「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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希望

テストが終わり、休みに入った。

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十二月十三日、金曜日。

最後のテスト科目が終わった。

「やっと終わったー!」

「疲れた……」

教室中から、解放感に満ちた声。

四日間の期末テスト。

ようやく、終わった。

「これで、しばらく休みだね」

桜井さんが、誰かと話している。

「採点期間、何する?」

「買い物行こうよ!」

女子高生たちの、楽しそうな会話。

私は――

近藤さんの席に向かった。

「お疲れ様」

「佐伯さんも、お疲れ様」

近藤さんは、少し疲れた顔をしていた。

でも、笑顔。

「休みの間、どうする?」

「え……?」

「一緒に、気分転換しない?」

近藤さんの目が、少し輝いた。

「いいの……?」

「もちろん。友達でしょ?」

「……ありがとう」

-----

十二月十四日、土曜日。

近藤さんの家に、遊びに行った。

住所を教えてもらって、電車で三十分。

静かな住宅街。

一軒家の前で、インターホンを押す。

「はーい」

ドアが開くと、近藤さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい! どうぞ」

「お邪魔します」

家の中は、温かい雰囲気。

リビングには、クリスマスツリーが飾られている。

「可愛い……」

「お母さんが、毎年飾るの」

近藤さんの部屋へ案内される。

ピンクを基調とした、女の子らしい部屋。

本棚には、小説がたくさん。

「近藤さん、読書好きなんだね」

「うん。本を読んでる時が、一番落ち着く」

二人で、ベッドに座る。

「佐伯さん……」

「うん?」

「最近、少し楽になった」

近藤さんが、静かに言った。

「カウンセリングのおかげかな。あと、佐伯さんが一緒にいてくれるから」

「……」

「あの動画のこと、まだ完全には忘れられないけど」

近藤さんは、窓の外を見た。

「でも、前よりは……大丈夫」

「良かった……」

「ありがとう、佐伯さん」

近藤さんが、微笑んだ。

本当の笑顔。

心からの笑顔。

「私こそ、ありがとう」

二人で、お菓子を食べながら、色んな話をした。

好きな本のこと。

好きな音楽のこと。

将来の夢のこと。

時間が、あっという間に過ぎた。

-----

十二月十八日、水曜日。

近藤さんと、クリスマスイルミネーションを見に行った。

六本木のイルミネーション。

夜の街が、光で彩られている。

「わあ……綺麗」

近藤さんが、目を輝かせている。

「本当だね」

二人で、ゆっくりと歩く。

光のトンネル。

巨大なクリスマスツリー。

音楽と、笑い声。

「楽しい……」

近藤さんが、呟いた。

「こういうの、久しぶり」

「そうなんだ」

「うん。文化祭の後、ずっと家にこもってたから」

近藤さんは、立ち止まって空を見上げた。

「でも、今日は……楽しい」

「私も」

二人で、写真を撮った。

イルミネーションをバックに。

笑顔で。

「いい写真」

「うん。思い出になるね」

ホットチョコレートを飲みながら、ベンチに座る。

「佐伯さん」

「うん?」

「あのね……」

近藤さんが、少し恥ずかしそうに言った。

「佐伯さんと友達になれて、良かった」

「……」

「最初は、メイドさん役とか、嫌だったけど」

近藤さんは、微笑んだ。

「でも、佐伯さんと一緒で……辛いことも、あったけど」

「うん……」

「今は、良かったって思える」

「近藤さん……」

「ありがとう。本当に」

涙が、出そうになった。

でも、堪える。

笑顔で、答える。

「私も、ありがとう。近藤さんと友達になれて、良かった」

二人で、また歩き出した。

光の中を。

冬の夜を。

-----

十二月十九日、木曜日。

LINEで、近藤さんからメッセージが来た。

『昨日は、ありがとう!
すごく楽しかった!
また遊ぼうね』

写真も添付されている。

昨日、一緒に撮った写真。

イルミネーションの前で、笑顔の私たち。

『こちらこそ、ありがとう!
また行こうね』

返信する。

すぐに、返事が来た。

