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第5章 天気予報
朝のメッセージ
しおりを挟む朝になり、目が覚めると佐々木さんからメッセージが来ていた。
「おはようございます」
「三好さんは今日なにか予定ありますか」
と他愛のないメッセージなのに、嬉しかった。朝からシャワーを浴びることなんて最近なかったのに。浴びたくなった。自分の体の火照りを抑えるためにも。
時計を見ると、午前8時。
佐々木さんがメッセージを送ってきたのは、7時半。
起きてすぐに、私のことを考えてくれたんだろうか。
そんなことを考えて、頬が熱くなった。
「落ち着け」
自分に言い聞かせて、シャワー室へ向かった。
服を脱ぐ。
鏡に映った自分の体。
昨日の夜のことが、蘇る。
佐々木さんのことを考えながら。
一人で。
「忘れろ」
呟いて、シャワーを浴びた。
冷たい水に切り替える。
冷たい。
でも、体の火照りは消えない。
むしろ、肌が敏感になってる気がした。
シャワーを出て、タオルで体を拭く。
丁寧に、ゆっくりと。
普段ならさっと拭くだけなのに。
今日は、自分の体に意識が向いてしまう。
下着を選ぶ。
いつもは適当に取るのに、今日は迷った。
黒いレースのセット。
白いシンプルなセット。
結局、白を選んだ。
なんで?
誰かに見せるわけでもないのに。
服を着て、リビングに戻った。
スマホを手に取る。
佐々木さんのメッセージ。
まだ、返信してない。
なんて返そう。
『おはようございます。今日は特に予定ないです』
シンプルすぎる?
『おはようございます。お休みの日なので、家でのんびりしようと思ってます』
もう少し、話が広がる内容のほうがいい?
私は、キッチンでコーヒーを淹れながら考えた。
メッセージ一通、1,500円。
そう考えると、もっとちゃんとした内容にしなきゃいけない気がする。
でも、田村さんは言ってた。
『自然体でいい』
自然体。
私の自然体って、何?
結局、こう返信した。
『おはようございます。今日は特に予定ないです。佐々木さんは?』
送信。
コーヒーを飲みながら、スマホを見つめた。
既読がつくまで、一分。
そして、返信。
『僕も特に予定はないです。良かったら、少し電話で話しませんか』
電話。
心臓が、跳ねた。
メッセージじゃなくて、電話。
声を聞く。
リアルタイムで、やり取りする。
それって……
『電話も、報酬の対象ですか?』
変な質問だと思ったけど、確認したかった。
すぐに返信が来た。
『もちろんです。30分で15,000円でどうでしょう。会社にも確認を取ります』
三十分で一万五千円。
時給三万円。
異常だ。
でも、断る理由がない。
『わかりました。何時頃がいいですか?』
『今から大丈夫ですか』
今。
私は、部屋を見回した。
散らかってない。
でも、声、ちゃんと出せるかな。
『大丈夫です』
送信した瞬間、着信が来た。
佐々木さんからだ。
深呼吸。
画面をスワイプした。
「もしもし」
「おはようございます、三好さん」
低い声。
直接、耳に届く。
ドキッとした。
「おはようございます」
「いきなり電話、ごめんなさい。でも、声が聞きたくて」
声が聞きたい。
その言葉に、胸がざわついた。
「いえ、大丈夫です」
「今日、本当に予定ないんですか」
「はい」
「じゃあ、会えますか」
「え……」
突然の提案に、言葉が出なかった。
「急で、ごめんなさい。でも、三好さんと話してたら、会いたくなって」
「でも、次の予定って、まだ決まってなかったような……」
「会社を通さずに、会いたいんです」
会社を通さない。
つまり、プライベート?
いや、違う。
報酬は払うって言ってる。
「報酬は、通常通りお支払いします。二時間で五万円。でも、会社には内緒で」
内緒。
契約違反になるんじゃないか。
「それって……大丈夫なんですか」
「大丈夫です。会社との契約は、あくまで紹介と管理。僕と三好さんが直接会うことは、禁止されてません」
本当だろうか。
でも、確かに契約書にそんな項目はなかった気がする。
「どう、ですか」
佐々木さんの声が、優しい。
誘っている。
私は、窓の外を見た。
晴れている。
「どこで、会いますか」
言ってから、自分で驚いた。
私、承諾してる。
「三好さんの好きな場所で。どこでもいいです」
好きな場所。
私の好きな場所。
頭に浮かんだのは、大学の近くの公園だった。
「公園、どうですか。静かで、人も少ないです」
「いいですね。場所、教えてください」
私は、住所を伝えた。
「じゃあ、お昼に。12時でどうですか」
「はい」
「楽しみにしてます」
電話が切れた。
私は、スマホを握りしめたまま、動けなくなった。
会う。
今日。
お昼に。
会社を通さずに。
これって、大丈夫なんだろうか。
いや、大丈夫じゃない気がする。
でも、もう約束してしまった。
私は、クローゼットを開けた。
何を着よう。
公園だから、カジュアルでいい。
でも、カジュアルすぎても。
結局、ベージュのワンピースを選んだ。
膝丈で、清楚な感じ。
下着は、さっき選んだ白いセット。
メイクは、いつもより丁寧にした。
鏡の前で、何度も確認する。
おかしくない。
普通だ。
でも、心臓が早い。
時計を見ると、まだ10時。
二時間ある。
長い。
でも、あっという間な気もする。
私は、ソファに座った。
スマホを見る。
佐々木さんからのメッセージ。
『今日はありがとう。会えるの、嬉しいです』
嬉しい。
私も、嬉しい。
それが、怖かった。
仕事なのに。
報酬をもらう関係なのに。
嬉しいと思ってる。
「やばい」
呟いた。
でも、止められなかった。
もう、引き返せない。
今日、佐々木さんに会う。
公園で。
二人きりで。
そこで、何が起こるんだろう。
答えは、出なかった。
ただ、一つだけわかったことがあった。
私は、佐々木さんに会いたい。
報酬とか、仕事とか関係なく。
ただ、会いたい。
それを認めた瞬間。
全部が、変わった気がした。
時計を見る。
10時半。
あと一時間半。
長くて、短い。
私は、窓の外を見た。
晴れている。
良い天気だ。
デート日和。
「デートじゃない」
自分に言い聞かせた。
でも、心の中で。
デートだと思っていた。
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