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エピローグ
6年後
しおりを挟む六年後。
春。
桜が満開の季節。
「新郎、新婦の入場です」
司会者の声が、響く。
扉が開く。
そこには――
純白のウエディングドレスを着た七海が立っていた。
「……綺麗」
俺は、思わず呟いた。
七海は、俺の腕を取った。
「緊張してる?」
「めちゃくちゃ」
「私も」
二人で、微笑み合う。
バージンロードを、ゆっくりと歩く。
参列者たちが、拍手をしてくれている。
聖ヶ丘女子学園の、元クラスメイトたち。
桜井さんも、いる。
高橋さんも、田村さんも、鈴木さんも。
みんな、大人になった。
でも――
誰も知らない。
俺たちの秘密を。
俺が、かつて『佐伯みゆき』として――
彼女たちのクラスに潜入していたことを。
そして、七海と出会ったことを。
祭壇の前に立つ。
牧師が、聖書を開く。
「本日は、斎藤みゆき様と近藤七海様の結婚式にお集まりいただき――」
式が、始まる。
誓いの言葉。
指輪の交換。
そして――
「では、立会人の方、お願いします」
美山理事長が、立ち上がった。
六年前と、変わらない優雅な姿。
「私、美山崇子が、二人の結婚を証明いたします」
彼女が、サインをする。
二人を引き寄せた人。
二人を支えてくれた人。
「ありがとうございます」
小さく呟いた。
美山理事長は、優しく微笑んだ。
「では、誓いのキスを」
牧師の言葉。
俺は、七海のベールを上げた。
彼女の顔。
涙で、潤んでいる。
「七海」
「みゆき」
唇を、重ねた。
会場から、大きな拍手。
ウエディングベルが、鳴り響く。
カランカラン。
美しい音色。
二人を祝福する音色。
「やっと……」
七海が、呟いた。
「うん、やっと」
六年間。
待った。
七海が高校を卒業するまで、一年半。
そこから付き合い始めて、四年半。
大学も、無事卒業した。
そして、今日。
七海の誕生日に。
結婚式。
場所は――
『私立聖ヶ丘女子学園』の横にあるチャペル。
全ての始まりの場所の、すぐ近く。
「ここで良かったね」
「うん……」
窓の外には、学校の校舎が見える。
六年前、俺が通った場所。
『佐伯みゆき』として過ごした場所。
「懐かしい……」
「でしょ?」
七海が、微笑んだ。
披露宴。
みんなが、祝福してくれる。
「おめでとう、七海!」
「旦那さん、優しそうで良かったね!」
元クラスメイトたちの声。
桜井さんも、近づいてきた。
「七海、おめでとう」
「ありがとう、桜井さん」
桜井さんは、俺を見た。
「旦那さん、七海のこと、よろしくお願いします」
「はい、大切にします」
彼女は、何も知らない。
俺が、かつて『佐伯みゆき』だったことを。
彼女が、俺をいじめていたことを。
でも――
もう、どうでもいい。
過去のこと。
今は、七海と一緒にいられる。
それだけで、十分。
「ねえ、みゆき」
七海が、囁いた。
「うん?」
「幸せ?」
「めちゃくちゃ幸せ」
「私も」
二人で、手を繋ぐ。
これから、一緒に生きていく。
夫婦として。
-----
披露宴が終わって。
美山理事長が、二人に声をかけてきた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます、美山理事長」
「あの時は、大変でしたね」
「はい……でも、あの経験があったから、今がある」
美山理事長は、微笑んだ。
「七海さん」
「はい」
「実は、お話があるんです」
「……?」
美山理事長は、封筒を取り出した。
「七海さん、ライターになったと聞きました」
「はい、フリーランスで」
「でしたら……こちらの仕事、興味ありませんか?」
封筒を開けると――
『女子校潜入取材プロジェクト』
と書かれた資料。
「……え?」
七海が、驚いた顔をした。
