食うために軍人になりました【一人称版】

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第四章

延期

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「延期?」

 朝、高等士官学校へ行く準備をしていたら朝一で元帥府に出頭する様に連絡が来た。
 何事かと慌てて出頭した俺にウォーレイク元帥から思いもよらない話があった。

「高等士官学校の入学の延期……それは理由を聞いてもよろしいのでしょうか?」

「もちろんです。貴官は入学は中途となるので他の人と合わせるために、別カリキュラムを組む予定だったのですが、その担当の教官2名が昨晩負傷されましてね。急な事もあって代理の者がいないんだそうです。ですから貴官の本日の入学を延期してほしいと連絡があったのです」

 教官が負傷?
 敵襲でもあったのか?
 いや、帝都に敵が侵入したとなればもっと大騒ぎになってるはずだ。
 
「負傷の原因については機密扱いとなっていますので、詮索は無用です」

「はぁ。では、小官はどうすればよろしいのでしょうか?」

「延期といっても明後日には通常通りになるでしょう。帝都内での待機命令とします」

「その、待機命令って具体的に何をすれば……」

「帝都内にいて、呼び出しがあった時に即座に動けるなら何をしていても構いません」

 つまり、帝都内限定の休暇って事か?
 やったー!
 負傷した教官には悪いけど、ありがとうございます!

「それと貴官に伝えておく事があります」

 おや? 珍しく神妙な顔になっているな。
 閣下は普段、あまり感情を表に出さない方なんだけど、どうしたんだろ?

「カールハインツ・フォン・ゲートハイル男爵を覚えていますか?」

「はい。確か陛下への無礼な振る舞いによって廃爵となったはずですが」

「その廃爵が撤回されました」

 おいおい……
 またどこかの貴族の横車か?
 懲りない奴らだなぁ。

「……失礼ながら、黒いものを感じざるを得ません」

「ゲートハイル男爵が先日、帝都東部において魔獣を討伐し、そこに住まう民の生活を守ったとの報告が軍令部にあったそうです」

 あいつが?
 あの選民意識の塊が平民を助けた?
 そんなわけないね!

「小官には俄かに信じられませんが……」

「あくまで噂ですが、魔獣は《狂った殺人植物クレイジーマーダープラント》という厄介な魔獣で、彼が率先して部下を率いて討伐に向かったそうです。結果として魔獣は討伐されたものの部下は全員死亡し、彼もまた重傷を負ったそうです」

「その割には傷が見当たらない……とか?」

「……勘が冴えているのは良い事です。本人曰く、通りすがりの《高位回復者__ハイ・ヒーラー__#》が治してくれたそうです」

 アホかっ!
 そんなわけあるかい!
 そんな奇特な奴が都合よくいるわけないだろ!

「真偽はともかく、民の生活が守られたのは事実として、その功績で廃爵が撤回され、彼は帝国軍少佐の地位を得ました」

「そうですか……陛下の沙汰とあれば小官に異論はありません」

「ええ。ですが、最後に一つ覚えておいてください。こんな事が罷り通るのが現在の帝国なのです」

 元帥の眼が真摯に物語っている。
 今の帝国には改革が必要だと。

「了解です。微力ながら小官も全力を尽くします」

「結構です。では、下がっていいですよ」

「はっ! 失礼しました!」

 俺は執務室を出て、そのまま元帥府を出た。
 ああ! ムシャクシャする!
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