食うために軍人になりました【一人称版】

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第一章

流派・魔刃一刀流

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 下士官の個室にはベットと書物机が備え付けられているが、それほど広くはない。
 そりゃ二等兵の時の4人部屋に比べたら雲泥の差だけど、基本的には1人が寝泊まりするだけの部屋だ。
 そんな所に3人もいれば結構窮屈なんだよなぁ。
 おまけに……。

「大尉、どこから出してきたんですか? その本」

「ん? 貴官のベットに置いてあった物だ。こんな戦術論の本を読んでいたとは意外だったな」

 というより、家には本を買う余裕が無かったから昔から家にある本を読んでいただけだ。

「少尉は少尉で何をしているんですか?」

「ごめぇん、集中してるから邪魔しないでぇ」

 さっきから俺の刀を前に何やら魔法を唱えている少尉。
 この辺ではあまり見かけない武器だし、変な事はしてほしくないんだけど、珍しく真剣な顔で頼まれたから貸してしまった。
 今のところおかしな様子はないけど、一体何をやってるんだろ。

「むぅ……なるほど、こんな戦術が……軍曹、他の本はないのか? この本は実に興味深い。出来れば帝国の戦術と比較検討してみたいのだが」

「戦術の本はそれだけですよ。平民にとって本は贅沢品ですし、うちの倉庫にあった古いのを持ち出しただけなんで。あとは剣の稽古に使ってた古文書くらいです」

「剣の古文書? まさか、魔刃一刀流の古文書かっ!? す、少しでいいから見せてもらえない?」

 随分興味があるのか、大尉が懇願するように頼んできた。
 別に減るものじゃないから、読んでもらってかまわないけどね。

「これです」

 俺は巻物を大尉に渡した。

「す、すまんーーーーな、なんと……そんな事が可能なのか? まさか剣技と魔法を同時に発動させるなんて……」

「っ! ア、アリシアちゃん! それ私にも見せてぇ!」

 俺の刀を見ていた少尉が慌てて大尉の側に駆け寄ってくる。
 そして、2人して巻物を覗き込むように読んでいた。
 何がそんなにも珍しいんだろ?

「なるほどねぇ……刀には何の仕掛けもなかったからどういう原理かと思っていたけどぉ、納刀時に魔力の圧縮させてたなんて考えもしなかったなぁ」

「意図的に魔力過剰状態にして、抜刀時に魔力を解放。それにより瞬間的に魔力を増大させた剣と魔法の融合技。それが魔刃一刀流とは……頭では理解できるが恐ろしく緻密な魔力操作が必要になるな」

「魔力を過剰に集めるだけなら誰でも出来るけどぉ、普通は暴発しちゃうからねぇ。でもぉ、これって今までの魔法の概念を変えちゃう凄い発見だよぉ! 剣技と魔法の融合ぉ。だってぇ、魔剣と同じ事が技術として可能になるんだからねぇ!」

 少尉が随分と興奮しているな。
 そんなにすごい事なんだろうか?

「魔剣使いとしては少し複雑な気がするが、この流派が広がれば帝国軍は大幅な戦力増強となるぞ!」

 大尉まで興奮し始めたな。
 やれやれ、一体どういう……。

 ガアァーンッ! ガアァーンッ! ガアァーンッ!

 男爵邸、隊舎、練兵場を含めたダウスター領内に気魂しい鐘の音が響き渡る。
 これは外壁の四方にある望楼の鐘の音だ!

「緊急連鐘だとっ! 一体何が?」

「とにかくぅ、非常召集だよぉ。召集場所は何処ぉ?」

「一兵卒は練兵場へ、下士官以上は作戦室であります!」

 緊急連鐘は戦争における警報の一つ。
 《敵軍接近》を表す鐘だ。
 平時だと言うのに、一体どういう事だ?
 訳もわからないまま、俺達3人は部屋から飛び出し、作戦室に向かった。
 


 
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