マッチングアプリで知り合った

あさき のぞみ

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第3話 現実

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なんてことを想像していたが、怖い男がノックすることもなく、俺はシャワーを浴びた。そして美咲さんも……。
「裕太さん、先にシャワー浴びてきていいですよ」
美咲は優しく微笑んで、バスルームを指差した。
「あ、うん。ありがとう」
俺はまだ信じられない気持ちでバスルームに入った。鏡に映る自分の顔は、緊張で強張っている。
シャワーを浴びながら、頭の中で何度も繰り返した。
これは現実だ。夢じゃない。本当に美咲さんとホテルに来てしまった。
石鹸の香りと温かいお湯が、少しずつ緊張をほぐしていく。だが同時に、不安も湧いてくる。
俺、ちゃんとできるだろうか。
大学時代の元カノとは何度か経験があったが、それももう2年以上前の話だ。しかも相手は慣れている感じだったから、正直なところ、俺はただついていっただけだった。
シャワーを終えて、用意されていた黒いガウンを羽織った。鏡を見る。なんだか別人みたいだ。
深呼吸して、部屋に戻った。
「お待たせ。じゃあ、私もシャワー浴びてきますね」
美咲はそう言って、俺とすれ違いざまに軽く肩に触れた。その一瞬の接触だけで、心臓が跳ねる。
バスルームのドアが閉まる音。水が流れる音。
俺はベッドに腰掛けて、落ち着こうとした。だが、落ち着けるはずもない。
部屋を見回す。ベッドサイドのテーブルに、小さなバスケットがあった。中を覗くと——
アレだ。
コンドーム。
2個ある。
俺は思わず手に取った。薄いパッケージ。考えただけで反応しそうになった。
慌てて元の場所に戻して、深呼吸する。落ち着け、落ち着け。
だが、頭の中では既に色々な想像が渦巻いていた。このあと、どうなるんだろう。美咲さん、本当にその気なんだろうか。それとも、本当にただ話したいだけ?
いや、ホテルに来てる時点で、そんなわけない。
水の音が止まった。
心臓が早鐘を打つ。
バスルームのドアが開いて、美咲が出てきた。
「お待たせしました」
彼女も同じ黒いガウンを着ていた。
だが——
でかい。
明らかに、でかい。
カフェで会った時のワンピース姿では分からなかったが、ガウンを着ている美咲の胸元は、明らかに豊かだった。着痩せするタイプなんだ、と頭の中で理解した瞬間、体が勝手にロックオンしていた。
「どうしたんですか?そんなに見つめて」
美咲は少し恥ずかしそうに笑った。
「いや、その……綺麗だなって」
我ながら陳腐な言葉だと思ったが、他に何も浮かばなかった。
「ありがとうございます」
美咲はベッドに座った。距離が近い。シャンプーの香りがする。
「裕太さん」
「うん?」
「私ね、裕太さんのこと、本当に素敵だなって思ってたんです」
美咲は俺の目をまっすぐ見つめた。
「メッセージのやり取りしてる時から、優しくて真面目で。こういう人と一緒にいたいなって」
「俺も、美咲さんと話してて楽しかった」
「本当ですか?」
「本当だよ」
美咲は微笑んで、俺の手を取った。柔らかくて、温かい。
「じゃあ……もっと仲良くなりましょう」
そう言って、彼女は俺に寄りかかってきた。
ガウンの隙間から、白い肌が見える。首筋から鎖骨へと続く曲線。その美しさに、俺は息を呑んだ。
「裕太さん、緊張してます?」
「……うん」
「可愛い」
美咲は笑って、俺の頬に手を添えた。
そして、キスをした。
柔らかくて、甘い。初めは軽く触れるだけだったが、徐々に深くなっていく。
俺の手は、どうしていいか分からず宙に浮いていた。
「触っていいですよ」
美咲が囁いた。
恐る恐る、俺は彼女の腰に手を回した。ガウンの上からでも分かる、柔らかな曲線。
美咲は俺を押し倒して、上に跨った。
「裕太さん、好き」
そう言って、彼女は再びキスをした。
俺の理性は、もう限界だった。
ガウンの帯を解こうとした時——
ピロン。
スマホの通知音が鳴った。
「ん……?」
美咲が動きを止めた。
「ごめん、ちょっと……」
俺はベッドサイドのスマホを手に取った。
画面には、LINEの通知が表示されていた。
差出人は「愛美」。
聞いたことのない名前だった。
メッセージの一部が見える。
「ねえ、今日会えないかな?」
え?
俺は混乱した。愛美って誰だ?
「どうしたんですか?」
美咲が覗き込んできた。
「いや、知らない人からメッセージが……」
「知らない人?」
俺はLINEを開いた。
そこには、見知らぬ女性のアイコンがあった。プロフィール画像は、ショートカットの可愛い女性。
トーク履歴を見ると、昨日から会話が始まっていた。
だが、俺はこの人とやり取りをした記憶がない。
「裕太さん、昨日も私とメッセージしてましたよね?」
「うん、してた」
「他の人ともしてたんですか?」
美咲の声が、少し冷たくなった。
「いや、してないよ。これ、俺じゃない」
「でも、裕太さんのアカウントですよね?」
確かに、俺のアカウントだ。
混乱しながらスマホを操作すると、マッチングアプリにも通知が来ていた。
新しいマッチングが3件。メッセージが12件。
「え……?」
俺は唖然とした。
昨日の夜、美咲とメッセージした後、アプリは開いていない。なのに、なぜこんなに通知が?
「裕太さん……」
美咲は俺から離れて、ベッドの端に座った。
「私、浮気する人は無理です」
「浮気じゃないよ!これ、俺じゃない!」
だが、美咲の表情は曇ったままだった。
「ごめんなさい。やっぱり、もう帰ります」
「待って、美咲さん!」
美咲は立ち上がって、服を着始めた。
俺は必死に止めようとしたが、彼女の心は既に決まっているようだった。
「本当にごめんなさい。私、真剣にお付き合いできる人を探してたんです」
「俺も真剣だよ!」
「でも……」
美咲は悲しそうに首を振った。
「さようなら、裕太さん」
ドアが開いて、閉まった。
部屋に一人残された俺は、呆然とベッドに座り込んだ。
スマホの画面には、まだ通知が増え続けている。
何が起きているんだ?

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