしれない。
「……それからこれ、忘れないうちに渡しておくよ。今日が君の誕生日だったよね」
「……えっ、あっ、ありがとう」
受け取ったのは眼鏡だった。
早速付けてみると度が入っていない。所謂、伊達眼鏡というやつ。
「とても似合ってるよ。そこそこ良い値段がしたんだから暴れて壊さないようにしてね?」
「壊さないようにって……いつも暴れているみたいに言わないでよ」
「フィリスは危なっかしいから。普段から身に付けていたら変な無茶はしないかなって思って」
「もう……私くらいになると何があっても眼鏡には傷一つ付けないもん」
「あはは、確かにそうだったかも」
何度も真剣に引き止めた。
危険だから行かないで、ずっと一緒に村で過ごそうって。
だけどこれは常に誰かの運命に翻弄され続けていたニノくんが、やっと自分で見つけた道。
勝手な我儘で迷惑をかけたくない。私は最後には身を引いて無理に笑って彼を見送ったのだった。
「…………はぁ」
ニノ君が村を去ってから一年と半年もの間の記憶は殆どない。
魂が抜けてしまったかのように、胸にぽっかりと穴が開いたままぼんやりと過ごしていた。
友人は周りにたくさんいた。それでもたった一人の存在が忘れられなくて、強く刻まれている。
「……駄目だ。やっぱり、私にはニノ君が傍にいないと生きていけないんだ。追いかけよう……」
そうと決めてからは残りの半年を両親への孝行に使った。
両親も私をよく理解していて止められる事もなく、寧ろ頑張って来いと励まされた。
そしてもう一度、彼の背中を追いかけ村を飛び出した。道に迷って一年は無駄にしちゃったけど。
三年振りに再会した彼は少し背が大きくなっていた。
それ以外は何も変わっていなかった。命を顧みない危なっかしい生き方にしたってそう。
結局、冒険者になったのだって、本当は彼の意思とは関係ない事を知ってしまった。
光の精霊様との戦いで粒子となって消滅しそうになるニノ君の姿を見た時、私は後悔した。
ソールさんが心配していた通りだ。誰かが傍にいないと駄目だった。
目を離せばたちまち手の届かない場所に行ってしまう。
覚悟なんてできなかった。
失いそうになって、どれだけ自分が依存していたのかを改めて思い知った。
あの時はフィアーちゃんのおかげで助かった。でも近い将来避けようがない別れが待ち受けている。
無理だ。
耐え切れるはずがない。
封印していた黒い感情が膨れ上がっていく。
それからノート様と出会い。そしてウィズリィ様が目覚めた。
私の都合のいいように条件が揃っていく。無謀だと思っていた精霊殺しに手が届いてしまった。
あとはただ振り下ろすだけ。それだけでこの不安から逃れられる。
「………………」
気が付くと私は暗い世界に閉じ込められていた。
どこを向いても、どこを歩いても永遠の闇へと堕ちていく。
鬼の力に目覚めたばかりの幼い頃の自分に戻っていた。いや、今はもっと酷いかもしれない。
「あれだけ修行したのに……ニノ君だって何度も血を流しながら手伝ってくれたのに……」
先祖返りで覚醒した人の多くは、己の力に溺れて狂人化してしまうのだという。
強靭な肉体とは正反対の不安定な心に揺れ動かされて、負の感情を理性では抑えきれなくなる。
そして些細な出来事がきっかけで爆発させてしまう。
きっと、ウィズリィ様はそれに気付いていたんだ。
手遅れになる前に、傷が浅く済むうちに解き放とうとした。
それでも想定以上に闇は深く大きかった。濁流のように全てを飲み込んでいく。
「ウィズリィ様……ごめんね。もう、限界だと……思う」
もしもの時の後始末は全て彼女に託していた。
戦いの最中に自分を抑えられなくなったら、制御が効かなくなったらそこで終わりにしようと。
憎しみに囚われて本物の化け物になるくらいなら、醜い姿を見せるくらいなら死んだ方がマシだ。
《……フィリスよ……諦めるのか?》
「うん……もういいよ。こんなの自分でもおかしいってわかっているから……」
最初から悪い人なんて存在していなかった。逃れられない運命だった。
それが納得できないから、都合のいいように悪人を生み出そうとしていただけ。
自分の弱さをノート様に押し付けていただけ。真に罰せられるべきは私だ。
《……そうか、じゃがな。お主の周りはそうではないらしいぞ? 勇気を出して前を向いてみるのじゃ》
「えっ……?」
目を、開ける。
周囲には力尽き倒れた大蛇が転がっている。
おびただしい量の血を吐き出しながら、私の腕を掴んでいる人物がいた。
あれだけ憎しみを抱いていたはずなのに。あと一歩のところまで来て後悔しか残らない。
「ごほっ……お願い……目を……醒まして……? 貴方に謝りたいの、話したい事が……たくさんあるの。きっと……私たちは……似た者同士だから。……気の合う友人に……なれると思うから……!」
「…………!」
「……死にたいだなんて言わないで。これ以上……大切な人を失いたくないの……!」
「ア、アアアアア……グアアアアアアアアアアアア!!」
やめて、止まって。この人を殺したら駄目だ。
彼女は種族の違いや自分の弱さに悩み苦しみ、最後には前を歩きだしたんだ。
今にも諦めようとしている。過去で止まったままの自分とは違う。
拳を止めようと脳から指令を送る。
唇を噛みしめて本能に負けてしまわないように拒絶する。
たとえ数秒後に化け物になるんだとしても、今、屈していたら私はそれ以下の畜生だ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
叫びながら叩きつけた拳は、僅かに横に逸れた。
背後の崖が崩壊して大きな岩が降り落ちてくる。当たり所が悪かったみたいだ。
一難は去ったけど、このままだとお互い生き埋めになってしまう。
「フィリスさん……?」
「はぁはぁ……に、逃げて……もう、これ以上は……持たないから……!」
「……私は逃げません」
「いいから、逃げて! その傷じゃいくら精霊様でも……!! ……もう十分だから」
頑なに動こうとしないノート様を怒鳴りつける。
それでも彼女は私に微笑みかけてくれる。手を握ってくれている。
「逃げる時は、その時は……一緒です」
「ど、どうして……! 私は貴方の命を狙った敵ですよ!?」
「それは違います。フィリスさんは私の大切な……友人ですよ?」
「ッ……!!」
巨大な岩盤が迫って来る。
せめてノート様だけでも助けたいのに、この期に及んで身体が言う事を聞いてくれない。
駄目だ、もう間に合わない。目を瞑って最期の瞬間を待つ。
――その時は一向に訪れなかった。
「ノート様、フィリス!! やっと……追い付けた!!」
◇
「来ないで……お願い……これ以上……近付かないで……!」
フィリスは頭の角を隠しながら後ろに下がっていく。
僕から逃げるように何度も転がりながら、そのたびに身体に傷を増やして。
「いつもの前向きな君はどこに行ったんだよ? この程度で挫けるような君じゃなかっただろう?」
「……違う。私はずっとあの頃から変わってない。醜い化け物のままで、ニノ君の隣にいる資格なんて……」
「誰かの傍にいるのにそんなものは必要ないよ」
性格だって種族だって関係ない。
それを判断するのは他の誰でもない僕自身だ。
「みんな僕の事を買いかぶり過ぎなんだよ。そりゃ人よりは少し変わってるし。身体の中には同居人がいるけど……。そう考えると随分と変ってるけど――僕だって君と変わらないくらい同じだけの醜い感情を持っていたりするんだよ?」
聖人君子じゃあるまいし、時には誰かを憎む事だってある。
彼女が実際に手を出してしまった事実から、目を背けてはいけないけど。
最後には踏み止まった、自分で間違いに気付く事ができた。それがどれだけ難しいか。
「……全部知った上でもう一度君とやり直したいんだ」
「ニノ君……」
「記憶を失って、父さんも母さんもいなくなって、精霊術師になって、ただ自分の意思とは無関係に物事が進んで行って、辛いとか悲しいとかよくわからなくって。それでも僕には君がいてくれたんだ。いつだって変わらない君の存在に……救われていたんだよ」
気恥ずかしくてずっと言えなかった。
代償があまりにも大きすぎるから、お礼を言うのは違うと思っていたから。
だけど自分の気持ちなんて言葉にしないと相手には届かないもの。
