食うために軍人になりました【一人称版】

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第二章

魔眼

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 豪華な部屋の中を男爵がある程度まで進んでから、立ち止まって膝ついた。
 俺もそれに倣って少し後ろで膝をついた。
 すると陛下の方から声をかけてきた。

「久しいな。アーベルよ。息災であったか?」

「はっ! 陛下におかれましては……」

「よいよい。そのような堅苦しい挨拶は止めよ。今日の主役は卿達だ。一々堅苦しくしていては、私の肩も凝るというもの。気楽にせよ」

 男爵の口上を遮って、陛下はあっけらかんと言うんだなぁ。
 声からして若いってのはわかるけど、どんな人なんだろ?

「後ろは軍曹だったか? その方も面を上げて良いぞ」

「はっ!」

 よぉし、どんな顔か拝ませてもらおうじゃないの……って!
 なんだっ! この絶世の美女は!
 絵画から出てきたかと思うほどの絶世の美女が玉座に座ってるぞ!
 う、美しい!
 この胸の高鳴りよ! 
 この熱い想いよ!
 これは運命に違いない!
 俺はこの方の為なら何だって……。

 ん? なんか違うぞ? 
 何かがおかしい……俺っぽくないぞ?
 はて? そういえば昔からおふくろから聞いたような……《魅力チャーム》とかって魅力する魔法があるんだよな?
 でも、魔法をかけられた感じはしなかったぞ?
 ってことは……しまった! 《魔眼》かっ!
 これはヤバい!
 取り込まれる前に気合いで吹っ飛ばさないと! ふんっ!

 パリンッ!
 
 なんかに割れたような音がしたけど、さっきまでの高揚感が嘘のように消え去ったな。
 あ、危なかったぁ。

「ふはははっ! アーベルよ! 良い部下を得たではないか! まさか、私の《魅惑の視線チャームゲイズ》を破るとはなっ! 大したものだっ! はははははっ!」

「陛下っ! お戯れも程々に願います!」

 そうだそうだ!
 言ってやれ言ってやれ! 男爵!
 ……って言ってる間にも陛下は笑い続けてるけどな。
 それにしても危なかった。
 気づくのが一瞬遅かったら飲み込まれてたぞ。

「いやいや、2人とも許せ。なんせ面白い男が来ると聞いてな。試さずにはおれんかったのだ。それにしても、私のこの容姿と《魔眼》で堕ちなかった者は久しぶりだぞ? 何か対策でもしてきたのか?」

 やっと笑いが収まった陛下が、目尻に笑い涙を浮かべながら聞いてきたけど、対策なんてあるわけない。
 《魔眼》持ちなんて知らなかったんだからな!
 ここは仕返し代わりにちょっと揶揄ってやる。

「恐れ多いことながら強いて申し上げるなら……昨日、ジェニングス中将にお会いした事……でしょうか?」

 おっと、周りの貴族達が引いているぞ。
 もしかして、かなりヤバい事言っちゃった?
 陛下もポカンとしてるし……って!

「ぷっ……くくくっ……あははははははっ!」

 俺の返答にまた笑い出す陛下。
 よく笑う人だな。

「ひぃひぃ、なるほどな。《傾国の美女》とも呼ばれるシャーロットと一緒にいれば、ある程度私にも耐性が出来るわけか? これは参った! あはははははっ!」

「へ、陛下?」

 あまりにも笑い続ける陛下に不安を覚えたのか、男爵が恐る恐る聞いている。
 確かに笑い過ぎです。

「いやいやっ! アーベル! お前は本当に良い者を部下につけたな? こんなに笑ったのは久しぶりだぞ? 実に愉快だ! あはははははっ! よしっ! 私も帝国の皇帝だっ! 笑わせてくれた褒美は奮発してやるからな!」

 とにかく、よく笑う陛下は笑いながらそう言った。
 褒美が増えるのはありがたいんだけど、本当に大丈夫なのか?
 この皇帝陛下は?
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