食うために軍人になりました。

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第四章

ヴォルガング家騒動

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「ヴォルガング家、アリシア・フォン・ヴォルガング少佐。イリア・フォン・ヴォルガング大尉の両名は本日以て、帝国南方方面軍長官代理、ローゼンハイム上級大将直属の士官に任命する」

「……」

 言葉が出てこない。
 勅使の言葉は陛下の御言葉だ。
 返事をしないのは無礼に値する。
 だが、言葉が出てこない。
 隣にいるイリアも同じなのか、チラッと見た横顔からは精気が感じられない。

「両名、以上が陛下からの御言葉である。如何に?」

「つ、謹んで……」

「あのっ!」

 やっと絞り出すように声を出したのに、それをイリアが遮った。
 なんとタイミングの悪い事だ。

「イリア・フォン・ヴォルガング大尉、何か?」

「も、申し訳ありません。あの……シュ、シュナイデン少佐も同じ命を受けておられるのでしょうか?」

 それは私も聞きたかった事。
 そして、聞きたくなかった事だ。

「シュナイデン少佐は此度の勅命とは関係はない」

 やはりそうか。
 そうだろうな、もしあいつも一緒ならわざわざ屋敷まで来ずとも元帥府で事足りるからな。
 あいつと離れる事になる……か。

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 イリアの顔が益々暗く沈んでいく。
 こんな顔を見るのは私も初めてだ。
 余程辛いと見える。
 ここは姉の私が虚勢を張ろう。
 
「勅使殿。勅命、謹んでお受けいたします。陛下の御期待に添えるよう全力を尽くします」
 
「相分かった。イリア・フォン・ヴォルガングは如何に?」

「へ、陛下の命に従います……この身に変えても」

「よろしい。では、明朝には南方に向けて馬車を出す。それまで支度を整えるように」

 それだけ言うと、勅使は部屋を出て行った。
 入れ替わりで父上が部屋に入ってきたが、私もイリアも何も話す事が出来なかった。
 身体が重い。
 いや、違うな。
 心だ。
 心が底なしの沼に落ちたかのように、沈み続けているのだ。

「ふ、2人とも……そ、そのような顔をするな。これは勅命だぞ! へ、陛下から勅命を賜れるなど光栄な事ではないか」

 父上が不安な表情を浮かべながら必死に励まそうとしてくれる。
 確かに光栄な事ではある。
 1年前の私であれば喜んで南方に向かっていただろう。
 だが、今は違う。
 苦しい……辛い……悲しい……
 そんな負の感情が私の心を支配している。
 あいつと離れる事がこんなに哀しいなんて、私は……私は…………

「アリシア、イリア……支度はさせておくから、2人とも少し休みなさい。そして落ち着いたら声をかけてくれ。ふみを渡すからな」

 優しい。
 こんなに優しい父上は初めてだ。
 沈んでいた気持ちが少し救われた。
 では暫しの休養の後に父上からの文を戴くとしよう。
 きっと少しは元気になれる。
 イリアも同じ気持ちのようだ。
 フラフラと扉に向かっているし、私も少し休み……

「文はシュナイデン少佐からだ。お前達2人にと……」

「「寄越せぇええええ!」」

「ぐはぁ!」

 文を奪うのに勢い余って突き飛ばしてしまったが問題なかろう!
 それより文だ! 
 あいつからの文だなんて、父上は何故いつも言葉が足らないのか!?
 こんな大事なものを隠し持つとは!
 なんと乙女心のわからぬ朴念仁よ!
 軽蔑するわ!
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