食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

価値観

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 崩れた壁穴から月の光が屋敷の中へと差し込んでくる。
 その光が反射して鎧はキラリと鈍く光った。
 手入れが行き届いてる証拠だ。
 これだけの鎧なら高く売れるのは間違いないんだが、どうやら簡単には手に入らないようだ。

「不貞なる輩が旦那様をつまらないだと? 身の程を弁えぬ愚か者どもが!」

 っ!? さっきまでと雰囲気が違う。
 なんて気迫だ。
 こいつはただもんじゃねぇぞ!

「ちょ、ちょっと待てよ! 俺は……」

「アーハト・トルデル。元北方方面軍所属の伝令兵だったが、共和国と内通していた事により、国家反逆罪で逮捕された。だが、逮捕当日の夜に何者かが牢を襲撃し、警備兵3人を殺害、そして貴様の姿は牢から消えていた」

「っ!? へ、へぇ……俺の事をよく知っているようだな。俺のファンか?」

「では、ファンとして色々聞かせてもらおう。お前の背後にいる黒幕についてな」

 チッ! 挑発にも残ってこねぇし、面白みもない奴だ!
 何者だ?
 俺の事を知っているって事は軍関係者か? だが、正規の軍人とも思えねぇ。
 俺達と同じ軍人くずれか?
 
「何を考えている? 逃げる算段なら無駄だ。他の奴らと同様に下卑た骸を晒すがいい。ちょうど明日はゴミの回収係が来る日だ」

「な、なめやがって! くそがぁああ!」

「おい! よせ!」

 手下が2人、やつに襲い掛かった。
 チッ! どうせなら全員で行けよ!
 そうすりゃ俺が逃げる時間稼ぎになる!

「仕方ねぇ! 全員でかかるぞ! 相手は1人だ! 行けぇええええ!」

「お、おおおっ!」

「うらぁあああああ!」

 全員が向かっていったな!
 よし、この隙には俺は……

「どうした? 全員でかかってくるのではなかったのか?」

 思わず足が止まった。
 あの鎧野郎の声ははっきり聞こえる。
 なのに、手下どもの声だけが全く聴こえない!
 どうなってんだ? 
 あいつらは一体何をやってるんだ?
 本当に使えねぇ奴ら……えっ?

「な、なんだ……何があった……?」

 振り返った先に手下共はいた。
 全員が武器を抜いて、あの鎧野郎の前に立っている。
 だが、誰一人として動いていない。
 当然だ! 
 首から先がないんだからな!

「やれやれ、これでは肩慣らしにもならない。こんな雑魚どもでは相手にならないのは分かっていたが、それでも少しは期待していたのに」

 あのバカでかい戦斧を片手で振るってやがるのか!?
 なんて馬鹿力なんだ!
 だ、だめだ……こいつには勝てねぇ……
 こうなったら逃げるしかねぇ!

「おいおい、今さら逃げられると思っているのか?」

「うっ……!」

 逃げようとした先に大男が現れやがった。
 くそっ! だったら窓から……なっ!

「逃がさないよ……」

 なんだ、こりゃ!? 
 俺の周りを紫色のドロドロの液体が囲んでやがる!
 この臭い……毒かっ!?

「そいつがリーダーですか? 随分と弱腰ですね。さっきの人より保たなそうだ」

「賊なんて全員そんなもんでしょ?」
 
 今度は鎧野郎の後ろから男と女が出てきやがった!
 こいつら全員この屋敷の使用人か!?
 
「あー! 駄目だ……もう一人しか残ってねぇよ」

「残念でしたね。ソフィアさん。これで試験はお預けです。まぁ、いいじゃないですか? 実戦の記録はとれたんだから」

 ぐっ……今度は窓の外からかよ!
 こ、こいつら一体何者だ?

「さて、アーハト・トルデル。君は簡単に死ねると思うなよ?」

「な、なんだと……? お、俺が何をした? 俺はただ命令されてこの屋敷に忍び込んだだけなんだ! て、抵抗はしない! だ、だから警備兵を呼んでくれ!」

「無理だな。貴様には黒幕をしゃべってもらう必要がある。証拠でもあれば楽に死ねるだろう」

 しょ、証拠なんかある訳ねぇ!
 どこの世界に依頼人の身元がわかる物を持って任務に当たるやつがいるんだよ!

「た、た、助けてくれ……」

「残念だが、悪党には容赦しないと決めている。己が不運を呪うがいい!」

「う、う、うわぁあああああああああ!」

 仮面の奥の瞳がキラリと光り、そこから記憶がない。
 次に気づいた時、俺は石造りの牢に転がされていた。
 四肢を失った姿で。
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