「本当はずっと感謝していたんだ。君が精霊術師になってくれて。僕は一人じゃないって心からそう思えた」
口を動かすたびに頬が熱くなってくる。
気心の知れた幼馴染に向けて、赤裸々に思いの丈をぶつけている。
もっと早くからこうするべきだったのかもしれない。でも、今からでもきっと間に合う。
「……ソールさんと約束したの。二ノ君を支えるって……二人の代わりに守るんだって……!」
「母さんが?」
「だから私はノート様をこの手で倒さないといけない。そうじゃないと……約束が守れない。だけど私にはできない、できなかった。……もう、どうすればいいのか……わからないよ……!」
「約束……」
きっと母さんもそこまで深い意味で言ったんじゃなかったと思う。
当時、友人が少なかった僕の事を、両親はいつも心配していたから。
光の精霊の力があるから、周りとは違うからどうしても人の輪に入り辛かった。
同じ悩みを抱えていた彼女が、僕にとって生涯の友人になり得ると思って託したんだ。
そこに亜人としての強制力が加わってしまった。それは不幸な事故。
「……フィリス、世界は広いよ? まだまだ僕たちの知らない事だらけだ。もしかしたら探せば何か別の解決手段が見つかるかもしれない。精霊様ですら気付けなかった方法が。そして僕たちは冒険者だ。行こうと思えばどこへだって行ける」
時間は確かに限られているけど。そんなものは大小限らず誰しもが同じだ。
大事なのはその間に何を成し遂げるか。終わった後で自分たちが満足できるかどうか。
「僕も最後まで全力で生きるから。自分が望むがままに進んでいくから。だから……!」
「……それでも上手くいかなかったら? 手掛かりが何一つ見つからなかったら……?」
「その時は――」
最初から諦めるような事はしたくないけれど。
悲観的な彼女にどうしても最悪な結末への覚悟が必要だというのであれば。
せめてそれが少しでも幸せなものであってもいいだろう。
僕はフィリスを壊さないように逃げ出さないように優しく包む。
「全てが上手くいかなかったその時は――――僕と一緒に地獄にまで付き合って欲しい」
「……えっ、に、ニノ君? そ、それって……あの……その……!」
「これから先もずっと傍にいて欲しいんだ。僕も君の事が好きだ。……何とも思っていない人の為に命を賭けようだなんて考えないよ。多分、きっと自覚していなかっただけで、昔から君に惹かれていたんだろうね」
「あ、あぁ。ううぅ…………」
僕たちが幼少期に交した約束。
それを今ここで持ち出す。亜人の強制力に負けないくらい強い繋がりを生み出そう。
母さんの願いをも上書きして、これから先、共に歩む事を誓う。
僕は今日までずっと持ち続けていた木製の指輪を取り出すと彼女に預ける。
フィリスはじっと指輪を見つめている。両目には溢れんばかりの涙が流れていた。
「まだ大人にはなりきれていないけど。君の想いには負けてしまうけど。これが僕からの返事だよ」
「……変だよ」
「何が?」
「一緒に死のうだなんて。そんなのニノ君らしくない」
「言わせたのはフィリスじゃないか。それに僕は今でも諦めてないし。これから楽しい事だって共有するんだよ?」
「……重たいよ」
「僕の為に全てを投げ出そうとしておいてよく言える」
「……ごめんね。いっぱい迷惑かけちゃった」
「いいよ」
「ノート様に謝らないと……獣人さんたちにもいっぱいいっぱい……」
「僕も一緒に謝るから。当然、ウィズリィ様も。精霊様だからって許されるものじゃないからね」
「あはは……拗ねちゃうかも」
お互い肩を寄せ合って座り込む。
フィリスはもう逃げようとはしなかった。僕もやっと安心して一息をつける。
今回は本当に疲れた。しばらく動きたくないくらい。
「ところで、返事は聞かせてくれないの? ……結構、恥ずかしかったんだけど」
「えっと……その、あうあう……だ、駄目……!」
「え、駄目だった?」
確認しようと隣を向くと無理矢理顔を戻された。
首の骨が折れそうになるほど強烈でおかげで頬の熱が少し冷めた。
「ち、違う……その、嬉しくて……よ、よくわかんなくて。顔が熱くて……今すぐには無理だよぉ」
「はいはい。急かさないし落ち着くまでずっとこうしてあげるから」
「うん……うん……!」
彼女の背中を撫でながら、創生の剣で復活した壮大な景色を眺める。
危ない橋を何度も渡って来たけど、どうにか望んだ未来をこの手で掴む事ができた。
この温もりを失わずに済んでよかった。
「あーーーーーー! 何どさくさに紛れてイチャイチャしてるのよ!!」
遠くの方でそんな叫び声が聞こえてくる。
「今は大事なところなんですから、邪魔をしてはいけません!」
「離しなさいよ! ノート、貴方はこれで満足なの!? そこまでされて許せるというの!?」
「二人が幸せであれば私はそれで構いません。見守っているだけで、それだけで……十分ですから」
「私はそんなお利口になんてなれないわよ! 奪い返させてもらうわ!!」
重傷のノート様に羽交い絞めにされながらフィアーは暴れていた。
流石に怪我人に対しては強く出れないのかそれも可愛い抵抗だったけど。
「まったく、空気の読めない精霊じゃな」
「ウィズリィ! 貴方まで邪魔をするというの!?」
「……馬に蹴られて死にとうなかったら黙って見守らぬか。やっとあの子の積年の想いが通じたというのに。無粋な奴じゃのう」
「散々、好き勝手やってたお前が言うなああああああああああああああ!!」
魂の咆哮だった。
「ニノが……盗られた。フィリスが……盗った!! やだやだ! トルに……返して!!」
「やれやれ、似たような子がここにもおったか……ノートよ、ワシも協力するぞ」
「……助かります」
「いやだああああああああ!!」「放せえええええええええ!!」
「…………ニノ君……大好き」
泣き喚く二人をノート様とウィズリィ様が取り押さえていた。
そしてフィリスはというと、ただずっと幸せを噛み締めながら僕の傍から離れなかった。
「わかった。それだけあれば十分だよ!」
大地を蹴り上げ空を舞う。
僕はただ敷かれたレールに従って身体を動かすだけだ。
双方の腕から放たれる光剣が意思を持った蛇のように追尾し、逃げる相手を追い詰めていく。
「……ふ、振り切れぬ!? ……ニノニノ、お主は一体何者なのじゃ!?」
「ごく普通の人……と言いたいところですけど。最近は自分で自分の事がよくわからないですけどねっ!!」
光剣が相手の肌を掠り、反応に引き寄せられ反属性の闇槍が追随する。
白と黒の発光。煙の中前へ飛び出す姿を確認。あらかじめ回り込んで義足の雷属性を発動。
神速の蹴りを翼の推進力と合せて叩き込む。鈍い音と義足が軋む音が重なる。
「ガハッ……よ、容赦がない……のう。こんな幼気な……幼子を虐めて、酷い男じゃ……!」
「ここまで散々好き勝手暴れておいて、今更泣き言なんて!!」
「……意外と強かな性格をしておるのう。それとも勝負の場では切り替わる性質か?」
演技でも涙目で訴えられると手元が狂いそうになる。可憐な見た目に騙されてはいけない。
精霊様の器は人のそれとは別次元の強度を誇るのだから。属性耐性に至っては龍の鱗すら凌駕する。
火煙を放ちながら帯電による熱を振り払い、ウィズリィ様は鞭を振るい続ける。
「己で理解もできぬ力にその身を預け、お主は恐ろしくはないのか? 過ぎたる力には何事も代償というものが付きものなのじゃぞ?」
「脅しつけても無駄です! どの道負けたらそれ以上の屈辱を味わうんだ。だったら、全身全霊で挑む他ないでしょう!!」
「……悪い事は言わぬ。いい加減観念するのじゃ。未来を覗き込むなぞ人が持つべき力ではない。使い続ければ必ずやお主の魂にまで及ぶ深い傷が残る。誰も望まぬ悲劇を生み出すじゃろう!」
ウィズリィ様は何度も警告を促し揺さぶりをかけてくる。
それがこちらの動揺を誘おうとしてなのか、それとも本当に身を案じてのものなのかわからない。
隙を見せればたちまち付け込まれそうで途中で止まる事はできない。
ただ彼女の言葉は全て事実を示していた。
無限に存在する分岐路の中から望んだ未来を手繰り寄せる。
そんな神の御業にも等しい技能をリスクもなしに扱えるはずがない。
再生能力を酷使する事でなんとか成り立っている。
