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幕間の章
アリアの憂鬱 前編
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―アリア7歳 新入生交流歓迎会後のとある休日―
シルメリアの皇都中央にそびえる荘厳な居城。
その自室で、私、アリア・シルメリアはいつものように趣味の魔道具をいじくる作業に勤しんでいた。
「はぁ……」
「どうされたのですか?アリア様。ため息などつかれて」
交流歓迎会で使用した特殊な魔法靴を調整しながら、大きくため息を吐く私。
近くで見守っていた私の騎士、フェリス・ウェインハットが少し心配そうな顔をして聞いて来る。
「いや、なんでもないわ」
両手に装着した調整用の工具を慣れた手つきで操作しながら、私はフェリスに真意を悟られぬよう、空返事をした。
……ため息のひとつも、つきたくなる。
私はまた、あの女に負けたのだから。
ゼノビア王国第7王女、ティア・ゼノビア。
性悪の問題児で私のかわいい従者たちをいじめてくれた、あの女だ。
いつも視界に入っては私の感情を逆なでしてくる、イヤな奴。
――そう。私はティアと初めて出会ってからこれまで、少なくとも3回、敗北感を味わうという嫌な経験をさせられている。
乳児の頃から優秀と言われ、英才的に育てられた私にとって、この屈辱感は心に突き刺さる、とても苦い思い出になっているのだ。
最初にそれを感じさせられたのは、私がちょうど5歳になるかならないかの頃。ゼノビアに初めて外交訪問し、空き時間で寄った魔術具市でのことだ。
たまたま通りかかった露店の店先に、無造作に置かれていた掘り出しものの魔術具を見つけたので、誰かに見つかる前に即購入しようと決意していた。
私が先に店主との交渉権を得ていたはずなのに、煽って横取りしようと画策してきた性悪王女とその騎士が割って入ってくる。
何故か決闘の提案をされ、別に受ける必要もなかったけれど、フェリスのプライドが許さなかったのだろう。
彼がやらせてくれというので、しょうがなく受け入れることにした。
フェリスはシルメリア皇国が誇る最強騎士団『スターナイツ』に入団する直前で、王の勅命により私の専属騎士に抜擢されたとても優秀な騎士。そこらの三流騎士では到底太刀打ちできないのは必然だった。
決闘の勝敗は、やる前からすでにわかっていた。
ただ問題だったのは、ティアの脳筋騎士ルイがフェリスの強烈な一撃を2度受けてなお立ち上がったあの時。
煽られたフェリスが何度も立ち上がるルイを戦闘不能にすべく立ち向かっていった、あの状況下において起きていた出来事。
「(あの子の魔力の流れ……あれは……)」
その時の光景がよみがえる。
時間がないから止めたと、あの時私は言った。でも、本心は違っていた。
小さい頃から魔術具をあれこれいじくって自分で創作できるようになったことで、私には「魔力を視る力」が備わっていた。
魔術具に魔力を装填するには、魔力の流れをうまくつかまないとすぐに暴発させてしまう恐れがあるため、魔術具を制作する技術者にはそのスキルが必須なのだ。
その私が、あの瞬間ティアから視えた魔力の流れはとにかく異常だった。
とても一介の王女が、しかも同年代の子供が放っていい魔力の質と量ではなかった。
「(あの子……いったい何なの)」
表情や態度には出さないようあくまで冷静さを装いながら、私はあの時半ば強引に勝負を止めた。
もし、あそこで私がフェリスを止めていなければ、もしかすると私の騎士は今後の人生に響く重大なダメージを受けていた可能性があった。
そのくらい、ティアの魔力はおぞましく、圧倒的で危険な代物だった。
「(世界は、広いのね……)」
ただそれがわかって一番に湧き出した感情は、悔しさだった。
年齢も立場もそれほど変わらないあのゼノビアの王女は、私など比較にならないほど優秀で強い存在であることはすぐに理解できた。
特に直接戦ったわけでもない。
比べられたわけでもない。
でも、私は負けた。
勝負に勝って、本質的には負けたんだ。ただ見ていただけの、あの性悪王女に。
人生初の劣等感。これが1回目の敗北を味わった瞬間だった。
ちなみに2回目はプランタ入学試験を首席で合格された時。そして3回目は今回の交流歓迎会で上級生に勝ったことがそれに当たる。
実力差がわかっているとは言え、少しは太刀打ちできるかと思っていたけど、現実は甘くなくて余計に落ち込んだ。
私も、かなり努力はしてるつもりなんだけどな。
ほんと、悔しい。
「……はぁ」
また大きなため息をつく私。一度負の思い出に浸るとなかなか抜けられない。
「やはりお疲れなのではないですか、アリア様」
「……」
見当違いなことを言ってくるフェリス。顔を無言でじっと見つめ、真剣な眼差しを向ける。
「どうされましたか?私の顔になにかついていますか?」
「……呑気ものね」
「え?」
