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第4章 仮面
欲望
しおりを挟む私は、彼氏がいた時から封印していたアレがしたくなった。理由はわからない。もっと私のほうを見てほしいという無意識なのか。若さゆえの欲なのか。わからない。
ベッドの中で、スマホを持ったまま動けなくなっていた。
体が、熱い。
佐々木さんのメッセージを、何度も読み返した。
『次は三好さんの好きな場所に連れて行ってください』
ただの文章。
なのに、胸がざわついた。
私は、スマホを置いて、体を横向きにした。
パジャマの下、素肌に何も着けていない。
シャワーの後、下着をつけるのが面倒だった。
いや、違う。
つけたくなかった。
自分の手が、お腹に触れた。
そのまま、下へ。
「ダメだ」
小さく呟いて、手を止めた。
彼氏と別れてから、ずっと我慢してた。
一人でするのも、誰かとするのも。
そういうのから、距離を置こうと思ってた。
めんどくさくなるから。
感情が、乱れるから。
でも、今。
体が、求めてる。
なんで?
佐々木さんのこと、好きなわけじゃない。
まだ、二回しか会ってない。
なのに。
私は、ベッドから起き上がった。
鏡の前に立つ。
パジャマを脱いだ。
裸の自分が、そこにいた。
胸。腰。太もも。
全部、普通。
特別じゃない。
でも、佐々木さんは、私に時給一万円払ってる。
メッセージ一通に、1,500円。
それって、私の体の値段?
違う。
会話の値段だ。
時間の値段。
でも、もし。
もし、佐々木さんが。
私の体を求めたら。
「そんなわけない」
声に出して、否定した。
契約書に書いてある。
『身体的接触を伴う行為は一切含まれない』
握手すらダメなんだから。
それ以上なんて、ありえない。
でも、頭の中で想像してしまう。
佐々木さんの手が、私の肩に触れる。
頬に触れる。
唇に。
「やめろ」
自分に言い聞かせた。
パジャマを着直して、ベッドに戻った。
スマホを見る。
佐々木さんからのメッセージ。
まだ、既読のまま。
返信してない。
返信しなきゃ。
でも、今は。
今、返信したら、変なこと書いてしまいそうだった。
私は、スマホを伏せて置いた。
枕に顔を埋める。
体が、まだ熱い。
なんで、こんなことになってるんだろう。
ただのバイトのはずだった。
時給がいいから、始めた。
それだけのはずだった。
なのに、今。
佐々木さんの顔が、頭から離れない。
声が、耳に残ってる。
「三好さんと、もっと話したい」
その言葉が、何度も蘇る。
私は、自分の太ももを強く握った。
痛い。
でも、それで少しだけ、落ち着いた。
深呼吸。
もう一度。
目を閉じた。
眠ろう。
明日になれば、冷静になれる。
そう思った。
でも、眠れなかった。
体が、疼いてる。
久しぶりの感覚。
彼氏といた時、よくあった。
でも、それは愛し合ってたから。
今は?
佐々木さんのこと、愛してない。
なのに、体だけが反応してる。
「おかしい」
呟いた。
私、おかしくなってる。
二回会っただけの人に。
時給一万円で雇われてるだけの関係に。
こんな感情、持っちゃいけない。
でも、止められない。
私は、ベッドから起き上がった。
パジャマを脱いで、また鏡の前に立った。
裸の自分。
手が、胸に触れた。
そのまま、下へ。
「ダメだ」
また止めた。
でも、体が言うことを聞かない。
スマホを手に取った。
佐々木さんのメッセージを開く。
『次は三好さんの好きな場所に連れて行ってください』
指が、勝手に動いた。
『佐々木さんは、どんな場所が好きですか?』
送信。
すぐに既読がついた。
そして、返信。
『静かな場所が好きです。三好さんと、ゆっくり話せる場所なら、どこでも』
ゆっくり話せる場所。
私の部屋は?
そんな考えが、頭をよぎった。
いや、ダメだ。
そんなの、絶対にダメ。
でも。
もし。
もし、佐々木さんが私の部屋に来たら。
二人きりで。
誰にも邪魔されない空間で。
私は、スマホを置いた。
両手で顔を覆った。
「私、どうかしてる」
小さく呟いた。
でも、体は正直だった。
熱くて、疼いて、求めてる。
私は、ベッドに倒れ込んだ。
パジャマは着なかった。
裸のまま、布団を被った。
暗闇の中で、自分の手が動き始めた。
もう、止められなかった。
「佐々木さん……」
名前を、小さく呟いた。
そして、目を閉じた。
頭の中に、佐々木さんの顔が浮かぶ。
優しい笑顔。
真剣な目。
低い声。
全部、リアルに蘇る。
手が、動く。
息が、荒くなる。
「ダメ……」
呟きながら、止められない。
久しぶりの感覚。
体が、覚えてる。
そして。
一瞬、全部が真っ白になった。
-----
しばらくして、我に返った。
汗だくだった。
息が、まだ荒い。
私は、何をしたんだろう。
佐々木さんのことを考えながら。
仕事の相手のことを考えながら。
「最低だ」
呟いた。
でも、体は満たされていた。
矛盾してる。
頭では否定してるのに、体は求めてた。
私は、シャワーをもう一度浴びた。
体を洗いながら、涙が出そうになった。
なんで、泣きたいのかわからない。
悲しいわけじゃない。
後悔してるわけでもない。
ただ、怖かった。
自分が、わからなくなってる。
シャワーを出て、パジャマを着た。
今度は、ちゃんと下着もつけた。
ベッドに戻ると、スマホが光っていた。
佐々木さんからの返信。
『もう遅いので、今日はこの辺で。おやすみなさい、三好さん』
おやすみなさい。
優しい言葉。
私は、返信した。
『おやすみなさい』
送信して、スマホを置いた。
そして、気づいた。
今日、二通メッセージを送った。
つまり、三千円。
たった数十文字で。
私は、笑った。
乾いた笑い。
そして、目を閉じた。
今度は、すぐに眠れた。
夢の中で、佐々木さんが笑っていた。
でも、その笑顔は。
どこか、冷たかった。
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