常人なら一度覗き込んだだけで、膨大な情報量に埋もれ脳の回路が焼き切れていたと思う。
頭の天辺から湯気が出ていてもおかしくないくらいに燃え滾る熱を感じている。
全ての感覚が恐ろしいほどに研ぎ澄まされている。
危険なのは初めから承知の上だ。
覚悟がなければこの場に立っていない。相手が格上だと理解しながら戦いを挑んだりしない。
フィリスを救いたいという想いと、自分の限界を知りたいという欲望が身体を突き動かしていく。
「……いずれにせよお主にその力は扱い切れぬじゃろう。未来を掴んだところでそれは僅か数瞬に過ぎず。絶え間なく攻め続けられれば、長期戦になれば不利なのは変わらずじゃ」
「……くっ!! これでもまだ互角なのか……!! どこまで強いんだよ……!!」
ウィズリィ様はたった数回の接触で、的確にこの力の弱点を見抜いてみせた。
制限時間に加えて数秒先の未来しか読めない事も。一瞬にして対策を組み立てている。
二秒後の未来を読まれるのであれば三秒後に避けられない攻撃を放てばいい。
いや、そもそも相手の機動力を上回る質と数で圧倒すれば読み合い以前の問題になってくる。
広範囲に散らばる鋭い水の刃が回避不能の壁となって押し寄せて来た。
層の薄い面を見つけ出し、無理矢理突破口を切り開くも、じわじわと体力を削られていく。
残された時間は少なく優位に立つどころか自ら窮地に陥っている。
「これは……想像以上に使い辛い能力だぞ……!!」
あくまで僕が見ている世界は、僕自身が最善の行動を取る事を前程として選び抜かれた未来だ。
一秒後にある地点に全力移動を求められても、その後の状況に対しては何一つ保証はされていない。
常に動き続けていればいずれ限界は訪れる。長期的な目線では逆に不利に陥る。
その場を凌ぐだけなら最適な力だろうけど。
一つ一つの行動に果たして最終的な勝利へと繋がっているかは定かではない。
五分後に僕が立っている状況に持ち込むには、常に全体を見通す判断が必要になってくる。
「……見えたっ、そこだ!! 伸びろ光剣!!」
「ふにゃ……!! ……くっ、先程より威力も精度も落ちておるというのに躱しきれぬ……! どれも見事に意表を突いたものばかり。攻めに回られると厄介な力じゃな……!」
それでも悪い話だけじゃない。
僕の攻撃は確実に通用するようになっている。
圧倒的な力量差を埋める先読みの一手。その一つだけで戦況を五分に持ちこめている。
目の前に巨大な泡が迫っていた。
攻撃するたびに小さく数を増していき、その一部が身体に纏わりつき炸裂する。
肌を裂く衝撃に再生を繰り返すも視界が霞み息が苦しくなってくる。
修復がまるで追い付いていない、身体中の血が足りていない。
「がっ……あっ……まだ、だ、まだ……負けるものか……!!」
「ね、粘るのう…………じゃが、そろそろ限界じゃろうて。息が上がっておるぞ?」
「ウィズリィ様こそ……魔力の制御に、苦戦していますよね? ……威力が落ちてますよ?」
「むぅ……生意気な口を開くものじゃ」
互いが防御を切り捨て自傷覚悟で近接戦闘で殴り合う。
これまでに与えたダメージと再生能力の有無で若干、押し返す場面も増えてきた。
ウィズリィ様が焦りの表情を見せながら水龍を召喚する。意思を持った濁流が僕を呑み込まんと大口を開ける。
「これ以上の消耗は厳しい……ならっ……!!」
背中に龍を引き連れ高度を上げる。遠くの方で閃光が走った。
放置されていたグランゴーレムの対空機関が起動。射線上の敵を狙って魔砲を射出していた。
大きく旋回し背後の水龍を盾にしてやり過ごす。残骸が雨となって地上に降り注いだ。
「……グランゴーレムのおかげで助かった。けど……どうして召喚を解除しないんだ」
動かせない物を残しておいても無駄に魔力を消耗するだけだ。
ウィズリィ様ほどの実力者であればわざわざ解除するまでもないのか。
それともまだ利用価値があると踏んでいるのか。
数秒先しか見通せない未来視では判断がつかない。
自分の頭で考える。ここまで戦ってきてウィズリィ様の性格は大体把握した。
ふざけた言動に惑わされそうになるけど、少なくとも彼女は真剣にこの場に臨んでいる。
手を抜いている訳でも僕を舐めている訳でもない。
と、なれば何かしらの意味がある。相手に利用される事も厭わない大きな理由が。
「……! もしかして、誰かが空から近付いて来ている?」
対空機関が相変わらず狂ったように左右に動いていた。
損傷による故障かと思っていたけど、もしかしたら何かに反応しているのかもしれない。
それが内側ではなく外側に向けられた警戒だとするなら……。
「……いける。僕の予想が正しければ。ゴーレムの対空機関を壊せばこの戦いは終わる!!」
光明は見えた。
だけど大きな課題が残されたままだ。
果たして今の手札であの兵器を完全に破壊できるのか。
最大火力を誇る雷属性であっても、土属性の守りを貫くのは至難の業だ。
疲労によって全力も出せない状況で妨害をかい潜り接近するのも難しい。属性的な相性もある。
戦況を変える複合属性もノート様の助けがなければ使えず、僕一人では根本的に力が足りていない。
「未来が視えたところで……肝心な力が足りなければ何も変えられないじゃないか……!」
未来視は確かに強力な能力ではあると思う。
しかしこれは結局のところ自分の限界以上のものは引き出せない。
実力に沿った未来しか掴み取れないのであれば、どこまでいっても補助的な役割から越えられない。
……違う。
この程度の力で世界を変えるだなんて到底不可能だ。
これは母さんが言っていた、レムちゃんが封印しているものとはまるで別の類の力だ。
「もしかして、これもただの通過点に過ぎないのか……? この先に更に強大な何かが……?」
《もう残り一分もないよ……。これで満足してくれないかな? 本当にこれ以上は……》
「あと少しなんだ……。あと一歩で届くんだ……! 僕は負けたくない、自分にだってそうだ。何も知らないまま、何も得られないまま終わるだなんて……そんなの、死んでもお断りだ!!」
《……ニノちゃん》
「レムちゃん!! これが最後だ。全てを出し切ろう、悔いの残らないように。その代価がどれだけ大きなものだったとしても、それでここで諦めてしまうようなら最初から誰とも関わるべきじゃなかったんだ。村で平凡な余生を過ごす事も選べたんだ! だけど今の僕は冒険者だ。他の誰でもない自分で選んだ道なんだ。みんなと関わり抜くと決めた以上、いつだって覚悟はしているんだよ!!」
時には危険を顧みず前に進む事も必要だ。
死を恐れていて冒険者が務まるものか。戦えるものか。
命を大事にするとは言った。でもその結果生き方を曲げるのであれば死んでいるのと変わらない。
彼女たちの心配も想いも、踏みにじる最悪な行動だとわかっている。
どうやら人は簡単には変われないみたいだ。身体は成長しても精神はまだまだ未熟そのもの。
それでも、自分の為に命を賭けられるようになっただけでも、マシになっていると思いたい。
《……そうだった。君は昔から素直で賢い子だったけど、だけど譲れないところは譲らない強情な子でもあったんだ。だから見つからないように封印していたというのに――でも、そうだよね。これは君の選んだ道なんだから、他人がどうこう言って抑えつけるものじゃなかったよね。……よし、こうなったら一蓮托生だ。ボクも責任を取って腹を括るよ。どうせ消滅する時は一緒なんだから!》
「まだまだ消えるつもりはないけどね。やり残した事が多すぎるんだよ」
《ボクの力がなかったらとっくの昔に死んでいるのによく言うよ!》
一度大きく息を吸ってから姿勢を正す。
これから起こりうる全ての事象に対応する為に気合を入れ直した。
《君の中に眠る無限の可能性を今ここに……!》
瞬間、左手の義手に変化が訪れた。
魔力を通しやすい特殊金属で作られた人工の塊が、その形状を変えていく。
何の装飾も施されていない、一見すれば安価で取引される練習用のありふれた武器。
それは一振りの剣だった。
「ば、馬鹿な……人が精霊神器を生み出すじゃと!? いや、しかし少しばかりレムの扱う神器とは形状が違う。それにこの世界中から集めたかのようなふざけた魔力量は……もはや精霊が扱える域を優に超えておるではないか、これではまるで……母上の……創生の剣……!?」
