「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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Relaxation Salon ANNA

第11話 朝を迎える

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目が覚めたのは、朝の七時だった。

いつもなら会社に行く準備をする時間だ。でも、今日は違う。

スマホを確認すると、近藤からメールが来ていた。

件名:自宅勤務の件

本文:
『斎藤

美山さんから聞いた。
準備順調そうだが、準備する時間を設けてあげたほうが良いだろう。

その分は自宅出勤ということで大丈夫だ。
9/1まではそれで問題ない。

焦らず、しっかり準備してこい。

近藤』

9月1日。二学期の始業式。

それまで、あと四日。

「自宅勤務……か」

ベッドから起き上がる。

部屋には、昨日買った女性用の服やメイク道具が散らばっている。ウィッグも、マネキンヘッドに乗せたまま置いてある。

まるで、女の子の部屋みたいだ。

シャワーを浴びて、コーヒーを淹れる。

昨日の買い物で、確かに疲れはあった。美山理事長と一緒に渋谷や表参道を歩き回り、何十着もの服を試着し、メイク道具を選び――。

でも。

疲れよりも、別の感情が渦巻いていた。

鏡を見る。

そこにいるのは、いつもの斎藤みゆきだ。

童顔。身長160センチ。

見た目がこんなでも、男としてのモノはある。

「……くそ」

大きなため息を飲み込んだ。

半年前、花奈と別れてから、誰とも会っていない。

仕事に打ち込んで、取材に没頭して、記事を書き続けて――。

でも、男としての欲求は、消えない。

気づけば、スマホを手に取っていた。

検索窓に、文字を打ち込む。

『メンエス 聖川駅』

エンターキーを押す。

すぐにヒットすることは、わかっていた。

聖川駅周辺には、メンズエステがいくつかある。健全な店もあれば、そうでない店も。

俺が探しているのは、後者だ。

検索結果の一番上。

『Relaxation Salon ANNA』

口コミを見る。

「施術が丁寧」「綺麗なセラピストさん」「リラックスできました」――。

建前だ。

もっと下の方を読む。

「期待以上でした」「また行きます」「おすすめ」――。

ああ、そういう店だ。

料金を確認する。90分で二万円。

黒いカードが、テーブルの上に置いてある。

美山理事長から渡された、あのカード。

『必要なものは全て、これで購入してください』

彼女は、そう言った。

でも、これは「必要なもの」なのか?

「……違うだろ」

自分に呟く。

これは、ただの欲求だ。

明後日、花奈に会う。

元カノに、女装した姿を見せる。

その前に、男として――。

「最後に、男でいたい」

呟いた言葉が、部屋に響く。

スマホの画面には、予約ボタンが表示されている。

指が、震えている。

これを押したら。

男として、最後の時間を過ごす。

そして明後日からは、女子高生になる。

「……」

深呼吸をする。

そして、予約ボタンを押した。

『本日13時、ご予約を承りました』

確認メールが届く。

午後一時。

あと六時間後。

「行くか……」

スマホを置いて、窓の外を見た。

青空が広がっている。

普通の、夏の朝だ。

でも、俺の中では、何かが終わろうとしていた。

男としての、最後の時間。

それが、今日の午後、始まる。

部屋の隅には、ウィッグと女性用の服。

明後日には、それを身につける。

でも、今日は――

今日だけは、男でいたい。

コーヒーを一口飲んで、僕は準備を始めた。

男としての、最後の外出の準備を。​​​​​​​​​​​​​​​​
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