「大学を卒業した七海さんに、女子校に潜入していただきたいんです」
「女子校……に?」
「ええ。今度は、別の学校ですが」
美山理事長は、続けた。
「みゆきさんの時と同じように、生徒として潜入していただく」
「……」
七海が、俺を見た。
俺も、驚いていた。
「でも、私……もう大学卒業してますよ?」
「大丈夫です。制服を着れば、十分高校生に見えます」
「……」
「報酬も、みゆきさんの時と同じ条件で」
美山理事長は、にっこりと笑った。
「どうですか?」
七海は――
少し考えてから、微笑んだ。
「やってみます」
「……え?」
俺が、驚いた。
「だって、面白そうじゃない?」
七海は、俺の手を握った。
「みゆきが経験したこと、私も経験してみたい」
「七海……」
「それに、ライターとして成長したいし」
「……」
「大丈夫。みゆきが支えてくれるでしょ?」
「……うん」
美山理事長が、拍手した。
「では、決まりですね」
「はい」
「詳細は、後日お伝えします」
美山理事長は、去っていった。
「……」
俺と七海は、顔を見合わせた。
「本当にやるの?」
「うん」
「大変だよ?」
「わかってる。でも……」
七海は、窓の外の学校を見た。
「みゆきが経験したこと、共有したい」
「……」
「そうしたら、もっとお互いのこと、わかり合えるかなって」
「七海……」
抱きしめた。
「ありがとう」
「こちらこそ」
二人で、笑った。
-----
その日の夜。
ホテルの部屋で。
「今日は、疲れたね」
「うん……」
ベッドに座る。
「でも、幸せだった」
「私も」
七海が、俺の隣に座った。
「ねえ、みゆき」
「うん?」
「女子校潜入取材、本当にやっていいの?」
「七海がやりたいなら」
「……ありがとう」
七海は、俺の肩に頭を乗せた。
「でも、心配しないで」
「うん?」
「みゆきみたいに、男に間違われることはないから」
「……それはそうだけど」
二人で、笑った。
窓の外には、夜景。
東京の街が、光っている。
「これから、どうなるんだろうね」
「わからない。でも……」
俺は、七海の手を握った。
「一緒にいられるなら、大丈夫」
「……うん」
二人で、未来を見つめた。
-----
当然、参列している他のクラスメイトは知らない。
俺たちの秘密を。
俺が、かつて『佐伯みゆき』だったことを。
七海と、女子校で出会ったことを。
そして――
これから七海が、また女子校に潜入することを。
でも、それでいい。
秘密は、秘密のままで。
二人だけの、大切な物語。
-----
(完)
-----
実は、続く……。
大学を卒業した七海は、ライターになり、女子校に潜入することになったのだ。
彼女は、どんな経験をするのか。
どんな出会いがあるのか。
どんな困難が待っているのか。
それは、また別の話。
『女子高生潜入取材記 Season 2
~七海編~』
Coming Soon…
-----
(本当に完)
-----
六年前、『佐伯みゆき』として女子校に潜入した斎藤みゆき。
そこで出会った近藤七海。
二人の物語は、ここで一つの終わりを迎える。
でも、新しい物語が――
始まろうとしている。
これからも、二人の人生は続いていく。
共に、支え合いながら。
愛し合いながら。
そして――
それぞれの夢を、追いかけながら。
終わり。
そして、始まり。
人生は、続いていく。
-----
ありがとうございました。
結婚式が終わって。
披露宴で、みゆきはスピーチをすることになった。
マイクを持って、立ち上がる。
「皆さん、今日は本当にありがとうございます」
拍手。
「僕と七海の、不思議な物語を聞いてください」
会場が、静まる。
「六年前、僕は女装して、女子高生として学校に潜入しました」
ざわめき…。
でも、誰も本当には信じていない。
冗談だと思っている。
「その時、一人の女の子と出会いました」