精霊神器に創生の剣。
どちらも聞き覚えのないもので、驚きと戸惑いと高揚感でごちゃ混ぜになる。
剣から溢れ出る現実離れした量の魔力が、僕の周囲を渦巻き空を切り裂いて雲を割る。
「これは……この剣には属性が存在しない……?」
無属性。
それは純粋な魔力そのもの。
全ての属性の生みの親にして頂点に位置する唯一無二の存在。
手を加えられていない純粋な魔力は、誰からの制御も受けない。
無属性のままで扱えるのは、この世界を創生した始まりの女神だけだとされている。
精霊様ですら自らの属性に変換、加工する事で初めて己のものとしている。
稀に戦士の技に使われる事もあるけど、それもただ単純に塊を無作為にぶつけているだけ。
他の属性のように確かな技術として確立されたものではなく。無属性魔法なんてものは今のところ存在しない。
精霊の祖にあたる女神の力――創生の剣。
剣を中心に複数のひし形をした宝石が円運動を繰り返している。
それぞれに属性を伴った核が組み込まれ、四色の宝石が一際輝きを増していた。
光、土、闇、雷。
僕と関わり深い精霊様の色を表した宝石たち。
その中でも特に土属性の発光が強く、早く自分を使えと主張しているようにも見えた。
その隣にもう一つ。
土属性に負けず劣らず輝き放つ色があった。
認識外に存在した五つ目の属性。深藍色の宝石に目が奪われる。
「……これ……は」
身に覚えのないそれは泣きたいくらい懐かしくて。同時に怒りと憎しみまで込み上げてくる。
見つめているだけで平常心を保てなくなる。耐え切れず視線を外した。
「…………駄目だ、これは……触れてはいけない物だ」
それに関わってはいけない。本能で理解した。
襲い来る欲求を振り払い。この場に適した土属性の宝石を選択する。
触れた途端に黄土色の宝石が左腕の剣に吸収され肥大化する。
誰に教えられずとも扱い方は熟知している。疑問は覚えない。
きっとこれこそが、僕の中に眠っていた本来の力なのだから。
「母なる大地よ。僕に道を切り拓く力を! そしてこの地に大地の祝福を!!」
僕の望みを叶えるべく、創生の剣に魔力が集っていた。
天上にまで伸びきった黄土色の光柱をただ真っ直ぐに振り下ろす。
山をも超越する巨大な機械人形が何の抵抗もなく左右半分に分かち、粒子となって消滅した。
その後に溢れんばかりの生命の息吹が吹き込まれていく。
余剰分の土属性が周囲の土地に影響を与え急激な成長を促した。
荒れ果てた大地に色とりどりの木々が立ち並び、新たな楽園を誕生させる。
風に乗って無数の花弁が空を舞っていた。
頬を霞める甘い匂いと山々の隙間から覗かせる夕焼けがとても綺麗だった。
「ぐうううううう……! 凄まじい威力じゃ……まさかあの機械人形を一撃の元粉砕するとは」
ウィズリィ様は両腕を前に出し衝撃から身を庇っていた。
あの水の精霊様ですら防御に徹するしかなかった。それだけの破壊力を有した一振り。
僕はその一回で、全てを出し尽くしてしまった。
創生の剣は破壊を目的として作られた武器ではないらしい。とにかく燃費が悪かった。
翼を維持するだけの魔力も残されていない。ゆっくりと地上に向けて僕の身体が下降していく。
「何故……ワシを直接狙わなかった? 今の技でなら確実にトドメを刺せたであろうに……!」
「僕は、貴方を納得させる為に戦っていたんですよ? それで命を奪ってどうするんですか……」
「む、そういえば最初にそんな事を言っておったかのう」
「……もしかして忘れていたんですか?」
「同族以外でここまで手強い相手と戦う機会などなかったからのう。夢中になって忘れておった」
その答えに思わず苦笑してしまった。
「しかしニノニノも甘い。ワシがこの状況で躊躇いなく撃てる悪人であればお主は今頃死んでおるぞ? 勝利を目前として自らその機会を手放すようでは、この先が思いやられるのう」
「それは……甘いのは自分でも自覚していますよ。だけどそれはお互い様でもありますよね?」
「ふんっ」
誤魔化すようにそっぽを向かれた。
負けず嫌いの子供を相手にしているようで緊張感の欠片もなくなっている。
僕もその子供と似たようなものなんだけど。
だからこそ、この期に及んで不敵に笑って見せる。
「どちらにしろ僕の勝ちは揺らぎませんよ。だって……邪魔な壁は取り払いましたから」
「…………!」
そう、邪魔者はいなくなった。
あとは全てを任せてしまおう。少しずつ落下速度が早まり固い地面が迫っていた。
天を仰ぐと茜色の空に黒い点が見える。それが徐々に近付いて来て。そして、腕を掴まれた。
「――まったく、連れ戻すだけって話だったのにどうして貴方は傷だらけなのよ!!」
どうやら勝利の女神は僕に微笑んでくれたようだ。
◇
「よく気付いたわね? 私があの忌まわしい機械人形のせいで近付けなかった事を」
フィアーは汗を流しながら僕を抱えて羽を懸命に動かしている。
飛ぶのが苦手だと語っていた彼女にとって、あの対空機関は目の上の瘤だったんだろう。
「フィアーが黙って待っているはずがないから。用が済んだら必ず駆けつけてくれるって信じていたよ」
今日までずっと一緒に暮らしてきたんだ。
彼女が何を考えて、どういった行動を取るかなんて簡単に想像つく。未来視の力を借りる必要もない。
「それは気が合うわね。私も貴方の帰りがあまりにも遅いものだから、また危ない事をやっているんだと簡単に想像できたわよ?」
「あはは、悪い方での信頼ばかりさせてしまってごめんね」
「笑い事じゃないでしょ。もうっ、また強くなったみたいだけど。少しは反省しなさいよ?」
「……善処するよ。僕だって何度も繰り返してみんなから見限られたくないからね」
「その心配の必要はないけど。だけど……あまり怪我をしている姿は見たくないから」
フィアーは一旦僕を地上に降ろしてから頭上を睨みつける。
怒りでどす黒い魔力を解き放ちながらも、僕との約束を守ろうと冷静さは何とか保っている。
「ウィズリィ、よくも私のニノをやってくれたわね……! この落とし前はつけさせてもらうわよ?」
「この喧しい声はフィアーか。随分と久しいのう。こうして面と向かって話をするのはお主が失踪して以来じゃったか」
「……? 貴方、転生したんじゃなかったの? どうして昔の細かな記憶が残っているのよ」
フィアーは眉をひそめて追及する。
そういえば誰も気にしていなかったけど、ウィズリィ様は明らかに以前の記憶を引き継いでいた。
水の属性力を自在に操り、時には過去の思い出話まで引き出している。
トルもそうだったけど、精霊様は最低限生き抜く為の知識は最初から持ち合わせているものだ。
だけど、転生直後はどうしても赤ん坊のそれに近い状態に戻ってしまうのだという。
そもそもの目的が精神の死を回避する為のものなので、それは避けようがない事なんだろうけど。
故に魔力を暴走させて厄災を起こしてしまった事例が、過去の文献にいくつも記述されている。
「自然と受け入れられてしまったのでワシ自身も困惑しておったところじゃよ。まさか最初に気付くのがフィアーになるとは夢にも思わなかったが……」
「ノートもあれで抜けているところがあるから……。それで、一体どういう事なのか説明しなさいよ!」
「訳あって前世の記憶をある程度継承しておる。が、しかし……その理由はまだ話せぬがのう」
「どうしてそこでもったいぶるのよ馬鹿! そこまで言われたら気になるでしょうが!!」
ウィズリィ様は片目を閉じ、人差し指を口元に置いて可愛らしい仕草をしていた。
それが昔馴染みのフィアーには不快だったらしい。苦虫を噛み潰したような顔で怒鳴っていた。
「相変わらず、その相手を小馬鹿にしたような態度。ムカつくわね……!」
「お主だけには言われとうないわ。過去、どれだけワシがお主とレムに手を焼かされた事か。あれから数百年経った今でもひと時も忘れてはおらぬぞ!! 何だったら今ここでニノニノに暴露してやってもよいのじゃぞ!?」
《うーん。忘れてくれても良かったのに……うぅ。ニノちゃんは聞いちゃ駄目だよ?》
お互いムキになって言葉をぶつけ合っている。案外、精神年齢は近いのかもしれない。
レムちゃんも昔を思い出して恥ずかしくなったのか一人で唸っていた。
「きいいいい!! 一発ぶちかまさないと気が済まないわ。そこでじっとしていなさいよ!!」
