だから

あさき のぞみ

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受け入れ先

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電話が鳴ったのは、雨上がりの午後だった。

美樹がスマートフォンを手に取り、知らない番号を見つめて一瞬躊躇した。また断りの連絡かもしれない。そう思いながらも、通話ボタンを押した。

「もしもし、田中様でいらっしゃいますか」

明るい女性の声が聞こえた。
「はい、田中です」
「私、療育施設ゆらり三沢事業所の施設長、山口と申します。先日、見学と利用のお問い合わせをいただいておりましたが」

美樹の心臓が高鳴った。ゆらり三沢事業所。二週間前に問い合わせをしたきり、返事がなかったので諦めていた施設だった。

「はい、覚えております」

「大変お待たせして申し訳ございませんでした。実は、来月から一枠空きが出ることになりまして。美保ちゃんに通っていただけないかと思い、ご連絡させていただきました」

美樹は言葉を失った。

「あの……本当ですか」
「はい。もちろん、まずは面談をさせていただいて、美保ちゃんの様子を拝見してからになりますが。もしよろしければ、今週中にでもお越しいただけますでしょうか」

美樹は震える手でメモを取った。日時を確認し、何度も礼を言って電話を切った。

その日の夜、保が帰宅すると、美樹は涙を流しながら報告した。

「やっと……やっと見つかったかもしれません」

保は妻を抱きしめた。美樹の肩が小刻みに震えていた。

二日後、保は仕事を休んで、美樹と美保と一緒に施設を訪れた。療育施設ゆらりは、駅から徒歩十五分ほどの住宅街の一角にあった。一見すると普通の民家のようだが、入口には色とりどりの手作りの装飾が施されていた。
「いらっしゃいませ」

玄関で迎えてくれたのは、電話の声の主、山口施設長だった。四十代くらいの、穏やかな表情の女性だった。

「美保ちゃん、こんにちは」

山口は美保の目線まで腰を下ろして話しかけた。美保は相変わらず視線を合わせなかったが、山口は気にした様子もなく笑顔を向けた。

施設の中は温かみのある空間だった。畳の部屋、絵本が並ぶ本棚、色とりどりのおもちゃ。壁には子供たちが描いたと思われる絵が飾られていた。

「ゆらりは全国に百二十の事業所を展開している児童発達支援と放課後等デイサービスの施設です。私たちの三沢事業所は三年前に開所しました」
山口は資料を見せながら説明した。
「うちの特徴は、一人ひとりの特性に合わせた個別支援計画を立てることです。集団活動が難しいお子さんには個別対応もしますし、保護者の方との連携も大切にしています」

保は資料に目を通しながら尋ねた。

「美保のような、重度の子でも大丈夫なんでしょうか」

「はい。実は今通っているお子さんの中にも、美保ちゃんと同じくらいの支援が必要な子が何人かいます。スタッフも専門的な研修を受けていますし、看護師も常駐しています」

美樹が不安そうに聞いた。

「何度も断られてきたので……本当に受け入れていただけるのか、まだ信じられなくて」

山口は優しく微笑んだ。

「お母さん、大変でしたね。でも、ここはそのための場所です。美保ちゃんにも、お父さんお母さんにも、安心していただける場所にしたいと思っています」

その言葉に、美樹の目にまた涙が浮かんだ。今度は、安堵の涙だった。

面談の最後、山口は言った。

「来週から、週二回の通所で始めてみませんか。慣れてきたら、徐々に回数を増やしていきましょう」

保と美樹は何度も頭を下げた。
帰り道、三人は黙って歩いた。美保は保の腕の中でぬいぐるみを抱きしめている。

「やっと……やっと見つかったね」

美樹が呟いた。保は頷いた。

長いトンネルの先に、小さな光が見えた気がした。これから先、どんな道が続いているのかはわからない。それでも、この光を頼りに進んでいけばいい。

保はそう思いながら、娘の頭を優しく撫でた。
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