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第一章
万年青銅級の男③
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二階の奥にあるギルドマスター室までやって来ると、俺はノックをせずに扉を開けた。
「失礼します」
「失礼するなら帰ってや」
「はいよ~」
俺は部屋を出て扉を閉めた。
「……このやり取りって本当に必要なのか? じっちゃん」
再び扉を開けて、部屋の奥に座っているギルドマスターであり、祖父でもあるツクモ・タイラーに疑問を投げつけた。
この合言葉だけは何回考えても意味がわからない。
「じっちゃんではない! ギルドマスターと呼ばんか! それにこれは儂の幼少の頃より伝わる高度に洗練された合言葉なのだ!」
どの辺が高度に洗練されているのかはわからないが、確かに他の人には絶対伝わらないとは思う。
なんせ俺でさえ意味がわからないんだから。
「まぁいいや。それより俺を呼んだって事は次の仕事が決まったんでしょ?」
「ああ、先ずはこれに目を通せ」
じっちゃんから投げられた紙束を受け取ると、そこにはさっきの三人組の情報が記されていた。
やっぱり何かある奴等だったか。
「【陽の光】ハイド、ゴードン、アメリアの三人からなる冒険者チームで、二ヶ月前にローゼンダークにやって来てすぐに頭角を現した謎の実力派冒険者チーム、か。おうおう、これは凄えや」
彼らのこれまで受けた依頼の種類と数も書いてあるけど、これはすごい。
依頼成功率は高いし、何より護衛依頼では失敗が一度もない。
商人ギルドから直々に指名が入る事もあるなんて、相当なもんだ。
冒険者ギルドでも期待の新人チームだと評判になっているし、万年青銅級の俺とは雲泥の差だな。
「素晴らしい経歴だ。有能な冒険者はギルドにとっても有難い事じゃない。これの何が気になるの? じっちゃん」
「だから冒険者ギルドではギルドマスターと呼ばんかっ! この馬鹿孫がっ!」
「自分だって孫って言ってんじゃん」
「やかましい! それより、そいつらの素行調査が次の仕事だ」
「素行調査ね。確かに気になる経歴ではあるけど、いいのか? 冒険者の過去を詮索しないのが暗黙の了解じゃないのか?」
「ギルドマスターの儂はそうもいかん。怪しい者は調べる義務があるんじゃ」
「そうですか。俺は金さえ貰えば何でもいいけどね。それで報酬の金額は?」
「ゴホゴホ……お、お前は老い先短い祖父から金を巻き上げるのか……そんな孫に育てた覚えは……」
口元に手を当てて咳払いをする演技も毎度のことだ。
いい加減にしてほしいな。
ショルダーホルスターからベレッタを抜いて銃口をじっちゃんの額に当てた。
仕事が決まった以上、さっさと終わらせたいからね。
茶番はいらないよ。
「じっちゃんに育ててもらったのは主に射撃の腕だろ? 耄碌したんなら一発お見舞いしてシャキッとさせようか?」
「馬鹿たれ。百年早いわ」
言われて見ると、じっちゃんの愛用のコンバットマグナムが俺の腹に向けられていた。
おいおい、いつ抜いたんだよ。
くそじじいめ。
「アルト。銃は突きつけるなと教えた筈だ。狙いがわかれば躱す事は造作もない。それに加えて敵に銃を奪われる危険も高くなる。こんな初歩的なミスをするなど、お前はギルドの裏職員としての自覚があるのか? 我々はギルドの影として……」
「わかった! わかった! 気をつけるから勘弁してくれ! それより報酬は? 早く調査しないといけないんだろ?」
話を無理やり切って、強引に話題を戻した。
まったく……じっちゃんは昔、カイガイトクシュブタイとか言う傭兵団にいたせいか、銃の話になるとめっちゃ長いんだよなぁ。
「やれやれ……報酬は50万リド。ただし、なるべく早くやれ。奴等にちょいと面倒な依頼が入ったからな」
50万リドか。
相手が銅級じゃ、そんなもんか。
「了解。調査だけでいいんだね?」
「いや、もしもの時はお前の判断に任せる。その場合は一人につき、20万リドだ」
「20万ね。了解。じゃあ、行ってくるよ」
紙束を投げ返してから部屋を出る。
さて、先ずは基本の身辺調査から……と思ったら一階の方が何か騒がしいぞ?