「ふんっ、いくら手負いの身であろうと未熟なお主にしてやられるほど腕は衰えておらぬわ!!」
「見た目からして子供の貴方に言われたくないわよ!!」
「ちょ、ちょっと待って!!」
羽を広げて走り出そうとするフィアーを慌てて止める。
どう考えてもあれは苦し紛れの挑発だ。わざわざ付き合う必要もない。
「え、えーと。フィアー? 助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、なるべく穏便にね?」
「ニノは少し休んでいなさい! コイツは私が代わりにぶっ飛ばしてあげるから!!」
「あー駄目だ。完全に頭に血が上っちゃってる……」
フィアーは闇の力を増幅させていく。
有利な状況を捨てて不慣れな空中戦を挑んでしまった。
「相も変わらず単純な奴よのう、簡単な演技に騙されおって。怒りで我を忘れてワシに敵うとでも思うたか?」
「嘘をつくな! 本当は自分だって冷静さを保てない癖に!! 腕が震えているわよ!?」
「これは先程の傷が疼くだけじゃ! 決してお主を恐れている訳ではないわ!!」
「なーんだ。結局意地張って強がってるだけじゃない。ニノに負けそうになったのが相当悔しかったのでしょう? 素直に頭を下げて降参しておけばよかったものを。……見苦しいわね」
「むむむ……!!」
「何がむむむよ!!」
頬を抓ったり頭をぶつけたり泥臭い殴り合いの喧嘩が始まった。
精霊様同士本気を出し合えば周囲に多大な被害を与える。巻き添えを喰らえば一溜まりもない。
多分、下で見守っている僕を巻き込まない為に、極力魔法を使わないようにしているんだろうけど。
「強がっておるのはお主だってそうであろう? どうやらニノニノに特別な感情を抱いておるようじゃが、闇精霊である以上お主はどこまでいっても人類の敵じゃ。現に今も意識して力を抑えなければ傍にいるニノニノを闇に取り込みかねない状況ではないか」
「それは……今は関係ない話でしょ? それとも何? それを聞いて私が隙を晒すとでも思ったの?」
「ワシはただ事実を指しておるまでじゃ。どれだけお主が考え方を改め人に肩入れしようと、決して報われる事はない。ノートのように契約を結ぶ事も叶わない。必死に手を伸ばし望んだところでそれはただ……虚しいだけじゃよ」
「相変わらず口うるさい老害ね……! 見た目は若返っても中身は当時のまま成長していないじゃない!」
「やかましいわ! 年齢相応に戻ったらそれは成長ではなく退化じゃろうが!!」
闇精霊は人族の敵だった。
偶然が重なって今は僕たちの傍にいてくれているけど。
それでも過去は変えられない。そしてこれからも永遠とその事実は重く圧しかって来る。
「あれから随分と弱くなったものじゃな? 昔のお主のままであれば、誰彼構わず力を解き放っておればワシとて防ぎ切れる保証はなかった。人に情を移してしまったばかりに、闇精霊としての本分を失わなければな」
「ちっ!! 小賢しい真似を……!!」
あのフィアーが押されていた。
ひしめき合う魔力の波が、闇の波動が打ち消されていく。
それは決して力が劣っているからじゃない。
闇属性がどれだけ周囲に害をもたらすかを彼女自身が一番理解しているからだ。
口では人に対する嫌悪感を出しつつも、それでもいつだって周りを気遣っている。
偶に暴走してしまう事もあるけど、素直じゃないだけで本当はとても優しい子だから。
今も少しずつ変わって来ている。
獣人たちの信頼を得られたのだってそうだ。
報われない事なんてない。彼女にだって誰かに愛される資格は十分にある。
「……貴方ともあろう者が存外にツマラナイ事を言うものね。それとも頭が固いと言うべきなのかしら?」
フィアーはゆっくりと頭を上げた。
出会った当初から変わらない、勝気で自信に満ち溢れる姿。
余計な心配はいらなかった。彼女はいつだって真っ直ぐで眩しい。
「誰かと付き合っていく上で契約の有無なんて、種族の違いなんて些細な問題でしょう? 寄り添うだけなら難しく考える必要もない。こうするだけで簡単に叶うのよ?」
「わわっ。く、くすぐったいよ!」
「……離れたら怒るわよ?」
「……強引だ」
フィアーは僕の隣に降り立つと、腕に強くしがみつき何度も見せつけるように頬擦りをする。
ゴロゴロと甘えるような声を出して、存分に堪能してから離れていった。
「この人の傍にいたい。力を貸してあげたい。そう思わせた時点で彼はノートだけじゃない――私の精霊使いでもあるの。……残念だったわね? 昔の私ならともかく今の私にそういうのは通じない。この想いは壊せやしないわ!」
「……一体、お主に何があった? まるであの頃とは別人じゃぞ?」
ウィズリィ様は口を大きく開けて驚きを隠せずにいた。
その気持ちは十分わかる。短い付き合いの僕ですら彼女の変化には驚かされるのだから。
「私だって変わる時は変わるわよ。永劫の時を生きているのよ? いつまでも同じままでは面白くないでしょう? ウィズリィこそ、転生の儀を経て随分と我儘に生まれ変わったものじゃない」
「……少し事情が違うのじゃが。ふっ、まぁそうじゃな。認めよう。ワシも好き勝手生きるお主たちを指導しながらも、どこか憧れを抱いておったのも事実じゃ」
「ふーん。だからその未成熟な身体って訳? ただの趣味ではなかったのね」
「……当時のワシは年長者であったからのう。お主たちの模範になるべく自分を律して生きておった。そもそもの始まりは――――」
ウィズリィ様は腕を組んでしみじみと過去話を続けていく。
フィアーは面倒臭そうに聞き流していた。レムちゃんも長くなりそうだと苦笑している。
こうしていると三人の関係性が見えてくる。ウィズリィ様も相当苦労を背負わされていたんだろう。
「あーそうそう、忘れるところだった。そういえば貴方、ついさっき私が弱くなったとか言っていたけど……その全ては否定しないけど。けど、今の私には以前と大きく変わった事があるのよ?」
話の途中にも関わらず、フィアーはそんな事を言い出した。
特に気にする様子もなくウィズリィ様は興味深そうに注目する。
「ほう? お主も成長したという事じゃな。どれ、一つ見せてもらおうか」
「例えば――――こういうの」
フィアーは指を動かし瞬間的に詠唱を解き放った。
「だああああああああああーーーー!!」
「――――んなっああああああああああああ!?」
ウィズリィ様の後方、闇の靄から超速度で小さな身体が射出された。
稲妻をその身に纏い、耳を貫く激しい爆音を引っ提げて、突如として現れた若き血潮の奔流。
見事に巻き込まれたウィズリィ様が彼方へと飛んでいく。
「にやああああああああああああああああ!?」
受け身も取れずにウィズリィ様は頭を固い地面に打ち付けていた。
この一連の流れはフィアーの作戦の一つだったんだろうけど、今のは流石に可哀想に思う。
そして雷の翼を広げて獣が吠える。瞳は怖いくらいに据わっていた。
「ふぅーふぅー。うがああああああああ!! ニノから離れろ!! 離れろおおおおお!!」
トルは最初から覚醒状態に入っていた。
以前よりも狂暴性が増していて更に野生児に近付いている気がする。
多分、ここに来るまでにも二人で口喧嘩でもしていたんだろう。
「トルよくやったわ、作戦成功よ。活躍の場ができて良かったわね?」
「うる……さい!! 余計な……お世話!!」
そうは言いつつもちょっとだけ嬉しそう。
トルの頭を強く撫でながら、フィアーは得意げに腰に手を当てた。
「どう? これが私の新しい力よ!! 驚いたでしょう?」
「ぬがあああああああ! お主らは無茶苦茶じゃ!! 不意打ちとは卑怯者じゃ!!」
「何だ、まだ立てるんだ。トル、もう一度痛めつけてあげなさい!」
「……フィアが、命令するな!」
「こうなればまとめて教育してやるのじゃ! 特に新人のお主には念入りに叩き込む!!」
「この中で一番の新人は貴方でしょ……。まぁいいわ。私たち二人を相手にどこまでやれるか見ものね」
「やって……みろー!!」
好き勝手暴れる二人にウィズリィ様は翻弄されていた。
爆発音と叫び声が絶え間なく続いている。思いのほか三人は楽しそうだった。
僕はというと完全に蚊帳の外に置き去りにされている。
……これでよかったんだろうか?
