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美山さんとの出会い
第10話 美山からのメール
しおりを挟む家に帰り着いた頃には、もう夜の八時を過ぎていた。
大量の買い物袋を部屋に運び込む。床一面に散らばる、女子高生のアイテムたち。
まるで、別人の部屋みたいだ。
ソファに倒れ込んだ時、スマホが震えた。
美山理事長からのメールだった。
件名:【重要】明後日のレッスンについて
本文:
『斎藤様
本日はお疲れ様でした。
明後日のメイクレッスンですが、一点お願いがございます。
アトリエに来る際は、女性として来てください。
スタッフにも女性が来ると伝えてありますので、男性の姿で来られると混乱を招く恐れがあります。
もちろん、メイクはまだ習っていない段階ですので、最低限で構いません。
服装と髪型を女性らしく整えてきていただければ大丈夫です。
もし、不明点等がございましたら昼夜問わずご連絡ください。
即座にご対応致しますので。
あと、ウィッグをご自宅へお送り致しましたのでご活用ください。
それでは、明後日お待ちしております。
美山崇子』
「女性として……」
呟いた瞬間、インターホンが鳴った。
こんな時間に?
モニターを見ると、配達員が立っている。
「お荷物です」
ドアを開けると、大きめの箱を渡された。
送り主:Atelier Miyama
「これが、ウィッグ……」
部屋に戻り、箱を開ける。
中には、丁寧に梱包されたウィッグが二つ入っていた。
一つは、セミロングの黒髪。自然なストレート。
もう一つは、ミディアムの茶髪。少しウェーブがかかっている。
そして、メモが添えられていた。
『黒髪は学校用。茶髪はプライベート用です。
どちらも高品質な人毛ウィッグですので、自然に見えるはずです。
装着方法は同封のマニュアルをご覧ください。
美山』
マニュアルを開くと、細かい説明が書かれている。
ウィッグネットのかぶり方、ウィッグの装着方法、調整の仕方――。
「これを、つけるのか……」
鏡の前に座った。
まず、ウィッグネット。自分の短い髪を全て中に収める。
そして、黒髪のウィッグを手に取った。
装着する。
位置を調整する。
鏡を見る。
「……」
そこにいたのは、見知らぬ女の子だった。
黒髪のセミロング。童顔。身長160センチ。
完全に、女子高生だ。
「俺……じゃない」
手を伸ばす。鏡の中の「彼女」も手を伸ばす。
これが、斎藤みゆき。
女子高生バージョンの。
スマホを取り出して、自撮りしてみる。
画面に映るのは、普通の女の子。
誰も、男だとは気づかないだろう。
「明後日、この姿で……花奈に会う」
その現実が、じわじわと押し寄せてくる。
花奈は、気づくだろうか。
半年前に別れた彼氏が、女装していることに。
いや、気づかないはずだ。
だって、花奈は俺が女子高生になるなんて、夢にも思っていないだろうから。
でも。
でも、もし気づいたら――。
「……考えるな」
ウィッグを外した。
部屋の隅には、今日買った服が袋に入ったまま置いてある。
明日一日かけて、女性として外を歩く練習をしなきゃいけない。
そして明後日。
花奈に会う。
元カノに、メイクを教えてもらう。
女装した状態で。
「人生、どうしてこうなった……」
天井を見上げながら、僕は笑うしかなかった。
スマホの画面には、さっき撮った自撮り写真。
黒髪の女の子が、不安そうな顔で映っている。
これが、これからの俺だ。
『斎藤みゆき』という、女子高生が。
深呼吸をする。
明日から、本当に始まる。
後戻りはできない。
窓の外は、もう真っ暗だった。
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