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Relaxation Salon ANNA
第13話 manaの手
しおりを挟む仰向けになった。
天井には、間接照明が柔らかく光っている。
「では、前面をほぐしていきますね」
manaの声が、耳元で響く。
オイルを手に取る音。
そして、彼女の手が胸の上を滑る。
「ここも、凝ってますね……」
ゆっくりと、円を描くように。
息が、かかる。
彼女の黒髪が、僕の顔の近くに垂れてくる。
「リラックスして……」
手が、腹部へ移動する。
そして――
太腿へ。
「ここも、張ってますね」
manaの手が、内側を撫でる。
鼠蹊部。
そのギリギリのところを、指が滑る。
明らかに、意図的だった。
「んっ……」
思わず、小さく息を漏らしてしまった。
「大丈夫ですか? 痛かったら言ってくださいね」
manaは、微笑んでいる。
でも、その手は――
もっと、ギリギリのところへ。
触れるか、触れないか。
そのラインを、何度も往復する。
ゴクリ。
生唾を飲み込む音。
小さな音だったはずなのに――
「喉、渇きました? お水、飲みますか?」
manaは、聞き逃さなかった。
「い、いえ……大丈夫です」
「そうですか。でも、我慢しないでくださいね」
彼女の手が、また動く。
太腿。鼠蹊部。そして――。
「ここ、すごく張ってますね……ほぐしてあげます」
違法だと、わかっていた。
風俗営業法。
この手の店が、どこまでやっていいか。
ラインを越えたら、摘発される。
でも――
manaの手は、そのギリギリのところを攻めてくる。
そして、僕の体は、正直に反応していた。
「あら……元気になってきましたね」
囁くような声。
「いいんですよ。我慢しなくて」
彼女の手が――
「manaさん……」
「はい?」
「これって……」
「大丈夫。リラックスしてください」
そう言って、彼女は微笑んだ。
そして。
溜まりに溜まっていた鬱積が、弾けていった。
半年間。
花奈と別れてから、誰とも会っていなかった。
仕事に逃げて、取材に没頭して、記事を書き続けて――。
でも、男としての欲求は、ずっとそこにあった。
「いいんですよ……全部、出して」
manaの優しい声。
彼女の手が、動く。
もう、止められない。
「あ……」
「頑張りましたね」
時間が、止まったような感覚。
天井の照明が、ぼやけて見える。
「お疲れ様でした。ゆっくり、休んでください」
manaは、タオルを持ってきて、優しく拭いてくれた。
「シャワー、もう一度浴びますか?」
「……はい」
フラフラとシャワールームへ向かう。
鏡に映る自分。
赤い顔。荒い息。
「これが……最後か」
男として、こうやって発散するのは。
明後日からは、女子高生になる。
四ヶ月間、女として生きる。
その前の、最後の時間。
シャワーを浴びて、服を着る。
部屋に戻ると、manaが冷たい麦茶を用意してくれていた。
「お疲れ様でした。どうでしたか?」
「……気持ち良かったです」
「良かった。また、疲れたら来てくださいね」
会計を済ませる。二万円。
現金で払った。
黒いカードは、使わなかった。
これだけは、自分のお金で。
「ありがとうございました。お気をつけて」
manaの笑顔に見送られて、店を出た。
エレベーターに乗る。
鏡に映る自分は、どこか満足げな顔をしている。
でも、同時に――
虚しさも、あった。
「これで、良かったのか?」
呟いた言葉は、誰にも届かない。
外に出ると、夏の日差しが眩しかった。
時計を見る。14時半。
まだ、昼間だ。
家に帰って、何をするか。
ウィッグの練習。
メイクの勉強。
女性らしい歩き方の練習。
明後日、花奈に会うための準備。
「……やるしかないか」
駅へ向かって歩き出す。
男としての最後の時間は、終わった。
これからは、女として生きる準備をする。
空を見上げた。
青い空に、白い雲。
普通の、夏の午後だった。
でも、俺の人生は、もう普通じゃなくなっていた。
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