自分の力だけで勝ち取ったものではない。
それでもフィアーの言葉を借りると、他者の信頼を得るのも一つの実力だ。
あれだけ意固地になっていたウィズリィ様はこちらを見向きもしない。
その余裕がないだけなのかもしれないけど。ここは都合よく認められたと思う事にしよう。
フィアーとトルの二人に心からの感謝を告げながら僕は走り出した。
◇
「……ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいでニノくんが……!」
私は泣いていた。
赤く腫れ上がった瞼を何度も擦りながら。
目の前で静かに佇む二人に謝罪の言葉を繰り返す。
鬼の力の制御もほぼ完璧に近い状態になった頃の話だ。
いつもの訓練場所にニノくんが約束の時間になっても来てくれなかった。
私はそれからも何日も通い待ち続けた。
それでも一向に顔を見せてくれないので、直接彼の家に迎えに行った。
あくまで秘密の訓練。ニノくんのお願いもあってご両親には会わないようにしていたんだけど。
玄関口で迎えてくれたレイさんが、困ったような表情をしていたのを覚えている。
通された部屋のベッドの上で眠っている彼の姿を見た時、全てを理解してしまった。
弱々しい胸の鼓動。何度声を掛けても返事をしてくれない。私の大好きな笑顔を返してくれない。
「ど、どうして……!」
あまりの突然の出来事に血の気が引くのを感じた。
それから私は全てを洗いざらいに話した。
何度も嗚咽が混じって声が掠れてしまってちゃんと届いていたのかもわからない。
それでも時間をかけて最後まで話し終えると、レイさんは怒らないで慰めてくれた。
「辛かっただろうに、よく話してくれた。……頑張ったな」
そう言って私を落ち着かせるように何度も頭を撫でてくれる。
視線を感じて隣を見ると、同じベッドに腰掛けているソールさんがずっと難しい顔をしていた。
「ソーちゃん。彼女は逃げずにちゃんと話してくれたんだ。言い辛い事だってたくさんあっただろうに。それにそもそもニノが自分から始めた事なんだ、フィリスちゃんを責めるのは間違っているだろう?」
「……レイさん。誤解させるような事を言わないでください。私は誰かに責任を押し付けるつもりはありません。いえ、責められるべきは私たちの方です。この子の性格を考えれば、いずれはこうなると予測できたはず。危うく……取り返しの付かない状態になるところでした」
「おかげで彼女の心が救われたと考えるべきだろう。ニノも男として立派になったものだ」
「そういう楽観的な考え方は私は嫌いです」
「まぁまぁ」
二人の話を聞いていると、自分が思い違いをしていた事に気付いた。
「今の、本当……? ニノくんは助かるの……?」
「ええ、何とか一命は取りとめました。今しばらくは安静にしておく必要はありますが……」
ソールさんは付きっ切りで看病をしていたみたいで、少し苦しそうにしていた。
険しい表情だったのも体調を崩していたから。安堵から足の力が抜けてへたり込んでしまった。
「フィリスさんに一つお願いがあるの。聞いてもらえませんか?」
「お願い……? だ、大丈夫です、何でも……何でもいう事を聞きますから」
償いは何だってするつもりだった。
誰が何と言おうと、自分のせいでニノくんは命を失いかけたのだ。
嫌われたくない。彼と疎遠になったりすれば私はきっと立ち直れなくなる。
「この先、この子の身に何が起こったとしても傍で支えてあげて欲しいの……今回の件もそうですが、常に私たちが見守り続けることはできません。心から信頼できる方に頼りたいのです」
「えっ、それだけ……ですか?」
「……もしかしたら、それがいつの日かフィリスさんにとって重荷になる時が来るのかもしれません。それでも……私たちの代わりにどうか……ニノの事を守ってくれませんか?」
「へ、平気です。寧ろ、私の方から望んで傍にいますから……!」
「そう、ですか。貴方はニノの事が好きなのですね?」
「う、うん。……はい!」
「貴方のような良き友人に巡り会えてあの子も幸せ者です……」
ソールさんは不思議な人だった。
優しさの中にどこか人離れした雰囲気があって、無性に恐ろしく感じる時もある。
単純に想い人の母親というだけで、勝手な苦手意識を生み出していたのかもしれない。
それから滞在の許可を貰って、彼が目を醒ますのを隣でずっと待ち続けた。
「フィリスちゃん……? どうしたの突然……えっと、三年ぶりくらいだよね?」
目を覚ましたニノくんは記憶を失っていた。
正確に言えば私と倉庫で再会する前の状態に戻っていた。
治療と力の封印による副作用なのらしい。全ての想い出が白紙に戻る。
告白の返事を貰う事はこの先叶わないかもしれない。
だけど私はめげなかった。片方が覚えている限り約束は残り続けると考えていたから。
「外で遊ぶの……? ごめんね……今はそういう気分じゃないんだ……」
「駄目だよ。家に閉じ籠っていたら、お日様に当たらないと心が落ち込んだままになるんだよ?」
「で、でも……」
「ほらっ、一緒に行こ?」
三年もの長い空白によって、ニノくんは落ち込む事が多くなった。
時々誰かを探しているような素振りを見せたりして、拠り所を探していた。
かつての自分の影が重なって見えた。だから多少なりとも強引に外に連れ出し毎日一緒に遊んだ。
不安に思う時間も与えないように、臆病だった自分に仮面を付けて勇気を出して。
以前の彼のように、今度は私が引っ張って行こう。
私が願う未来は、どちらか一方が依存するものじゃなく互いに支え合うものだから。
――それからは色々あったけど。
一番衝撃的だったのはレイさんとの別れだった。
精霊術師としての終焉、消滅の一部始終を偶然目の当たりにした。
私は辛くて悲しくて泣く事しかできなかった。昔から仲良くしてもらっていたから。
ニノくんはずっと堪えていた。もしかしたら以前から覚悟はしていたのかもしれない。
「母さんが倒れたんだ、だからこれからは一緒に遊べないんだ。ごめんね」
「……私にできる事ってあるのかな」
「その気持ちだけで十分だよ」
レイさんがいなくなって、心労で倒れたソールさんの看病と生活費を稼ぐ為に彼は四六時中働いていた。
だけど子供にできる事なんて限られている。日銭を稼いでも薬代だけでなくなってしまう。
「フィリスさん。……毎日、苦労を掛けさせてしまってごめんなさい」
「ううん、私が好きでやっている事だから。私の両親も村のみんなも心配しているんですよ?」
「どうやらそのようですね……本当に申し訳なく思っています」
ニノくんが外に出ている間に、こっそり夕食を届けに行ったりもした。
きっと素直に受け取ってもらえないだろうから。私が代表して村の人から預かった物を置いていく。
ソールさんの日に日にやせ細っていく姿を見るのは辛かったけど。
私と話をしている間はどこか楽しそうで、大切な息子が傍を離れたから寂しかったんだと思う。
「フィリスさん、あの時の約束を覚えていますか?」
「約束? ニノくんを支えるってやつですか?」
「ええ、私の大切なかけがえのない宝物を……どうかお願いしますね」
「任せてください! もしもの時は力尽くでも引っ張りますから。腕力だけなら自身があるんで」
「……ありがとう」
その会話を最期に、ソールさんは行方を眩ましてしまった。
村中どこを捜索しても痕跡一つ残されていなくて。死期を悟って身を投げたのではとも噂された。
元々、村でも謎多き女性の扱いを受けていたみたいで、噂話にいくらでも尾びれがついてしまう。
どちらにしろ、残されたニノくんにとっては最悪な結末だ。
追い打ちをかけるかのように、お母さんの失踪と同じ日に彼は精霊術師として目覚めてしまう。
私の前で大切な人たちに立て続けに不幸が襲う。その裏にはいつも一人の精霊様の存在があった。
「許せない! 許せない許せない!! 何で苦しめるの? 一体、ニノくんが何をしたって言うの!?」
怒りを吐き散らしながら、私はずっと精霊様を倒す方法を探し求めていた。
ノート様がどれだけあの一家から大切にされていたのかは、傍で見ていたから知っている。
それでも私からすればただの他人であり、憎き仇でしかなかった。
「絶対に死なせない……ニノくんは私が守るんだから……」
どの文献を辿っても精霊様の偉大さや歴史を称えるものばかり。
当たり前だ。上位存在である精霊様に挑もうとする愚者なんて世界を探してもそうはいない。
いたとしても既に亡き者にされているか、誰からも相手にされず笑われるかだ。
だから、私は最後の手段として精霊様に助けを求めた。
《……まさか精霊を殺す為に精霊の力を借りようとするとは。面白い馬鹿がいたものだな》
「…………えっ、この声は……誰?」
《お前の憎んでいる精霊の友人に当たる者だが。それで構わないのであれば力を貸してやってもいい。理由か? 理由は単純にお前が気に入ったからだ。暇潰しくらいにはなるだろうとな》
