「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

文字の大きさ
55 / 80
希望

第55話 希望

しおりを挟む


十二月に入った。

朝、教室の黒板には――

『期末テスト 12月10日(水)~12月13日(金)』

大きく書かれている。

「やだー、もうテストなの?」

「早すぎ……」

女子高生たちの、嘆きの声。

でも、私は――

カレンダーを見ていた。

今日は、十二月三日。

テストまで、一週間。

テストが終わったら――

採点期間で、数日間休みになる。

そして、十二月二十日頃から終業式までの一週間。

「残り、三週間……」

呟いた。

十二月末で、この潜入取材は終わる。

あと、三週間。

「このテストが終わったら……」

テストの採点期間で休みになる。

その後、残り一週間。

「それまでには、近藤さんを救いたい」

何とかして。

-----

先週から、学校カウンセラーが来るようになった。

美山理事長が、手配してくれた。

毎週水曜日の放課後。

保健室で、カウンセリングを受けられる。

「文化祭後の心のケアです。希望者は、いつでも来てください」

田中先生が、そう説明した。

最初は、誰も行かなかった。

「カウンセリングとか、別に必要ないし」

「メンタル弱いと思われそう」

女子高生たちの反応。

でも――

私が、最初に行った。

「ちょっと、話を聞いてもらいたくて」

放課後、保健室へ。

カウンセラーは、四十代くらいの女性。

優しそうな雰囲気。

「初めまして。佐伯さんですね」

「はい……」

美山理事長から、事情は聞いているはずだ。

「文化祭、お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

「何か、困っていることはありますか?」

「……実は」

私は、近藤さんのことを話した。

一緒にメイドさん役をしたこと。

動画のこと。

彼女が、今も不安を抱えていること。

「近藤さんのこと、心配なんです」

「そうですか……」

カウンセラーは、優しく頷いた。

「近藤さんも、ぜひ来てもらいたいですね」

「でも、彼女……自分からは来ないと思います」

「では、あなたから誘ってみてはどうですか?」

「……」

「『一緒に行こう』って。友達として」

そうか。

一人で行くのは、勇気がいる。

でも、友達と一緒なら――。

「わかりました。誘ってみます」

-----

次の日。

放課後、近藤さんに声をかけた。

「近藤さん、ちょっといい?」

「うん、どうしたの?」

「カウンセリング、一緒に行かない?」

「え……カウンセリング?」

近藤さんは、少し戸惑った顔をした。

「うん。私、先週行ってきたんだけど、すごく良かったから」

「そうなの……?」

「話を聞いてもらえるだけで、楽になる。一緒に行こう」

「……」

近藤さんは、少し考えてから――

「わかった。一緒に、行く」

小さく頷いた。

-----

その水曜日。

二人で、保健室へ行った。

カウンセラーは、私たちを温かく迎えてくれた。

「いらっしゃい。二人とも、よく来てくれました」

近藤さんは、最初は緊張していた。

でも、カウンセラーが優しく話しかけてくれて――

少しずつ、心を開いていった。

「文化祭のこと、覚えていますか?」

「はい……」

「楽しかったこと、辛かったこと、色々あったと思います」

「……」

「全部、話してくれていいんですよ」

そして、近藤さんは――

泣きながら、話し始めた。

メイド服のこと。

カメラのこと。

動画のこと。

周りの視線のこと。

全部。

「怖かった……誰も信じられなくて……」

「辛かったですね」

カウンセラーは、近藤さんの手を握った。

「でも、あなたは悪くない。何も、悪くない」

「……」

「そして、佐伯さんという友達がいる。一人じゃない」

近藤さんが、私を見た。

涙でぐしゃぐしゃの顔。

でも、少しだけ――

笑顔になった。

「ありがとう……佐伯さん」

「……うん」

私も、涙が出そうになった。

-----

それから、毎週水曜日。

二人で、カウンセリングに通った。

近藤さんは、少しずつ明るくなっていった。

笑顔が、増えた。

教室でも、前より話すようになった。

「大丈夫……私、大丈夫だから」

そう言えるようになった。

-----

十二月三日。

今日。

「あと三週間か……」

呟いた。

期末テストが終わったら、採点期間で休み。

そして、残り一週間。

「それまでには……」

近藤さんを、救いたい。

完全に、とは言えないかもしれない。

でも、少しでも――

彼女が笑顔で、新しい年を迎えられるように。

「新しい一年は、笑って迎えてほしい」

それが、私の願い。

そして、私の責任。

教室で、近藤さんと目が合った。

彼女は、微笑んだ。

少しだけ、明るい笑顔。

「大丈夫……きっと、大丈夫」

あと三週間。

私にできること。

全部、やる。

近藤さんのために。

そして――

『佐伯みゆき』として過ごす、最後の日々のために。

窓の外は、冬の空。

冷たいけど、晴れている。

希望が、少しだけ見えた気がした。

あと三週間。

最後まで、走り抜ける。​​​​​​​​​​​​​​​​
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...