みゆきは、七海を見た。
「彼女は、完璧じゃありませんでした」
「……」
「傷ついていて、不安で、完璧な優等生を演じられなくて」
七海の目に、涙が浮かぶ。
「でも、だからこそ、僕は彼女を好きになりました」
「……」
「僕も、完璧じゃありません」
みゆきは、続けた。
「童顔で、小柄で、男らしくなくて」
「元カノには、フラれました」
会場から、大きな笑い声。
「でも、その不完全さが、僕を女子高生にしてくれた」
「その不完全さが、七海との出会いを作ってくれた」
みゆきは、グラスを掲げた。
「だから、言いたいんです」
「完璧なんて、いらない」
会場が、静まり返る。
「不完全だからこそ、人間らしい」
「不完全だからこそ、他者と繋がれる」
「不完全だからこそ、成長できる」
みゆきは、七海の手を握った。
「不完全だからこそ、愛せる」
七海が、立ち上がった。
二人で、グラスを掲げる。
「僕たちは、完璧な夫婦にはなれません」
七海が、続けた。
「きっと、喧嘩もするし、失敗もする」
「でも、それでいいんです」
みゆきが、微笑んだ。
「不完全な僕たちだから、本物の愛がある」
会場から、大きな拍手。
そして――
美山理事長が、立ち上がった。
「素晴らしいスピーチでした」
美山理事長は、マイクを受け取った。
「私も、一言」
「立会人として、そして一人の人間として」
美山理事長は、会場を見渡した。
「私たちは、皆、不完全です」
「……」
「完璧な人間など、存在しません」
「夢が叶わなかったり、失敗したり、後悔したり」
美山理事長は、微笑んだ。
「でも、それでいいんです」
「不完全だから、面白い」
「不完全だから、人生には価値がある」
美山理事長は、グラスを掲げた。
「斎藤さん、七海さん」
「はい」
「不完全な二人で、幸せになってください」
「……はい!」
会場中が、グラスを掲げた。
「乾杯!」
その後、余興の時間。
桜井さんが、前に出てきた。
「あの……私からも、一言」
「桜井さん?」
七海が、驚いた顔をした。
「私、昔、完璧になろうとしてました」
桜井さんは、会場を見渡した。
「でも、その過程で、人を傷つけました」
「……」
「七海を、そして……」
桜井さんは、みゆきを見た。
「佐伯さんを」
会場が、静まる。
「私は、不完全です」
桜井さんは、涙を流しながら言った。
「過ちを犯して、後悔して、今も完璧じゃない」
「でも、それでいいんだと、学びました」
桜井さんは、七海の方を向いた。
「七海、改めて、ごめんなさい」
「……」
「そして、ありがとう」
七海が、立ち上がった。
二人は、抱き合った。
「もう、いいよ」
七海が、囁いた。
「お互い、不完全だもんね」
「……うん」
会場から、また拍手。
そして――
花奈も、立ち上がった。
「私も、もっと不完全です」
花奈は、笑った。
「元カレが女装してたのに、気づけなかったんですから」
会場から、笑い声。
「でも、その不完全さが、HANAKAを作ってくれた」
花奈は、七海を見た。
「七海ちゃん、みゆき。幸せにね」
「はい!」
披露宴が終わって。
二人きりになった時。
「みゆき」
「うん?」
「今日のスピーチ、良かったよ」
「ありがとう」
「完璧なんていらない、か……」
七海は、窓の外を見た。
「本当に、そうだね」
「うん」
「私たち、完璧じゃないけど」
七海は、みゆきを見た。
「でも、これが私たちだもんね」
「そう。これが、俺たちだ」
二人で、手を繋いだ。
完璧じゃない、二人。
でも、それでいい。
いや、それがいい。
不完全だから、人間らしい。
不完全だから、愛せる。
窓の外には、満天の星。
新しい人生が、始まろうとしていた。
不完全な二人の、完璧な未来が。
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