ウィズリィ様との出会いはそこからだった。
まさか本当に成功するとは思わなかったけど、殆ど奇跡に近い確率で同調する事ができた。
そう言えば、この時はまだ今みたいな変な喋り方ではなかった気がする。
当然だけどあとで両親には何度も泣かれてしまった。
精霊術師は、自分の寿命を対価に絶大な力を手にする職業だったから。
だけど私は鬼の血を引いている。元々人並み以上の魔力耐性があって寿命だってそこそこ長い。
対価分を差し引いても、人の本来の寿命とさほど変わらないはずだった。
「えっ、精霊術師になったって……な、何でだよ!!」
「別にいいでしょ? これでお揃いだね。ちなみに私は水の精霊術師になったんだよ?」
「良くない! 自分の命を削ってまで僕の後を追う必要なんてないのに……。フィリスは馬鹿だよ……」
「……馬鹿なのは知ってるよ」
後日、精霊術師になった事を彼にも伝えた。
やっぱり怒られてしまったけど。共通点が生まれたからか以前よりも距離が近くなった気がする。
「もう後戻りはできないんだから。一緒に頑張ろうよ? この際世界最強の精霊術師を目指すのもいいかもね!」
「フィリスは……昔から何事にも前向きで凄いよね、ずっと悩んでいた僕とは大違いだ」
「……そうでもないんだけど」
精霊術師として何もかもが手探りの状況から始まった。
二人で色々研究したりして楽しかった。もちろん私の最終目的はノート様の命を奪う事だけど。
両親の協力の元、中央の小さな町で精霊術師の集会に参加したりもした。
そうやって少しずつ実力を付けていくうちに、自分がどれだけ浅はかだったのかに気付かされた。
皮肉にも精霊術師になって人である事の限界を知ってしまった。それは鬼であっても変わらない。
精霊様に対抗できるのは同じ力を持った精霊様だけ。
借り物の力だけではどう足掻いても上位存在に届きようがない。
協力すると言ってくれたウィズリィ様も転生の最中で身動きが取れないままだ。
そう、最初から無謀な挑戦だったんだ。
それに私自身ノート様に対する印象も変わりつつあった。
ニノくんはいつも楽しそうに彼女の話をしてくれた。
一度も恨み言を聞いた事がなかった。家族を失った彼にとってそれが最後の繋がりだったから。
私もウィズリィ様と同調してから、精霊様に対する偏見も薄まったように思える。
だから――この黒い感情は心の奥底に封印する事にした。
考えを改めてからは、なるべく彼とは距離を取って自分にできる事を探した。
気持ちの整理をつける時間が欲しかったのもあるし、傍にいるだけが支える事じゃないと思ったから。
精霊様についてより良く知る為に研究機関に入る事も考えた。
私があれこれ模索している間に彼は彼で自分の道を歩もうとしていた。
「きっと、これ以上私が止めても無駄なんだよね……?」
「うん、不器用な僕にはこれくらいしかできないと思うから」
――冒険者。
ニノくんの性格的に一番向いてなさそうな職業だ。
でも同じくらい似合っていなかったレイさんだって、かつては優秀な冒険者だったと噂で聞く。
案外、そういう人ほど隠された才能があるのかもしれない。
「……それからこれ、忘れないうちに渡しておくよ。今日が君の誕生日だったよね」
「……えっ、あっ、ありがとう」
受け取ったのは眼鏡だった。
早速付けてみると度が入っていない。所謂、伊達眼鏡というやつ。
「とても似合ってるよ。そこそこ良い値段がしたんだから暴れて壊さないようにしてね?」
「壊さないようにって……いつも暴れているみたいに言わないでよ」
「フィリスは危なっかしいから。普段から身に付けていたら変な無茶はしないかなって思って」
「もう……私くらいになると何があっても眼鏡には傷一つ付けないもん」
「あはは、確かにそうだったかも」
何度も真剣に引き止めた。
危険だから行かないで、ずっと一緒に村で過ごそうって。
だけどこれは常に誰かの運命に翻弄され続けていたニノくんが、やっと自分で見つけた道。
勝手な我儘で迷惑をかけたくない。私は最後には身を引いて無理に笑って彼を見送ったのだった。
「…………はぁ」
ニノ君が村を去ってから一年と半年もの間の記憶は殆どない。
魂が抜けてしまったかのように、胸にぽっかりと穴が開いたままぼんやりと過ごしていた。
友人は周りにたくさんいた。それでもたった一人の存在が忘れられなくて、強く刻まれている。
「……駄目だ。やっぱり、私にはニノ君が傍にいないと生きていけないんだ。追いかけよう……」
そうと決めてからは残りの半年を両親への孝行に使った。
両親も私をよく理解していて止められる事もなく、寧ろ頑張って来いと励まされた。
そしてもう一度、彼の背中を追いかけ村を飛び出した。道に迷って一年は無駄にしちゃったけど。
三年振りに再会した彼は少し背が大きくなっていた。
それ以外は何も変わっていなかった。命を顧みない危なっかしい生き方にしたってそう。
結局、冒険者になったのだって、本当は彼の意思とは関係ない事を知ってしまった。
光の精霊様との戦いで粒子となって消滅しそうになるニノ君の姿を見た時、私は後悔した。
ソールさんが心配していた通りだ。誰かが傍にいないと駄目だった。
目を離せばたちまち手の届かない場所に行ってしまう。
覚悟なんてできなかった。
失いそうになって、どれだけ自分が依存していたのかを改めて思い知った。
あの時はフィアーちゃんのおかげで助かった。でも近い将来避けようがない別れが待ち受けている。
無理だ。
耐え切れるはずがない。
封印していた黒い感情が膨れ上がっていく。
それからノート様と出会い。そしてウィズリィ様が目覚めた。
私の都合のいいように条件が揃っていく。無謀だと思っていた精霊殺しに手が届いてしまった。
あとはただ振り下ろすだけ。それだけでこの不安から逃れられる。
「………………」
気が付くと私は暗い世界に閉じ込められていた。
どこを向いても、どこを歩いても永遠の闇へと堕ちていく。
鬼の力に目覚めたばかりの幼い頃の自分に戻っていた。いや、今はもっと酷いかもしれない。
「あれだけ修行したのに……ニノ君だって何度も血を流しながら手伝ってくれたのに……」
先祖返りで覚醒した人の多くは、己の力に溺れて狂人化してしまうのだという。
強靭な肉体とは正反対の不安定な心に揺れ動かされて、負の感情を理性では抑えきれなくなる。
そして些細な出来事がきっかけで爆発させてしまう。
きっと、ウィズリィ様はそれに気付いていたんだ。
手遅れになる前に、傷が浅く済むうちに解き放とうとした。
それでも想定以上に闇は深く大きかった。濁流のように全てを飲み込んでいく。
「ウィズリィ様……ごめんね。もう、限界だと……思う」
もしもの時の後始末は全て彼女に託していた。
戦いの最中に自分を抑えられなくなったら、制御が効かなくなったらそこで終わりにしようと。
憎しみに囚われて本物の化け物になるくらいなら、醜い姿を見せるくらいなら死んだ方がマシだ。
《……フィリスよ……諦めるのか?》
「うん……もういいよ。こんなの自分でもおかしいってわかっているから……」
最初から悪い人なんて存在していなかった。逃れられない運命だった。
それが納得できないから、都合のいいように悪人を生み出そうとしていただけ。
自分の弱さをノート様に押し付けていただけ。真に罰せられるべきは私だ。
《……そうか、じゃがな。お主の周りはそうではないらしいぞ? 勇気を出して前を向いてみるのじゃ》
「えっ……?」
目を、開ける。
周囲には力尽き倒れた大蛇が転がっている。
おびただしい量の血を吐き出しながら、私の腕を掴んでいる人物がいた。
あれだけ憎しみを抱いていたはずなのに。あと一歩のところまで来て後悔しか残らない。
「ごほっ……お願い……目を……醒まして……? 貴方に謝りたいの、話したい事が……たくさんあるの。きっと……私たちは……似た者同士だから。……気の合う友人に……なれると思うから……!」
「…………!」
「……死にたいだなんて言わないで。これ以上……大切な人を失いたくないの……!」
「ア、アアアアア……グアアアアアアアアアアアア!!」
やめて、止まって。この人を殺したら駄目だ。
彼女は種族の違いや自分の弱さに悩み苦しみ、最後には前を歩きだしたんだ。
今にも諦めようとしている。過去で止まったままの自分とは違う。
拳を止めようと脳から指令を送る。
唇を噛みしめて本能に負けてしまわないように拒絶する。
たとえ数秒後に化け物になるんだとしても、今、屈していたら私はそれ以下の畜生だ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
叫びながら叩きつけた拳は、僅かに横に逸れた。
背後の崖が崩壊して大きな岩が降り落ちてくる。当たり所が悪かったみたいだ。