一人の冒険者が周りに何かを言いふらしているようだけど、あいつは確か銅級冒険者の……マルセルだっけ?
喋り散らかしているけど、興奮してるせいか、ちょっと何を言ってるのかわからない。
「何かあったのか?」
とりあえず周りにいた冒険者の一人に声をかけてみた。
こいつはさっき俺に同情の視線を送っていた奴だ。
「アルトか。お前も少しは見習えよ」
「見習う? 何を?」
「【陽の光】だよ。あいつら、遂に貴族から指名依頼が入ったらしい。まったく羨ましい話だよ」
なるほど、この騒ぎはそれか。
冒険者にとって貴族から指名依頼は信頼と実績の証明になるからな。
冒険者からすれば喉から手が出るくらい欲しいものだけど、それにしても銅級の冒険者を指名するとは珍しい。
普通なら銀級とか金級じゃないと指名されないもんだけどね。
「なぁ、依頼した貴族ってわかる?」
「ベリエール子爵家だ。御令嬢が領地に帰る護衛らしい。それがどうかしたのか?」
「いや、少し気になっただけだ。ありがとな」
「ああ。お前も頑張れよ! 今度一杯奢ってやるからな!」
本当に待ってるよ?
それにしてもベリエール子爵家か。
王国西部で鉱山経営をしている地方貴族だったな。
最近になって鉱山から希少な鉱石が採れる事がわかって、とある門閥貴族から目をつけられているって話だ。
今回の件も偶然とは思えない。
これはのんびり身辺調査やってる場合じゃないぞ。
「失礼します」
「失礼するなら帰ってや」
「はいよ~」
俺は部屋を出て扉を閉めた。
「……このやり取りって本当に必要なのか? じっちゃん」
再び扉を開けて、部屋の奥に座っているギルドマスターであり、祖父でもあるツクモ・タイラーに疑問を投げつけた。
この合言葉だけは何回考えても意味がわからない。
「じっちゃんではない! ギルドマスターと呼ばんか! それにこれは儂の幼少の頃より伝わる高度に洗練された合言葉なのだ!」
どの辺が高度に洗練されているのかはわからないが、確かに他の人には絶対伝わらないとは思う。
なんせ俺でさえ意味がわからないんだから。
「まぁいいや。それより俺を呼んだって事は次の仕事が決まったんでしょ?」
「ああ、先ずはこれに目を通せ」
じっちゃんから投げられた紙束を受け取ると、そこにはさっきの三人組の情報が記されていた。
やっぱり何かある奴等だったか。
「【陽の光】ハイド、ゴードン、アメリアの三人からなる冒険者チームで、二ヶ月前にローゼンダークにやって来てすぐに頭角を現した謎の実力派冒険者チーム、か。おうおう、これは凄えや」
彼らのこれまで受けた依頼の種類と数も書いてあるけど、これはすごい。
依頼成功率は高いし、何より護衛依頼では失敗が一度もない。
商人ギルドから直々に指名が入る事もあるなんて、相当なもんだ。
冒険者ギルドでも期待の新人チームだと評判になっているし、万年青銅級の俺とは雲泥の差だな。
「素晴らしい経歴だ。有能な冒険者はギルドにとっても有難い事じゃない。これの何が気になるの? じっちゃん」
「だから冒険者ギルドではギルドマスターと呼ばんかっ! この馬鹿孫がっ!」
「自分だって孫って言ってんじゃん」
「やかましい! それより、そいつらの素行調査が次の仕事だ」
「素行調査ね。確かに気になる経歴ではあるけど、いいのか? 冒険者の過去を詮索しないのが暗黙の了解じゃないのか?」
「ギルドマスターの儂はそうもいかん。怪しい者は調べる義務があるんじゃ」
