食うために軍人になりました【一人称版】

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第三章

大英雄の凱旋

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 門の手前から歓声が聞こえる。
 多くの国民が囲む大通りを馬車はゆっくりと進んでいく。
 いつもの事とはいえ、やっぱり気が滅入るわ。

「ファルケンウッド城攻略作戦は成功した!」

「我が軍の大勝利だ!」

 軍広報課の発表もいつも通り、相も変わらず彼等の仕事には疑問が残るわね。

「ルーストレーム様、如何なさいましたか? まだ体調が優れないのでしたらすぐに治癒者ヒーラーを呼びますが」

 正面に座るキリクが不安げな顔で私を見ている。
 いつも私を助けてくれてる事は知ってるけど、この不愉快な気持ちを共有してくれないの。

「ありがとう、キリク。でも大丈夫よ。ただ近所の飼い犬の鳴き声にうんざりしてるだけ」

「ルーストレーム様……」

 キリクは真面目過ぎるわ。
 そんな悲しそうな顔しなくても、こんな皮肉くらい笑って流してくれたらいいのに。
 それに貴方が責任を感じる必要はないのよ。
 これは国の問題なんだから。

「共和国百勇士第二席、スティーグ・ルーストレーム様の凱旋だっ!」

「我らが英雄! ルーストレーム様!」

「彼女がいれば共和国は安泰だっ! ルーストレーム様万歳! 共和国万歳!」

 はぁ……笑えるわ。
 こんな茶番を演じる国とそれに付き合わないといけない自分に。

「ファルケンウッド城攻略戦……城を落とす事も出来なかったのに、それで大勝利? 英雄? 馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」

「し、しかしっ! 敵の北方方面軍に多大な損害を与えたわけですから、まんざら嘘と言うわけでも……」

「それはウチも同じ。50000の兵の内、15000の兵を失ったのよ? 末席とはいえ、百勇士のジェラールもやられた。これで勝ったと言えるのかしら?」

「うっ……で、ですが! その仇をルーストレーム様は取られたのです! あの憎き帝国の犬は今頃、ルーストレーム様の《魔眼》の力でくたばっている事でしょう! 生き残った私達の勝ちです!」

 キリクは自信たっぷりに言うけど、見当違いね。
 確かにあの子の回復する力は封印した。
 回復魔法が人体の回復力を高めるものでしか無い以上、回復する力自体を封印されたあの子は何もしなくても死に至る。
 でも……

「あの子はそんなヤワじゃないわ」

「え? そ、それはどういう……」

「私はあの子を殺すために《魔眼》を使ったわけじゃないわ。それに今頃はきっと私の《魔眼》を破って復活しているでしょうね」

「そんな馬鹿なっ! あんな男にルーストレーム様の《魔眼》が破れるわけがありませんっ!」

 いいえ、きっと破ってる……そして、卑怯な私に対して激しい憎悪を抱いているはず。
 そう! 私の事だけ、私を殺す事だけを考えてるはずよ! 
 それでこそ次に会った時は前以上に激しく求め合えるのよ! 
 はぁ……次に会える時が待ち遠しい……
 今まで男なんてどうでもいいと思ってたけど、見識を改める必要があるわ。  
 一途な想いって最高ね。
 彼の事を想うだけでさっきまで目障り耳障りだった不快なものが気にならなくなるんだから。
 リクト・フォン・シュナイデン。
 貴方は私の物よ。
 絶対に逃さないからね。
 ふふふっ……


 
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