一難は去ったけど、このままだとお互い生き埋めになってしまう。
「フィリスさん……?」
「はぁはぁ……に、逃げて……もう、これ以上は……持たないから……!」
「……私は逃げません」
「いいから、逃げて! その傷じゃいくら精霊様でも……!! ……もう十分だから」
頑なに動こうとしないノート様を怒鳴りつける。
それでも彼女は私に微笑みかけてくれる。手を握ってくれている。
「逃げる時は、その時は……一緒です」
「ど、どうして……! 私は貴方の命を狙った敵ですよ!?」
「それは違います。フィリスさんは私の大切な……友人ですよ?」
「ッ……!!」
巨大な岩盤が迫って来る。
せめてノート様だけでも助けたいのに、この期に及んで身体が言う事を聞いてくれない。
駄目だ、もう間に合わない。目を瞑って最期の瞬間を待つ。
――その時は一向に訪れなかった。
「ノート様、フィリス!! やっと……追い付けた!!」
◇
「来ないで……お願い……これ以上……近付かないで……!」
フィリスは頭の角を隠しながら後ろに下がっていく。
僕から逃げるように何度も転がりながら、そのたびに身体に傷を増やして。
「いつもの前向きな君はどこに行ったんだよ? この程度で挫けるような君じゃなかっただろう?」
「……違う。私はずっとあの頃から変わってない。醜い化け物のままで、ニノ君の隣にいる資格なんて……」
「誰かの傍にいるのにそんなものは必要ないよ」
性格だって種族だって関係ない。
それを判断するのは他の誰でもない僕自身だ。
「みんな僕の事を買いかぶり過ぎなんだよ。そりゃ人よりは少し変わってるし。身体の中には同居人がいるけど……。そう考えると随分と変ってるけど――僕だって君と変わらないくらい同じだけの醜い感情を持っていたりするんだよ?」
聖人君子じゃあるまいし、時には誰かを憎む事だってある。
彼女が実際に手を出してしまった事実から、目を背けてはいけないけど。
最後には踏み止まった、自分で間違いに気付く事ができた。それがどれだけ難しいか。
「……全部知った上でもう一度君とやり直したいんだ」
「ニノ君……」
「記憶を失って、父さんも母さんもいなくなって、精霊術師になって、ただ自分の意思とは無関係に物事が進んで行って、辛いとか悲しいとかよくわからなくって。それでも僕には君がいてくれたんだ。いつだって変わらない君の存在に……救われていたんだよ」
気恥ずかしくてずっと言えなかった。
代償があまりにも大きすぎるから、お礼を言うのは違うと思っていたから。
だけど自分の気持ちなんて言葉にしないと相手には届かないもの。
「本当はずっと感謝していたんだ。君が精霊術師になってくれて。僕は一人じゃないって心からそう思えた」
口を動かすたびに頬が熱くなってくる。
気心の知れた幼馴染に向けて、赤裸々に思いの丈をぶつけている。
もっと早くからこうするべきだったのかもしれない。でも、今からでもきっと間に合う。
「……ソールさんと約束したの。二ノ君を支えるって……二人の代わりに守るんだって……!」
「母さんが?」
「だから私はノート様をこの手で倒さないといけない。そうじゃないと……約束が守れない。だけど私にはできない、できなかった。……もう、どうすればいいのか……わからないよ……!」
「約束……」
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当時、友人が少なかった僕の事を、両親はいつも心配していたから。
光の精霊の力があるから、周りとは違うからどうしても人の輪に入り辛かった。
同じ悩みを抱えていた彼女が、僕にとって生涯の友人になり得ると思って託したんだ。
そこに亜人としての強制力が加わってしまった。それは不幸な事故。
「……フィリス、世界は広いよ? まだまだ僕たちの知らない事だらけだ。もしかしたら探せば何か別の解決手段が見つかるかもしれない。精霊様ですら気付けなかった方法が。そして僕たちは冒険者だ。行こうと思えばどこへだって行ける」
時間は確かに限られているけど。そんなものは大小限らず誰しもが同じだ。
大事なのはその間に何を成し遂げるか。終わった後で自分たちが満足できるかどうか。
「僕も最後まで全力で生きるから。自分が望むがままに進んでいくから。だから……!」
「……それでも上手くいかなかったら? 手掛かりが何一つ見つからなかったら……?」
「その時は――」
最初から諦めるような事はしたくないけれど。
悲観的な彼女にどうしても最悪な結末への覚悟が必要だというのであれば。
せめてそれが少しでも幸せなものであってもいいだろう。
僕はフィリスを壊さないように逃げ出さないように優しく包む。
「全てが上手くいかなかったその時は――――僕と一緒に地獄にまで付き合って欲しい」
「……えっ、に、ニノ君? そ、それって……あの……その……!」
「これから先もずっと傍にいて欲しいんだ。僕も君の事が好きだ。……何とも思っていない人の為に命を賭けようだなんて考えないよ。多分、きっと自覚していなかっただけで、昔から君に惹かれていたんだろうね」
「あ、あぁ。ううぅ…………」
僕たちが幼少期に交した約束。
それを今ここで持ち出す。亜人の強制力に負けないくらい強い繋がりを生み出そう。
母さんの願いをも上書きして、これから先、共に歩む事を誓う。
僕は今日までずっと持ち続けていた木製の指輪を取り出すと彼女に預ける。
フィリスはじっと指輪を見つめている。両目には溢れんばかりの涙が流れていた。
「まだ大人にはなりきれていないけど。君の想いには負けてしまうけど。これが僕からの返事だよ」
「……変だよ」
「何が?」
「一緒に死のうだなんて。そんなのニノ君らしくない」
「言わせたのはフィリスじゃないか。それに僕は今でも諦めてないし。これから楽しい事だって共有するんだよ?」
「……重たいよ」
「僕の為に全てを投げ出そうとしておいてよく言える」
「……ごめんね。いっぱい迷惑かけちゃった」
「いいよ」
「ノート様に謝らないと……獣人さんたちにもいっぱいいっぱい……」
「僕も一緒に謝るから。当然、ウィズリィ様も。精霊様だからって許されるものじゃないからね」
「あはは……拗ねちゃうかも」
お互い肩を寄せ合って座り込む。
フィリスはもう逃げようとはしなかった。僕もやっと安心して一息をつける。
今回は本当に疲れた。しばらく動きたくないくらい。
「ところで、返事は聞かせてくれないの? ……結構、恥ずかしかったんだけど」
「えっと……その、あうあう……だ、駄目……!」
「え、駄目だった?」
確認しようと隣を向くと無理矢理顔を戻された。
首の骨が折れそうになるほど強烈でおかげで頬の熱が少し冷めた。
「ち、違う……その、嬉しくて……よ、よくわかんなくて。顔が熱くて……今すぐには無理だよぉ」
「はいはい。急かさないし落ち着くまでずっとこうしてあげるから」
「うん……うん……!」
彼女の背中を撫でながら、創生の剣で復活した壮大な景色を眺める。
危ない橋を何度も渡って来たけど、どうにか望んだ未来をこの手で掴む事ができた。
この温もりを失わずに済んでよかった。
「あーーーーーー! 何どさくさに紛れてイチャイチャしてるのよ!!」
遠くの方でそんな叫び声が聞こえてくる。
「今は大事なところなんですから、邪魔をしてはいけません!」
「離しなさいよ! ノート、貴方はこれで満足なの!? そこまでされて許せるというの!?」
「二人が幸せであれば私はそれで構いません。見守っているだけで、それだけで……十分ですから」
「私はそんなお利口になんてなれないわよ! 奪い返させてもらうわ!!」
重傷のノート様に羽交い絞めにされながらフィアーは暴れていた。
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「まったく、空気の読めない精霊じゃな」
「ウィズリィ! 貴方まで邪魔をするというの!?」
「……馬に蹴られて死にとうなかったら黙って見守らぬか。やっとあの子の積年の想いが通じたというのに。無粋な奴じゃのう」
「散々、好き勝手やってたお前が言うなああああああああああああああ!!」
魂の咆哮だった。
「ニノが……盗られた。フィリスが……盗った!! やだやだ! トルに……返して!!」
「やれやれ、似たような子がここにもおったか……ノートよ、ワシも協力するぞ」
「……助かります」
「いやだああああああああ!!」「放せえええええええええ!!」
「…………ニノ君……大好き」
泣き喚く二人をノート様とウィズリィ様が取り押さえていた。
そしてフィリスはというと、ただずっと幸せを噛み締めながら僕の傍から離れなかった。
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