食うために軍人になりました。

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第一章

断剣

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 我慢の限界を超えた俺の怒声に馬鹿貴族はたじろいでいた。
 顔は青褪めて冷汗を流しながら少し震えている。

「ぶ、無礼な! 私は貴族のは……」

 馬鹿貴族の精一杯の虚勢を無視して、俺は斬りかかってきた兵士の剣を投げつけた。
 風を裂いて飛んだ剣は馬鹿貴族の肩に深々と刺さった。

「ギィィヤァアアアアアアアアアアアア!」

 馬鹿貴族の悲鳴が屋敷中に響き渡る。
 改めて思ったが、さっきこいつは自分を尊い存在とか言っていたが、一体何が尊いのかわからない。
 話している間も高貴さなんか一回も感じなかった。
 卑劣で醜悪な俗物にしか思えない。

「き、貴様! こ、こんな事をして許されると思っているのかっ! 私は伯爵だぞっ!」

「何を言っている? お前は帝国に反旗を翻したんだぞ? 叙爵してもらった恩を忘れて皇帝陛下に楯突いておきながら今更爵位を持ち出すなんて、図々しいと思わないのか?」

「だ、黙れっ! 私は生まれながらに高貴なのだっ! 爵位など関係ないっ!」

「爵位を持ち出したのはお前だろ? それより聞きたい事がある。お前がならず者と言ったこの屋敷の軍人達はお前を守るために戦って死んだんだぞ? それについて何も思わないのか?」

「そ、それがなんだと言うのだ! 私のために死ねるなら本望であろう! それより貴様はこの私に……」

「部下に対しての責任はないのかっ! それが自分のために命をかけた者たちに対する言葉なのかっ! この屑野郎、あの世で部下に詫びてこい!」

 怒りが頂点に達した俺は刀を構え、一足飛びで馬鹿貴族に斬りかかる。
 馬鹿貴族は慌てて逃げようとしたが、肩に刺さった剣が邪魔をしてうまく動けなかった。

「ひぃいいいい! 待て! 待ってくれ! 私は貴族の……」

断剣だんけん炎天えんてん》」

 刀から放たれた炎の刃が馬鹿貴族の首を通り抜け、後ろの壁を焦がしながら斬り裂いた。
 馬鹿貴族は何事か発しようと口を開いていたが、その言葉は発せられなかった。
 その前に胴から首が離れ、頭は床に転がり落ちたからだ。
 俺は物言わぬ骸となった馬鹿貴族の顔を見た。
 醜い、あまりにも醜い顔だ。
 断剣を使って正解だったな。

「《断剣・炎天》は炎の刃。斬られた傷は焼かれて血も噴き出ない。本来は止血を目的とした剣なんだが、貴様のような下衆の血など一滴たりとも浴びたくないんでな」

 俺は馬鹿貴族から返事はなかった。
 俺の任務は終わった。
 肩にのし掛かる重みはなんなんだろう。
 心が荒んでいるのがわかる。
 早く休みたいなぁ。
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