「そうですか。俺は金さえ貰えば何でもいいけどね。それで報酬の金額は?」
「ゴホゴホ……お、お前は老い先短い祖父から金を巻き上げるのか……そんな孫に育てた覚えは……」
口元に手を当てて咳払いをする演技も毎度のことだ。
いい加減にしてほしいな。
ショルダーホルスターからベレッタを抜いて銃口をじっちゃんの額に当てた。
仕事が決まった以上、さっさと終わらせたいからね。
茶番はいらないよ。
「じっちゃんに育ててもらったのは主に射撃の腕だろ? 耄碌したんなら一発お見舞いしてシャキッとさせようか?」
「馬鹿たれ。百年早いわ」
言われて見ると、じっちゃんの愛用のコンバットマグナムが俺の腹に向けられていた。
おいおい、いつ抜いたんだよ。
くそじじいめ。
「アルト。銃は突きつけるなと教えた筈だ。狙いがわかれば躱す事は造作もない。それに加えて敵に銃を奪われる危険も高くなる。こんな初歩的なミスをするなど、お前はギルドの裏職員としての自覚があるのか? 我々はギルドの影として……」
「わかった! わかった! 気をつけるから勘弁してくれ! それより報酬は? 早く調査しないといけないんだろ?」
話を無理やり切って、強引に話題を戻した。
まったく……じっちゃんは昔、カイガイトクシュブタイとか言う傭兵団にいたせいか、銃の話になるとめっちゃ長いんだよなぁ。
「やれやれ……報酬は50万リド。ただし、なるべく早くやれ。奴等にちょいと面倒な依頼が入ったからな」
50万リドか。
相手が銅級じゃ、そんなもんか。
「了解。調査だけでいいんだね?」
「いや、もしもの時はお前の判断に任せる。その場合は一人につき、20万リドだ」
「20万ね。了解。じゃあ、行ってくるよ」
紙束を投げ返してから部屋を出る。
さて、先ずは基本の身辺調査から……と思ったら一階の方が何か騒がしいぞ?
一人の冒険者が周りに何かを言いふらしているようだけど、あいつは確か銅級冒険者の……マルセルだっけ?
喋り散らかしているけど、興奮してるせいか、ちょっと何を言ってるのかわからない。
「何かあったのか?」
とりあえず周りにいた冒険者の一人に声をかけてみた。
こいつはさっき俺に同情の視線を送っていた奴だ。
「アルトか。お前も少しは見習えよ」
「見習う? 何を?」
「【陽の光】だよ。あいつら、遂に貴族から指名依頼が入ったらしい。まったく羨ましい話だよ」
なるほど、この騒ぎはそれか。
冒険者にとって貴族から指名依頼は信頼と実績の証明になるからな。
冒険者からすれば喉から手が出るくらい欲しいものだけど、それにしても銅級の冒険者を指名するとは珍しい。
普通なら銀級とか金級じゃないと指名されないもんだけどね。
「なぁ、依頼した貴族ってわかる?」
「ベリエール子爵家だ。御令嬢が領地に帰る護衛らしい。それがどうかしたのか?」
「いや、少し気になっただけだ。ありがとな」
「ああ。お前も頑張れよ! 今度一杯奢ってやるからな!」
本当に待ってるよ?
それにしてもベリエール子爵家か。
王国西部で鉱山経営をしている地方貴族だったな。
最近になって鉱山から希少な鉱石が採れる事がわかって、とある門閥貴族から目をつけられているって話だ。
今回の件も偶然とは思えない。
これはのんびり身辺調査やってる場合じゃないぞ。
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