『佐伯さん、本当に良い人だね
私、佐伯さんに出会えて良かった
これからも、よろしくね!』

「……」

画面を見つめる。

『これからも』

その言葉が、胸に刺さる。

私は、あと一週間で――

『佐伯みゆき』を、辞める。

十二月末で、潜入取材は終わる。

そうしたら、もう学校には来ない。

近藤さんとも、会えなくなる。

「……」

どう言えばいいのか。

まだ、決めていない。

でも、もうすぐ――

別れの時が来る。

『うん、こちらこそよろしくね』

とりあえず、そう返信した。

スマホを置いて、窓の外を見る。

冬の空。

寒いけど、晴れている。

「新しい一年は、笑って迎えてほしい」

それが、私の願い。

近藤さんには、幸せになってほしい。

たとえ、私がいなくなっても。

「あと一週間……」

呟いた。

『佐伯みゆき』として過ごす、最後の日々。

近藤さんと過ごす、最後の時間。

大切にしよう。

一瞬、一瞬を。

そう決めた。

窓の外では、カラスが鳴いていた。

冬の午後。

静かな時間が、流れていく。

あと一週間で――

全てが、終わる。​​​​​​​​​​​​​​​​

クリスマスイルミネーションを見た翌日。

近藤さんと、カフェで会った。

「昨日は、ありがとう。楽しかった」

「私も」

二人で、コーヒーを飲む。

しばらく沈黙があって――

近藤さんが、口を開いた。

「ねえ、佐伯さん」

「うん?」

「私たちって……完璧じゃないよね」

「……え?」

「だって、私、盗撮されたこと、まだ完全には忘れられてない」

近藤さんは、コーヒーカップを見つめた。

「夜、たまに思い出して、怖くなる」

「近藤さん……」

「カウンセリング、まだ必要だし」

近藤は、笑った。

少し、寂しそうな笑顔。

「完璧には、治ってないの」

「……」

「でも、それでいいのかなって、最近思うんだ」

「それでいい……?」

「うん」

近藤さんは、俺を見た。

「完璧に忘れる必要なんて、ないんじゃないかって」

「……」

「傷は残る。でも、それを抱えて生きていける」

近藤の言葉が、胸に響く。

「それが、人間なんじゃないかって」

「近藤さん……」
「佐伯さんも、完璧じゃないでしょ?」

「え……?」

近藤さんは、微笑んだ。

「だって、いつも不安そうだもん」

「……バレてた?」

「うん。すぐわかる」

近藤さんは、俺の手を握った。

「でも、それがいいんだと思う」

「いい……?」

「完璧な人なんて、怖い」

近藤さんは、続けた。
「完璧な優等生、完璧な友達、完璧な人間――」
「……」

「そんな人、本当は存在しないのに、みんな演じようとする」

近藤さんの目に、涙が浮かんでいた。

「私も、中学の時、完璧を演じてた」
「そうなんだ……」
「生徒会長で、勉強もできて、ピアノも弾けて」
「みんなから期待されて……」

近藤さんは、涙を拭いた。

「でも、苦しかった」
「……」
「完璧であり続けなきゃいけないって、思い込んでた」

「それで、高校では……」

「うん。逃げた。目立たないようにした」

近藤は、俺を見た。

「でも、佐伯さんと友達になって、変わった」

「……」

「不完全でいいんだって、思えるようになった」

近藤さんは、微笑んだ。
「だから、ありがとう」

俺は、何も言えなかった。

ただ、近藤さんの手を握り返した。

「私も……不完全だ」

「うん」

「いつもバレないか不安で、完璧に女の子を演じられてない」
「……」

「でも、それでいいのかもしれない」

俺は、近藤さんの目を見た。

「不完全だから、七海さんと友達になれた」

「……うん」

「不完全だから、七海さんの気持ちが理解できた」

近藤さんの目から、涙が溢れた。
「ありがとう……」

二人で、泣いた。
カフェの窓際で。
冬の午後。

「ねえ、佐伯さん」
「うん?」
「私たちって、完璧じゃないよね」

「……うん」

「でも、だからいいんだと思う」
近藤さんは、笑った。

「完璧な関係なんて、窮屈だもん」

「……そうだね」

「不完全だから、面白い」

七海は、俺の手を握った。

「不完全だから、本物」

「……うん」

「これからも、不完全な私たちでいよう」
「……うん」

二人で、微笑み合った。
完璧じゃない、二人。
でも、それでいい。
それが、俺たちだから。
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