「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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希望

第57話 そして、体験取材が終わる。

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十二月二十七日、金曜日。

終業式が終わった。

「皆さん、良いお年を!」

田中先生の声。

「はーい! 先生も!」

教室は、冬休みの浮かれた雰囲気。

「年末年始、何する?」

「初詣行こうよ!」

「福袋買いに行く!」

女子高生たちの、楽しそうな会話。

私は――

静かに、荷物をまとめていた。

教科書。

ノート。

筆箱。

ロッカーの中のものを、全部カバンに入れる。

「佐伯さん、全部持って帰るの?」

近藤さんが、不思議そうに聞いてきた。

「う、うん……整理したくて」

嘘をついた。

本当は――

もう、戻ってこないから。

「そっか。じゃあ、年明けたら連絡するね!」

「う、うん……」

笑顔を作る。

近藤さんは、何も知らない。

私が、『佐伯みゆき』を辞めることを。

もう、学校に来ないことを。

「良いお年を、近藤さん」

「佐伯さんも!」

最後に、ハグをした。

温かい。

優しい。

「……ありがとう」

小さく呟いた。

近藤さんには、聞こえなかったと思う。

教室を出る。

廊下を歩く。

校門を出る。

振り返る。

『私立聖ヶ丘女子学園』

四ヶ月間、通った学校。

「……さようなら」

呟いて、背を向けた。

もう、戻ってこない。

-----

十二月三十一日、火曜日。

大晦日。

報告書の最終稿を、書き上げた。

『女子高生潜入取材レポート
四ヶ月間の記録

執筆:斎藤みゆき』

全ての出来事。

全ての観察。

全ての感情。

まとめた。

ただし――

近藤さんの名前は、伏せた。

桜井さんたちのいじめも、詳しくは書かなかった。

彼女たちの将来を、潰したくない。

ジャーナリストとして。

客観的に。

冷静に。

女子高生たちのリアルを、記録した。

「……終わった」

ファイルを保存する。

近藤編集長に、送信する。

「これで……」

全てが、終わった。

テレビでは、紅白歌合戦。

カウントダウンが、始まっている。

「10、9、8……」

「……」

「3、2、1!」

「明けましておめでとうございます!」

画面の中の人たちが、喜んでいる。

でも、私は――

何も感じなかった。

新しい年。

でも、私の中では――

何かが、終わっただけだった。

-----

一月四日、土曜日。

年が明けた。

美山理事長と、近藤編集長に呼ばれた。

場所は、Atelier Miyama。

表参道の、あの白い建物。

「失礼します」

ドアを開けると――

美山理事長と、近藤編集長が座っていた。

「斎藤君、お疲れ様」

近藤編集長が、立ち上がった。

「四ヶ月間、本当によく頑張った」

「ありがとうございます……」

「報告書、読ませてもらった」

近藤編集長は、分厚いファイルを手に持っている。

私の報告書。

「素晴らしい内容だった」

「……」

「これは、絶対に特集記事になる。いや、本にしてもいいくらいだ」

「ありがとうございます」

美山理事長も、微笑んでいる。

「斎藤さん、本当にお疲れ様でした」

「美山理事長……色々と、ありがとうございました」

「いえ。私も、勉強になりました」

三人で、テーブルに座る。

「では、これで正式に取材終了とします」

近藤編集長が、封筒を取り出した。

「報酬です」

封筒を開けると――

「……!」

札束。

約280万円。

四ヶ月分の報酬。

「確かに、受け取りました」

「それと」

近藤編集長が、もう一枚の紙を渡してきた。

「フリーランスの契約書だ」

「……え?」

「斎藤君、うちの雑誌社を辞めて、フリーランスとして活動しないか?」

「フリー……?」

「ああ。今回の取材で、君の実力は証明された」

近藤編集長は、続けた。

「これから、色んな媒体から仕事が来るだろう。その方が、君のためにもなる」

「……」

フリーランス。

夢だった。

自由に、取材できる。

自分の名前で、記事を書ける。

「考えておいてくれ。返事は、急がなくていい」

「はい……ありがとうございます」

美山理事長が、紅茶を注いでくれた。

「斎藤さん」

「はい」

「近藤さんのこと、心配ですか?」

「……はい」

「大丈夫です。カウンセラーは、継続します」

美山理事長は、優しく微笑んだ。

「三年生になっても、卒業するまで。彼女をサポートし続けます」

「……ありがとうございます」

「あなたが蒔いた種です。私は、水をやるだけ」

「……」

涙が、出そうになった。

「それと」

美山理事長が、もう一つ封筒を渡してきた。

「これは?」

「近藤さんへの手紙。渡してください」

「手紙……?」

「ええ。あなたからの、最後のメッセージを」

「……」

封筒を受け取る。

重みがある。

「さて」

近藤編集長が、立ち上がった。

「今日はこれで終わりだ。ゆっくり休んでくれ」

「はい」

「そして、新しい人生を楽しめ」

「……はい」

三人で、握手をした。

美山理事長と。

近藤編集長と。

「本当に、お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

アトリエを出る。

表参道の街。

冬の午後。

人々が、行き交っている。

「……終わった」

呟いた。

四ヶ月間の、潜入取材。

『佐伯みゆき』としての日々。

全て、終わった。

これから――

『斎藤みゆき』として、生きていく。

男として。

ライターとして。

「新しい人生……か」

カバンの中には、報酬の280万円。

そして、近藤さんへの手紙。

「……」

近藤さんに、会わないと。

最後に、ちゃんと別れを告げないと。

スマホを取り出す。

近藤さんに、LINEを送る。

『明日、会えない?
大事な話があるんだ』

すぐに、返信が来た。

『うん、いいよ!
どうしたの?』

『会ってから、話す』

『わかった。じゃあ、明日の午後2時に、例の場所で』

『ありがとう』

明日。

全てを、話す。

『佐伯みゆき』が、消える日。

そして――

新しい人生が、始まる日。

空を見上げる。

冬の青空。

冷たいけど、晴れている。

「頑張ろう……」

小さく呟いて、私は家へ向かった。

新しい年。

新しい人生。

全てが、これから始まる。

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