「……はぁ。憂鬱だわ」
晴れない心で工具を使っていても、集中力がないので捗らない。
調整していると言いながら、私は何度も同じ作業を繰り返しいて、魔法靴の再整備は一向に進まないのであった。
シルメリアの皇都中央にそびえる荘厳な居城。
その自室で、私、アリア・シルメリアはいつものように趣味の魔道具をいじくる作業に勤しんでいた。
「はぁ……」
「どうされたのですか?アリア様。ため息などつかれて」
交流歓迎会で使用した特殊な魔法靴を調整しながら、大きくため息を吐く私。
近くで見守っていた私の騎士、フェリス・ウェインハットが少し心配そうな顔をして聞いて来る。
「いや、なんでもないわ」
両手に装着した調整用の工具を慣れた手つきで操作しながら、私はフェリスに真意を悟られぬよう、空返事をした。
……ため息のひとつも、つきたくなる。
私はまた、あの女に負けたのだから。
ゼノビア王国第7王女、ティア・ゼノビア。
性悪の問題児で私のかわいい従者たちをいじめてくれた、あの女だ。
いつも視界に入っては私の感情を逆なでしてくる、イヤな奴。
――そう。私はティアと初めて出会ってからこれまで、少なくとも3回、敗北感を味わうという嫌な経験をさせられている。
乳児の頃から優秀と言われ、英才的に育てられた私にとって、この屈辱感は心に突き刺さる、とても苦い思い出になっているのだ。
最初にそれを感じさせられたのは、私がちょうど5歳になるかならないかの頃。ゼノビアに初めて外交訪問し、空き時間で寄った魔術具市でのことだ。
たまたま通りかかった露店の店先に、無造作に置かれていた掘り出しものの魔術具を見つけたので、誰かに見つかる前に即購入しようと決意していた。
私が先に店主との交渉権を得ていたはずなのに、煽って横取りしようと画策してきた性悪王女とその騎士が割って入ってくる。
何故か決闘の提案をされ、別に受ける必要もなかったけれど、フェリスのプライドが許さなかったのだろう。
彼がやらせてくれというので、しょうがなく受け入れることにした。
フェリスはシルメリア皇国が誇る最強騎士団『スターナイツ』に入団する直前で、王の勅命により私の専属騎士に抜擢されたとても優秀な騎士。そこらの三流騎士では到底太刀打ちできないのは必然だった。
決闘の勝敗は、やる前からすでにわかっていた。
ただ問題だったのは、ティアの脳筋騎士ルイがフェリスの強烈な一撃を2度受けてなお立ち上がったあの時。
煽られたフェリスが何度も立ち上がるルイを戦闘不能にすべく立ち向かっていった、あの状況下において起きていた出来事。
「(あの子の魔力の流れ……あれは……)」
その時の光景がよみがえる。
時間がないから止めたと、あの時私は言った。でも、本心は違っていた。
小さい頃から魔術具をあれこれいじくって自分で創作できるようになったことで、私には「魔力を視る力」が備わっていた。
魔術具に魔力を装填するには、魔力の流れをうまくつかまないとすぐに暴発させてしまう恐れがあるため、魔術具を制作する技術者にはそのスキルが必須なのだ。
その私が、あの瞬間ティアから視えた魔力の流れはとにかく異常だった。
とても一介の王女が、しかも同年代の子供が放っていい魔力の質と量ではなかった。
「(あの子……いったい何なの)」
表情や態度には出さないようあくまで冷静さを装いながら、私はあの時半ば強引に勝負を止めた。
もし、あそこで私がフェリスを止めていなければ、もしかすると私の騎士は今後の人生に響く重大なダメージを受けていた可能性があった。
そのくらい、ティアの魔力はおぞましく、圧倒的で危険な代物だった。
「(世界は、広いのね……)」
ただそれがわかって一番に湧き出した感情は、悔しさだった。
年齢も立場もそれほど変わらないあのゼノビアの王女は、私など比較にならないほど優秀で強い存在であることはすぐに理解できた。
特に直接戦ったわけでもない。
比べられたわけでもない。
でも、私は負けた。
勝負に勝って、本質的には負けたんだ。ただ見ていただけの、あの性悪王女に。
人生初の劣等感。これが1回目の敗北を味わった瞬間だった。
ちなみに2回目はプランタ入学試験を首席で合格された時。そして3回目は今回の交流歓迎会で上級生に勝ったことがそれに当たる。
実力差がわかっているとは言え、少しは太刀打ちできるかと思っていたけど、現実は甘くなくて余計に落ち込んだ。
私も、かなり努力はしてるつもりなんだけどな。
ほんと、悔しい。
「……はぁ」
また大きなため息をつく私。一度負の思い出に浸るとなかなか抜けられない。
「やはりお疲れなのではないですか、アリア様」
「……」
見当違いなことを言ってくるフェリス。顔を無言でじっと見つめ、真剣な眼差しを向ける。
「どうされましたか?私の顔になにかついていますか?」
「……呑気ものね」
「え?」
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